震災から10年、陸前高田は隈・伊東・内藤・丹下で「建築観光」にも注力

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 来る3月11日で東日本大震災からちょうど10年となる。復興がどれだけ進んだとか、何が課題かとかは、古巣の「日経アーキテクチュア」で大特集を組むと思うので、そちらを読んでほしい。小回りが売りの「BUNGA NET」でこの機に報じるべき情報は何か──。自信を持ってお伝えしたいのが、「りくぜんたかた建築めぐり」である。陸前高田の注目建築を巡るスタンプラリーだ。今年に入ってスタートした。

内藤廣氏が設計した「高田松原津波復興祈念公園 国営追悼・祈念施設」にて(写真:宮沢洋、以下も)

 なぜわざわざ「自信を持って」と書いたかについて、少し前置きさせていただきたい。

 筆者(宮沢)が「日経アーキテクチュア」に在籍していた30年間で最も衝撃的な取材が、2011年の東日本大震災だった。その残像は薄れることはなく、その後も2年に一度くらい、現地の状況を見に行っていた。昨年はコロナで行くことができなかったが、今年は別の用事にからめて、2月上旬に陸前高田を回ってきた。

海岸近くの集合住宅。震災遺構として残されている。これも震災直後に見た。4階まで海水が入ったことが分かる

 今年は陸前高田に行こう、と思ったのは割と突然で、その直前に、たまたま私が聴いていたFMラジオの番組に、陸前高田の観光ガイドの青年が出演していたからだ。彼は、震災で実家を流されたが、幸い家族は全員が無事だった。もちろん、友人の中には亡くなった人や家族を失った人がいた。そうした中では「自分はましな方」という後ろめたさのような気持ちがあって、震災について関わることをずっと避けてきた。しかし、数年前に、「陸前高田の魅力についてならば自分は語れる」と思い、観光ガイドに名乗りを上げた、という話だった。彼は番組の最後に、「これからは“被災地”ではなく、“観光地”として陸前高田を見てほしい」と語っていた。

 それを聞いて、私も心のつかえが取れた気がした。震災後、2年に1度見に行っているくらいで、自分が何を言う資格があるのか。そんな気持ちだったのだが、「そうか、建築の魅力についてならば語れる」──そう思ったのである。

隈研吾氏の新作でスタンプラリーを発見

 この2年の間に完成した「高田松原津波復興祈念公園 国営追悼・祈念施設」(設計:プレック研究所・内藤廣建築設計事務所 設計共同体)と「陸前高田アムウェイハウス まちの縁側」(設計:隈研吾建築都市設計事務所)をリポートしようと思い、仙台からレンタカーで陸前高田に向かった。

 最初に見たのは、BRTが到着するJR陸前高田駅の隣に立つ「陸前高田アムウェイハウス まちの縁側」。盛り土されたやや内陸の場所だ。アムウェイが建設し、陸前高田市が運営する。隈研吾氏らしい木造建築だ。コロナ禍であまり話題にならなかったが、2020年1月にオープンして1年がたつ。

陸前高田市高田町館の沖111

 地元の気仙杉を使い、「せがい造り」と呼ばれる気仙大工が得意とする構法を応用した。施設内には観光案内所の他、カフェやくらし応援窓口、親子ルームがある。そして屋上には、復興の状況を一望できる屋上デッキがある。

屋上テラスからは、盛り土した一帯が一望できる

 ここの観光案内所で見つけたのが、この案内だ。

 おっ、スタンプラリー! 私がスタンプラリー好きであることは以前にも書いた。(「日曜コラム洋々亭21:全79施設の壮大なスタンプラリー、「せとうち美術館ネットワーク」がすごい」)

 「気仙杉のスタンプ台紙」「おすすめ建築マップ」「建築めぐりフォトブック」の3点セットで800円(税込)。もちろん速攻で購入。

 受付の女性に尋ねた。私:「このスタンプラリーはいつから始まったんですか」。女性:「つい最近ですよ」。私:「けっこう売れてますか」。女性:「本当に始まったばかりなので…」

