日曜コラム洋々亭02:「令和」建築界グッドニュース・ベスト10

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 うかつだった。このコロナ騒ぎで、「令和」が5月1日で1周年であったことを忘れていた。日経アーキテクチュアで書籍「検証 平成建築史」(2019年4月発刊)を出したときには、「1年後に令和の変化を検証しよう」と思っていたのに…。大メディアであれば、「周年」を逃したのは致命的だ。だが、このサイトは小所帯の下町サイト。3週間の遅れは大目に見ていただき、「令和建築界の1年を振り返る企画」をお届けしたい。

本腰を入れてコラムのロゴを描いてみました!(イラスト:宮沢洋)

 とはいえ、令和に入ってからの社会変革は、コロナ終息後にもっと大きく揺り戻すかもしれない。それに、このページは“下町の洋食店の気楽さ”を目指す日曜コラム「洋々亭」。不安をあおるニュースは大メディアに任せて、グッドニュースだけをランキング形式で振り返ることにした。順位付けの尺度は、私がそのニュースを聞いてどれだけ元気が出たか。統計的調査とは無縁なので、間違っても会社資料などに引用しないようご注意を。では第10位から。

10位:解体直前の「都城市民会館」を3Dスキャン

 「都城市民会館」(1966年竣工、設計:菊竹清訓)が2019年夏、ついに解体されたのはバッドニュースだが、その悲しみを和らげるグッドニュースがこれ。解体着手直前の2019年7月2日~3日に、株式会社グルーオン(gluon)が中心となり、同会館の3Dスキャンが実施された。

グルーオンのパートナー、豊田啓介氏(左から2番目)と金田充弘氏(右端)のつもり(イラスト:宮沢洋、日経アーキテクチュア2019年7月25日号「建築日和」に描いたイラストに改めて着色)

 グルーオンが必要資金をクラウドファンディングで募ると、目標額の50万円が2日間で達成され、最終的には173万円が集まった(支援者272人)。「3Dスキャン」「クラファン(クラウドファンディング)」というキーワードが、昭和~平成の保存活動にはなかった響きだ。スキャン後の輪切り映像(こちら)も話題。

解体前の都城市民会館(写真:宮沢洋)

9位:建築倉庫ミュージアムで「構造展」

 この1年間に見た建築系の展覧会で、最も印象に残ったのが、東京・天王洲の建築倉庫ミュージアムで2019年7月20日~10月14日に開催された「構造展─構造家のデザインと思考─」だ。

「構造展」のウェブサイト。ロゴも楽しい。「東光園」が入ってるの分かりますか? 同展のアートディレクションはSKGが担当した
内覧会には若手から大御所まで、現役構造家がずらり顔をそろえた(写真:宮沢洋)

 現役、故人含め日本の構造家50人の思考とデザインを展示。見慣れた名建築の模型も、構造家目線で見ると、いろいろ発見があった。入館料3000円(大学生2000円)と安くはない値段だが、それでも見る価値ありと思わせた。環境技術、施工技術など、「意匠以外」の建築展が期待できそう。

 構造家インタビューのダイジェスト版がyoutubeで見られる(こちら)。

8位:隈研吾東大教授最終連続講演@安田講堂

 東京大学教授が安田講堂で退職記念講演を行うのは定番コースだが、この4月に退職した隈研吾教授は、毎回異なるゲストを招く連続10回の講演(無料登録制)を企画。「工業化社会の後にくるもの」を共通テーマとして、初回を平成最後の2019年4月20日に開催。以後、令和に入って、ほぼ1カ月ペースで講演を続けた。各回のメインゲストは、原広司(第1回)、上野千鶴子(第2回)、内田祥哉(第3回)、 原研哉(第4回)、進士五十八(第5回)、高階秀爾(第6回)、藤森照信(第7回)、 江尻憲泰+佐藤淳(第8回)…といった豪華な顔ぶれだ。

