一度見ただけでくすっと笑っちゃう、「なかなか遺産」って何? 第7号「与倉屋大土蔵」の認証式リポート

(写真:大塚光太郎、特記が無い場合は以下も)

 自由気まま、縦横無尽に飛び交う柱と梁。この小屋組を見みて、簡潔な感想を求められたら、ひとはどんな言葉を漏らすだろうか。今回の記事は、これを見て「なかなか〜!」とうなった人々が、次世代への継承を望む人々を応援する制度の話である。

「なかなか遺産」とは

 「予想していたより、なかなかやるねぇ」「なかなか似合っているよ!」

 なかなか、という言葉は多少の皮肉と正直な賛美の気持ちの両方が込められることが多い。今回は、そんな味わい深い日本語を冠したプライベートな文化財制度「なかなか遺産」を紹介するとともに、7月3日に開催された認定第7号「与倉屋大土蔵(よくらやおおどぞう)」の認証式をリポートしていく。

(イラスト:江口亜維子、@Nakanakaisan.jp

 そもそも、なかなか遺産とは何か?

 村松伸( 東京大学名誉教授)、腰原幹雄(東京大学教授)を共同代表として、2012年に発足した国際なかなか遺産推進委員会によると、その定義は「どこにもない特異性をもち、一度見ただけでくすっと笑っちゃうことから、国の重要文化財や世界遺産に認定はされないものの、でも、生真面目に、地域やそれを越えた地球上の環境やひとや社会やいろんなものを結びつけ、ひとびとに多様な恩恵をもたらしていることから、なかなか~!と見るひとびとをうならせ、建造物のみならず、そのつながリ全体を劣化させずに次世代に継承させたいと自然に思えてしまう共有の財産」とされている。目的は、「なかなか遺産を、やや余裕を持って、斜め下から、洒脱に、その価値をみんなで発見し、みんなで愛を持って育て、次の世代に伝えることによって、その地域や世界に貢献すること」である。

 「笑っちゃう」、「生真面目に」、「思えてしまう」、といった主観的な要素が存分に入り込んでいる点が、他の文化財制度と大きく異なる。こんなに長い形容は初めて見たので、筆者なりにその内容をまとめてみた。

①なかなかだねぇと言わせるほど、建築物としての面白さを持つ
②それだけではなく、環境、ひと、社会などとの関わりの中で恩恵をもたらしている
③見捨てられることなく、未来に残したいと思われている

 この選定基準が他の文化財制度とどう異なるか、どのような意味を持つのかのついては別の記事で考察する予定だ。ひとまず難しいことは考えずに百聞は一見にしかず、上記の条件を満たし、これまで認定された6遺産を見てみよう。

(写真:淺川敏)
上段左から)旧達古袋小学校(岩手県)、旭館(愛媛県)、呉YWCA(広島県)、下灘駅(愛媛県)、
下段左から)どまんなかセンター(静岡県)、のこぎり二(愛知県)

 どれも目と心を惹かれる建築であるが、写真だけでは上に記した条件②、③は分からない。そこで、今回新たに認定されることとなった「与倉大土蔵」の認証式に同行し、その様子を見ていきながら、「なかなか遺産とは何か?」を考えていきたいと思う。

第7号「与倉屋大土蔵」とは

 場所は千葉県香取市佐原。伝統的建造物群保存地区のほとりを歩いていると、敷地に対して目一杯建てられた蔵が現れる。明治時代に醤油醸造処として建てられ、戦後に米蔵となり、現在は地域のイベント会場として使用されている「与倉屋大土蔵」である。

 外観は、古い木造家屋と並んでいるため少し異様で、屋根軒先が曲がっているため多少無骨な印象を受けるが、特別目をひく訳ではない。どのあたりが「なかなか」なのだろうか?と少しだけ疑いながら中へ入る。

 そこで飛び込んでくるのが、この小屋組である。まさに、なかなか。いや、それを超えてぞわぞわするほどの衝撃を感じる。とにかく立体感がすごい。木造の軸組のはずなのに、ジェンガや積み木のような組積造の力強さが漂う。

認証式の様子

挨拶をする村松伸
指定書を授与する腰原幹雄と受け取る菅井康太郎(家主)

 式は、なかなか遺産共同代表である村松伸の挨拶に始まり、同じく共同代表の腰原幹雄から菅井康太郎(家主)への遺産指定書の授与と続く。と、ここまでは通常の文化財認定式と同じ流れだが、この辺りからなかなか遺産“らしさ”があらわれ始める。

なかなかフラッグの受け渡しの様子

 なかなか遺産認定フラッグを手渡すのは、与倉屋大土蔵の一つ前に認定されたノコギリニ(愛知県)の平松久典。文化財認定の場に駆けつける他の文化財関係者なんて見たことがない。実は、このような“なかなかフレンズ”は愛知からだけではなく岩手や静岡からも駆けつけているというから驚きだ。

日本三大囃子・国指定重要無形民俗文化財 佐原囃子
熱がこもるドローン映像の実況

 その後は、日頃からこの場所で練習しているという佐原囃子(さはらばやし)の披露や、プロのドローン操縦士によるドローン映像の鑑賞、とび出す絵本のごとき「折り紙建築」の製作体験などが行われた。与倉屋大土蔵はそれらの舞台になってはいるものの、決して主役ではない。人が歓声をあげるのは演目が奏でられた時であり、ドローンが空高く舞い上がる時であり、うまいこと折り紙建築を切り抜けた時である。

折り紙建築「与倉屋大土蔵」
折り紙建築ワークショップの様子

背景としての建築

 しかし思い出の背景には、必ず与倉屋大土蔵という建築が浮かぶ。この関係こそが、なかなか遺産の目指す自然な保全の形なのかもしれない。冒頭で、「『なかなか〜!』とうなった人々が、次世代への継承を望む人々を応援する制度」と書いたが、そんなパッキリと分かれた関係ではなさそうだ。うなった人々が継承を望み、気がついたら保全に対して主体的になっている。かくいう筆者も、この記事を推敲しているうちに、イベント後に飲んだビールをまた飲みたくなってきてしまった。

なかなか遺産がなかなか増えないのはなぜか?

