県立学校の再編に伴う施設整備に当たり、建築設計者が基本計画から参加して、県や学校関係者のパートナーを務める「長野県スクールデザインプロジェクト(以下、NSDプロジェクト)」。4年目となる2025年の対象は1校で、関連プロジェクトも含め10校目となる。今回は、8つの市町村からなる上伊那広域連合の中で、辰野高校商業科、箕輪進修高校工業科、駒ケ根工業高校、上伊那農業高校という3科4校を統合するという難度の高いプログラムだ。
この上伊那総合技術新校(仮称)の施設整備事業に当たって、長野県教育委員会は基本計画の策定支援者を選ぶ公募型プロポーザルを実施。2025年12月7日に2次審査を開き、当日に結果を発表した。会場となったのは、上伊那総合技術新校の敷地となる上伊那農業高校だ。




非公開による審議は予定時間を上回り、結果発表が始まったのは20分遅れの午後5時40分。結果発表・講評に当たった赤松佳珠子審査委員長(法政大学教授、シーラカンスアンドアソシエイツ代表)は冒頭で、「審査委員もそれぞれ違う思いを持っているので議論は非常に白熱し、一発では全く決まらなかった。審議に時間がかかったのは本当にいろいろな議論があったから。最終的には審査委員の一同一致で最適候補者を選ぶという結論に至った」と語った。
最適候補者とされたのは、遠藤克彦建築研究所(東京都中央区)とwaiwai(東京都台東区)の共同企業体(JV、以下遠藤・waiwaiJV)だ。次点となる候補者には千葉学建築計画事務所(東京都渋谷区)が選ばれた。
遠藤・waiwaiJVの提案は、「『記憶』と『余白』―土をめぐる風景の継承と多様なプログラムを許容する計画のフレキシビリティ」をタイトルとする。工業や農業、商業といった地域の主産業と学問が一体となる伊那谷のまちの拠点とすべく、3科4校の記憶を受け継ぎ、発展させる計画だ。教育関係者との柔軟な設計調整を可能とする「余白のある=計画自由度の高い」学校を構想した。
敷地となる上伊那農業高校は、西に中央アルプス、東には南アルプスを望み、雄大な天竜川を見下ろす河岸段丘の中腹に位置している。現在の校舎は多くが築50 年以上経過し、老朽化が著しく、移動動線が複雑であることなどから、一部を除いて建て替える。その際、新築施設の延べ面積は、1万3655m2を上回らないものとしている。
遠藤・waiwaiJVの案は、敷地に残る農地をはじめ、既存樹木や地形を最大限生かし、その間に校舎群を配置している。校舎群の中心となるのが、中庭と一体になったコア・フォレスト。3科4校を融合する学科横断的な共有スペースだ。ここから4つのクラスターが延びる風車状のプランが特徴的だが、これは4校の関係者にヒアリングしながら、それぞれ詰めていけるよう配慮した結果だ。


3000m2以上の公共性ある建築での設計・監理実績が管理技術者の要件
審査委員会(2次審査)は午後0時45分から始まった。2次審査に残ったのは4組。一般に公開されたプレゼンテーションは遠藤・waiwaiJV、千葉学建築計画事務所、わたしもそうJV(渡邉健介建築設計事務所、創和設計、下山祥靖建築設計事務所)、シムサ・キッタン・アンド・ウエスト設計JV(アトリエ・シムサ、kittan studio、スタジオウエスト)の順番で行った。1組当たりの持ち時間は15分だ。
審査委員は、2022年にNSDプロジェクトとして公募プロポーザルが始まって以来、4年間変わっていない(記事最後のプロポ概要を参照)。今回のプロポーザルでこれまでと大きく異なるのは管理技術者に求められた要件だ。昨年までは、公共性を要する建築物で延べ1000m2以上のものの設計業務の実績が必要だったが、今回は延べ3000m2以上でかつ設計・監理業務の実績とされた。主任担当技術者にはこれまでと同様に、500m2以上の公共性を要する建築物で設計業務の実績を求めている。


4者のプレゼンテーションで印象的だったのは、ほぼ全組が持ち時間内にぴったり収めたことだ。プレゼンに必要な要素を落とすことなく原稿にまとめ、きっちりと説明した。それに続くヒアリングでは、全組のプレゼンメンバーが会場の前方に座り、審査委員それぞれの質問に対して、毎回、順番を入れ替えて1組ずつ答えていった。
