“まちぐるみで応援”の「おにクル」が実証した新しい賞の形─日曜コラム洋々亭68

 第2回の開催となる「みんなの建築大賞2025」で、一般投票1位の「大賞」が「茨木市文化・子育て複合施設 おにクル」(設計:伊東豊雄建築設計事務所・竹中工務店JV)に贈られたことはすでに報じた(こちらの記事)。推薦委員による選考会議で先に決まっていた「推薦委員会ベスト1」も同施設に贈られ、初のダブル受賞となった。

 この賞、文化庁とジンズ(JINS)に協力いただいて進めたものだが、基本的には約30人の推薦委員によるボランティア活動なので、賞金はない。小さなトロフィーを用意するのがやっとだ。にもかかわらず、プリツカー賞をはじめ、あらゆる建築賞を総なめにしている伊東豊雄氏が授与式(於:国立近現代建築資料館)に来てくれた。

左から、おにクルの設計の中心になった竹中工務店の國本暁彦氏(大阪本店設計部設計第3部長)、伊東豊雄建築設計事務所の神崎夏子氏、伊東豊雄氏。なんていい写真!(写真:長井美暁)
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伊東豊雄氏らの「おにクル」が大賞と推薦委員会ベスト1をW受賞、「ジブリパーク」は特別賞──「みんなの建築大賞2025」結果発表&推薦委員全コメント集

 みんなの建築大賞推薦委員会(委員長:五十嵐太郎)は2月10日、文化庁およびジンズ(JINS)協力のもとで実施した「みんなの建築大賞2025」において、大賞を「茨木市文化・子育て複合施設 おにクル」(設計:伊東豊雄建築設計事務所・竹中工務店JV)に、推薦委員会ベスト1も同施設に授与することを発表した。

「茨木市文化・子育て複合施設 おにクル」を設計した伊東豊雄氏(伊東豊雄建築設計事務所代表)と國本暁彦氏(竹中工務店大阪本店設計部設計第3部長)。2月10日の授与式にて(写真:宮沢洋)
授与式にて。左から倉方俊輔氏(みんなの建築大賞推薦委員会委員長代理、大阪公立大学教授)、國本暁彦氏(竹中工務店大阪本店設計部設計第3部長)、神崎夏子氏(伊東豊雄建築設計事務所)、伊東豊雄氏(伊東豊雄建築設計事務所代表)、大山政彦氏(日本設計建築設計群チーフ・アーキテクト)、西村拓真氏(日本設計建築設計群主管)、山崎智紀氏(国立近現代建築資料館副館長)(写真:長井美暁)
茨木市文化・子育て複合施設 おにクルの「縦の道」(写真:森清)

 大賞は、「X」「Instagram」「Googleフォーム」の3つの一般投票で最も多くの票(3メディアの合計)を獲得した建築に与えられる。また、推薦委員会ベスト1は、ノミネート作である「この建築がすごいベスト10」を選定する推薦委員会の場で最も評価の高かった建築に与えられる。

大賞および推薦委員会ベスト1】茨木市文化・子育て複合施設 おにクル/伊東豊雄建築設計事務所・竹中工務店JV

外観(写真:森清)
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内藤廣連載「赤鬼・青鬼の建築真相究明」第11回:建築と建築でないもの・建築家と建築家でないもの

「あざとい」という感想とは対極にありそうな内藤廣さんの建築ですが、本人の心の中では「あざとさ」をめぐる葛藤があるようで…。今回はそんな話から、建築界での究極の問いのひとつ、「建築と建物の境界」へと向かいます。(ここまでBUNGA NET編集部)

あざとさもワザのうち

[赤] もしもピアノが弾けたならーー、オレたちの人生、もっと豊かになっていたと思うなー。

[青] どうしちゃったんだ、いきなり西田敏行かー。最近よくテレビで聴くからな。

[赤] いや、キーシンだよ。生で聴いたのは初めてだったけど、五十代になって円熟期、堂々たるもんだった。すごく良かった。

[青] この原稿の企画とは関係なしに、忘れないうちに話しとこう、ってわけか。テーマもなにもあったもんじゃないねー。

[赤] まあ、そんなもんだよ。感じたことはフレッシュな方がいいからね。感覚はすぐに遠のいちゃうから。

[青] いつものクセで、渋谷でつまんない委員会があると、帰りにタワレコに寄って、自分へのご褒美にCDを買うことにしている。今回は、生を聴くっていうんで、予習でキーシンのCDを買った。