 定義にあったように、なかなか遺産は世界遺産や重要文化財ではすくえない建築を対象にしている。来月執筆予定の続編記事では、これらの制度となかなか遺産はどう違うのか? そもそも同次元で比較できるものなのか?などのテーマに対して、「なかなか遺産がなかなか増えないのはなぜか?」という問いに答える形で、考えていきたい。(大塚光太郎)

越境連載「クイズ名建築のつくり方」07:中銀カプセルタワービル、140個のカプセルの大きさはどう決めた?

 解体が進む中銀カプセルタワービル。140個の住戸カプセルは、何を手がかりに大きさを決めた?

(1)完成した状態でトラックに載せて公道を走れる大きさ
(2)折りたたんだ状態でトラックに重ねて載せられる大きさ
(3)着脱式の車輪を付けて、レッカー車でけん引できる大きさ

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夏の建築展04:「プルーヴェ展」は確かに必見、「フィン・ユール展」と一緒に見て分かった“建築の身近さ”

 話題になっている「ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで」を、遅ればせながら見に行ってきた。会場は江東区の東京都現代美術館。会期は2022年7月16日(土)~10月16日(日)だ。

プルーヴェ展の会場風景(写真:宮沢洋)
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日曜コラム洋々亭40:復活し始めた「子ども建築体験WS」、大成建設は水族館、日建設計はLGBTをテーマに開催

 感染者数は高止まりが続いているが、今年の夏休みはどうやら大きな行動制限はなしで過ごせそうだ。この2年間、全く耳にしなかった、子どもたちを集める建築イベントも耳にするようになり、その2つに行ってみた。

「東京スカイツリータウン 建設の秘密展」の会場風景(写真:宮沢洋、以下も)
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越境連載「イラスト名建築ぶらり旅」10:元祖・カプセル建築、再生を繰り返して輝く──日本庭園 有楽苑&国宝茶室 如庵

 この連載の「名建築」は幅広い。前々回が商業ビル(三愛ドリームセンター)、前回が地下鉄の駅舎(銀座駅)と来て、今回は茶室である。訪れたのは愛知県犬山市の「日本庭園 有楽苑」にある国宝茶室「如庵」。日本に3つしかない国宝茶室の1つだ。

(イラスト:宮沢洋)

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池袋建築巡礼12:【速報】「池袋マルイ」跡地には地上28階建ての店舗(低層部)+事務所が2025年末竣工、設計・施工は清水建設

 私の「白メシ建築」(毎日見ても飽きない建築)であった池袋マルイ(池袋西口共同ビル)がほぼ姿を消した7月末、Office Bungaの郵便受けに「(仮称)池袋西口プロジェクト説明会について(ご案内)」というタイトルの紙が入っていた。おっ、これは池袋マルイ跡地に建つビル! なかなか新ビルの完成予想図が仮囲いに掲示されないなと思っていたのだが、そうか、うちの事務所は新ビルの影響を受けるご近所エリアだったか。当事者感があってうれしい。でも、説明会って何だか怖そう。そんな相反する気持ちを抱えつつ、8月5日(金)夜に行われた説明会(会場は東口のTKP池袋カンファレンスセンター)に参加してきた。

 マルイ跡地には、こんなビルが建つ。左は建て替え前。右は説明会で投影された完成予想図。私がざっくり大きさを合わせて並べたので、高さの比較は正確ではない。 

左は宮沢撮影したかつての池袋マルイ、右は説明会当日の映像を宮沢が撮影
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【大手メディアの方へ】羽島市が坂倉準三による旧市庁舎の民活提案を募集中、「20年以上の活用」と「耐震補強」が条件

 どうでもいい記事もたくさん書いているサイトなので、どうでもよくない記事が見逃されてしまうのかもしれない。世の中の話題になかなかならなくて歯がゆいので、改めて書くことにした。解体が議論されている坂倉準三設計の旧羽島市庁舎(1959年竣工)が、利活用の提案を民間事業者から募集している。募集が公表されたのは、7月7日で、提案書の受付期間は8月22日~9月30日。提案の締め切りまではあと2カ月あるが、質問の受付は8月12日(金)までなので、本気で出す人は急いで実施要領を読んだ方がいい。詳細は羽島市のサイトを。

(写真:宮沢洋、2022年6月撮影)
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新潟県三条市に隈建築が相次ぎオープン、ふんわり系図書館「まちやま」と、びっくり系仕上げの「スノーピーク スパ」

 私ほど国内各地を巡っている人間も珍しいのではないかと思うのだが、新潟県三条市を訪れたのは今回が初めてだ。『隈研吾建築図鑑』(2021年5月発刊)を書いた者として、隈研吾氏の新作が2つ、立て続けにオープンしたと聞いては、行かないわけにいかない。1つは7月24日に開館したばかりの三条市図書館等複合施設「まちやま」、もう1つは今春オープンした「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」だ。

左が三条市図書館等複合施設「まちやま」、右が「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」 (写真:宮沢洋)

 メディアも隈氏の新作を追いきれないのだろう。どちらもまだあまり目にしない。しかし、目にしないからつまらないわけではない。経験上、隈氏の建築は、あまり話題になっていないものの方が意外に面白い。

 『隈研吾建築図鑑』では、隈氏の建築50件を「びっくり系」「しっとり系」「ふんわり系」「ひっそり系」の4つに分類して、その進化をたどった。中でも「ふんわり系」が隈氏の地方都市での人気を支えている、というのが私の分析だ。 

木の板の“密度の低さ”がすごい!

