日曜コラム洋々亭41:東京海上ビルの存続アイデア展示会@MIDビルを見て、2つの「反省」

 「東京海上ビルディングを愛し、その存続を願う会」(発起人代表:奥村珪一)が実施した「東京海上ビルディング『存続のアイデア』募集」の応募作が、四谷のMIDビル(前川建築設計事務所の自社ビル)で展示されるというので、9月19日(祝)に見に行った。

(写真:宮沢洋)
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越境連載「建築シネドラ探訪」26:社長のスーさんが不憫な「釣りバカ日誌13」。クライアントにダメ出しする設計部員は考えもの

 「寅さん」を引き継ぐ国民的コメディー映画として、1988年から全22作が制作された「釣りバカ日誌」シリーズ。西田敏行演じるハマちゃんが鈴木建設の営業部員であることは、見たことがない人でも知っていると思う。では、シリーズの中で設計部のスタッフがカギを握る回があることをご存じだろうか。社内で“設計部のエース”“ミス・スズケン”と呼ばれる桐山桂を演じるのは鈴木京香だ。

(イラスト:宮沢洋)

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南三陸町の隈研吾3部作ラストとなる道の駅&震災伝承館が完成、復興でもなぜ隈研吾なのか?

 「南三陸町東日本大震災伝承館 南三陸311メモリアル」が10月1日(土)にオープンする。9月22日(木)の午後に宮城県南三陸町が主催する内覧会が開催されたので、別の出張に絡めて行ってきた。

(写真:宮沢洋)
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隈研吾氏の鎌倉彫ファサード「BAM」が9月23日に開館、徒歩数分のカマキンと併せて考えたい“小建築の力”

 隈研吾氏が設計した英国アンティーク博物館〈BAM鎌倉〉が9月23日にオープンする。「隈研吾氏が鎌倉彫をモチーフにした伝統的デザイン」と書かれた案内状が届き、『隈研吾建築図鑑』の著者である私(自称・隈研吾ウオッチャーの宮沢)としては見ないわけにいかない。9月17日午後に行われた懇親会と内覧会に参加してきた。

(写真:宮沢洋)
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建築の愛し方14:美術館の改修中に『課長の工事通信』を発信、天井改修だってこんなに面白い!─山本大輔氏(後編)

 発信型(エンジョイ型?)のニュータイプの行政マン、山本大輔氏(島根県東部県民センター建築課長)の後編である。

 「展覧会(島根県立美術館での菊竹清訓展)が終わった後、今の職場へ異動が決まり、引き続き美術館の天井改修を担当することになって…。なにやら誰かに呼ばれているような不思議なご縁を感じましたね(笑)」というところまでが、インタビュー前編であった。「天井改修」というのは、2021年5月から2022年6月まで実施された島根県立美術館の天井改修だ。

改修工事を終えて再開した島根県立美術館の天井。どう変わったか分かりますか?(写真:特記以外は宮沢洋)

 ここでの山本大輔氏の関わり方がまた面白くて、本来の「総括監督員」という役割以外に、山本氏らしい情報発信の役割も担っていた。それが「島根県立美術館ニュース」(美術館の広報誌)に掲載された「山本建築課長の美術館改修工事通信」。改修工事で美術館が約1年間休館している間、3回にわたって掲載された。単なる「工事通信」なら「ふーん」だが、「山本建築課長の~」とつくことで、俄然読みたくなる。

「山本建築課長の美術館改修工事通信」は各号の巻末、一番目立つところに掲載された

 私(宮沢)は東京でこれを楽しみに読んでいた。山本氏の了解を得て、一挙3話分を全文掲載する。以下、文責は山本大輔氏。

■山本建築課長の美術館改修工事通信(前編)
島根県立美術館の大規模改修がスタートしました。

 島根県立美術館では5月から約1年間休館し、大規模改修工事を行います。平成11年3月の開館から22年間、稼働し続けてきた空調や照明などの建築設備を一新するとともに、エントランスロビーの天井をさらなる耐震安全性を目指して「ヴァージョンアップ」することとなりました。

東日本大震災で相次いだ天井落下事故

 平成23年3月に発生した東日本大震災では甚大な津波被害がクローズアップされましたが、一方で体育館や商業施設など大規模空間での天井落下事故が2,000件以上発生し、多くの死傷者が出たことも大きな特徴の一つでした。

 このような事故を受けて国は平成25年に建築基準法を改正し、それまで法令に明確な定めのなかった天井の耐震安全基準を新たに設けました。今回の耐震改修は、この安全基準に適合させるためのものなのです。

ロビーの天井のデザインと合理性

 当館は日本を代表する建築家の菊竹清訓(1928-2011)が設計を手がけ、やわらかな曲面を描く大きな屋根が特徴です。菊竹はこれを“宍道湖の渚”をイメージしたものと説明しています。

 ロビーの波打つ天井は、屋根の曲面がそのまま内部にあらわされたものです。白い帯状の天井面が少しずつ高さを変えながら浮かぶ様子は、湖面のさざ波のようでもあり、湖上にたなびく雲のようにも見えます。

改修前の天井(写真:山本大輔)

 菊竹は天井の素材にアルミスパンドレルと呼ばれる小幅の金属板を採用しました。一枚毎に角度を変えられる金属板の吊り天井は曲面をつくる技術としてとても理にかなっています。菊竹はこの天井のデザインを大変気に入っていたそうです。

膜天井の新しい「かた」を探して

 菊竹の有名なデザイン理論に「か、かた、かたち」があります。「か」はデザインのイメージ(構想)、「かた」はイメージを実現するためのテクノロジー(技術)、「かたち」はテクノロジーにより生みだされるプロダクト(形態)を指し、あらゆるデザインはこの3段階を経て構築されるという理論です。

 この3段階論をロビー天井のデザインに当てはめると、まず“宍道湖の渚”のイメージ(か)があり、金属板の吊り天井(かた)を用いて、さざ波や雲のような天井(かたち)がつくられているのだと説明できるでしょう。

 今回の耐震改修において、私たちに課せられたミッションは、天井の「か」と「かたち」を守りながら、より安全で合理的な「かた」を探し出し、実現することです。そして私たちが見つけた新しい「かた」は、グラスファイバー製の「膜天井」でした。

 膜材は他の材料と比べて軽くしなやかで安全性が高く、曲面形状も自在につくることができます。また、金属板にはない吸音性を持ち、美術館に求められる静寂性の向上も期待できます。

 一方で、膜天井には膜天井ならではの難しさもあり、元の天井のキリッとしたシャープなイメージを再現するには高い技術力と施工精度が求められます。技術的なハードルをひとつひとつ解決し、新しい天井の「かた」をつくり出すことが、この工事の最大の目標です。