審査委員の質問には、「樹齢が100年をはるかに超える既存の大木を残して校舎を配置するか」という計画姿勢を確認する問いはあったものの、3科4校を融合するためのプロセスや工夫、地域との連携を問うものが多かった。例えば「本格的な総合校は県下初と聞くが、工・農・商と哲学が違う学びをこれだけイーブンに融合するための調整としてどんな工夫ができるか」といった内容だ。
これに対して特に印象に残ったのは、遠藤・waiwaiJVの答えだ。「クリエーションとマネジメントが重要だとチームでずっと話していた。生徒が良い案をつくりうまく伝えるという意味において、後半のマネジメントを建築として計画しないといけない。そこで出来上がったのがコア・フォレストだ」(遠藤克彦建築研究所の遠藤克彦氏)。waiwaiの山雄和真氏は「専科のゾーンがそこから延びているのは、融合ありきではなく、段階的に先生方と話をして進めていくためだ」と加えた。





提案書では見えない部分でも遠藤氏と山雄氏の積み重ねが表れる
結果発表に続く、赤松審査委員長による審査講評は次の通りだ。「遠藤・waiwaiJVは、コア・フォレストと名付けられたメディアゾーンを中心に各クラスターが連関するという平面を提案。教育的な観点からも様々に配慮されており、審査委員から高い評価を受けた。共学共創の学びの場だと言える。その一方、施工コストについては課題がある部分も指摘された。また校舎の施工は2期に分かれるがかなり長い面で接しており、接合部分や工区の区分についても懸念が示された。しかし、全体の完成度が高く、課題を上回る評価が寄せられた」
他方、候補者の千葉学建築計画事務所に対しては、以下のように講評された。「複数の回廊が配され、様々な資源を包含しながら全体を構成するといった敷地特性を生かした魅力的な提案だった。また仮設校舎を極力建てないことや構成をシンプルにしてローコストを実現しようとする点は非常に評価された。その一方、FLA(フレキシブル・ラーニング・エリア)まわりの使われ方のイメージが見えてこない点が指摘された。学年が進むたびにゾーンが変わるアイデアは魅力的な一方、実現するにはハードルが高いのではないかという議論もあった」
個人的な見解だが、当日、候補者のプレゼンテーションを聞いている段階では、遠藤・waiwaiJVの提案は審査講評にある通り、魅力にあふれるものだった。その後の質疑応答では、同JVの遠藤氏、山雄氏の答えにうなる一方、千葉学建築計画事務所の千葉学氏の受け答えは、それらをしのぐほどに細部までよく考えられていた。しかし、waiwaiの山雄氏の学校についての設計経験(後のインタビュー参照)を知っている身としては、今回のように3科4校を統合するという難問に対して、大型の公共施設に多くの実績を持つ遠藤氏とのチームは非常に突破力があると感じた。
審査講評が終了後、赤松委員長はインタビューに応じ、次のように加えた。「建築計画、マネジメントも含めて、とてもきっちりと組み立てていたうえ、質疑応答での回答といった提案書では見えない部分でも、遠藤さん、山雄さんが考えて練ってきたことの裾野、今までの積み重ねが表れていたと思う。彼らは事務所自体も近いと聞いているので、一丸となって伊那のためにやってくださると期待している」
県教育委員会では12月中に最適候補者と契約を交わし、2026年11月を目安に基本計画を作成していく。設計期間は2027~28年度を想定しており、その後の施工を経て2035年度に開校する計画だ。NSDプロジェクトとして来年度以降はどうなるのか。県の高等学校の再編・整備計画はまだ8校が残っている。県教委としてはプロポーザルを継続していきたい意向だが、来年度も含めて今のところ未定だという。
公共建築の経験が豊富な遠藤氏と学校建築をよく知る山雄氏がタッグ
遠藤克彦建築研究所を主宰する遠藤克彦氏は、大阪中之島美術館や茨城県大子町庁舎をはじめとする多くの公共建築の設計を手がけてきた。一方、waiwaiのパートナーである山雄和真氏は2013年に自身の事務所を設立後、2018年に waiwai に改組し、民間施設を中心に設計の実績を重ねている。両名に、2次審査とは日を改めてインタビューした。