 まずは、7月24日に開館した三条市図書館等複合施設「まちやま」(新潟県三条市元町11番6号)。これは、典型的な「ふんわり系」だ。「典型的」ではあるが、手法は徐々に進化している。

 外観はこんな感じ。木の板をすかして立体化するのは隈氏の十八番。これはさほど珍しくはない。

 驚いたのは、施設の核となる図書館の天井。木の板の“密度の低さ”がすごい! 裏側が丸見えだ。

 皮肉で言っているわけではない。普通の建築家なら、板と隙間を等間隔にするか、隙間をできるだけ小さくしようとする。隈氏であっても、これまでは板1:隙間2くらいだった。ところがここは、板1:隙間3~5くらいだ。それが、空間の「ふわっ」とした感じに大きく寄与している。これが1:1だったら、この緩い空気感は生まれないし、もし板がなかったら単なる素っ気ない空間だ。

 外観の木の使い方について「さほど珍しくない」と書いたが、全体の立面に占める割合の低さは、さすが隈氏だ。平面がL字に折れてトンネルになっている部分に板を集中させ、最大の効果を得る。『隈研吾建築図鑑』の中で私は何度も「隈氏のデザインはコスパが高い」と書いたが、ここは真骨頂と言えそうだ。

 開館から7日目の土曜日に行ったので、館内は大にぎわいだった。サインが相変わらずいい。

 敷地の一角に、平屋の木造建築がある。カフェなどが入る「まちなか交流広場 ステージえんがわ」だ。

 「ふんわりの一方で、こんなに本格的な現代木造を設計できるのか、さすが隈さん」と思ったのだが、スタッフに聞くと、こちらは2016年完成で、隈氏ではないとのこと。後で調べたら、手塚建築研究所の設計だった(構造設計はオーノJAPAN)。なるほど。

藤森的な薪仕上げを現代的に見せる

 もう1つは「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」(新潟県三条市中野原456-1)だ。

 以下、開業時のお知らせから引用(太字部)。

 2022年4月15日(金)にSnow Peakとして初となる温浴施設を中心とした自然を感じる複合型リゾート「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」がグランドオープンいたします。「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」は世界的な建築家の隈研吾氏の設計によるもので、館内に使われる土壁や木材は、すべて地元新潟のものを使用。粟ヶ岳を望むロケーションから生まれた、野性味のある山波のような外観は、焚火に不可欠な薪をイメージしており、自然との圧倒的な一体感を生み出す、屋内と屋外の隔たりを感じさせないデザインとなっております。

 日本三百名山の一つである粟ヶ岳を眺望できる開放的な露天風呂や、焚火を囲むような感覚で楽しめるサウナ。レストランでは生産者の方々と深くつながることが出来る、地元の食材を生かしたメニューをご用意しております。

 人気のアウトドアブランド「スノーピーク」の本拠地なので、こちらはお金がかなりかかっていそう。外観は「びっくり系」だ。

 なんだ、この庇、どうなっているんだ? 薪が浮いてる? 

 こうなっている。

 かつて藤森照信氏が「ニラハウス」(1997年)の茶室で、輪切りにした薪に針金を通して、天井にびっしり吊っているのを見たことがある。それは、「いかにも手作業な感じ」=「野蛮ギャルド」が面白かったのだが、隈氏を薪を工学的な方法できちんと並べてみせる。これぞ現代建築といわんばかりに。この仕上げを見て、隈氏と藤森氏の違いについて、正面から考えたくなった。いつかどこかで書いてみたい。

薪仕上げは1階の室内にも連続する

 施設としては、浴室が素晴らしい。三条市に行ったら、日帰り入浴するべき。隈氏は、トリッキーな手法ばかりが注目されるが、実は「景色のいいところを切り取って見せる」という建築の基本を外さない人である。今回はアポなしで行ったので、浴室の写真が撮れず、申し訳ない。ビジュアルを見たい人はこちらを。

 最後に少し宣伝を。『隈研吾建築図鑑』がこのほど5刷りを迎えた。

 私にとって初の単著なので、じわじわと売れ続けているのは本当にうれしい。でも、いつか「増補改訂版を」と言われたら、新作の数が多くて大変だ。こまめに見ておかないと。(宮沢洋)

22年度の「日本建築大賞」が募集開始、昨年に続きメディア枠で宮沢が審査会に参加

 2022年度の「JIA日本建築大賞」などを決める「日本建築家協会優秀建築選2022」の作品募集が始まった。応募締切は9月2日(金)だ。昨年に続き筆者(宮沢)が審査委員の1人を務める。審査会のメンバーは下記の5人だ。

・田原幸夫氏(建築家)
・松岡拓公雄氏(建築家)
・手塚貴晴氏(建築家)
・永山祐子氏(建築家)
・宮沢洋氏(編集者)

応募要項より。赤線は私が引いたもの

 今年、応募要項を改めて読んで気づいたのだが、「審査委員会は建築に関して高度な見識を持つ5人の審査委員から成ります」って、「(宮沢洋氏を除く)」というカッコ書きが必要なのではないか…。もしくは、「審査委員会は建築に関して高度な見識を持つ4人と、文系出身の建築好き1人の審査委員から成ります」が正確なのでは…。

 なぜこういうことが起こっているかというと、歴代の審査委員の中で文系出身なのが私だけと思われるからだ。これまでもメディア畑の人は含まれていたが、みんな建築学科出身だった※。だから、「建築に関して高度な見識を持つ」という文面に違和感がなかった。

※注:この記事を読まれた方から指摘があり、同賞の第1回(2005年度)審査員の1人が植田実氏で、植田氏は早稲田大学文学部卒でした。お詫びして訂正します。ただ、植田実氏は兄の植田一豊氏が建築家(RIAの創設メンバーの1人)なので、私の素養とは比べるべくもなく、下記の文章はそのままにします。

 そのことを意識したうえで選ばれたのかは分からないが、この錚々たる面々の中で私に求められているのは、「建築に関する高度な見識」とは違うところなのだろう。昨年の審査と同様、従来の「建築作品」の価値観にとらわれない率直な感想を述べていきたいと思っている。ちなみに、大賞の最終審査は公開審査だ。

 今年の応募要項はこちら

 過去10年の大賞受賞作をご参考まで。

■2012年度(審査委員:斎藤公男・三宅理一・大森晃彦)
<日本建築大賞>
竹の会所
設計者:陶器 浩一(滋賀県立大学)
建築主:滋賀県立大学陶器浩一研究室
施工者:滋賀県立大学陶器浩一研究室+たけとも+髙橋工業