 次回は、膜天井の工事の様子をご紹介します。

■山本建築課長の美術館改修工事通信 (中編)
天井の耐震化、こんな工事をしています

 今回の天井耐震化工事では、金属板の吊り天井から軽量でより安全性の高いグラスファイバー製の膜天井に張り替えます。現在閉館中の館内では、一体どのような工事が行われているのでしょうか。今回は工事現場の様子をご紹介します。

(1) ロビー全体に足場組み立て

ロビー全面の天井を張り替えるためには、作業用の足場も全面に必要です。現在、ロビー空間いっぱいにジャングルジムのような足場が組み立てられ、工事関係者の作業を支えています。

(2)金属板天井と吊り材の解体撤去

 足場が組み上がったら、白い金属板の天井材と吊りボルトを撤去していきます。ただし、ダウンライトや空調の吹出し口などが納められた黒いスリット部分は十分補強して残します。なぜならオリジナルの優美な曲線を忠実に復元するために、元の曲線の基準となるものが必要だからです。

(写真:島根県立美術館)

(3)新たな天井を支えるための鉄骨の取り付け

 吊り天井を撤去したら、膜天井を取り付けるための新たな鉄骨を屋根の梁に溶接していきます。

 屋根の梁は屋根の曲面形状に沿った起伏を持ち、クモの巣のように複雑に張り巡らされています。屋根裏には建物に必要不可欠な防火シャッターや電気ケーブル、空調ダクトなども多数あり、鉄骨の取付工事は、綿密な調査と施工計画を必要とする大変な作業となりました。

(写真:島根県立美術館)

(4)膜天井の下地フレームの取り付け

 屋根の梁へ取り付けた鉄骨に、膜天井を張るための下地フレームを取り付けます。フレームの先端には直径13mmの鋼棒を緩やかに曲げながら溶接していきます。この鋼棒が一つ一つの膜天井のエッジをかたちづくり、菊竹が思い描いた優美なカーブを再現していきます。膜材を張ってしまえば隠れて見えなくなる下地フレームですが、天井のかたちを決める最重要工程の一つです。

(写真:島根県立美術館)


(5)膜を張る

 天井の膜材は世界的なシェアを誇る大阪の工場で製作され、現場へ運び込まれます。今回の膜天井は大きさと形状が一つ一つ異なっており、3D-CADと連動した自動裁断機で正確に切り出されたパーツを、工場の熟練職人が手作業で一枚一枚溶着して作られています。

 現場に運び込まれ、足場の上で丁寧に広げられた膜材は人力作業で下地フレームに張られていきます。職人の手と小さな手工具でシワひとつない膜面が張り上げられていく様子はまさしく職人技であり、巨大な美術工芸品と言えるでしょう。

(写真:島根県立美術館)
(写真:島根県立美術館)
(写真:島根県立美術館)

■山本建築課長の美術館改修工事通信(後編)
新しいロビー天井が完成しました

 昨年5月から約1年間かけて進めてきた県立美術館のエントランスロビー天井の耐震化工事が無事に完了しました。

(写真:島根県立美術館)

 今回の工事では、設計者の菊竹清訓氏が思い描いた“宍道湖の渚”のイメージを受け継ぎ、渚に打ち寄せる波のような曲面天井のかたちはそのままに、軽くてしなやかな膜構造に置き換えることで新しい耐震安全基準をクリアしました。

 熟練の職人さんたちの手で張り上げられた巨大な膜天井には緊張感がみなぎり、優美な曲面を描く姿には“白磁”を想わせる工芸的な美しさが感じられます。

以下の写真は宮沢が2022年8月に撮影

 宍道湖に面したロビーのガラス面から差し込む自然光は、大理石の床に反射して白い膜天井を照らし、膜天井が“巨大なレフ板”となって自然光を2階へと拡散させていきます。また、吸音性の高い膜材を採用したことにより、以前よりもロビー内での会話や足音の反響が抑えられ、美術館に求められる静寂性が向上しています。
 
 そんな新しい天井がつくり出す“安心感”と“空気感”によって、皆さんが美術館で過ごされる時間が少しでも豊かなものになればと密かに期待しているところです。

工事に関わった皆さんの技術と熱意

 今回の工事では大変多くの工事関係者の方々にご尽力いただきました。

 工事現場は一人一人の人間が動かしています。地域の建築に対して熱意を持って取り組む姿勢が、実際にどのようなメンバーを集めて体制をつくるかということにつながっていきます。大規模かつ複雑な曲面天井を膜構造で造るという前例のない工事を成し遂げることができた背景には、県内外から集まった専門技術者、職人の皆さんの高度な技術力に加えて、元請会社として彼らの技術力をまとめ上げ、気持ち良く働ける現場環境づくりに尽力された地元ゼネコンの皆さんの熱意と気配りがあったからこそと強く感じています。

 多くの皆さんが熱意を持って協力してくださるこの地域で今回の大規模改修が成し遂げられた喜びと、工事に関係された全ての皆さんへの感謝をこの場を借りて申し上げたいと思います。(ここまで、山本大輔|島根県東部県民センター建築課長、美術館改修工事総括監督員)

宮沢が見に行った日はあいにくの曇り空だったが、それでも湖畔の広場に子どもたちがたくさん。子どもが遊びに来たくなる美術館って素晴らしい! 宮沢は『菊竹清訓巡礼』(2012年刊)の中でも、この建築を「後期・菊竹清訓の傑作」と位置付けている

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 いかがだっただろうか。当初は自分で改修プロセスを書こうと思ったのだが、改めて山本氏に原稿を送ってもらったら、「これ以上の愛を持って書けない」と思い、そのまま載せることにした。

 こんな後日談を山本氏から聞いたので、まとめ代わりに。

 「連載の締めくくりに、工事に関わった皆さんへの謝辞を書かせてもらいました。実はこれ、美術館が新築されたときに菊竹さんが『近代建築』(1999年6月号)に書かれた謝辞とほぼ同じなんですよ。今回の工事に合わせて少し手を加えていますが、言葉遣いや文章の骨格はそのままです」

 なるほど、それは深い。深すぎて、誰も気づかないのでは……。

 「誰も気づかないだろうと思っていたら、気づいた人がいたんです。松江市内に在住の鴻池組のOBの方で、菊竹さんとは60年以上前の県立博物館の頃から付き合いがある方です。リニュ-アルオープンの日に駆けつけてくださって、『あの謝辞を読んで、菊竹さんが生き返ったかと思ってびっくりしましたわ!』とうれしそうにおっしゃいました。その笑顔が忘れられません」

 広く楽しくという発信の裏で、ピンポイントで深く刺さる発信も仕込んでいるとは。恐るべし、山本さん。これからも何をされるのか楽しみにしています!(宮沢洋)

右の似顔絵(宮沢画)をすでにハンコにして使っていただいているとのこと。そういうのも動きが速い!