 後で調べてみたら、販売開始が2021年1月21日。私が買ったのが2月2日なので、スタートからまだ10日ほど。コロナ禍なので買う人も少なかったろう。この偶然は、「建築の神様が私に宣伝しろと言っている」としか思えなかった。

知らなかった「あの建築」の移築

 このスタンプラリーは、集めると何かがもらえる「景品型」ではなく、気仙杉の台紙が「ハガキ」としても使える「お便り型」。なるほど。

 見本の気仙杉台紙を見ていて、私が見たことがある建築のスタンプがあるのに気づいた。左上から2つ目の青いスタンプだ。私が見たのは陸前高田ではなく、栃木県宇都宮市だった。え、どういうこと?

 女性に尋ねると、ここから近いというので、すぐにそこへ。誰の設計か分かるだろうか。現在の名前は「交流施設 ほんまるの家」だ。

 答えは伊東豊雄氏。もともとは東京ガスのプロジェクト「SUMIKAパヴィリオン」として2008年、栃木県宇都宮市に建設された。震災後、「人々が集い、さまざまな活動ができる場所をつくりたい」という伊東氏の思いにより、同社から寄贈、移築されたという。2017年から使用を開始した。

 恥ずかしながら、この移築を全く知らなかった。こういう知らなかったことに気づくことができるのも、スタンプラリーの魅力だ。

陸前高田市高田町字大町39

 ところで「陸前高田」「伊東豊雄」といえば思い浮かぶのは、「陸前高田みんなの家」かもしれない。伊東氏の下、乾久美子氏、藤本壮介氏、平田晃久氏の若手建築家3人が参加して共同設計した小さなコミュニティー施設は、2012年のベネチア・ビエンナーレで金獅子賞(パビリオン賞)を受賞し話題になった。この「陸前高田みんなの家」は、敷地が嵩上げ対象地になったため、2016年に解体された。だが、将来の再建を見込んで資材を保管してあるそうで、これも再建されればスタンプラリー入り確実だろう。

内藤廣氏や丹下都市設計の建築も見応え

 続いて、海岸近くの「高田松原津波復興祈念公園 国営追悼・祈念施設」へ。2年前に来たときには、施工の最終段階だった。追悼施設といっても、道の駅との合築なので、静まり返った施設ではない。にぎわいとのバランスが難しい計画だったろうが、さすがは内藤氏、うまく両立させている。

 案内係の人に「スタンプラリーはどこですか?」と聞くと、まだ珍しかったらしく、とても喜んで場所を教えてくれた。

 日帰り出張のため、スタンプラリーはひとまずここまで。記念に写真をパチリ。

陸前高田市気仙町土手影180

 スタンプラリーの対象地の1つ、「陸前高田市コミュニティホール」(設計:丹下都市建築設計)は、2年前に行った。こんな建築だ。

 鉄筋コンクリート造だが、気仙杉を意匠のポイントに使っている。

陸前高田市高田町字栃ヶ沢210

さらに内藤廣氏の博物館が加わる

 隈研吾、伊東豊雄、内藤廣、丹下都市建築設計と、すごいラインアップ。さらに、隈氏の「まちの縁側」の隣地では、内藤氏設計の 陸前高田市立博物館が建設中だ。被災した市立博物館の建て替え。2021年度初旬の開館を目指している。これもオープンしたら、スタンプラリーに加わるのだろう。

 「りくぜんたかた建築めぐり」は、まちの縁側に拠点を置く陸前高田市観光物産協会が実施している。公式サイトはこちら

 スタンプは押せないが、陸前高田にはSALHAUSが設計した「陸前高田市立高田東中学校」や、成瀬・猪熊建築設計事務所の「Riku Café」もある。

 今年のゴールデンウイークは、ぜひ陸前高田建築巡りを候補に加えていただきたい。(宮沢洋)