■2013年度(審査委員:三宅理一・大森 晃彦・長谷川 逸子)
<日本建築大賞>
実践学園中学・高等学校 自由学習館
設計者:古谷 誠章(早稲田大学)、八木 佐千子(有限会社ナスカ)
建築主:学校法人実践学園
施工者:大成建設株式会社

■2014年度(審査委員:大森 晃彦・深尾 精一・槇 文彦・長谷川 逸子・西沢 立衛)
<JIA日本建築大賞>
山鹿市立山鹿小学校
設計者:工藤 和美、堀場 弘(いずれもシーラカンスK&H株式会社)
建築主:山鹿市
施工者:光進・相互建設工事共同企業体

■2015年度(審査委員:長谷川逸子(審査委員長)・深尾精一・磯達雄・西沢立衛・富永譲)
<JIA日本建築大賞>
大分県立美術館
設計者:坂 茂、平賀 信孝、菅井 啓太(いずれも株式会社坂茂建築設計)
建築主:大分県知事 広瀬勝貞
施工者:鹿島建設・梅林建設建設共同企業体

■2016年度(審査委員:深尾精一(審査委員長)・磯達雄・西沢立衛・富永譲・相田武文)
<JIA日本建築大賞>
ROKI Global Innovation Center -ROGIC –
設計者:小堀 哲夫(株式会社 小堀哲夫建築設計事務所)
建築主:株式会社ROKI 代表取締役社長 島田 貴也
施工者:大成建設株式会社

■2017年度(審査委員:富永譲(審査委員長)、磯達雄、後藤治、相田武文、淺石優)
<JIA日本建築大賞>
道の駅ましこ
設計者:原田 麻魚、原田 真宏(いずれもMOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO)
建築主:益子町長 大塚朋之
施工者:株式会社 熊谷組首都圏支店

■2018年度(審査委員:相田武文(審査委員長)、淺石優、木下庸子、後藤治、橋本純)
<JIA日本建築大賞>
NICCA INNOVATION CENTER
設計者:小堀哲夫(株式会社 小堀哲夫建築設計事務所)
建築主:日華化学株式会社 代表取締役社長 江守康昌
施工者:清水建設株式会社 北陸支店

■2019年度(審査委員:淺石優(審査委員長)、木下庸子、ヨコミゾマコト、後藤治、橋本純)
<JIA日本建築大賞>
古澤邸
設計者:古澤 大輔(リライトD/日本大学理工学部建築学科)
建築主:古澤 大輔
施工者:株式会社TH-1

■2020年度(審査委員:木下庸子、佐藤尚巳、手塚貴晴、田原幸夫、橋本純)
<JIA日本建築大賞>
京都市美術館(通称:京都市京セラ美術館)
設計者:青木 淳(AS)、西澤 徹夫(株式会社西澤徹夫建築事務所)、森本 貞一(株式会社松村組大阪本店)、久保 岳(株式会社昭和設計)
建築主:京都市
施工者:株式会社松村組大阪本店

■2021年度(審査委員:佐藤 尚巳(委員長)、松岡 拓公雄、原田 真宏、田原 幸夫、宮沢 洋)
<JIA日本建築大賞>
長野県立美術館
設計者:宮崎 浩(株式会社プランツアソシエイツ)
建築主:長野県
施工者:建築:清水・新津建設共同企業体
電力設備:協栄電気興業株式会社
弱電設備:株式会社TOSYS
空調設備:金沢工業株式会社
衛生設備:浅間設備株式会社
外構ほか:株式会社守谷商会

 毎年、「大賞」以外に「優秀建築賞」数点と「優秀建築選100作品」が選ばれている。2021年度の優秀建築賞は以下の2点だった。

<2021年度JIA優秀建築賞>
熊本城特別見学通路
設計者:塚川譲(株式会社日本設計)
堀駿(株式会社日本設計)
建築主 熊本市
施工者:安藤・間・武末・勝本建設工事共同企業体

新富士のホスピス
設計者:山﨑健太郎(山﨑健太郎デザインワークショップ)
建築主:医療法人社団秀峰会 川村病院
施工者:株式会社佐藤建設

 繰り返しになるが、募集中の2022年の応募要項はこちら

越境連載「建築シネドラ探訪」24:「カメラを止めるな」のロケ地愛はアカデミー監督超え!ロケの主役は水戸市公認廃墟「旧芦山浄水場」

 アカデミー賞監督であるフランスのミシェル・アザナヴィシウス監督が日本の『カメラを止めるな!』(上田慎一郎監督)をリメイクした『キャメラを止めるな!』が、2022年7月15日から公開中だ。アザナヴィシウス監督、この映画に目をつけるとはなかなかいいセンスをしている。今回は、海外リメイクによって再び話題になっている本家『カメラを止めるな!』(以下、カメ止め)を取り上げる。

(イラスト:宮沢洋)

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立山アルペン建築(後編):村田政真の「ホテル立山・室堂ターミナル」を見た! 木製扉は単なる雨戸にあらず

 「うらやましい!」は、建築好きにとって最高の褒め言葉である。行ったことのある人が少ないであろう「立山黒部アルペンルート」の建築ルポ後編は、村田政真(1906~1987年)が設計した「ホテル立山・室堂(むろどう)ターミナル」だ。

標高2450mの室堂は、7月下旬でも雪が残っている.。前編で取り上げた弥陀ヶ原の「県立立山荘」とは標高差にして500mほどの違いだが、気候が全然違う。寒い! 長袖を着て来るべきだった(写真:宮沢洋)
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立山アルペン建築(前編):吉阪隆正の「立山荘」を見た!山に架かる“二重の虹”はなんと増築