第3回のフリートークの様子。左から内田祥哉氏、深尾精一氏、隈研吾氏(写真:宮沢洋)

 この連続講演、私は8回まで生で聞いたのだが、どれも甲乙つけがたいほど面白い! 各回とも2時間半の前半がメインゲストの基調講演で、後半はメインゲスト、サブゲストとのフリートーク。司会は隈氏。ゲストに話を聞きながら、自分の思いをちょいちょい混ぜる話術がさすがだ。

 9回目(ゲスト:バリー・バーグドール)がブラジル旅行と重なり、行けなかった。10回目(ゲスト:マリオ・カルポ、廣瀬通孝)は3月14日の予定だったが、コロナで延期となり、まだ開催されていない。10回目はどうなるのだろう。それはさておき、この連続講演、建築の可能性や面白さを堅苦しくなく伝える、とてもいいイベントだった。

7位:藤森照信氏が芸術院賞、「草屋根」で

 建築史家で建築家の藤森照信氏が令和元年度(第76回)の日本芸術院賞第一部(美術)を受賞した。2020年3月19日に日本芸術院(黒井千次院長)が発表した。受賞対象は「ラ コリーナ近江八幡 草屋根」(2014年竣工)だ

草屋根(写真:長井美暁)
本人も絵になる!(イラスト:宮沢洋)

 日本芸術院のウェブサイトで検索してみたところ、「建築」でこれまで日本芸術院賞を受賞したのは下記の面々(受賞年が古い順)。岸田日出刀、吉田五十八、村野藤吾、堀口捨己、中村順平、谷口吉郎、竹腰健造、前田健二郎、今井兼次、佐藤武夫、藤島亥治郎、海老原一郎、前川國男、吉村順三、白井晟一、大江宏、高橋?一、蘆原義信、西澤文隆、谷口吉生、池原義郎、内井昭蔵、阪田誠造、中村昌生、黒川紀章、安藤忠雄、柳澤孝彦、岡田新一、伊東豊雄、長谷川逸子、山本理顕、栗生明、宮本忠長、鈴木了二、北川原温、古谷誠章、槇文彦、陶器二三雄。

 平成26年度(第71回)の陶器二三雄氏以降、「建築」では5年間受賞者が出ていなかった。

内容と関係ないけれど、日経アーキテクチュア藤森特集の「同級生対談」で、お礼に描いた小田和正氏の似顔絵。似てません?

 そして令和初回に久々の受賞。歴代の錚々(そうそう)たる面々の中に我らの藤森照信氏が! しかも美術館でも料亭でもなく、客単価のさほど高くない郊外の商業建築で! 日本芸術院の偉い先生方がみんなで草屋根を見に行ったと思うと、ちょっと可笑しい。藤森建築の“我ら感”については、いつか改めて論証したいが、ここではいろいろな思いを込めて、令和の日本芸術院に「よくぞ!」と言いたい。

(写真:長井美暁)

6位:木の大空間が2年連続学会賞、「道の駅ましこ」

 賞の話題が続くが、2020年の「日本建築学会賞(作品)」(以下、作品賞)を「道の駅 ましこ」でMOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIOの原田真宏・原田麻魚両氏が受賞したことに注目したい。「延岡駅周辺整備プロジェクト」の乾久美子氏、「パナソニックスタジアム吹田」の竹中工務店・大平滋彦氏らと並んでの受賞だ。4月17日に発表された。

道の駅 ましこ(写真:磯達雄)
(写真:磯達雄)

 なぜ作品賞3件のなかで「道の駅 ましこ」をクローズアップしたいかというと、スギの集成材を大胆に使った木の建築だからだ。建築確認上の主構造は鉄筋コンクリート造だが、ボリューム的にはどう見ても木の建築。前回、作品賞を受賞した「新豊洲Brillia ランニング スタジアム」(武松幸治ほか)も、大スパンの木造架構だった。平成時代にも、木の建築の受賞はいくつかあったが、都市的なスケールのものではなかった。個人的な理由になるが、日経アーキテクチュア時代に都市型の中大規模木造の記事に力を入れてきたので、この領域で「2年連続」というのが感慨深い。

