内藤廣設計「鳴門市新庁舎」が完成、増田友也設計「旧庁舎」との対比は間もなく見納め

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 この記事は“三色丼”のような記事となる。それぞれの素材を単独でたっぷり味わうこともできるが、3つを少しずつ一緒に食すことで、全体としての記憶を脳に刻みたい──。そんな記事だ。3つとは、①2024年5月に業務を開始した内藤廣氏設計「鳴門市新庁舎」について、②新庁舎で開催中の「建築家・内藤廣 鳴門市新庁舎開庁記念展示」について、③これから解体予定の増田友也「鳴門市旧庁舎」について、だ。

左上から反時計回りに、鳴門市新庁舎、内藤廣展会場、鳴門市旧庁舎(写真:右上のみ磯達雄、他は宮沢洋)

①2024年5月に業務を開始した内藤廣氏設計「鳴門市新庁舎」

 老朽化した市庁舎の建て替えだ。南海トラフ地震の津波避難対策特別強化地域にあり、災害対策の拠点となる新庁舎を整備した。建物を4階建ての低層に抑え、基礎免震で南海トラフ地震に備える。バルコニーや縦・横のルーバーで対候性を高め、ZEB Readyを達成した。

東側外観。旧庁舎のV字型庇を継承したエントランスキャノピーが出迎える
消防署側(北側)の外観、V字型エントランスキャノピーは東、北、南の3方向に付いている

 「内藤廣氏設計」と書いたが、正確に言うと、2020年にまとまった基本設計は大建設計によるもので(そのときの発表資料はこちら)、実施設計・施工者が前田建設・吉成建設・内藤廣建築設計特定建設工事共同企業体。2021年に行われたプロポーザルで選定された(そのときの発表資料はこちら

天井が高くゆったりした1階
2階から4階の中央部にある階段室
免震のため、外部の避難階段は最下段が浮いている
解体を待つ旧庁舎(右)と向き合う南側。免震側の玄関庇と、地盤側のV字型キャノピーが切り離されているのがわかる。旧庁舎は解体され、来年春には駐車場となる

②新庁舎で開催中の「建築家・内藤廣 鳴門市新庁舎開庁記念展示」

2023年秋に島根県立石見美術館で行われた「建築家・内藤廣/BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしなき戦い」の巡回展を、鳴門市新庁舎の2階で開催中。

展覧会は撮影NGだが、許可を得て撮影した
展覧会のチラシ

 会期は6月3日(月)~6月29日(土)。時間は9:00~16:30。会期中無休、予約申込み不要、入場無料。

 展示は島根県立石見美術館で展示されたものの一部だが、鳴門市新庁舎に関しては展示物が増えて充実している。

 本誌の連載「赤鬼・青鬼の建築真相究明」でおなじみの両鬼は、「建築家・内藤廣/BuiltとUnbuilt」(図録)の中でこう説明している。

[赤] 与件では5階建ての建物だったけど、フロアを広くとって、なおかつ階高も潤沢にとって、4階建ての建物を設計させてもらうことになった。

[青]やっぱり人が親しみをもてるのは4階建てくらいまでだからなー。前田建設と地元の吉成建設と一緒になっての応募。デザインビルドっていうらしいけど、流行ってるね。施工責任とコスト管理はゼネコン、デザインは建築家、っていう場合もあるけど、基本的には設計・施工の一括発注だから、発注者側からするといいとこ取りの安全策だな。
 

 前述の大建設計による基本設計案を見ると、確かに5階建てだった。実施設計からJVで参加して、そこから階数を変えるって、さすが赤鬼・青鬼の宿主…。

解体されてしまう旧庁舎(左)ともデザインがしっくり。このままでいいのでは、と思ってしまう…

③これから解体予定の増田友也「鳴門市旧庁舎」

 鳴門市旧庁舎は京都大学のプロフェッサーアーキテクト、増田友也(1914~1981年)の設計で1963年に完成した。

かつての鳴門市庁舎。写真手前側に新庁舎が建設された。2017年撮影。V字型庇は工事のため、すでにない(以下の写真すべて:磯達雄)

 旧庁舎については、Office Bungaのパートナーである磯達雄が、Casa BRUTUS WEB版に詳細なリポートを書いているので、そちらを読んでほしい。

【もうすぐなくなる日本の名建築】増田友也〈鳴門市庁舎〉(Casa BRUTUS WEB版)

同じく増田友也設計「鳴門市市民会館」(1961年、写真左)と並んで建っていた
鳴門市市民会館は市庁舎よりも先に解体され、そこに消防署や新庁舎が建った
鳴門市市民会館の内部

 筆者は参加できなかったのだが、磯は6月15日(土)、16日(日)に行われた旧鳴門市庁舎お別れイベント「じゃあ、ね祭り」にも参加した。下記はその様子。

大西麻貴氏の講演の様子。京都大学の遠い後輩にあたる。このほか、旧庁舎をめぐるツアーも開かれ、市民約60人が参加。増田友也を研究している京都大学大学院の田路貴浩教授が、増田建築の特質について説明したという

 解体工事は7月にも始まる見通しだ。内藤廣展は6月29日まで、解体は来月となれば、6月29日までに行くのがベストだろう。ただ、先にリポートした堀部安嗣氏設計「時の納屋」(香川県さぬき市)↓はオープンが6月30日なので、来月以降に行く人はそちらを併せて見たい。(宮沢洋)