 建築好きの間で「話したくなる建築」の最上位は、「実物を見た人が少ない建築」だ。「うらやましい!」は最高の褒め言葉である。筆者(宮沢)が脱サラした直後にブラジルに行ったのはそういう理由からだったが(こちらの記事など)、国内にも行きにくい建築はたくさんある。今回、富山出張にからめて、初めて「立山黒部アルペンルート」を上ってきた。まずは、吉阪隆正(1917~1980年)の設計で1964年に完成した「県立立山荘(現・国民宿舎 展望立山荘)をリポートする。

(写真:宮沢洋)
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『日本の水族館 五十三次』いよいよ発売、目指したのは“子どもも大人(プロ)も楽しめる建築書”

 Office Bunga総動員で制作した『イラストで読む建築 日本の水族館 五十三次』が青幻舎から発刊となる。

編著:宮沢洋+Office Bunga、A5判、オールカラー、208ページ、2300円+税、青幻舎

 奥付上の発行日は2022年7月28日だが、アマゾンではすでに7月24日から発送が始まっている。本の雰囲気については、「JBpress」と「LIFULL HOME’S PRESS」に紹介文を書いたので、そちらをご覧いただきたい。それぞれ違う内容を書いており、両方読めばかなりバカンス気分に浸れると思う。

JBpress(2022年7月24日公開)
「こんな見せ方が!」見事な展示アイデアの水族館ベスト3

LIFULL HOME’S PRESS(2022年7月25日公開)
建築を知ると2倍楽しい水族館、最新施設だけでなく「老舗」も面白い

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中銀カプセルタワーより早かった丹下流メタボリズム、「静岡新聞・静岡放送東京支社」が見えない耐震補強で再生

 「東京・新橋」「メタボリズム」といったら、多くの人が思い浮かべるのは、黒川紀章氏が設計した「中銀カプセルタワービル」(1972年竣工)だろう。今年4月から解体が始まり、建築好きは悲しみに暮れているに違いない。しかし、その一方で、新橋のもう1つのメタボリズム建築が再生されたのをご存じだろうか。設計は黒川氏の師である丹下健三氏。竣工は1967年。黒川氏も大きな影響を受けたことは間違いないこの建築だ。

(写真:特記以外は宮沢洋)

 静岡新聞・静岡放送東京支社である。地下1階・地上12階建て。静岡新聞社と静岡放送(SBS)のほか、山梨日日新聞社と山梨放送(YBS)がテナントとして入っている。新幹線からも見えるので、東京以外の人でも「見覚えがある」という方は多いだろう。

 約1年間の改修工事を経て、今年5月に使用を再開した。改修の設計・施工を担当したのは大成建設だ。同社は新築時の施工者でもある。今回の改修設計を担当した大成建設設計本部専門デザイン部リニューアルデザイン室の渡邉ゆたかシニア・アーキテクトに、現地を案内してもらった。メディアではまだほとんど報じられていないので、貴重なリポートだ。 

正規メンバーではない丹下健三のメタボリズム建築

 「メタボリズム」は「新陳代謝」を意味するデザインムーブメント。1960年に日本で開催された「世界デザイン会議」を機にメタボリズム・グループが結成された。メンバーは評論家の川添登を中心に、建築家の菊竹清訓、黒川紀章、大高正人、槇文彦、デザイナーの栄久庵憲司、粟津潔ら。建築や都市の計画において「新陳代謝」という時間的な概念を導入することで、可変性や増築性に対応した空間を提案した。

 丹下健三は正規のメンバーではないが、メンバー以上にメタボリズム的な建築を実現した。その代表例が、1966年に完成した山梨文化会館(YBSの拠点)と、翌年完成したこの静岡新聞・静岡放送東京支社だ。竣工時の『新建築』1968年2月号では設計意図をこう説明している(太字部)。

 この建物は、東京計画(1960)、旧電通案と築地計画、山梨文化会館などを通じて提案してきた考え方を受け継いでいる。都市空間や建築空間の機能を構造づける手掛かりとして、我々はコミュニケーションに注目してきたのであるが、ひとつの解答として、建築化の際、コア・シャフトを考え、コミュニケーションの3次元的広がりの立体格子を視覚化するという提案を行ってきた。

 この場合、3次元的広がりということは、その方向への暗示にしかすぎないかもしれないが、そのような考え方での最小の単位、1本のシャフトによっても、そのシンボリックな性格を持つロケーションと相まって成り立ちうるのではないかということであった。(後略、文責:山岸冽)

 要約すると、「山梨文化会館で実現した“コア・シャフト”の考え方は、この敷地だったら1本だって可視化できちゃうぜ!」ということである。実際、敷地は200㎡を切っているのに、とてつもないインパクトだ。集客施設ではないが、静岡新聞や静岡放送にとっての宣伝効果は大きいに違いない。

外壁は竣工時の色に

 既に、何枚か写真をお見せしたが、まず、外観の印象が改修前とかなり変わったことがお分かりだろうか。
 
 これ↓が改修前の写真だ。

改修前の外観(写真:大成建設)
改修前の8階コアまわり。コアの外装はアルミキャスト。コンクリート打設時の型枠を兼ねている(写真:大成建設)

 以前は外壁の塗装が今より赤みを帯びていた。「濃いあずき色」の印象だ。それが今回、濃茶になった。改修前のあずき色は、93年の改修で塗装された色だ。今回、塗装を削って調べてみると、もともとは濃茶だったことが分かり、元の色に塗り直した(93年の改修時には、竣工時の塗装が退色のためか赤みを帯びており。その色で塗ったと考えられるという)。確かに竣工時の『新建築』の写真(モノクロ)を見ると、現在の重厚感に近い。

円筒の内側から鋼板と炭素繊維シートで補強

案内してくれた大成建設リニューアルデザイン室の渡邉ゆたか氏。補強部がわかる地階の階段室にて(曲げ補強)

 色を塗り直した、というのは今回の改修のごくごく一部。改修の本丸は「耐震補強」だ。

 前述の山梨文化会館は、全体に免震を施す改修を2016年に実施した。しかし、この静岡新聞静岡放送・東京支社は、敷地に余裕がなく、免震のクリアランス(可動域)が確保できない。かといって、中空部分に柱や筋交いを建てるような耐震補強では、原設計のコア・シャフトのイメージが台無しになってしまう。