(写真:磯達雄)

 歴史を振り返ると、中大規模木造のムーブメントは、1980年代後半にもあった。そのときは地方創生とからめての動きだった。作品賞受賞リストを見ると、1986年に「龍神村民体育館」で渡辺豊和氏が、1989年に「小国町における一連の木造建築」で葉祥栄氏が受賞している。その後、バブル崩壊とともに木造が一気に影を潜めたことを考えると、「2年連続」ではまだ「定着」とは言えない。大空間ではない“普通の木造ビル”の受賞にも期待したい。

5位:太陽の塔、万博50年周年に「登録文化財」へ

 今年は大阪万博50周年なのに、コロナ騒ぎでほとんど話題になっておらず悲しい。そこで、この話題。1970年大阪万博のシンボルである「太陽の塔」(大阪府吹田市)が登録有形文化財となることが内定した。国の文化審議会は3月19日、「太陽の塔」のほか、「旧倉敷市庁舎(現・倉敷市美術館)」、「京都市美術館本館(現・京都市京セラ美術館)」など133件の建造物を登録有形文化財にするよう、文部科学大臣に答申した。夏ごろまでに登録される見込みだ。

(写真:宮沢洋)

 文化庁の資料には、登録対象となる築年数が「原則として建設後50年を経過したもの」であると記されており、1970年竣工の太陽の塔は「ぴったり50年目」の登録となる。今後、「竣工50年たつと登録有形文化財の対象となる」ということが建物所有者に説明しやすくなるだろう。詳細は下記のニュースで書いているのでそちらをご覧いただきたい。

「築50年でOK」「大胆リノベも可」、太陽の塔など登録文化財へ

太陽の塔の内部(写真:宮沢洋)

 ちなみに、万博記念公園は5月21日(木)に営業を再開した。太陽の塔の見学については「当面5月31日(日)まで使用禁止ならびに臨時休業」となっているが、もともと内部見学は予約制なので、遠からず再開するだろう。今からでも万博50周年を盛り上げてほしい。このサイトでも、万博回想企画をやってみようかな。

4位:コロナ基金に安藤忠雄氏が巨額の寄付

 コロナ禍の4月下旬、新聞各紙にこんな報道が載った。「大阪府の吉村洋文知事は(4月)21日、新型コロナウイルスの感染者と接する医療従事者らを支援するために創設する基金について、建築家の安藤忠雄氏(78)ら著名人から2億円以上の寄付の申し出があったと記者団に明らかにした」(朝日新聞DIGITAL2020年4月21日付から引用)

 どの報道も「安藤忠雄氏らから2億円以上の寄付」という書き方で、安藤忠雄氏が2億円なのかははっきりしない。しばらく安藤さんにお会いしていないので、金額を知っているわけではない。しかし、吉村知事が1人だけ名前を出すということは、寄付者のなかでは最高額であり、相当の高額であることは間違いない。

(イラスト:宮沢洋)

 報道によると、4月17日に吉村知事が基金創設を発表した後、安藤氏から直接連絡があり、寄付の申し出を受けたという。

 いろいろな意味ですごい。寄付を決断したこともすごいが、そんなお金を出せる経済的余力が「建築設計」という職業で生み出せることがすごい。大手メディアがこぞって取り上げる「安藤忠雄」というネームバリューもすごい。安藤氏が「世界のANDO」となったのは平成の時代だが、令和にもそんな建築家は現れるのだろうか、という意味でこの話題を取り上げた。

 1本の記事としてはちょっと長いので、ベスト3の前にここでいったん切る。トイレ休憩のあと、続きは下記へ。(宮沢洋)

▼ベスト3はこちら
日曜コラム洋々亭03:いよいよベスト3!「令和」建築界グッドニュース