電車から見る建築②山手線:渋谷-新宿 にぎわいの裏に設備あり

写真:大塚光太郎、以下も

 電車から見える景色は、はかない。だからこそ、建物の間で見え隠れする東京タワーに心踊らせ、悠然と現れる富士山に圧倒された。そんな筆者の少年時代の体験をきっかけに始まった本連載「電車から見る建築」。前回は山手線品川駅を出発し、時計周りに渋谷まで進んだ。今回は渋谷から新宿の区間に乗車し、その街を象徴していると感じた建築を紹介していく。

 また、この区間は山手線の中でも随一の繁華街であることから、活性化するであろう夜間にも乗車することにする。さて、どんな建築に出会うことができるだろうか。

スクランブル交差点(1973年)、SHIBUYA109(1978年、竹山実)

 渋谷の栄華の象徴といえばこの光景だろうか。渋谷駅のJR線と井の頭線の連絡通路からスクランブル交差点を撮影する観光客は多いが、個人的には109も画角に収まる電車からの景色を推したい。両者が完成した1970年代は、新宿に高層ビルが集密し始める時期や、銀座で大規模な歩行者天国が始まる時期に重なる。日本における中核エリアのアイデンティティ確立が、この時代の重要課題だったのだろう。

 109単体ではなく景色全体を見ると、所狭しと埋め尽くされた広告が目立つ。では、建築の外皮で広告の無い部分はどうなっているかというと、ほとんどがガラス、つまり光を建築内に取り込むために使われている。広告か採光か、二者択一を迫られる渋谷建築のなかで、余白を十分に残しながら建つ109はさすがの貫禄である。 

MIYASHITA PARK(2020年、竹中工務店・日建設計)

 109を通過し、すぐ右側を向くと「MIYASHITA PARK」(旧宮下公園)が見えてくる。屋上の空中立体公園や、鉄のツインアーチ構造など、有名な見所はぜひ現地で体感してもらうとして、ここでは車窓だからこそ気付けた建築の見方を紹介しよう。明治通りと山手線に挟まれた商業施設なので、当然明治通りに向かって入り口や店のロゴが配置される。建築としての顔が道路側に向けられるとしたら、その後頭部には何が配置されるのか?

 その一つが空調機器や貯水槽、非常階段といった設備だろう。MIYASHITA PARKでも室外機が線路側に並ぶが、アーチと目隠し格子を組み合わせることで、デザインとの調和が図られていた。夜になると、LED照明により裏表が反転することで室外機の“メカ感”が強調された雰囲気になる。前回の記事では線路に対して顔を向け、乗客への宣伝効果の高い建築を多く紹介した。しかし、繁華街では電車より道路や交差点に向かうことが多いので、電車から見る際には建築の後頭部に潜む「設備」に注目するのもアリかもしれない。

渋谷TOEI(旧渋谷東映プラザ、1993年、設計者不詳)

 隠れた設備、という視点で見るとMIYASHITA PARKの近くに建つ「渋谷TOEI」も目に入ってくる。映画館という用途上、通常の倍の量が必要とされる非常階段が美しい。西武大津ショッピングセンター(1976年、菊竹清訓)の階段ほどの主張はないが、もし格子で囲われていなかったら、階段建築としてそこそこの注目を集めていたのではないだろうか。

西武大津ショッピングセンター(1976年、菊竹清訓)

国立代々木競技場(1964年、丹下健三)、新宿パークタワー(1994年、丹下健三)

一番右側、ピントがあってるのが新宿パークタワー

 この区間で外せない建築といえば代々木競技場だろうと考え、意気揚々とカメラを掲げていたが、原宿駅に着く直前にかろうじて支柱の頭が見える程度で、全貌を捉えることはできなかった。これでは記事にならないぞ、と落ち込みかけていた矢先に再び丹下建築が見えた。原宿から少し進んだ先、左手奥の方に現れるのが「新宿パークタワー」である。東京都庁舎とセットで並ぶ姿を見たことがある方も多いだろう。段々状に連なるシルエットを見るには良い角度の景色なので、是非探してみてほしい。

日綜代々木ビル(1989年、設計者不詳)

 原宿から代々木に至るまでの景色の中には、ツタの巻き付いた建築が点々と目につくようになる。おそらく、隣に鎮座する明治神宮の影響を大きく受けているのだろうが、中には最近建てられたであろうものも多い。「直接関係のない建築でさえも飲み込んでしまう明治神宮の文化と歴史、恐るべし…」と考えていた矢先に、巻きつくツタの量が抜きん出た建築を発見した。窓も見当たらず、看板もない。それどころかツタによって建築表面の凹凸さえ分からない。「採光か、広告か」という冒頭で考えていた繁華街的な建築像を真っ向から否定する存在である。代々木駅で下車し、詳しく見てみることにした。

 大通りを歩きながら探すが、なかなか見つからない。辺りを何周もして、ようやく見つけたのが「日綜代々木ビル(にっそうよよぎビル)」だ。大通りから見た姿は、街に溶け込んだ普通のオフィスビルだが、裏に回ると全面がツタに覆われた緑壁が現れる。まるで、優等生で大人しい友達の見てはならないウラの顔を知ってしまったような、ワクワク感を覚えた。近寄ってみると、ツタに飲み込まれた上水道や窓にようやく気付く。明治神宮の近くだと物理的にツタが繁殖しやすいのか、文化的な影響を受けて意図的に繁殖させているのか、気になるところだ。

NTTドコモ代々木ビル(2000年、NTTファシリティーズ)

 代々木駅周辺に差し掛かると、「NTTドコモ代々木ビル」が現れる。キャッチーなシルエットと立地から、すでに知っている方も多いと思われるので建築的情報は割愛するとして、気づいたことを一つ紹介する。電車からだと、あまりよく見えない。ドコモビルは周囲に高層ビルが無いので、都内の至る所から見えるのが特徴だと思っていたのだが、盲点だった。まさに灯台下暗し。

新宿駅南口人工地盤(2015年、東日本旅客鉄道、ジェイアール東日本建築設計事務所、ジェイアール東日本コンサルタンツ)

 ドコモビルを通過し、そろそろ新宿駅のホームに差し掛かるかというタイミングで、車窓に目を向けてみて欲しい。そこには、柱が等間隔に立ち並ぶ人工地盤の光景が広がっているはずだ。上に載る高速バスのターミナルや商業施設の荷重を支えるという、シンプルな役割を淡々にこなす素朴さと、16本の線路に跨がる奥行きの深さが相まって美しい。その姿は、コルビュジエが提案した合理的都市計画「ヴォアザン計画」(1925年)の形態にも重なる。究極のモダニズムを新宿駅で体験してみてはいかがだろうか。

小田急百貨店新宿・送風用ダクト(1984年以降、設計者不詳)

 最後に、本記事のテーマ「にぎわいの裏に設備あり」を考えるきっかけになった小田急百貨店の送風用ダクトをおまけがてらに紹介する。7つのダクトが仲良く並んでいるだけで可愛いが、よく見ると一つひとつ向きが微妙に異なるので、まるで子供が口をあけて合唱しているかのようだ。

地下に小田急線のホームがあるため、設備機器を地下に配置することが出来ず、押し出される形でダクトが人目につく位置にきたのだろう。小田急百貨店といえば、新宿駅西口広場(1966年)と併せて坂倉準三が設計したことでも知られる。ただ、1984年の航空写真にダクトは映っていないので坂倉のデザインという訳ではなさそうだ。小田急百貨店ビルの建て替え工事が始まる今年10月まで、”最後の合唱”を見ることができる。

1894年と2009年の比較(国土地理院航空図をもとに筆者が作成)

なぜ、設備に注目するのか?