 大成建設の設計チームが目を付けたのは、中央の円筒コア(鉄骨鉄筋コンクリート造)の内側だ。

(資料:大成建設、以下も)

 円筒コアにはトイレなどのユーティリティ、エレベーター、設備配管類が納まっているが、いったんこれらの大半と下地材を撤去。階段、RC壁、幹線を除き円筒の内側をほぼ空にした状態で、1階床上から5階床下までに9mm厚の鋼板をアンカーで打ち付けてせん断力を補強。1階と地下1階の間には曲げ補強として、炭素繊維シートを貼り付けた。

 地震応答解析の結果、構造補強は建物下部だけで済んだ。

 補強した後に、ユーティリティ、エレベーター、設備配管類を更新・復旧しているので、何が行われたのかはほとんど分からない。通常階で、その痕跡が分かるのは2階の女性トイレ前。ここはあえて、ガラス越しに構造補強の鋼板が見えるようにした。

右の丸窓から補強した鋼板が見える

 関係者以外立ち入り禁止だが、地下1階に降りる階段からは、鋼板・炭素繊維シートともよく分かる。

上のグレーの部分が鋼板とアンカーによる補強部(せん断補強)、下の紺色部分が炭素繊維シート補強(写真:熊谷直樹写真事務所)

屋上や室内もご覧あれ

 建物内に入って改修後の状態を見ていこう。

エントランス。低層部の印象を変えるために1、2階の軒天、幕板、サッシは黒色にした
1階エレベーターホール。床・壁は建設時の石を残した

 エレベーターでいったん上に上がって、上から見ていく。

9階北側の屋上
8階南側の屋上。左側が新橋駅方向
9階のコアからは、丸窓越しに屋外が見える。運がよければ新幹線も。これは元からあったもの
3階、4階のオフィスにはテナントが入る予定
コアの両側部分には、開閉できる窓を新設した。上部片開き窓は換気用でプリーツ網戸を設置。
下部の突出し窓はメンテナンス用
2階のコワーキングスペース
夕景。片持ち部分の軒裏をライトアップできるようにした。なお、オフィスなので建物内は見学できない。外から見て味わってほしい(写真:大成建設)

 いかがだっただろうか。「中銀カプセルタワービル」(下の写真右)の解体は確かに残念だ。一方で、理解ある建て主によって、適切に改修され、新たな命を吹き込まれる建築もある。一般メディアの方々には、ぜひ“残る名建築”の方も取材していただきたい。元の建築がすごいことに加え、残すための技術力も世界トップレベルである。(宮沢洋)

■静岡新聞・静岡放送東京支社リノベーション計画
計画地:東京都中央区銀座8-3-7
建築主:静岡放送株式会社
建物用途:事務所
階数:地上12階/地下1階/搭屋3階
構造種別:S造、SRC造、耐震補強
敷地面積:186.72㎡
建築面積︓:161.70㎡
延床面積:1493.10㎡(451.66坪)
工事事期間︓解体着⼯2021年5⽉〜竣⼯2022年5⽉
元設計:丹下健三+都市・建築設計研究所(構造:青木繁研究室、設備:森村協同設計事務所)
改修監修:ピー・エム・ソリューション株式会社
改修構造監修:株式会社 小堀鐸二研究所
改修設計:大成建設株式会社一級建築士事務所
元施工・改修施工:大成建設株式会社

越境連載「建築シネドラ探訪」23:話題のネット配信ドラマ「ラグジュアリー・シドニー」は、日本の「家売るオンナ」と対極の住まい観

 この連載では初めての「ネット配信限定」コンテンツである。素人の日常を追いかけるリアリティ・ショーと呼ばれるものだ。“素人”といっても、「芸能人ではない」という意味であって、主役の3人はいずれも“不動産のプロ”。それも、オーストラリアでトップクラスの住宅売買実績を誇るプロ中のプロたちだ。

(イラスト:宮沢洋)

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電車から見る建築① 山手線:品川-渋谷 合理性と非合理性が織り成すカオスを味わう

 東京大学生産技術研究所の大学院生、大塚光太郎君の持ち込み企画である。企画書を見て、即連載決定。苦しい角度から撮った建築写真の刹那性に萌える!(ここまで宮沢洋)

(写真:大塚光太郎、以下も)

 人間と同じで、建築も会うたびにその表情を変える。東京タワーが好きな筆者は歩いている時や、運転中、電車に乗りながらなど様々なシーンでその姿を眺めてきたが、やはりそのどれも見せる表情は違う。歩きながら見上げると、そそり立つ人工建造物としての存在を強く感じるし、首都高速からは、ビルの間をかき分けた先に現れる演出のおかげで一層格好良く見える。

 では電車から見た場合はどうだろうか。線路の両脇には建築が隣接することが多いので、その隙間からタワーが見えるのは一瞬である。また、車のように広範囲が見渡せるわけではないので、さらに見えるタイミングは限定される。思い返すと、少年時代の自分はこの一瞬のチャンスを逃すまいと窓にしがみついていたものだ。この刹那的な見え方こそが、電車から建築を見る醍醐味なのかもしれない。

J R浜松町駅付近を走る電車から見える東京タワー

 そこで、今回から始まる連載では都心を一周する路線「山手線」を対象に、電車内から見える建築を紹介していくことにした。初回は、山手線の中で最古の駅である品川から出発し、大崎、五反田、目黒、恵比寿、渋谷と巡っていく。通勤のお供に、東京観光の合間に、車窓を眺めるきっかけになれば幸いである。一応のルールとして、記事の中で一度だけ気になったところで下車し、詳しくレポートしようと思う。

NTTドコモ品川ビル(2003年、設計:NTTファシリティーズ)

 品川駅北側に、耳のついたロボットのような建築「NTTドコモ品川ビル」を発見。ドコモのビルといえば代々木に建つエンパイアステートビル風のものが有名だが、こちらもなかなか個性的だ。耳と表現した部分は、アンテナを外部に突出させつつ電波を透過する幕で覆うことであたかも建築の一部に見せかけたものだ。このビルは21世紀はじめにおける携帯電話の爆発的普及の象徴であると共に、「通信」という機能はビルの形そのものを変えてしまうパワーがあったことを認識させてくれる。

