2023年は、「長野県スクールデザインプロジェクト(以下、NSDプロジェクト)」の2年目として、3校の施設整備事業で、長野県教育委員会は基本計画の策定支援者を選ぶ公募型プロポーザルを実施した。そのうち、11月5日に行われた須坂新校の2次審査は既報の通りだ。1週間後の11月12日には赤穂総合学科新校の2次審査が行われ、新たに最適候補者が決定し、今年の3つのプロポを終えた。ここでは、9月30日に2次審査を実施した佐久新校の結果、最新の赤穂総合学科新校の結果を振り返っておく。
通りに建築を開き、学校の様子が感じられ来校者がアクセスしやすい施設配置に
佐久新校は野沢北高校と野沢南高校の統合によって誕生する高校で、野沢北高校の敷地・校舎を活用する。同校のプロポで最適候補者に選ばれたのは、SALHAUS・ガド建築設計事務所設計共同体だ。次点となる候補者になったのはワンダーズ(平井政俊建築設計事務所、千田建築設計、KONTE一級建築士事務所で構成)で、次々点の準候補者は、K+Y+H共同企業体(渡邉健介建築設計事務所、下山祥靖建築設計事務所、ハシゴタカ建築設計事務所で構成)だった。
SALHAUSは、1年目にも仲建築設計スタジオとの共同企業体(JV)で、松本養護学校のプロポで最適候補者に選ばれている。今回JVを組むのは地元佐久市のガド建築設計事務所。佐久市野沢児童館併設型子育て支援拠点施設の設計も両者のJVで手掛けている。
SALHAUS・ガド建築設計事務所JVは、「佐久新校が地域とつながり、佐久らしさ・野沢らしさを活かした新しいまちをつくる」といった大きなフレームを設定。新校が立つ野沢エリアをウォーカブルなまちに再生する、探究的な学びにより「まち全体」を学びのフィールドにするという目標から、通りに開かれた建築とし来校者がアクセスしやすい位置に「共学共創ゾーン」を配置するといった具体的なプランまで示した。
配置計画の特徴は、各エリアに4つの広場を配し、それらを回遊して多様な居場所を発見できるプランとしていることだ。前面道路に対して開かれた「地域のひろば」と「エントランスひろば」、生徒の学びや生活の場となる「探究のひろば」と「班活のひろば」を設け、それらを回遊する。生徒の日常空間は2~3階に配し、1階の地域共創スペースとは分けつつ、つないでいる。
2次審査の終了後、SALHAUSに佐久新校で実現したかったこと、今後の抱負を尋ね、共同主宰者の1人である日野雅司氏から次のコメントをもらった。
「佐久新校は地域の伝統校である野沢北高校、野沢南高校の統合校であり、これまで地域内でもその将来像について様々に議論されてきた新校だ。私たちはその新校を地域づくりの1つとして捉え、接道性が高く地域連携の活動がまちにあふれ出てくるような校舎を提案した。スーパー探究校として、生徒の自主性・能動性を育む分野横断的な学びを実現するために、回遊しながら様々な活動との偶発的な出会いのある空間を構想している」
「まちミチ」と「まなびミチ」、東西2本のミチで回遊性
赤穂高校の普通科・商業科を総合学科に転換する赤穂総合学科新校のプロポで、最適候補者になったのは畝森・teco設計共同体。畝森泰行氏率いる畝森泰行建築設計事務所と金野千恵氏率いるtecoのJVだ。両者は2018年に北上市保健・子育て支援複合施設のプロポで最優秀者に選ばれて以来、JVで複数のプロポーザルを取った。現在、東京都台東区の6階建てのビルを事務所としてシェアしている。
次点となる候補者はSALHAUSで、次々点の準候補者は「該当なし」とされた。SALHAUSは佐久新校でのJVに対して、こちらは単独で連勝を狙ったものの、惜敗した。昨年も単独で臨んだ伊那新校のプロポでは候補者にとどまっている。
今回の赤穂新校プロポで対象となる総合学科とは、普通科と専門学科に次ぐ第3の学科であり、普通教育から専門教育まで幅広い科目の中から生徒が選択して学ぶことができるカリキュラムを持つ。畝森・teco設計共同体は、「“まち”と“まなび”のふたつのミチが織りなす学びの循環」をテーマに提案をまとめた。歴史ある三州街道を継承し、“まち”と“まなび”の2つのミチを通すことで、地域社会とのローカルなつながりと、時間や場所を超えたグローバルな学びの両方を併せ持つ学校をつくる考えだ。
教室や大講義室を4つのボリュームに分節し、その両側の東と西を南北にミチでつなぎ、さらに周辺へ関係を拡張するボリュームをミチの外側に配する。「まちミチ」は地域開放の拠点としながら、行事によっては校舎に囲まれた「ソトニワ」でもイベントを共有するような、まちと共にある高校を目指す。
2次審査が終了した後日、畝森氏と金野氏から連名で以下のコメントをもらった。