 建築における設備は、意図的にデザインされていることは少ない。そもそも、配管を成立させることが設計者にとって最重要であるからだ。さらに、「大通りに正面を向けたい」「地下に電車を通したい」といった要望が、設備配置の難易度をさらに上げる。多くの制約のしわ寄せを受ける設備だからこそ、その対処法は設計者によって異なり、無意識的に建築としての特徴が生みだされる。本記事を通して、普段見過ごしていた建築を愛でてみるきっかけになれば幸いである。(大塚光太郎)

巨大な「百貨店建築年表」は発見の宝庫、高島屋史料館TOKYOで「百貨店展」始まる

 日本橋高島屋S.C.本館の「高島屋史料館TOKYO」4階展示室で9月7日(水)から「百貨店展――夢と憧れの建築史」が始まる。会期は2023年2月12日(日)まで。入場無料。開幕前日の9月6日午後に行われた内覧会を見てきた。

入り口で出迎えるのは石本喜久治の出世作、白木屋日本橋店のファサード模型。本展のためにつくったもの(写真:宮沢洋)
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御嶽山ビジターセンターの「やまテラス」と「さとテラス」が開館、シンプルに見えて複雑な木造架構

 YouTubeで審査の様子をライブ配信して話題になった「御嶽山ビジターセンタープロポ一ザル」(最終審査は2020年7月26日)。当選したyHa architectsの設計による2つの施設が、ほぼプロポーザル時のイメージのまま完成した。プロポーザル時から気になっていたので、早速見に行ってきた。2つの施設は車で1時間ほど離れた場所にあり、1つは長野県が整備した「やまテラス王滝」、もう1つは木曽町が整備した「さとテラス三岳」だ。ともに8月27日に開館した。

こちらは「やまテラス王滝」 。日本じゃないみたい!(写真:宮沢洋、以下も)
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建築の愛し方13:山陰の「大建築」を発信し、菊竹清訓展でも奮闘した行政マン─山本大輔氏

 役所に勤める人というのは、粛々と職務をこなし、与えられた以外の余計なことはしない、個人名を出しての発信などもってのほか……というイメージだった。いや、そんなことは全くないのだということを証明してくれたのが、この人。

ファンが増えそうな笑顔。本人の希望により似顔絵も描いてみました(写真・イラスト:特記以外は宮沢洋)

 山陰のモダニズム建築にめっぽう詳しく、「大建築友の会」の活動などで知られる島根県職員の山本大輔氏だ。

大建築友の会が作成した冊子「大建築の聖地」の一部

 今回、島根県出張のついでに初めてお会いすることになり、改めて肩書を調べたら、「島根県東部県民センター建築課長」だった。おお、「課長」。偉い人なんだ。……と思ったものの、生年を調べたら、私よりもだいぶ下。以下はWEBから拾った山本氏のプロフィルだ。

山本大輔
1976年 島根県安来市(やすぎし)生まれ
1999年 名古屋大学大学院工学研究科建築学専攻 中退
2000年~島根県職員

 ここから先は、一問一答@島根県庁で。

職場の先輩に「建築好きなんだ」と気づかれて

──初めまして。昨年の「菊竹清訓展」の記事(室内に「スカイハウス」再現!菊竹後期の傑作「島根県立美術館」で菊竹清訓展開幕)では、写真をお借しいただきありがとうございました。

島根県立美術館(設計:菊竹清訓)で2021年1月22日~3月22日に開催された「菊竹清訓 山陰と建築」展の会場風景(写真:山本大輔)

 いえいえ。お会いするのが初めてとはとても思えません。前から知り合いのような気がします。

──40代で「課長」ってすごいですね。県庁では変わり者扱いなのかと思っていました。すみません(笑)。

 いえいえ、課長と言っても出先の課長なので。同期もだいたい同じようなポジションですよ。「変わり者扱い」は全くそのとおりなのですが、やるべき仕事は一応ちゃんとやっています(笑)。

──どうして島根県の職員になったのですか。

 名古屋大学の大学院で近代建築史を学んでいたのですが(西澤泰彦研究室)、親に対して「就職も考えてますよ」というポーズのために、地元である島根県の職員採用試験を受けたら、意外にも受かってしまい……。大学院を中退して県の職員になりました。

──モダニズム建築の情報発信は最初から?

 いえ、全く。大学院で建築史が面白くなってきた頃に中退してしまったので、全く関係のない仕事になって鬱屈した感じはありました。最初の仕事は浜田管内の建築指導業務でしたが、建築確認の完了検査に行く途中で面白い近代建築を見つけると、休日にもう一度出かけていって、写真を撮って楽しんでいました。。

──「自分で楽しむ」から、「外に伝える」に転じたきっかけは?

 一緒に回っていた職場の先輩に「お前、建築好きなんだな」と気づかれて(笑)。2003年に浜田地区の建築行政会議で、撮りためた写真を見せながら「浜田、江津の近代建築」というレクチャーを行ったのが最初です。同じ年に、島根県建築士会江津支部主催の市民向け講座でも話をしました。特に江津市庁舎(1962年竣工、設計:吉阪隆正)は世界の建築史につながるすごい建築なんですという話をしたら、皆さんとても驚いてくださって。伝える面白さに気づいたのは、江津市庁舎の魅力のおかげともいえますね。

ロールモデルは「建築巡礼」!

──そこから、「大建築友の会」の活動へ?

 いえ、それ以降、しばらくは何か活動をしていたわけではありません。「大建築友の会」を立ち上げたのは、2011年にたまたま、菊竹清訓さんの3つの建築(旧博物館、図書館、武道館)の耐震補強を担当することになったのがきっかけでした。業務のために、竣工時の県の資料をいろいろ読んだら、それが面白くて…。

──『新建築』に載っていないようなディープな情報が満載?

 そうなんです。それを多くの人に伝えたいと思うようになりました。2011年から2014年にかけて、建築士会のWEBや冊子の形で『大建築の聖地』を7号まで発行しました。

 それを見た方から声がかかり、2014年から見学会やレクチャーが急に増えました。

──「大建築」というのは、山本さんの造語なんですか?