ソニーシティ大崎(2011年、設計:日建設計)

 大崎駅に着く直前に左窓を覗くと、「ソニーシティ大崎」が見えてくる。ドコモビルのようにカタチに特徴があるわけではないが、すだれのように外皮にかかる細いルーバーが気になったので、あとから調べてみると2つのことに驚かされた。1つはそのルーバーの中に水が流れていること。その水がルーバーの素材であるテラコッタ(焼いた土)に染み込みながら蒸発することで、その気化熱によって周辺が2℃程度涼しくなるのだそう。2つ目は設計が日建設計であること。いかにも工業的なデザインで環境を制御する姿に「パレスサイドビル」(1966年、設計:日建設計)を重ねていた筆者にとって、同じ日建設計が手がけたことを知り、妙に納得してしまった。

左:ソニーシティ大崎 右:パレスサイドビル

ポーラ五反田(1971年、設計:日建設計)

 ソニーシティから一駅進み、五反田駅を出ると太い二本足で仁王立ちする「ポーラ五反田」が左手に現れる。こちらもまた日建設計が手がけた建築なので、一駅挟んで新旧オフィスビルの歴史を追っているかのようだ。現代の目線でポーラ五反田を見ると、さして特徴的な外観ではないように感じるかもしれない。むしろ50年以上前に建てられた建築が今もなお、時代遅れとならずに「普通」に見えることが稀有であり、この建築の良さなのではないか。両脇に構造体と動線をまとめ、その間を無柱空間のガラス張りとする構成の先駆けと言っていいだろう。

日の丸自動車学校(1996年、設計:芦原太郎)

 ここまで、品川や五反田というエリアの特性からか渋めのオフィスビルばかりを見てきたが、ここで一転、衝撃の建築が現れる。目黒と恵比寿の中間あたり、左窓に見える「日の丸自動車学校」だ。衝撃というのは、もちろん黒い壁にくっつく赤い球体のインパクトでもあるが、筆者はそれ以上の違和感を感じた。是非はともかく、地方の巨大宗教施設のように周囲から浮いた存在のような違和感である。その理由を探るべく、恵比寿駅で下車して近寄ってみることにした。

 敷地北側から近づいてみると、日の丸を支える建物が極限まで薄くなっていることを知る。その上、線路に対して正面を向いて建っているので、電車から見た時に球体以外の立体感がまるで無かったという訳である。さらに周囲を歩いていると、目黒-恵比寿間とは思えないくらい閑静な昔ながらの住宅街が残っているエリアだと分かった。そんなエリアに突如赤い球が現れるのだから、違和感を感じたのだろう。隅田川沿いに建つアサヒビール社のスーパードライホールと同年代かつ似た造形の手法を用いてるが、街への溶け込み具合は大きく異なる。

 この違いはどこからくるのだろうか?  アサヒビールの周辺は、区役所などの周辺の開発と背景となる東京スカイツリーの登場により、規模感が統一された景観をつくっている。一方、日の丸自動車学校の周辺は大規模な開発が行われなかったため、周囲とのギャップは残ったままなのである。建築の印象は単体のデザインだけではなく、周囲との相対的な関係で決まるということを強く感じた。

左:日の丸自動車学校 右:スーパードライホール

恵比寿EastGallery(1992年、設計:鈴木エドワード)/オクタゴン恵比寿(1990年、設計:高松伸)

恵比寿EastGallery 
中央、丸い窓を有するのがオクタゴン恵比寿

 恵比寿-渋谷間では、日の丸自動車学校に引き続き1990年代竣工の建築が連続で出現する。恵比寿を出てすぐ右手に「恵比寿EastGallery」、その直後左手に「オクタゴン恵比寿」だ。どちらも、通常イメージする壁や窓の概念を脱ぎ捨てており、「これでも建築になり得るんだぞ」という強いメッセージを感じた。立地上、オクタゴン恵比寿は恵比寿西一丁目交差点を通るわずかな一瞬のみ側面が見える程度なので是非、目を凝らして探してみてほしい。

渋谷清掃工場(2001年、設計:荏原・東急・竹中共同企業体)

 少しずつ渋谷のガヤガヤした雰囲気を感じ始めた頃、右窓に収まらないほどの白く細長い塔が目の前を通過した。「渋谷清掃工場」の煙突だ。清掃工場は区が管理していることから、国鉄時代に国が所有していた土地に清掃工場は多いという話は聞いたことがあったが、まさか渋谷の繁華街近くにあるとは思わなかった。ちなみに煙突の高さは149mなので窓の下から覗かないと全景は見えないのでご注意を。

SANYO新東京本社ビル(1998年、設計:大江匡)

 清掃工場を過ぎ、渋谷駅のホームに差し掛かる寸前に「SANYO新東京本社ビル」がチラッと見える。果物を包む網のような構造体は、設計者である大江匡がたまたま見かけた竹籠から構想を得たとのこと。実は最初に紹介したNTTドコモ品川ビルの近くにも同じ手法で建てたオフィス「ソニーシティ」がちらりと見えるので、山手線を何周もしながら探してみて欲しい。

 今回は結果的にオフィスビルを多く紹介した。しかし単にオフィスといっても、品川や大崎付近はビジネス街らしい質実剛健で合理性の高い建築、目黒や恵比寿付近では合理性だけでは語れない魅力を持つ建築、とエリアの特性が色濃く表れていたのではないだろうか。次回乗車予定の渋谷-新宿間では、どんな建築と出会うことができるか、続編を楽しみにしていただけると幸いである。(大塚光太郎) 

