巨大建築論争50年(後編)、足下の広場にグッときた近年の巨大建築ベスト5─日曜コラム洋々亭67

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 前回の日曜コラムで「これからの超高層ビルは、“足下のオープンスペースの魅力”(=規定演技)と、“ビルそのものの魅力“(=自由演技)の2段階で評価してはどうか」と書いた。「実例は後編で」と結んだので、「巨大建築論争から50年」と言える年末ぎりぎりの今日、実例を紹介する。ここ2年ほどの間に、宮沢が“足下のオープンスペース”にグッときた巨大開発5選だ。

 まずは、「やっぱりね」と言われそうだが、大阪駅前の「グラングリーン大阪(GRAND GREEN OSAKA)」。2024年9月に全体の4割ほどが先行まちびらきを迎えた。

(写真:宮沢洋)

公共の公園を“アップグレード”した「グラングリーン大阪」

 ①駅の間近であること、②その空地の大きさ、③なんだか大勢の人が座って幸せそうに噴水を見ている──というトリプルパンチで、東京モノの筆者は圧倒的な敗北感を感じた。これは東京にはない空間。

 デザインもいいと思うが、これは広大な緑地を誕生させた“仕組み”を知っておいた方がよい。

 開発エリアの半分以上が緑地だ(約9万1150㎡のうちの約4万5000㎡)。説明を受けるまで誤解していたのだが、この緑地は大阪市の都市公園なのだ(正確に言うと「広域避難地の機能を有する都市公園」)。筆者はてっきり事業者が公開空地として緑化したのか、あるいは行政に土地を貸与しているのだと思っていた。だが、単なる行政の公園ということでもなくて、ビルを建てる民間側が知恵と資金を出してグレードアップしている。官民で公園の質を上げ、ウインウインにしているのだ。この仕組みは、東京の巨大開発でもぜひ参考にしてほしい。(グリーン大阪の詳細リポートはこちら

足元のトンネルで人を呼び込む「福岡大名ガーデンシティ」

 2番目に挙げたいのは、2023年6月に博多に開業した「福岡大名ガーデンシティ」(設計:久米設計・醇建築まちづくり研究所JV)。

 これは前回の「みんなの建築大賞」で、筆者が2023年のマイベスト3に挙げた建築だ。その推薦文がこれ↓。

「小学校の跡地開発ということは知っていたが、校舎が「創業支援施設」として残っていることに驚いた。大通りから超高層下のトンネルをくぐると校庭が広がる。記憶を取り込んだ新しい巨大開発」。

 このプロジェクトは、九州在住の編集者、萩原詩子さんもマイベスト3に挙げていた。
 
「福岡のスカイラインを破る超高層ながら、工事中に危惧した圧迫感はなく、新たな人の流れを生んだ。特に広場が大人気。プロポの与件だが、配置は設計に拠る。いつ行っても賑わっている」。

 ①旧小学校校舎を保存しながら開発した、②空地が大通り側ではなく超高層の裏にある、③超高層の真下がトンネル状──というトリプルパンチで、これも東京モノの筆者は敗北感を感じた。

緑に包まれたゆったり歩道が魅力的な「麻布台ヒルズ」

 ということで、“記憶に残る足下”の上位2つは非東京だ。東京はややパンチ力は劣るが以下の3つを挙げたい。

 1つはご存じ「麻布台ヒルズ」。2023年11月に開業した。ビルに囲まれた広場↑はなるほど森ビルらしいなとは思うものの、それ以上の感想が出づらい。このプロジェクトで感心したのは、開発地を横切る公道の歩道↓。このゆったり感と緑の多さ、そして空間の楽しさは、これまでにないクオリティーだと思う。

桜田通りから麻布通りに抜ける登り坂
敷地境界よりも相当セットバックしている
敷地内に導くあたりではこの広さ

これぞ日本のびっくりTOD、「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」

 もう1つも森ビルの「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」。麻布台よりも少し早い2023年10月に開業した。これはビルの形の面白さに目が行くが、道路をまたぐ空中デッキのデザインが凝りに凝っている。

 そして足下から地下鉄の「虎ノ門ヒルズ駅」へ向かう吹き抜け空間がダイナミック。写真を撮るのがはばかられるので載せられないが、日比谷線に載っていると、車内から、地上に通じる吹き抜け空間が見えてびっくりする。

吹き抜けから日比谷線が見える。ということは日比谷線車内からも吹き抜けが見える

 駅などの交通拠点を絡めた開発を「TOD(Transit Oriented Development)と呼び、海外から日本の組織設計事務所が評価されるときの要因となることが多い。ここは日本人でも驚くくらいだから、外国人には相当のインパクトだろう。

ビル間の隙間が魅力的な「TODA BUILDING」

 最後は最近の話で、戸田建設の新社屋が入る「TODA BUILDING」(設計・施工:戸田建設)。京橋の「ミュージアムタワー京橋」(2019年)の隣に2024年11月2日に開業した。

右が「TODA BUILDING」、左が「ミュージアムタワー京橋」

 前面の空地がかなり広い。これだけ広いならもっと森みたいにすればいいのにとも思うが、このゆったり感は評価したい。

 それよりも筆者が評価したいのは、「ミュージアムタワー京橋」の間にある空地。

京橋に行ったら、2つのビルの隙間を通ってみてほしい
こんな感じだ

 都心の超高層ビル同士の間にこんなに明確な“人が休む場所”があるのは珍しい。これからの季節は寒いと思うが、春~秋はきっと日陰になって休みやすいと思う。

 「ミュージアムタワー京橋」が完成したときに、日建設計の担当者から、「隣のTODA BUILDINGが完成したときには、1階のガラス面を開放して使えるようにつくった」と聞いていたので、この光景↓には「本当だった!」と感動した。

ミュージアムタワー京橋の大きなガラス面が本当に開放されていた!(たぶん冬は閉まっている)

 これは2つのビルが「京橋彩区」という一体開発だから生まれたもの。「グラングリーン大阪」に倣うならば、これも足元の一角を自治体が借りるなどして、公共の公園として官民でアップグレードしたらより魅力的になるのではないかと思う。森ビルの2つの開発もしかり、だ。

 「ところで巨大建築論争って何?」と思いながらここまで読んでくださった方は、前編でざっくりまとめているのでこちらの記事↓を。(宮沢洋)