 いえ、「大建築」は菊竹事務所OBで島根県立美術館の担当者でもある山岡哲哉さんがWEBサイトで使っていた言葉です(こちら)。高度経済成長をバックにやたらパワフルで骨太でかっこいい建築を愛情込めてこう呼んでいました。その言葉がすごくいいなと思ったので、山岡さんの了解を得て使わせていただきました。

 あと、一般の人に建築の面白さを伝えるという点では、磯さん・宮沢さんの「建築巡礼」をロールモデルにさせていただきました。

──なんと我々がロールモデル! 光栄です(笑)。そうした情報発信の活動は、県庁は公認なんですか? それとも個人でこっそり?

 活動内容によって公務として行うこともあれば職員有志のサークル活動として行う場合もあります。どちらの場合でも職場は協力的ですし、自分としても県庁職員の責任を持ってやっているつもりです。

2022年6月に島根県立美術館で行った見学会の様子(写真:島根県立美術館)

思いに共感する後輩が参加

──「大建築友の会」(こちら)はどんなメンバーと立ち上げたのですか?

 最初は1人でやっていました。ソロ・ユニットです(笑)。

──え、そうだったんですか!

 1人でやってる、と言うより「〇〇の会」の方がもっともらしいじゃないですか。

 見学会が増えだしてからは、ここにいる井上君がコアメンバーになってくれました。
(ここで島根県総務部営繕課建築グループの井上翔太主任がインタビューに参加)

右が 井上翔太主任。後ろは島根県庁舎(1959年、設計:安田臣)

──井上さんは山本さんに勧誘されたんですか?

井上:いえ、なんか面白そうなことやっているなあと、自分から巻き込まれに行きました。

山本:無理強いはしませんよ。でも、自分の思いに共感してくれる後輩が現れて本当によかったです。これ、井上君がつくったものですよ。

安田・菊竹建築お散歩マップ

──おお、すごいクオリティー。これ、タダでもらえるものなんですか。

井上:はい、県庁の県民室でも無料で置いてます。県のウェブサイトからもダウンロードできますよ(こちら

県庁の県民室にて。左が折りたたんだマップ

菊竹清訓展@島根県立美術館の裏話

──2021年に島根県立美術館で開催された菊竹清訓展にはお2人とも関わっているんですね。

山本・井上:はい。

菊竹清訓展の会場入り口 (写真:山本大輔)
菊竹清訓展の会場風景(写真:山本大輔)
(写真:山本大輔)

──それもボランティアなんですか。

山本:さすがに空き時間でやる業務量を超えているので、美術館から正式な協力依頼を出してもらい、業務として参加しました。

──そもそも、菊竹展の企画は、山本さんが美術館に売り込んだのですか?

山本:いえ、もともと学芸員さんが菊竹建築に関心をお持ちだったんです。いつかは展覧会をと考えていらっしゃったんですが、建築がご専門ではないのでなかなかハードルが高かったようです。2019年に開館20周年記念イベントの菊竹建築ツアーのガイドを依頼されたのがきっかけで学芸員さんとつながりができ、一緒にやりませんかと誘っていただきました。

──実物大「スカイハウス」はきっと山本さんの発案ですよね。

(写真:山本大輔)

山本:それは私です(笑)。

井上:あれは確か、会場のトップライトを生かせないかという話の中で出てきましたよね。

──そうか、トップライトの真下なんですね。

山本:菊竹さんは自然採光に強いこだわりがありました。実際の展示ではほとんど使われることがなかったのです。菊竹展では、それを意味のある形で使えないかということで、「スカイハウスの屋根を吊り下げるのはどう?」と軽い気持ちで言ったら、「いいね」という話になり…。大掛かりな吊りものを想定した展示室ではないので、設計から工事までかなり大変でした(笑)。

──展示するスカイハウスの設計は菊竹事務所のOBが?

山本:あれは私が設計させてもらいました。。

──そうか、一級建築士ですものね。コンクリートシェルの屋根を、膜屋根で再現しているのが「なるほど」と思いました。

山本:テントがお好きだった菊竹さんへのオマージュです。膜でつくるので、菊竹建築にも縁の深い太陽工業さんに設計から施工までご協力をお願いしました。 展覧会が終わった後、今の職場へ異動が決まり、引き続き美術館の天井改修を担当することになって…。なにやら誰かに呼ばれているような不思議なご縁を感じましたね(笑)。

>>>島根県立美術館の天井改修(2021年5月~2022年6月)の話は後編に。(宮沢洋)

天井改修を終えた島根県立美術館のエントランスホール(写真:宮沢洋)

越境連載「イラスト名建築ぶらり旅」11:三つの奇跡が残した「大正セセッション」の息吹──原爆ドーム

 原爆ドームはもともと何の施設だったかご存じだろうか。選択肢をいろいろ挙げたくなるが、もったいぶらずに言うと、広島県の「物産陳列館」である。今風に名付ければ「広島メッセ」か「広島国際展示場」だ。今回はそれを知ってからお読みいただきたい。

(イラスト:宮沢洋)

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木を使ってもやっぱり江副節の濃密空間、「高槻城公園芸術文化劇場」/江副敏史氏の最新3ホール(3)

江副’s最新3ホール巡りのラストは、2023年3月にオープンする予定の「高槻城公園芸術文化劇場」だ。JR高槻駅から南に徒歩13分、阪急高槻市駅からは8分。オープンは半年後だが、建築としてはほぼ出来上がったということで、現場を見せてもらった。案内してくれたのは、江副敏史氏(日建設計フェロー役員デザインフェロー)と、高畑貴良志氏(日建設計DDLプロジェクトデザイナー)だ。

現場にて江副氏(左)と高畑氏(右)。年の差があるのにいいコンビ感!(写真:宮沢洋、この写真のみ)

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葛西臨海水族園の新館PFIはNEC・大建設計・鹿島らが落札、一見地味な外観は現施設へのリスペクト?

東京都財務局は8月26日、いわゆる葛西臨海水族園「新館」のPFI事業の落札者をNECキャピタルソリューション、大建設計、鹿島などのグループに決定したことを公表した。以下、発表資料より(太字部、資料も都の発表より)。

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視線の抜けでレンガ特有の“圧”を払拭、「枚方市総合文化芸術センター」/江副敏史氏の最新3ホール(2)

姫路から新幹線と在来線、京阪を乗り継ぎ、大阪府枚方市へ。江副’s最新3ホール巡りの2つ目は、昨年8月にオープンした「枚方市総合文化芸術センター」だ。

(写真:特記以外は宮沢洋)

枚方市駅を下り、関西医大方面に歩いて数分、緑に包まれた広場の中にゆったりと立つ。駅の近くで、この緑との一体感は気持ちがいい。

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ホール設計の名手、江副敏史氏の最新3ホール(1)大判レンガ15万個で飽きない非日常性「アクリエひめじ」

“ホール設計の名手”と言ったら、誰の顔が浮かぶだろうか。

今回リポートするのはここ。姫路市文化コンベンションセンター(写真:特記以外は宮沢洋)

私(宮沢)の頭にまず浮かぶのは前川國男。そして、現役では香山壽夫氏。この2人は両巨頭と言っていいだろう。3人目を挙げるならば、磯崎新氏か。3人の主なホール建築を拾ってみると……。

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越境連載「建築シネドラ探訪」25:妊活×LGBT×コーポラティブハウス、今の時代を明るく深く描いた「隣の家族は青く見える」

「妊活」や「LGBT」を真摯に取り上げた連続ドラマとして話題になった『隣の家族は青く見える』。2つの強いテーマに隠れる形にはなったが、このドラマは「集合住宅の本質」=「集まって暮らすことの意味」についても、いつの間にか深く考えさせるドラマである。

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(イラスト:宮沢洋)

越境連載「クイズ名建築のつくり方」07:中銀カプセルタワービル、140個のカプセルの大きさはどう決めた?

