【11月18日から事前予約が不要に】「21_21」でトランスレーションズ展、やさしいデザインを包み込む“やさしい空間”

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下記の展覧会は11月18日から事前予約が不要になった。お近くに用事のある方は、コロナ対策に留意しつつ、足を運んでみてはいかがだろうか。来館時の注意は、こちらへ。http://www.2121designsight.jp/reservation.html  (以下の記事は2020年10月21日に公開したものです)

『トランスレーションズ展 ─「わかりあえなさ」をわかりあおう』が10月16日から東京ミッドタウン内の「21_21 DESIGN SIGHT」で始まった。先行して10月15日に行われたオンライン記者会見と実際の展示の様子を、東京工業大学修士課程に在籍する加藤千佳さんがリポートする。(ここまでBUNGA NET)

「異種とむきあう」ゾーンに展示される『NukaBot v3.0』(Ferment Media Research)。ぬか床に住む微生物と話すことができる(写真:加藤千佳、以下も)
10月15日に開催されたオンライン記者会見の登壇者。上段左:21_21DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターの川上典李子氏。上段右:21_21DESIGN SIGHTディレクターの佐藤卓氏。中段左:展覧会ディレクターのドミニク・チェン氏と企画協力の塚田有那氏。中段右:21_21DESIGN SIGHTディレクターの深澤直人氏。下段左:会場構成のnoiz。下段右:グラフィックデザインの祖父江慎氏と藤井瑶氏(ともにcozfish)

「わかりあえなさ」の転回、やさしさに向かって

 本展覧会は、「わかりあえないもの」とのコミュニケーションのためのメディアを「翻訳(トランスレーション)」と捉え、21の作品を展示している。

 「わかりあえなさ」と聞いて、何を思うだろうか。“ブラック・ライヴズ・マター”で今年大きな話題を呼んだ人種間の問題だろうか。「わかりあえなさ」は衝突を生む。過去には宗教間の衝突を繰り返す中で、相対主義、つまり全ての意見が他と同様に正しい意見だとする考え方が拡大した。だが、人種、宗教、ジェンダーといった様々な事柄において多様性が存在することに目が向けられるようになった今世紀、今度はわかり得ないのだから仕方がないと、裏返しのような無関心も生まれている。

会場の「21_21 DESIGN SIGHT」

 本展で展示される21の作品では、「わかりあえないもの」と言っても、異なる文化・言語圏の他者や視覚・聴覚に障害をもつ他者に限らない。同じ文化・言語圏における他者や自分でも理解しきれない自分自身に加え、「植物」、「微生物」、「サメ」、「絵画」、「仏像」といった非人間までもがコミュニケーションの相手として作品に登場する。

 翻訳を行えば意思疎通が可能であるという前提を根底からゆるがす設定により、“完璧に伝える・伝わる”という幻想を我々に捨てさせる。そして、翻訳によって生じてしまう誤解や誤訳を出発点としてコミュニケーションを楽しむように誘う。上述の通り、ネガティブなことに発展しがちな「わかりあえなさ」をポジティブな方へと導こうとする、やさしさに溢れた提案だ。

やさしいデザイン=身体フレンドリーなデザイン

 15日に行われたオンライン記者会見でも、やさしさを意味する言葉が登壇者の間で繰り返された。本展のディレクターを務めるドミニク・チェン氏は、どの出展者の作品にもケアの視点が含まれていることを指摘していた。

 わかりやすい例を挙げれば、『Ontenna(オンテナ)』(本多達也)は、音を振動と光という触覚・視覚情報に変換して聴覚障害者に伝える機器であり、『見えないスポーツ図鑑』(伊藤亜紗+林阿希子+渡邊淳司、下の写真)は視覚障害者とスポーツ観戦を楽しむ目的から始まった触覚的な体験方法だ。

『見えないスポーツ図鑑』(伊藤亜紗+林阿希子+渡邊淳司)

 このような相手をいたわってされるデザインは、相手に伝わりやすい感覚器官に訴える工夫がとられ、身体にフレンドリーなデザインがうまれている。建築士によるデザインに関しても、実際に経験するのは身体であり、身体フレンドリーな設計をすることがいかに重要なことなのかを改めて感じさせられた。

 また同時に、人それぞれ大きく異なる身体を意識しながらコミュニケーションのためのメディアをデザインする、つまり「翻訳する」ことを考えれば、誤解が生じるのは一層当然になる。むしろ身体経験の差異が生じる余地を積極的にデザインに残しておくことで、コミュニケーションを誘発したり豊かにしたりする効果があるのではないだろうか。

noizが提案するやさしい空間

 会場構成をnoizが担当していることも本展のカギだ。やさしさに満ちた出展作品を取り巻く会場空間もまた、コミュニケーションのメディアとなるやさしい空間であると感じた。

展示空間を構成する三角柱

 会場に配置されている三角柱の面には多様な配色がされている。そして鑑賞者の見る位置と角度によっては三角柱の面の色が統一されて見えるような工夫もされており、場所によって空間の表情が変化する。展示ブースを進む順路が決まっていないことも、同じ展覧会を鑑賞する鑑賞者それぞれに異なった体験を与える。本展覧会に訪れた人々の間の話題となり、コミュニケーションを媒介する空間と言えるのではないだろうか。

 展示空間の広さに対して作品数が多いことから、壁によって仕切ってしまうと圧迫感を感じさせることは避けられないと考えられる。noizの提案する外形の曖昧なやわらかい空間は鑑賞者と作品が対峙するのに心地よい空間になっている。

 本展の空間デザインは、鑑賞者と鑑賞者の、鑑賞者と作品のコミュニケーションのメディアであり、確かにnoizによる展覧会の「翻訳(トランスレーション)」を体験することができた。視覚経験を重視した身体フレンドリーな“やさしい空間”が実現していると言えるのではないだろうか。(加藤千佳)

〈展覧会情報〉
『トランスレーションズ展 ─『わかりあえなさ』をわかりあおう』@21_21 DESIGN SIGHT Gallery 1&2
開催期間:2020年10月16日(金)~2021年3月7日(日)
休館日:毎週火曜日(11月3日、2月23日は開館)、年末年始(12月26日~1月3日)
開館時間:平日11:00~18:30/土日祝10:00~18:30
料金:一般1200円/大学生800円/高校生500円/中学生以下無料
Webサイト:http://www.2121designsight.jp/program/translations/