白井屋ホテルの自信が生んだ「太宰府天満宮仮殿」、藤本壮介氏は屋上緑化に新風を起こすか?

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 建築家の藤本壮介氏が設計して話題になっている「大宰府天満宮仮殿」を見てきた。学問の神様として知られる菅原道真公をまつる大宰府天満宮(福岡県太宰府市)。その本殿を改修する期間だけ見ることができる「3年間限定」の建築だ。本殿の改修中に仮殿を建てることは珍しくないが、これほど現代的で、ある意味、神話的でもあるデザインは珍しい。

(写真:宮沢洋、以下も)

 太宰府天満宮では25年ごとに式年大祭を行ってきた。2027年は、菅原道真公が亡くなってから1125年という節目となることから、この年の式年大祭を前に、本殿の大改修を行うことを決めた。

 現在の本殿は、約430年前に筑前国主小早川隆景公が再建したもので、桃山時代の豪壮華麗な様式を伝え、国の重要文化財に指定されている。2023年5月から3年をかけて檜皮(ひわだ)の葺き替え、漆塗りなどを中心に防災工事も含めた大改修を行う。これほど長期間にわたる修理は、本殿再建以来初めてという。

仮殿の裏にある本殿は足場が掛けられ、改修工事中
仮殿と本殿はこういう位置関係

■改修スケジュール
2022年11月22日 仮殿完成図披露
2023年2月初旬 仮殿着工
2023年5月中旬 仮殿完成
2023年5月中旬 御本殿改修工事着工
2026年頃 御本殿改修工事完了予定

道真公の「飛梅伝説」から着想

 仮殿では、本殿の大改修に際して、御祭神の御神霊を仮安置する。5月13日(土)に仮殿遷座祭が行われ、今後約3年間は、神事や参拝はこの仮殿で行われる。仮殿のデザイン・設計は、藤本壮介氏が率いる藤本壮介建築設計事務所が手がけた。

 以下は仮殿完成図発表時(2022年11月)の藤本壮介氏のコメントだ(太字部)。

 太宰府天満宮周辺に広がる、豊かな自然が御本殿前に飛翔し、仮殿としての佇いを作り上げることをコンセプトとしています。これは太宰府に古くから残る、道真公を慕う梅の木が一夜のうちに太宰府まで飛んできた、飛梅伝説から着想を得たものになります。

 仮殿では梅の木の他にも天満宮周辺の植物が回廊内に軽やかに舞い、道真公の為の住まいの屋根を創りあげています。屋根の上の植物は、天満宮周辺の環境と共に、季節や天候によって様々な移ろいを見せることでしょう。

 斎場内は、現代的なプロポーションと伝統的な空間が水平線上に広がり、御扉を中心とした祭壇が、森の影の中から印象深く映えることを意識しています。

 内部に近づくとルーバー状の天井が曲面状に現れますが、これは御本殿の伝統的な垂木を踏襲しており、厳粛な空間を想起させることを期待しています。

 さらに内部に踏み入ると、斎場の天窓から美しい空と共に森が目に飛び込み、再び天満宮の豊かな自然を体全体で感じることができます。

木々に祈る神々しい光景

 そうか、道真公の飛梅(とびうめ)伝説というものがあったのか……。とはいえ、そんな伝説を知らずとも、人々が屋根の上の緑に向かって手を合わせる光景はなんだか神々しい感じがする。仮設建築とは思えない。いや、屋根の下は明らかに仮設のつくりなのだが、その割り切りが潔くさえ見える。

 そう思わせるのは、下が気にならないほど屋根の存在感が大きいからだ。屋根の急傾斜と樹木の量の多さが視覚的に効いている。陸屋根に小さな植物を植えた程度では地上からは認識できない。ここはどこから見ても見える。屋根の上の植物には、天満宮の花守たちによって境内地で育てられた梅も含まれているという。梅の季節も話題になりそうだ。

 藤本氏は初期の頃から緑化に関心があったと思われるが、こんなにボリューミーで多種混合の緑化ではなかった。ここまで緑を主役にした建築に挑むのは、おそらく前橋市の「白井屋ホテル」(2020年、リポートはこちら)の緑化で手ごたえを得たからだろう。

2023年春の白井屋ホテル

緑を「きれいに保つ」ことの難しさ

書籍「実例に学ぶ屋上緑化」(2003年、日経アーキテクチュア編、日経BP刊)。この本、すごく売れました!

 実は、筆者(宮沢)は前職の日経アーキテクチュア時代、“屋上緑化担当”だった。日経アーキテクチュア2001年10月29号で「今こそ建物緑化」という先駆的な特集をやり、それ以降、書籍も数冊つくった。だから、屋上緑化の進化について語ろうと思えばいくらでも語れる。ここでは結論だけいうと、日本の屋上緑化は2000年代にわっと広がったものの、この10年ほどは緑化が“主役”になっている建築は少なかった。設計する側が飽きてきた、ということもあるかもしれないが、大きい理由は、「きれいに保つのが難しい(お金がかかる)」ということだと推察する。

 以前、建築史家で建築家でもある藤森照信氏に、「コルビュジエが近代建築五原則で屋上庭園を掲げてからも、世界に屋上緑化が普及しなかったのはなぜか」と尋ねたことがある。藤森氏は「モダニストの美意識にかなうレベルに緑化を保つのが難しいから」と答えた。さすが藤森先生、なんて的を射た回答…。その論でいうと、独特の緑化で知られる藤森建築も緑は相当きれいに保たれている。やはり、藤森建築もモダニズムなのだ。

 何を言いたいのかというと、白井屋ホテルやこの仮殿における藤本壮介氏の緑化は、きれいに保つということにさほど重きを置いていないように見えるのである。むしろカオスを目指しているように見える。

 もちろん、定期的に剪定は必要だが、整えすぎるよりも雑木林のような状態に魅力がある。例えば、白井屋ホテルは完成当初はこんな状態↓だった。筆者には今の方が魅力的に思える。

2020年暮れの白井屋ホテル
2023年春の白井屋ホテル

「飛騨古川駅東開発」や「博多駅前公園」にも注目!

 藤本氏の緑化建築でいうと、2024年春の竣工を目指している「飛騨古川駅東開発」も注目だ。

一般社団法人CoIU設立基金のプレスリリースより(下の2点も同じ)

 完成予想図を見ると、こちらは樹木ではないが、雑然とした野原のようだ(詳細はTECTURE MAGの記事を参考)。やはりカオスが魅力のように見える。

 そして、去る8月23日に公表された「東京建物を代表企業とするコンソーシアムが福岡市の『明治公園整備・管理運営事業』の優先交渉権者に選定」というホットニュース。これも気になる。

完成イメージ(東京建物が2023年8月23日に公表したプレスリリースより。以下の2点も)

 対象地は博多駅の目の前。福岡市管理の公園としては初めてのPark-PFI事業だ。コンソーシアムの構成員は東京建物、梓設計、旭工務店、木下緑化建設、ランドスケープむらで、プレスリリースには「九州の陸の玄関口にふさわしい世界観を創出するため、世界的な建築家である藤本壮介氏を総合デザイン監修者として起用しました」とある。

公募対象公園施設 外観
公募対象公園施設 屋上広場「空のにわ」

 どうだろう。これもカオスっぽくなるのか?

 藤本氏のカオス型緑化が、屋上緑化の新たなムーブメントの火種になることを元・屋上緑化番としては大いに期待している。(宮沢洋)