 解体が進む中銀カプセルタワービル。140個の住戸カプセルは、何を手がかりに大きさを決めた?

(1)完成した状態でトラックに載せて公道を走れる大きさ
(2)折りたたんだ状態でトラックに重ねて載せられる大きさ
(3)着脱式の車輪を付けて、レッカー車でけん引できる大きさ

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夏の建築展04:「プルーヴェ展」は確かに必見、「フィン・ユール展」と一緒に見て分かった“建築の身近さ”

 話題になっている「ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで」を、遅ればせながら見に行ってきた。会場は江東区の東京都現代美術館。会期は2022年7月16日(土)~10月16日(日)だ。

プルーヴェ展の会場風景(写真:宮沢洋)
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日曜コラム洋々亭40:復活し始めた「子ども建築体験WS」、大成建設は水族館、日建設計はLGBTをテーマに開催

 感染者数は高止まりが続いているが、今年の夏休みはどうやら大きな行動制限はなしで過ごせそうだ。この2年間、全く耳にしなかった、子どもたちを集める建築イベントも耳にするようになり、その2つに行ってみた。

「東京スカイツリータウン 建設の秘密展」の会場風景(写真:宮沢洋、以下も)

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越境連載「イラスト名建築ぶらり旅」10:元祖・カプセル建築、再生を繰り返して輝く──日本庭園 有楽苑&国宝茶室 如庵

 この連載の「名建築」は幅広い。前々回が商業ビル(三愛ドリームセンター)、前回が地下鉄の駅舎(銀座駅)と来て、今回は茶室である。訪れたのは愛知県犬山市の「日本庭園 有楽苑」にある国宝茶室「如庵」。日本に3つしかない国宝茶室の1つだ。

(イラスト:宮沢洋)

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池袋建築巡礼12:【速報】「池袋マルイ」跡地には地上28階建ての店舗(低層部)+事務所が2025年末竣工、設計・施工は清水建設

 私の「白メシ建築」(毎日見ても飽きない建築)であった池袋マルイ(池袋西口共同ビル)がほぼ姿を消した7月末、Office Bungaの郵便受けに「(仮称)池袋西口プロジェクト説明会について(ご案内)」というタイトルの紙が入っていた。おっ、これは池袋マルイ跡地に建つビル! なかなか新ビルの完成予想図が仮囲いに掲示されないなと思っていたのだが、そうか、うちの事務所は新ビルの影響を受けるご近所エリアだったか。当事者感があってうれしい。でも、説明会って何だか怖そう。そんな相反する気持ちを抱えつつ、8月5日(金)夜に行われた説明会(会場は東口のTKP池袋カンファレンスセンター)に参加してきた。

 マルイ跡地には、こんなビルが建つ。左は建て替え前。右は説明会で投影された完成予想図。私がざっくり大きさを合わせて並べたので、高さの比較は正確ではない。 

左は宮沢撮影したかつての池袋マルイ、右は説明会当日の映像を宮沢が撮影
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【大手メディアの方へ】羽島市が坂倉準三による旧市庁舎の民活提案を募集中、「20年以上の活用」と「耐震補強」が条件

 どうでもいい記事もたくさん書いているサイトなので、どうでもよくない記事が見逃されてしまうのかもしれない。世の中の話題になかなかならなくて歯がゆいので、改めて書くことにした。解体が議論されている坂倉準三設計の旧羽島市庁舎(1959年竣工)が、利活用の提案を民間事業者から募集している。募集が公表されたのは、7月7日で、提案書の受付期間は8月22日~9月30日。提案の締め切りまではあと2カ月あるが、質問の受付は8月12日(金)までなので、本気で出す人は急いで実施要領を読んだ方がいい。詳細は羽島市のサイトを。

(写真:宮沢洋、2022年6月撮影)
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新潟県三条市に隈建築が相次ぎオープン、ふんわり系図書館「まちやま」と、びっくり系仕上げの「スノーピーク スパ」

 私ほど国内各地を巡っている人間も珍しいのではないかと思うのだが、新潟県三条市を訪れたのは今回が初めてだ。『隈研吾建築図鑑』(2021年5月発刊)を書いた者として、隈研吾氏の新作が2つ、立て続けにオープンしたと聞いては、行かないわけにいかない。1つは7月24日に開館したばかりの三条市図書館等複合施設「まちやま」、もう1つは今春オープンした「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」だ。

左が三条市図書館等複合施設「まちやま」、右が「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」 (写真:宮沢洋)

 メディアも隈氏の新作を追いきれないのだろう。どちらもまだあまり目にしない。しかし、目にしないからつまらないわけではない。経験上、隈氏の建築は、あまり話題になっていないものの方が意外に面白い。

 『隈研吾建築図鑑』では、隈氏の建築50件を「びっくり系」「しっとり系」「ふんわり系」「ひっそり系」の4つに分類して、その進化をたどった。中でも「ふんわり系」が隈氏の地方都市での人気を支えている、というのが私の分析だ。 

木の板の“密度の低さ”がすごい!

 まずは、7月24日に開館した三条市図書館等複合施設「まちやま」(新潟県三条市元町11番6号)。これは、典型的な「ふんわり系」だ。「典型的」ではあるが、手法は徐々に進化している。

 外観はこんな感じ。木の板をすかして立体化するのは隈氏の十八番。これはさほど珍しくはない。

 驚いたのは、施設の核となる図書館の天井。木の板の“密度の低さ”がすごい! 裏側が丸見えだ。

 皮肉で言っているわけではない。普通の建築家なら、板と隙間を等間隔にするか、隙間をできるだけ小さくしようとする。隈氏であっても、これまでは板1:隙間2くらいだった。ところがここは、板1:隙間3~5くらいだ。それが、空間の「ふわっ」とした感じに大きく寄与している。これが1:1だったら、この緩い空気感は生まれないし、もし板がなかったら単なる素っ気ない空間だ。

 外観の木の使い方について「さほど珍しくない」と書いたが、全体の立面に占める割合の低さは、さすが隈氏だ。平面がL字に折れてトンネルになっている部分に板を集中させ、最大の効果を得る。『隈研吾建築図鑑』の中で私は何度も「隈氏のデザインはコスパが高い」と書いたが、ここは真骨頂と言えそうだ。