キーシンのCDジャケット(内藤氏の私物)。編集部注:エフゲニー・キーシン(Evgeny Kissin)。1971年10月モスクワ生まれ。2歳の頃、耳で聴いた音楽の演奏や即興的な演奏を始めた。6歳でモスクワのグネーシン音楽学校に入り、彼の唯一の教師であるアンナ・パヴロヴナ・カントールに師事。10歳で協奏曲デビューを果たし、その1年後には初のソロ・リサイタルをモスクワで行った。1984年3月、12歳のときに、キタエンコ指揮/モスクワ・フィルと共に、モスクワ音楽院大ホールでショパンの2曲のピアノ協奏曲を演奏し、世界的に注目されるようになった。彼が国外に初めて登場したのは1985年の東ヨーロッパであり、翌年には初の日本ツアーを行った。(プロフィルはジャパン・アーツのサイトから引用)
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この本気度は確かに「建築」! ジブリパークの「魔女の谷」を歩く──みんなの建築大賞2025ベスト10から⑥

 今回の「みんなの建築大賞」のノミネート10作の中で、ジブリパークの「魔女の谷」を“意外”に思った人は多いのではないか。かくいう筆者(宮沢)も、推薦委員の1人からこれを推す声が出たときには意外に思った。議論の中で、「こういうものこそ、建築設計者が関わって実現するのだ(コスト管理とか建築確認といった現実をクリアして生まれるのだ)ということを広く知ってもらうべき」という流れになり、ついには10選に選ばれた。全くの想定外であった。

ジブリパーク 魔女の谷の「ハウルの城」(写真:宮沢洋)

 しかし、考えてみると、それはむしろ非・建築出身の筆者こそ挙げるべきものだったのかもしれない。筆者は文系でミーハーという素性のせいもあるのか、記者1年目に「サンリオピューロランド」の開業を取材。2001年には「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」の開業も取材した。単なるニュースではなく、「建築」としてである。

 そんなことを思いながら選定会議を終え、後で調べてみると、なんと建築専門誌の老舗『新建築』にでかでかと載っているではないか(2024年6月号)。いつの間にか『新建築』の方が自分よりも柔軟になっていた…。「これはいかん」と、早速、ジブリパークの「魔女の谷」を見に行ってきた。

ハウルの城から魔女の谷を見下ろす。映画に登場する家やパン屋など24棟、メリーゴーランドなど工作物9基を整備した

■ジブリパーク 魔女の谷
所在地:愛知県長久手市茨ケ廻間 乙1533-1愛・地球博記念公園内/発注者:愛知県/設計者:スタジオジブリ(デザイン監修)、日本設計/設計協力者:山田建築研究所(建築(木造))、安西デザインスタジオ(ランドスケープ)、プレック研究所(ランドスケープ)、乃村工藝社(演示工事)、東宝映像美術(演示工事)/施工者:鹿島建設/構造:鉄筋コンクリート造一部鉄骨造(ハウルの城)/階数:地上2階(ハウルの城)/延べ面積:289.06m2(ハウルの城)/施工期間:2021年7月~2024年1月/開園日:2024年3月16日/主な雑誌掲載:新建築2024年6月号

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実体験でリポート×10本、ノミネート建築のすごさ──みんなの建築大賞2025ベスト10から⑤

 第2回の開催となる「みんなの建築大賞2025」、すでに投票いただいただろうか。投票期間は2月5日(水)23:59まで。当サイトでは、ノミネートされた建築10件をすべてリポートしている。投票の参考に、ぜひ読んでみてほしい。(公開日順)

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愛の名住宅図鑑17:”全員が対等”という菊竹清訓の家族観が生んだ「メタボリズム」の出発点~「スカイハウス」(1958年)

 菊竹清訓(きよのり)の設計で1958年、東京・音羽に完成した「スカイハウス」。おそらく20世紀後半の日本の建築界に最も影響を与えた住宅だ。現在にもその影響は続いており、例えば、国内外で活躍する妹島和世氏は、2022年にスカイハウスをテーマにした展覧会を企画した際、こんなことを語っていた。

