日曜コラム洋々亭03:いよいよベスト3!「令和」建築界グッドニュース

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 独断で選ぶ「令和」の建築界グッドニュース、いよいよベスト3である。

3位:イケフェス大阪で「セッケイ・ロード」大盛況

 大阪の建築公開イベント「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」、通称「イケフェス大阪」をご存じだろうか。普段は入れない建物の内部を見学でき、建物によってはオーナーや専門家に案内してもらえるという、建築好きにはたまらないイベントだ。6回目となったイケフェス大阪が2019年10月26日、27日に開催された。

日本設計に置かれたスタンプラリーのスタンプ台(写真:宮沢洋)

 2019年のイケフェス大阪の目玉企画の1つが「セッケイ・ロード・スタンプラリー」だ。安井建築設計事務所、東畑建築事務所、日本設計、日建設計、久米設計、遠藤克彦建築研究所による連携企画。6社は北船場の高麗橋通りから東西に延びる1本の道路沿いに事務所を構えている。この事実に気づき、「セッケイ・ロード」と命名したのは、何を隠そうこの私(宮沢)だ。

 日経アーキテクチュア時代、毎年このイベントをウェブでリポートしていた。2018年のイケフェス大阪のリポート記事では、いくつかの設計事務所が個々に行っていたオープンハウスの取り組みを「 “セッケイ・ロード”の大手設計事務所がイケフェスで出し物を競う」という見出しで紹介した。大手設計事務所が1本の道沿いに並んでいることは、当事者たちも意識していなかったらしい。この記事をきっかけに、2019年のイケフェスでは、私が描いた似顔絵による「社長似顔絵スタンプラリー」が行われたのだ。

 スタンプを6個中4個以上集めた各日先着100人に、記念の缶バッジがプレゼントされた。

宮沢も6事務所を回って缶バッチ(左下)をゲット!(写真:宮沢洋)

 2日間とも缶バッジの配布は早々に終了。セッケイ・ロードには、スタンプだけでも集めようとする人々があふれた。まさか「一般の人が大手設計事務所を楽しげに巡る」という光景が私の目の黒いうちに現実になろうとは! 自画自賛になるが、「建築界と市民の新しい関係」の幕開けを感じさせた。コロナを乗り越え、今年もやってほしい!

最初期から事務所公開に取り組んできた安井建築設計事務所の皆さん(写真:宮沢洋)
ガイドブックを手に大阪の街を回る人たち(写真:長井美暁)

2位:崖っぷちからのカマキン転生

 坂倉準三(1901~69年)の代表作である神奈川県立近代美術館 鎌倉(通称カマキン、2016年に閉館)が、2019年6月8日に「鎌倉文華館 鶴岡ミュージアム」となって新たに開館した。

カマキン改め「鎌倉文華館 鶴岡ミュージアム」(写真:宮沢洋、以下も)

 建築好きには説明不要の名建築だが、初めて知った人のために概略を説明しておこう。この建築は神奈川県鎌倉市雪ノ下の鶴岡八幡宮境内に立つ。戦後間もない1951年に日本で最初の公立近代美術館として開館した。鎌倉にある近代美術館ということで、美術愛好家の間では「カマキン」と呼ばれる。借地契約満了に伴い、2016年に閉館。当初は「更地」で鶴岡八幡宮に返還される予定だった。しかし、神奈川県と鶴岡八幡宮の話し合いにより、旧本館については鶴岡八幡宮が継承していく方向に急展開した。

 同じ坂倉建築研究所の設計で1966年に竣工した新館は解体し、残した旧本館のみに耐震補強などの改修工事を実施。鎌倉の魅力を発信する文化交流施設となった。改修設計は丹青研究所、施工は竹中工務店が担当した。改修設計には坂倉建築研究所が協力している。

 私はこのカマキン再生のことが建築界であまり話題になっていないのが不思議だった。取り壊された都城市民会館と比べると、その差は歴然。残ったからとりあえずいいやなのか、改修前と異なる部分もあるので「褒めてはいけない」空気なのか…。私は、満点でない再生だとしても、取り壊されて0点になるよりずっといいと思う。これにより、少なくとも「令和」は乗り越えるだろう。そして、十分でなかった部分にさらに手を入れ、国の文化財となる道も残る(現状では神奈川県指定文化財)。見て見ぬふりはこの名建築に対して失礼だし、今後につながらない。