 開館から7日目の土曜日に行ったので、館内は大にぎわいだった。サインが相変わらずいい。

 敷地の一角に、平屋の木造建築がある。カフェなどが入る「まちなか交流広場 ステージえんがわ」だ。

 「ふんわりの一方で、こんなに本格的な現代木造を設計できるのか、さすが隈さん」と思ったのだが、スタッフに聞くと、こちらは2016年完成で、隈氏ではないとのこと。後で調べたら、手塚建築研究所の設計だった(構造設計はオーノJAPAN)。なるほど。

藤森的な薪仕上げを現代的に見せる

 もう1つは「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」(新潟県三条市中野原456-1)だ。

 以下、開業時のお知らせから引用(太字部)。

 2022年4月15日(金)にSnow Peakとして初となる温浴施設を中心とした自然を感じる複合型リゾート「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」がグランドオープンいたします。「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」は世界的な建築家の隈研吾氏の設計によるもので、館内に使われる土壁や木材は、すべて地元新潟のものを使用。粟ヶ岳を望むロケーションから生まれた、野性味のある山波のような外観は、焚火に不可欠な薪をイメージしており、自然との圧倒的な一体感を生み出す、屋内と屋外の隔たりを感じさせないデザインとなっております。

 日本三百名山の一つである粟ヶ岳を眺望できる開放的な露天風呂や、焚火を囲むような感覚で楽しめるサウナ。レストランでは生産者の方々と深くつながることが出来る、地元の食材を生かしたメニューをご用意しております。

 人気のアウトドアブランド「スノーピーク」の本拠地なので、こちらはお金がかなりかかっていそう。外観は「びっくり系」だ。

 なんだ、この庇、どうなっているんだ? 薪が浮いてる? 

 こうなっている。

 かつて藤森照信氏が「ニラハウス」(1997年)の茶室で、輪切りにした薪に針金を通して、天井にびっしり吊っているのを見たことがある。それは、「いかにも手作業な感じ」=「野蛮ギャルド」が面白かったのだが、隈氏を薪を工学的な方法できちんと並べてみせる。これぞ現代建築といわんばかりに。この仕上げを見て、隈氏と藤森氏の違いについて、正面から考えたくなった。いつかどこかで書いてみたい。

薪仕上げは1階の室内にも連続する

 施設としては、浴室が素晴らしい。三条市に行ったら、日帰り入浴するべき。隈氏は、トリッキーな手法ばかりが注目されるが、実は「景色のいいところを切り取って見せる」という建築の基本を外さない人である。今回はアポなしで行ったので、浴室の写真が撮れず、申し訳ない。ビジュアルを見たい人はこちらを。

 最後に少し宣伝を。『隈研吾建築図鑑』がこのほど5刷りを迎えた。

 私にとって初の単著なので、じわじわと売れ続けているのは本当にうれしい。でも、いつか「増補改訂版を」と言われたら、新作の数が多くて大変だ。こまめに見ておかないと。(宮沢洋)

22年度の「日本建築大賞」が募集開始、昨年に続きメディア枠で宮沢が審査会に参加

 2022年度の「JIA日本建築大賞」などを決める「日本建築家協会優秀建築選2022」の作品募集が始まった。応募締切は9月2日(金)だ。昨年に続き筆者(宮沢)が審査委員の1人を務める。審査会のメンバーは下記の5人だ。

・田原幸夫氏(建築家)
・松岡拓公雄氏(建築家)
・手塚貴晴氏(建築家)
・永山祐子氏(建築家)
・宮沢洋氏(編集者)

応募要項より。赤線は私が引いたもの

 今年、応募要項を改めて読んで気づいたのだが、「審査委員会は建築に関して高度な見識を持つ5人の審査委員から成ります」って、「(宮沢洋氏を除く)」というカッコ書きが必要なのではないか…。もしくは、「審査委員会は建築に関して高度な見識を持つ4人と、文系出身の建築好き1人の審査委員から成ります」が正確なのでは…。

 なぜこういうことが起こっているかというと、歴代の審査委員の中で文系出身なのが私だけと思われるからだ。これまでもメディア畑の人は含まれていたが、みんな建築学科出身だった※。だから、「建築に関して高度な見識を持つ」という文面に違和感がなかった。

※注:この記事を読まれた方から指摘があり、同賞の第1回(2005年度)審査員の1人が植田実氏で、植田氏は早稲田大学文学部卒でした。お詫びして訂正します。ただ、植田実氏は兄の植田一豊氏が建築家(RIAの創設メンバーの1人)なので、私の素養とは比べるべくもなく、下記の文章はそのままにします。

 そのことを意識したうえで選ばれたのかは分からないが、この錚々たる面々の中で私に求められているのは、「建築に関する高度な見識」とは違うところなのだろう。昨年の審査と同様、従来の「建築作品」の価値観にとらわれない率直な感想を述べていきたいと思っている。ちなみに、大賞の最終審査は公開審査だ。

 今年の応募要項はこちら

 過去10年の大賞受賞作をご参考まで。

■2012年度(審査委員:斎藤公男・三宅理一・大森晃彦)
<日本建築大賞>
竹の会所
設計者:陶器 浩一(滋賀県立大学)
建築主:滋賀県立大学陶器浩一研究室
施工者:滋賀県立大学陶器浩一研究室+たけとも+髙橋工業

■2013年度(審査委員:三宅理一・大森 晃彦・長谷川 逸子)
<日本建築大賞>
実践学園中学・高等学校 自由学習館
設計者:古谷 誠章(早稲田大学)、八木 佐千子(有限会社ナスカ)
建築主:学校法人実践学園
施工者:大成建設株式会社

■2014年度(審査委員:大森 晃彦・深尾 精一・槇 文彦・長谷川 逸子・西沢 立衛)
<JIA日本建築大賞>
山鹿市立山鹿小学校
設計者:工藤 和美、堀場 弘(いずれもシーラカンスK&H株式会社)
建築主:山鹿市
施工者:光進・相互建設工事共同企業体

■2015年度(審査委員:長谷川逸子(審査委員長)・深尾精一・磯達雄・西沢立衛・富永譲)
<JIA日本建築大賞>
大分県立美術館
設計者:坂 茂、平賀 信孝、菅井 啓太(いずれも株式会社坂茂建築設計)
建築主:大分県知事 広瀬勝貞
施工者:鹿島建設・梅林建設建設共同企業体

■2016年度(審査委員:深尾精一(審査委員長)・磯達雄・西沢立衛・富永譲・相田武文)
<JIA日本建築大賞>
ROKI Global Innovation Center -ROGIC –
設計者:小堀 哲夫(株式会社 小堀哲夫建築設計事務所)
建築主:株式会社ROKI 代表取締役社長 島田 貴也
施工者:大成建設株式会社