――このチームで公募プロポに応募しようとした理由から教えてください。
遠藤 遠藤克彦建築研究所としてはNSDプロジェクトへの応募は初めてなんです。waiwaiは3回目になります。私自身、NSDは難しいプロジェクトだということをよくよく存じ上げていて、しかも赤松さんが審査チームを組み上げられて審査委員長をしているという意味において、そんな簡単な気持ちで出してはいけないとずっと思っていました。
今回、まずは単独で応募することを検討して早々に諦めたんです。いくら総事業費が大きくても、開校まで長期にわたり、関係者との調整には多大な時間と労力が必要です。もう1つ決定的だったのは学校建築に我々は精通していないということ。美術館や図書館、庁舎には強いけれど学校については過去に手がけたのは大学の研究所だけなんです。保育園などの実績はありますが、それとは違ってすごく難しいと思っていました。
一方で同じ大学院の後輩で旧知の山雄さんから連絡があって、すごい熱意を持って誘ってくれた。山雄さんは、シーラカンスアンドアソシエイツの小嶋一浩さん(故人)の懐刀だった人で、学校建築をよく知っている。久しぶりに山雄さんと協力事務所のお祝いパーティーで会って、いろいろな建築の話をしました。その後、山雄さんが連絡をくれて「ぜひ一緒にやりませんか」と。チームとしての体制も、学校の計画学という意味においても、絶対に問われるプロポーザルであることから、山雄さんと組んでの応募を決心しました。
――チームの強みと役割分担についてもう少し説明いただくと。
遠藤 公共建築には我々の事務所は強いわけです。人的な体制・工程管理・コストコントロールについては自信があります。そして計画学が非常に重要になってくる学校の設計において経験を持っている山雄さんと組むことで強みを補完できる。公共建築を数多く手がけてきた経験から、これだけの長いスパンの中で、管理技術者が何をしなくてはいけないかは、よくわかっているつもりです。
山雄さんの持つ学校の経験に加えて世代的な強みもあります。山雄さんは8歳年下でジェネレーションが少し違う。こうした近い世代が組むことでフラットな関係による推進力が得られる。その2つはやはり強みでしょう。あと実際にお互いの事務所も近いんです。今回の提案づくりはwaiwaiの事務所に詰めてやりました。
――今回のプロジェクトは結構規模が大きく、かつ3科4校を統合するという難しいプログラムです。今後の基本計画づくりや設計でポイントになるのはどんな点だとお考えですか。
遠藤 3科4校という言葉が大切だと当初から山雄さんと話をしていました。なぜかと言うと3科4校という言葉は、複数の学校を統合する際、みんなの意識を整えるという意味において重要だと考えたからで、提案書にも書きました。
やはり、3科4校それぞれの思いについて考えると、同床異夢のところがあるので、きちんと視線を揃えることに時間がかかると思います。まずは徹底的に4校の関係者から話を聞くということが重要になります。プレゼン後のヒアリングの質疑でもちょっとお話したかなと思うんですけど、今回学校をつくるということは社会をつくることに近いんです。農業・工業・商業の3科ですから。この3つの分野をそれぞれ極めようとする学生たちが出会う場所なので、まさに社会の縮図です。普通の単科高校をつくるのと全然違うのは異文化のぶつかり合いが起こること。まさに社会の縮図です。そういう意味においてはヒアリングがすごい重要になると思います。
――遠藤・waiwaiJVの提案では、コア・フォレストがポイントになりますね。このプランが生まれたプロセスを教えてください。
山雄 最初は、既存樹木などの緑が豊かな敷地に、校舎をどう滑り込ませるかという視点が大きかったんです。もちろんいろいろなパターンがあった中で、あの場所における建築の立ち姿というか、あるべき姿として、木々の間に校舎が滑り込んでいくという感じで構想した案です。その一方、3科4校の融合がやはりテーマだろうという議論が初めからずっとあって、これを形づくる中心としてコア・フォレストが出てきたという感じです。