(イラスト:宮沢洋)

 「子どものとき、母親が読んでいた雑誌でスカイハウスの写真を見て、建築って面白そうだと思った。そのことはしばらく忘れていたが、大学時代にそれが菊竹さんのスカイハウスだと知り、強く惹かれるようになった」。

 なんと、建築を意識した原点がスカイハウスだというのだ。

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注目の若手・津川恵理氏(ALTEMY)による“ビルの中の大地”、「まちの保育園 南青山」を体感する──みんなの建築大賞2025ベスト10から④

 ALTEMYを主宰する津川恵理氏の名前を筆者(宮沢)が知ったのは、コロナ禍の真っ只中だった。

 「ポーラ美術館(神奈川県・箱根町)が、チケットカウンター前で来館者を誘導するために、ALTEMYのデザインによる『Spectra-Pass』を2021年8月から導入──」というニュースだ。コロナ禍が拡大し世の中が右往左往するなかで、津川氏は「周囲の人との間に一定の間隔を保ちながら、チケットカウンターに整然と人が並ぶ」ことをサポートする“誘導装置”を設計した。筆者は実物を見ておらず写真を載せられないので、事務局仲間である「TECTURE MAG」さんの記事(こちら)を見てほしい。単なる機能を越えて美しい。こんなもので「建築空間」をつくり出すことができるのか…。これも写真が載せられないが、石上純也氏のデビュー作、「レストランのためのテーブル」(2003年)を思い出した。

津川恵理氏。ALTEMY代表。床の起伏を伝えるため、モデルポーズで撮らせてもらった。神戸生まれ。2013年京都工芸繊維大学卒業(エルウィン・ビライ研究室)。2015年早稲田大学創造理工学術院修了(古谷誠章研究室)。2015~2018年組織設計事務所に勤務し、東京オリンピック2020選手村、海外/国内のホテルや集合住宅の設計に従事。2018~2019年Diller Scofidio + Renfro (NY)に文化庁新進芸術家海外研修生として勤務。国際コンペ、ヴェネツィアビエンナーレの展示制作、トロント大学の基本設計、カジノの実施設計、プラダの鞄デザイン「PRADA Invites」、都市演劇「Mile Long Opera」の演出等に従事。2019年ALTEMYとして独立。2020年より東京藝術大学教育研究助手に着任(写真:特記以外は宮沢洋)

 長い前振りになってしまった。そのポーラ美術館の件以来、ずっと頭の隅に引っかかっていた津川氏が、今回の「この建築がすごいベスト10」に選ばれた。2024年春に開園した「まちの保育園 南青山」である。これはいい機会だと思い、津川氏に初めて会った。

(写真:介川亜紀)
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アーケード街にたたずむ地形のような建築、図書館などを融合した平田晃久氏設計の「ホントカ。」──みんなの建築大賞2025ベスト10から③

 2024年7~9月に東京・練馬区立美術館で開催された建築家・平田晃久氏(平田晃久建築設計事務所、京都大学教授)による建築展「平田晃久─人間の波打ちぎわ」。同展を見ていくつか気になっていたプロジェクトがある。その1つが、新潟県小千谷市に完成間際だった「小千谷市ひと・まち・文化共創拠点 ホントカ。」だ。

 24年9月28日にオープンしたこの建築は、図書館や公民館、子育て支援施設などからなる複合公共施設で、住民から挙げられた100以上の活動をネットワーク分析することからスタートして平面を解いた。最終的に9つに集約された活動空間を「アンカー」と呼び、それらの関係性をネットワーク図に反映して平面配置を決めている。例えば、楽器の練習に使う空間は、イベントを開催することから考えれば広場の近くに置いたほうがいい。一方、書架を配した空間からは離したほうがいい、という具合だ。こうしたプロセスをコンピュテーショナルな方法で解いたという建築は、いったいどんな感じなのかとても気になっていた。

「小千谷市ひと・まち・文化共創拠点 ホントカ。」は、小千谷市街のアーケードから連続するように立つ。設計は平田晃久建築設計事務所(写真:以下は森清)
アーケードを曲がると屋根付き広場が現れる
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