この話題、年明けに書くか、年内に書くか迷ったのだが、明るい話題の少なかった2024年を後味よく締めるために、年内に書くことにした。12月26日に東京・神保町の学士会館で開催された「公開シンポジウム 路上観察よ いつまでも」のリポートだ。企画者の1人である本橋仁氏(建築史家、キュレーター、金沢21世紀美術館、建築討論編集長)からもらった案内状にはこう書かれていた(太字部)。
1986年に「路上観察学会」が誕生して、再来年で40周年。 学会誕生の地・学士会館に、メンバーがふたたび集います。 故・赤瀬川原平が提唱した「超芸術トマソン」を皮切りに、「路上観察」の過去、現在、未来について、“ゆるく”語りあうキックオフイベントです。
赤瀬川原平氏が2014年に亡くなってから、路上観察学会も縄文建築団も、プツッと話題を聞かなくなった。だから、伝説のメンバーの1人、2人でも来るならばと思って取材に行ったら、主要メンバー勢ぞろいだった。ウルトラファミリーを見るかのようなインパクト。



路上観察学会って何? という方は下記の太字部分を。「知ってるよ」という方は次の見出しへ。
『美術手帖』の「ART WIKI」ではこう説明されている。
路上観察学会(Rojo-Kansatsu-Gakkai)
赤瀬川原平、藤森照信、南伸坊、林丈二、松田哲夫、杉浦日向子、荒俣宏らにより、筑摩書房『路上観察学入門』の出版を記念した記者発表会に合わせ1986年に結成された。赤瀬川原平らによるトマソン観測センターによる「超芸術トマソン」の探索、南のハリガミ考現学、藤森と堀勇良らの東京建築探偵団、林のマンホール採集など、似たような関心から同時代に都市(路上)のなかのさまざまな事象を採集していた複数の動向が合流することによって生まれた。「学会」を名乗っているが、実際に学会的な活動形態をとっていたわけではない。
通常は見過ごされた都市の建築、看板、トマソン物件、建物のカケラ、マンホールなどを観察・収集の対象とするその行為は、彼らが自認していたように、今和次郎の考現学を源流とする。その意味で路上観察学会は、現代の考現学として都市のフィールドワーク、すなわち「路上観察」を行なった。赤瀬川はトマソンを、人間の人為や意図に依らない、芸術の外側にある「超芸術」として発見し、また、藤森は、当時建築史的な関心の外側にあった「看板建築」をフィールドワークにより見出していった。彼らにとって「路上」とは、従来的な芸術や建築の「外」を意味した。主に出版メディアを通じ、ユーモラスな視点で街を探索する路上観察の手法は時代の流行ともなり、それに追随するさまざまな動きを生んだ。 文=沢山遼 参考文献 『路上観察学入門』(赤瀬川原平、南伸坊、藤森照信ほか著、筑摩書房[ちくま文庫]、1993)
発足を発表した学士会館で、改修工事を前にイベント
会場は学士会館。ある世代以上の人はピンと来るだろう。そう、路上観察学会の発足発表はこの学士会館で行われた。

本橋氏は今回の企画意図をこう説明する。「1986年に設立された路上観察学会が、2年後に40周年を迎えます。また同時に、赤瀬川原平さんの十三回忌にもあたるため、ぜひこの機会に振り返っていこうということで、路上観察学会とともに、40周年に向けた企画をいろいろと考えています。そのキックオフとして、今年で改修のために長期閉館となる、路上結成の地 学士会館でイベントを行うことにしました」。

なるほど、学士会館は改修工事に入るのか。「周年イベント」ではなく、それに向けての「キックオフ」という緩さが路上観察学会っぽい。ちなみに本橋氏は、メンバーの松田哲夫氏と以前から親しいそう。

約2時間半のイベントは、2部構成。
第1部は、公開大品評会「路上観察学会の40年をふりかえる」。 メンバーの4人が登壇し、2006年の第10回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展・日本館で開催された「藤森建築と路上観察:誰も知らない日本の建築と都市」での映像を再現しながら、ライブでトークを行った。




写真の着眼点もさることながら、タイトル付けのうまさに感心する。たぶん、タイトルがなかったら、面白さ半減だ。
第2部はトークセッション「路上観察の今、そして、これから」。これがすごく面白かった。てっきり本橋氏の仕切りで4人に昔話を聞くのだと思っていたのだが、全く違った。路上観察学会に影響を受けて現在、路上観察的な活動を行っているアーティストや研究者などの写真を投影し、学会の4人がコメントするという趣向。「路上観察よ、いつまでも」というイベントタイトルは、総括ではなく継続・継承の意味だったのかと納得。さすが本橋氏。



「研究」は面白くない
第2部のやり取りの中でメンバーたちから出たこんな言葉に、筆者はズキュンと来た。
「観察は、研究になってはいけない。研究にしてしまったら面白くない」。

多分、藤森氏が発言し、3人が同調した流れだった。南氏(だったと思う)はこう付け加えた。
「じゃあなぜ『学会』かというと、それもジョークだった」。
なんてすがすがしい…。日頃、「建築の面白さを一般に伝える」という大義を掲げて活動している筆者だが、彼らに比べるとやっていることが固くないか? 愉快なやり取りを見ながら、「もっと面白くいこう!」という勇気をもらった。
そんなふうに大先輩方に背中を押されたのだが、筆者はこれまでそれほど路上に関心がなかったので、得意領域の「現代建築」で撮った1枚を披露したい。最近、札幌で撮ったものだ。


「異常な重力渦に引き込まれ、1号機、2号機とも制御不能!」「ああああ…」
そんな声が聞こえてこないだろうか。札幌ドームのコンコース(客席に向かう吹き抜け)で撮ったものだ。普通に見るとこうなっている↓。

共感してくれた人、「建築観察学会」を一緒に立ち上げませんか。今ならまだ学士会館の入り口で発足を宣言できる!(※休館は2025年1月からだが、解体工事開始は4月からとのこと。新館は建て替えとなり、旧館は曳き家工事で保存する計画)(宮沢洋)