プランとして風車状の案をつくろうとしたというよりは、核となる場がやはり必要そうだという方向性が見えてきて、それに吸い寄せられるように滑り込んできたクラスター状の建物が集まって結果的に風車状に絡みついてきた。その核に当たる部分がコア・フォレストと名付けられた。なんかそういう感覚ですね。メタボリズムの発想のように校舎の長さを調節すれば、増築にも対応しやすいし、コストも調整しやすいという考えもありました。
――審査委員長の講評だと、コスト的な検討が必要になるとの指摘もありました。
遠藤 コスト的なご指摘は私もまだよく理解できていなくて、審査員の皆さんから付帯事項が示されるのを待ちたいと思います。我々の案は施工費がそれほど大きくかかるとは考えていません。正直、コストは抑えられると思っています。
他の案との比較で語られた面もあるかもしれませんが、まずコストありきというのは、今回のプロジェクトに関して言うとちょっと違うのではないかと考えました。NSDに対するリスペクトがあって、NSDとしてつくるべき方向性は何かを示すことが重要だと思ったんです。10年をかけて、しかも3科4校を統合するプログラムなので、地域に対する大きな責任を負う。そう考えると、理念を問われたのが今回の審査会だと思うんです。
選んでいただいたからには、コストについては責任を取る覚悟はできています。むしろそこは安心していただいた方がいいし、下げ代はたくさんあります。

最後にNSDプロジェクトとしてこれまで4年間に実施された公募プロポーザルの結果、BUNG NETに掲載した記事の一覧をまとめておくので、参考にしていただきたい。(森清)

<NSDプロジェクトの公募プロポーザルに関する掲載記事>
- 赤松佳珠子審査委員長の呼びかけに若手が奮起、長野県の松本養護学校はSALHAUS・仲JV、若槻養護学校はCOAに
- 長野県の小諸新校は西澤奥山小坂森中JV、伊那新校は暮らしと建築社・みかんぐみJVに軍配、審査委員が2会場を車で移動して“ダブルヘッダー”
- 長野県の須坂新校はコンテンポラリーズ+第一設計JVに、NSDプロジェクト4度目の挑戦でプロポーザルを突破できた勝因は?
- 長野県の佐久新校はSALHAUS・ガド建築設計事務所JVに、赤穂総合学科新校は畝森・tecoJVがSALHAUSを抑える
- 長野県の中野総合学科新校はラーバンデザインオフィス・小林・細谷JVがベテラン勢に競り勝つ、来年度以降も9校でプロポの可能性
<上伊那総合技術新校プロポーザル概要>
- 名称:上伊那総合技術新校(仮称)施設整備事業 基本計画策定支援業務委託プロポーザル
- 主催:長野県教育委員会
- 最適候補者:遠藤克彦建築研究所・waiwai共同企業体
- 候補者(次点):千葉学建築計画事務所
- 準候補者(次々点):該当なし
- その他2次審査対象者:シムサ・キッタン・アンド・ウエスト設計共同企業体(構成員:アトリエ・シムサ、kittan studio、スタジオウエスト)、わたしもそう共同企業体(構成員:渡邉健介建築設計事務所、創和設計、下山祥靖建築設計事務所)(以上、一次審査書類受付順)
- 審査委員会:委員長/赤松佳珠子(法政大学教授、シーラカンスアンドアソシエイツ代表/建築分野) 委員/寺内美紀子(信州大学教授/建築分野)、西沢大良(芝浦工業大学教授、西沢大良建築設計事務所代表/建築分野)、垣野義典(東京理科大学教授/建築・教育分野)、高橋純(東京学芸大学教授/教育分野)、武者忠彦(立教大学教授/地域分野)
- 事務局アドバイザー:小野田泰明(東北大学教授)
- 参加表明書の提出期間:2025年9月8日(月)~9月12日(金)
- 1次審査書類の提出期間:2025年9月26日(金)~10月2日(木)
- 1次審査の実施日:2025年10月22日(水)
- 2次審査の実施日:2025年12月7日(日)
- 2次審査の結果発表:2025年12月7日(日)