■2017年度(審査委員:富永譲(審査委員長)、磯達雄、後藤治、相田武文、淺石優)
<JIA日本建築大賞>
道の駅ましこ
設計者:原田 麻魚、原田 真宏(いずれもMOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO)
建築主:益子町長 大塚朋之
施工者:株式会社 熊谷組首都圏支店

■2018年度(審査委員:相田武文(審査委員長)、淺石優、木下庸子、後藤治、橋本純)
<JIA日本建築大賞>
NICCA INNOVATION CENTER
設計者:小堀哲夫(株式会社 小堀哲夫建築設計事務所)
建築主:日華化学株式会社 代表取締役社長 江守康昌
施工者:清水建設株式会社 北陸支店

■2019年度(審査委員:淺石優(審査委員長)、木下庸子、ヨコミゾマコト、後藤治、橋本純)
<JIA日本建築大賞>
古澤邸
設計者:古澤 大輔(リライトD/日本大学理工学部建築学科)
建築主:古澤 大輔
施工者:株式会社TH-1

■2020年度(審査委員:木下庸子、佐藤尚巳、手塚貴晴、田原幸夫、橋本純)
<JIA日本建築大賞>
京都市美術館(通称:京都市京セラ美術館)
設計者:青木 淳(AS)、西澤 徹夫(株式会社西澤徹夫建築事務所)、森本 貞一(株式会社松村組大阪本店)、久保 岳(株式会社昭和設計)
建築主:京都市
施工者:株式会社松村組大阪本店

■2021年度(審査委員:佐藤 尚巳(委員長)、松岡 拓公雄、原田 真宏、田原 幸夫、宮沢 洋)
<JIA日本建築大賞>
長野県立美術館
設計者:宮崎 浩(株式会社プランツアソシエイツ)
建築主:長野県
施工者:建築:清水・新津建設共同企業体
電力設備:協栄電気興業株式会社
弱電設備:株式会社TOSYS
空調設備:金沢工業株式会社
衛生設備:浅間設備株式会社
外構ほか:株式会社守谷商会

 毎年、「大賞」以外に「優秀建築賞」数点と「優秀建築選100作品」が選ばれている。2021年度の優秀建築賞は以下の2点だった。

<2021年度JIA優秀建築賞>
熊本城特別見学通路
設計者:塚川譲(株式会社日本設計)
堀駿(株式会社日本設計)
建築主 熊本市
施工者:安藤・間・武末・勝本建設工事共同企業体

新富士のホスピス
設計者:山﨑健太郎(山﨑健太郎デザインワークショップ)
建築主:医療法人社団秀峰会 川村病院
施工者:株式会社佐藤建設

 繰り返しになるが、募集中の2022年の応募要項はこちら

越境連載「建築シネドラ探訪」24:「カメラを止めるな」のロケ地愛はアカデミー監督超え!ロケの主役は水戸市公認廃墟「旧芦山浄水場」

 アカデミー賞監督であるフランスのミシェル・アザナヴィシウス監督が日本の『カメラを止めるな!』(上田慎一郎監督)をリメイクした『キャメラを止めるな!』が、2022年7月15日から公開中だ。アザナヴィシウス監督、この映画に目をつけるとはなかなかいいセンスをしている。今回は、海外リメイクによって再び話題になっている本家『カメラを止めるな!』(以下、カメ止め)を取り上げる。

(イラスト:宮沢洋)

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立山アルペン建築(後編):村田政真の「ホテル立山・室堂ターミナル」を見た! 木製扉は単なる雨戸にあらず

 「うらやましい!」は、建築好きにとって最高の褒め言葉である。行ったことのある人が少ないであろう「立山黒部アルペンルート」の建築ルポ後編は、村田政真(1906~1987年)が設計した「ホテル立山・室堂(むろどう)ターミナル」だ。

標高2450mの室堂は、7月下旬でも雪が残っている.。前編で取り上げた弥陀ヶ原の「県立立山荘」とは標高差にして500mほどの違いだが、気候が全然違う。寒い! 長袖を着て来るべきだった(写真:宮沢洋)
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立山アルペン建築(前編):吉阪隆正の「立山荘」を見た!山に架かる“二重の虹”はなんと増築

 建築好きの間で「話したくなる建築」の最上位は、「実物を見た人が少ない建築」だ。「うらやましい!」は最高の褒め言葉である。筆者(宮沢)が脱サラした直後にブラジルに行ったのはそういう理由からだったが(こちらの記事など)、国内にも行きにくい建築はたくさんある。今回、富山出張にからめて、初めて「立山黒部アルペンルート」を上ってきた。まずは、吉阪隆正(1917~1980年)の設計で1964年に完成した「県立立山荘(現・国民宿舎 展望立山荘)をリポートする。

(写真:宮沢洋)
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『日本の水族館 五十三次』いよいよ発売、目指したのは“子どもも大人(プロ)も楽しめる建築書”

 Office Bunga総動員で制作した『イラストで読む建築 日本の水族館 五十三次』が青幻舎から発刊となる。

編著:宮沢洋+Office Bunga、A5判、オールカラー、208ページ、2300円+税、青幻舎

 奥付上の発行日は2022年7月28日だが、アマゾンではすでに7月24日から発送が始まっている。本の雰囲気については、「JBpress」と「LIFULL HOME’S PRESS」に紹介文を書いたので、そちらをご覧いただきたい。それぞれ違う内容を書いており、両方読めばかなりバカンス気分に浸れると思う。

JBpress(2022年7月24日公開)
「こんな見せ方が!」見事な展示アイデアの水族館ベスト3

LIFULL HOME’S PRESS(2022年7月25日公開)
建築を知ると2倍楽しい水族館、最新施設だけでなく「老舗」も面白い

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中銀カプセルタワーより早かった丹下流メタボリズム、「静岡新聞・静岡放送東京支社」が見えない耐震補強で再生

 「東京・新橋」「メタボリズム」といったら、多くの人が思い浮かべるのは、黒川紀章氏が設計した「中銀カプセルタワービル」(1972年竣工)だろう。今年4月から解体が始まり、建築好きは悲しみに暮れているに違いない。しかし、その一方で、新橋のもう1つのメタボリズム建築が再生されたのをご存じだろうか。設計は黒川氏の師である丹下健三氏。竣工は1967年。黒川氏も大きな影響を受けたことは間違いないこの建築だ。

(写真:特記以外は宮沢洋)
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越境連載「建築シネドラ探訪」23:話題のネット配信ドラマ「ラグジュアリー・シドニー」は、日本の「家売るオンナ」と対極の住まい観

 この連載では初めての「ネット配信限定」コンテンツである。素人の日常を追いかけるリアリティ・ショーと呼ばれるものだ。“素人”といっても、「芸能人ではない」という意味であって、主役の3人はいずれも“不動産のプロ”。それも、オーストラリアでトップクラスの住宅売買実績を誇るプロ中のプロたちだ。

(イラスト:宮沢洋)

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