 この建築の再生の経緯をきちんと伝えたくて、日経アーキテクチュア退職間際の2019年12月26日号で「戦後モダニズムを救え!」という特集を組んだ。私の企画で進めた最後の特集だ。ご興味を持たれた方は、電子版で(有料、こちら)。

1位:まさかの金沢!谷口吉生氏の設計で「建築館」オープン

 谷口吉生氏の設計による「谷口吉郎・吉生記念金沢建築館」が2019年7月26日、金沢市寺町5丁目に開館した。「谷口吉郎」は谷口吉生氏の実父で、戦後日本を代表する建築家の1人だ。2人の名前を冠したこの資料館は、金沢市の出身である吉郎氏の生家の敷地を息子の吉生氏らが同市に寄贈し、金沢市が建設した。

(写真:宮沢洋)

 私が日経アーキテクチュアに配属された1990年ごろから、「日本にも建築ミュージアムをつくろう」という議論がされていた。だが、30年たっても実現しておらず(※)、それが東京ではなく「金沢に!」という驚き。谷口吉生氏設計による「器」自体が恒久かつ高級展示品という感動。そして、東京にいつかできるかもしれない建築ミュージアムは、これよりさらにすごいものにせざるを得ないのではという期待。もろもろの感情が反応し合い、私の令和グッドニュースは断トツこれだ。

(写真:宮沢洋)
(写真:宮沢洋)

(※東京では湯島に2013年、「国立近現代建築資料館」がオープンし、そちらはそちらで資料館としてはいいものだと思うが、湯島地方合同庁舎の敷地内にあるので、ふらりと気楽に行く感じではない)

 金沢建築館の開館記念特別展は「清らかな意匠~金沢が育んだ建築家・谷口吉郎の世界~」(2019年7月26日~2020年1月19日)だった。2020年3月20日からセカンド企画展、「日本を超えた日本建築―Beyond Japan―」が始まったが、コロナ拡大防止のため4月11日から臨時休館となった。この企画展の様子は当サイトですでにリポートしている。

【追加情報あり】残念!再び休館へ>>金沢建築館でセカンド企画展がそろり開幕、巨匠8組が壁で競う

「日本を超えた日本建築―Beyond Japan―」展(写真:宮沢洋)

 現在のところ、6月2日(火)から再開の予定。会期は8月30日(日)までなので、まだまだ見るチャンスはある。金沢に行くならば、先日、村野藤吾賞を受賞した「鈴木大拙館」もお見逃しなく。

速報!谷口吉生氏に村野藤吾賞、対象は谷口ファン納得の「鈴木大拙館」


 さて、ランキング1位まで書き終えたが、時間のある方はおまけの「次点」2件にお付き合いいただきたい。

次点1:故・酒井一光学芸員のクラファン、スピード達成

 大阪歴史博物館の学芸員で2018年に亡くなった故・酒井一光氏の記念書籍の発刊資金を募るクラウドファンディングで、目標額を大きく上回る出資金が集まった。

(写真提供:酒井一光遺稿集刊行委員会)

 開始からわずか50時間で当初目標の130万円を達成。最終金額は、目標の2倍を上回る350万5000円(支援者337人)。10位の「都城市民会館3Dスキャン」とクラファンネタがかぶってしまうので、ランキングから外したが、とてもほっこりする話だ。詳細は下記の記事を。

【追加情報あり】3日で達成!第二目標へ>>見返りもGood!“カリスマ学芸員”の遺稿をクラウドファンディングで書籍に

次点2:「BUNGA NET」オープン、コロナ自粛に立ち向かう

 建築界全体への影響がどれほどかは判断しかねるが、個人的に最大のニュースは、この「BUNGA NET」のオープン(2020年4月1日)だ。

 事務所立ち上げと同時に一般公開したまではよかったのだが、その後すぐに緊急事態宣言が出され、どこにも取材に行けなくなってしまった。まさに緊急事態。しかし、そのおかげで、「暗い時事報道は大メディアに任せて、BUNGA NETは建築界を元気づけるニュースを掘り起こそう」という姿勢が明確になった。この「洋々亭」というコラムもその1つだ。自粛期間はウェブを読む時間が増えた時期でもあり、結果的には良いスタートタイミングだったかもしれない。

 今後は新築ルポなども書いていきますので、引き続き当サイトをご愛顧ください。そしてぜひ、月1メルマガの申し込みを!(こちらのページから)  (宮沢洋)

▼10位~4位を読む
日曜コラム洋々亭02:「令和」建築界グッドニュース・ベスト10!