「地域とつながる環境づくりと、総合学科の特徴である移動時間の『学び』への変換、これらが相互に関係する『学びの循環』を生むことを考えた。そこで、敷地周辺にある小径を延長した『まちミチ』とメディアセンターも兼ねた『まなびミチ』の2本のミチが、各教室棟を挟む回遊性あるプランとした。『まち』と『まなび』の2つを基軸に、新しい学校とまちのあり方について、みなさんと議論していきたい」
<NSDプロジェクトで最適候補者に選ばれた設計者>
- 松本養護学校施設整備事業:SALHAUS・仲建築設計スタジオ共同企業体
- 若槻養護学校施設整備事業:COA
- 小諸新校施設整備事業:西澤奥山小坂森中共同企業体(西澤徹夫建築事務所、奥山尚史建築設計事務所、一級建築士事務所小坂森中建築)
- 伊那新校施設整備事業:暮らしと建築社・みかんぐみJV
- 佐久新校施設整備事業:SALHAUS・ガド建築設計事務所設計共同体
- 須坂新校施設整備事業:コンテンポラリーズ+第一設計共同企業体
- 赤穂総合学科新校施設整備事業:畝森・teco設計共同体(畝森泰行建築設計事務所、teco)
NSDプロジェクトの2年目は3つの新校で基本計画策定支援の設計者が選ばれ、1年目と合わせると計7校の設計者が決まったことになる。うち、5校が高校だ。長野県の高校再編計画では県立高校78校を64校にしていく考えで、それらすべてがNSDプロジェクトの対象と考えれば、今後の道のりはまだまだ長い。
2年目のプロポの2次審査を見ていると、応募者は過去の事例を学んでおり、特にプランについては、よりシビアな戦いになっている。ただ、一つ言えるのは、過去の「傾向と対策」だけでは、これまで選ばれた事務所の案を超えられないということだ。さらに、その提案を教育の現場や地元が受け入れてくれる可能性はあるのか、現実的に運営は可能なのか、高騰している施工費にどう対応していくかなど、検討しておかなければならない課題は多い。(森清)
<佐久新校プロポーザル概要>
- 名称:佐久新校施設整備事業 基本計画策定支援業務委託プロポーザル
- 主催:長野県教育委員会
- 最適候補者:SALHAUS・ガド建築設計事務所設計共同体(構成員:SALHAUS、ガド建築設計事務所)
- 候補者(次点):ワンダーズ(構成員:平井政俊建築設計事務所、千田建築設計、KONTE一級建築士事務所)
- 準候補者(次々点):K+Y+H共同企業体(構成員:渡邉健介建築設計事務所、下山祥靖建築設計事務所、ハシゴタカ建築設計事務所)
- その他二次審査対象者:宮本忠長・Eureka・kttm共同企業体(構成員:宮本忠長建築設計事務所、一級建築士事務所Eureka、kttm)、NASCA+Pha設計共同企業体(構成員:ナスカ 、PERSIMMON HILLS architects)、ラーバンデザインオフィス・小林・細谷共同企業体(構成員:ラーバンデザインオフィス、小林大祐建築設計事務所、細谷悠太建築設計事務所)(以上、提案書受付順)
- 審査委員会:委員長/赤松佳珠子(法政大学教授、シーラカンスアンドアソシエイツ代表/建築分野) 委員/寺内美紀子(信州大学教授/建築分野)、西澤大良(芝浦工業大学教授、西澤大良建築設計事務所代表/建築分野)、垣野義典(東京理科大学教授/建築・教育分野)、高橋純(東京学芸大学教授/教育分野)、武者忠彦(立教大学教授/地域分野)
- 事務局アドバイザー:小野田泰明(東北大学教授)
- 参加表明書の提出期間:2023年7月5日(水)~11日(火)
- 一次審査書類の提出期間:2023年7月28日(金)~8月3日(木)
- 一次審査の実施日:2023年8月20日(日)
- 二次審査の実施日:2023年9月30日(土)
- 二次審査の結果発表:2023年9月30日(土)
<赤穂総合学科新校プロポーザル概要>
- 名称:赤穂総合学科新校施設整備事業 基本計画策定支援業務委託プロポーザル
- 主催:長野県教育委員会
- 最適候補者:畝森・teco設計共同体(構成員:畝森泰行建築設計事務所、teco)
- 候補者(次点):SALHAUS
- 準候補者(次々点):該当なし
- その他二次審査対象者:翔設計・flat class architects共同企業体(構成員:翔設計、flat class architects一級建築士事務所)、大建met(以上、提案書受付順)
- 審査委員会および事務局アドバイザー:佐久新校と同様
- 参加表明書の提出期間:2023年8月4日(金)~10日(木)
- 一次審査書類の提出期間:2023年8月30日(水)~9月5日(火)
- 一次審査の実施日:2023年9月24日(日)
- 二次審査の実施日:2023年11月12日(日)
- 二次審査の結果発表:2023年11月12日(日)