大阪・関西万博の「大屋根リング」には随分と向かい風が強いようだが、筆者は実物を見るのを楽しみにしている。藤本壮介という建築家に期待しているからだ。「白井屋ホテル」(2020年)も、「マルホンまきあーとテラス(石巻市複合文化施設)」(2021年)も、「太宰府天満宮仮殿」(2023年)も、写真で想像していたよりずっと良かった。これまでの彼のプロジェクトが全部好きというわけではないが、ここ数年の主要作は当たりが続いている。特に、この「太宰府天満宮仮殿」↓は、“仮設建築史”に残る傑作であると筆者は思う。1年ぶりにまた見てきた。
50余年の人生で、太宰府天満宮を訪れるのは3度目だ。本殿の改修工事前には1回しか来たことがなかったのに、仮殿が出来てから2年連続の訪問。去年、初めて仮殿を見たときのリポートは本サイトで既に公開している。
白井屋ホテルの自信が生んだ「太宰府天満宮仮殿」、藤本壮介氏は屋上緑化に新風を起こすか?
今年も九州に用事があり、寄り道をして見てきた。理由は2つある。
1つは、台風10号による九州での大きな被害が伝えられており、仮殿の屋上緑化は大丈夫だったのだろうかと気になったこと。何しろ屋久島(鹿児島県)では、樹齢3000年の弥生杉が倒壊した(筆者は屋久島で見たことがあるが、永遠に生きそうに思える巨木だった)。屋久島ほどではないものの、福岡県でも風速40m超えのところがあったと聞くと、仮殿の屋上緑化など、丸ごと飛ばされてしまったのではと心配になる。
見に行こうと思ったもう1つの理由は、8月10日から「藤本壮介展―太宰府天満宮仮殿の軌跡」↑が始まったこと。場所は「太宰府天満宮宝物殿」の 企画展示室だ。安いとはいえ観覧料一般500円のれっきとした建築展だ(常設展示も含む)。日本一の建築展レビュアーを目指す筆者としては見ないわけには…。
屋上の土壌は均一の厚みではなかった!
前振りが長くなったが、結論。仮殿の屋上緑化は、ほぼ被害なしだった(関係者のSNSなどによる)。その理由は宝物殿の「藤本壮介展」を見るとわかる。
太宰府天満宮宝物殿へ。
会場の中央にはずらっと並ぶスタディ模型。奥の壁に描かれた屋上緑化の断面詳細図に吸い寄せられる。
そうか、高木は根がポットに入っているのか。
見た目は浅そうな土壌だが、土を入れる前はこういうことになっていた。展示されていた施工中写真でそれがわかった。
デザインの検討プロセスも、その量に圧倒される。
自分は「設計」というものをやったことがないので、こういうのを見ると「自分には無理!」と思ってしまう。(イラストを描くのに、構図や描法を比較検討することはまずない)
こんな小さな仮設建築をこれほどスタディして決定する人が、大阪・関西万博の「大屋根リング」をなんとなく円にするとは思えない。本展に大屋根リングの展示があるわけではないが、自ずとそちらへの期待も高まる。
太宰府天満宮の会期は来年(2025年)8月末までと長いので、福岡方面に行く人はぜひ寄ってみたい。そして、本殿の改修期間は「約3年間」。ということは仮殿が確実に見られるのは2027年春ごろまでだ。
ところで、仮殿の上にモリモリと育っている樹木は、本殿の改修が終わるとどうなるのか。太宰府天満宮の公式サイトによると、「御本殿の改修が完了し、道真公の御神霊(おみたま)に御本殿へお戻りいただく『正遷座祭』斎行の後、仮殿は使命を終え解かれます。屋根の上の木々は天神の杜へと移植する予定で、その後も未来へ向けてこの地に生き続けていきます」とのこと。なんとも粋な仮設計画ではないか。
■展覧会概要
藤本壮介展―太宰府天満宮仮殿の軌跡―
会期:令和6年(2024)8月10日(土)~令和7年8月31日(日)
※8/12, 9/16・23, 10/14, 11/4・25, 1/6・13, 2/24, 4/28, 5/5, 7/21, 8/11・25を除く月曜休館
開館時間:9時~16時30分(入館は16時まで)
会場:太宰府天満宮宝物殿 企画展示室
〒818-0117 福岡県太宰府市宰府4- 7-1
https://keidai.art/
余談だが、仙台市が音楽ホールと震災メモリアル拠点から成る複合施設「(仮称)国際センター駅北地区複合施設」ついて実施した公募型プロポーザルで9月8日、藤本壮介氏が選ばれた。審査委員長は青木淳氏。結果は仙台市のサイトで間もなく発表になるはず。かなり攻めた提案で、こちらもこの先注目されることになりそうだ。(宮沢洋)