越境連載「イラスト名建築ぶらり旅」09:三線三様の光る柱でオシャレに「脱・迷宮」──東京メトロ銀座駅

 仕事帰りに、東京メトロ銀座駅で地下鉄を乗り継ぐと、改札やホームの内装がガラッと変わっていた。2020年10月のことだ。ネットで調べてみると、ちょうどその日が新デザインのお披露目日だった。銀座線→日比谷線ホーム経由→丸ノ内線と地下鉄を乗り継いだ。気づいたのは、銀座線の改札階。あれ、柱が黄色く光ってる! 近寄ってみると、こんな模様だ。

(イラスト:宮沢洋)

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夏休み間近、中高生に読ませたい「隈研吾」と、小学生と読みたい「水族館」

 午前中に区営プールに泳ぎに行ったら、もう夏休みなのかと思うくらいたくさんの小学生が泳ぎに来ていた。確かにこれだけ猛暑日が続くと大人も子どもも気分は夏休みだ。そんな気分のなか、友人から先ほどこの写真を送ってもらい、書き忘れていた夏のネタを思い出した。

 書店に平積みされた夏休みの課題図書コーナーである(目黒の有隣堂にて撮影とのこと)。「サイがいなくなってしまう」ではなく、もっと左の方を見てほしい。

 「建築家になりたい君へ」(隈研吾著)である。表紙のイラストは、著者の隈さんのご指名で私が描いた。この本は河出書房新社から昨年の2月に発刊されたもの。私は表紙のイラストを描いただけなのであまり宣伝していなかったのだが、この本が第68回青少年読書感想文全国コンクール「高等学校の部」の課題図書に選定されたのである。

 私は高校時代に読書感想文全国コンクールなるものに応募したことがなかったので、「課題図書に選ばれた」という知らせを今年の春ごろに出版社からもらったときに、「ああ、良かったですね」くらいにしか思っていなかった。

 しかし、上の書店平置きの写真を見ると、これって建築界にとってもかなり意味のあることではないかと思い、ちゃんとお知らせすることにした。

 今回は「高等学校の部」の課題図書に選ばれたわけだが、隈さん自身は中学生を想定して書いたものである。なぜなら、河出書房新社の「14歳の世渡り術」というシリーズの第二弾だからだ(第一弾は「科学者になりたい君へ」佐藤勝彦著)。

私が出版社からいただいた初版

「M2」で知った「建築家は長距離走者」

 課題図書に選ばれるくらいだから、読みやすくて面白い。私が感心するのは、成功している建築家の人生訓なのに、「自慢臭さが極めて薄い」ということである。それは、そうだ。自分が高校時代に隈さんのプロフィルを見たら、「栄光学園→東京大学→建築家? オレは既に無理」と思う。そういうふうに他人事と思わせないように、要所に挫折体験がちりばめられている。

 中でも、「M2」(1991年)について回想する「建築家は長距離走者」というパートの書きっぷりは潔い。一部を引用するとこんな感じだ。

 僕もそうでしたが、若い頃は誰でも、早く有名になりたくて、人をびっくりさせるような建築を作ってみたいという気持ちになります。いわば短距離走のスタートに立ったような感じで、まわりを何も見ずに、猛ダッシュしてしまうのです。すると、すぐに息があがってしまいます。

 ほら、読みたくなるでしょう。なかなかこんなふうに、自分のことを引いては書けないものである。さすが。

 誰が読んでも面白いかは分からないが、建築関係を意識している中高生には薦めたい本である。別に増刷になっても私に印税が入るわけではない。これはピュアなお薦めである。

10歳から80歳まで面白がれる水族館ガイド

 ピュアではないお薦めも少々。まさに夏休み向けの1冊が7月下旬に発売となる。「イラストで読む建築 日本の水族館 五十三次」(青幻舎)。

 これは、私がOffice Bungaの仲間たちと書いたイラストガイドブックだ。青幻舎のサイトにある予告を引用すると…。

 これまで水族館は、建築家の晴れ舞台といえる美術館・博物館・図書館などに比べて、建築的視点で語られることは多くありませんでした。本書は、水族館が、大人から子どもまで幅広い世代が建築を体感し楽しむことができる、貴重な存在として注目し、最先端技術やさまざまな工夫までイラストとテキストでわかりやすく解説し、建築的魅力を伝えるものです。

 隈さんは14歳に向けて建築の面白さを書いたが、私は10歳から80歳まで面白がれるように「水族館建築」の奥深さを書いた。その詳細は、もう少し発行が近づいたら、改めてこのサイトで。(宮沢洋)

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「名護市庁舎」が更新検討の基礎調査を開始、「画文家」の自分にできること

 SNSでこの情報を見て「ウソだろう」と思った。だが、ネットで調べてみると、市のサイトに本当に載っていた。「名護市庁舎等更新検討に関する基礎調査業務委託に係る公募型プロポーザルの実施について※参加表明書類の提出は締め切りました」と書かれている。自分に何ができるかを考え、この記事とこのマークをつくってみた。

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夏の建築展03:早稲田の建築家展へ急げ、木製模型の情念が気づかせる建築家たちの真意

 弾丸建築展巡り3件目は、国立近現代建築資料館のある湯島から千代田線と東西線を乗り継いで早稲田へ。私(宮沢)の母校、早稲田大学早稲田キャンパスにある「會津八一記念博物館」で開催中の「早稲田建築 草創期の建築家展」だ。会期は6月2日〜7月15日。すでに半分が過ぎてしまったので、すぐに予定表に書き込んだ方がいい。この展覧会は早稲田関係者はもちろん、“普通に建築が好き”な人にとってもきっと面白い。

(写真:宮沢洋)
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夏の建築展02:「情熱と現実の間」に悩んだメタボリストの記録、「こどもの国」のデザイン展@ 国立近現代建築資料館

 「SUEP.展」を乃木坂のTOTOギャラリー・間で見た後は、千代田線で東に15分ほどの湯島駅へ。駅から5分ほど歩くと、湯島天神の向かいにある「国立近現代建築資料館」(湯島地方合同庁舎内)に着く。ここでは“一般の人にもとっつきやすい”SUEP.展とは対照的な“建築好きですら受け取り方に悩む”展覧会が行われている。6月21日に始まった「『こどもの国』のデザイン ー 自然・未来・メタボリズム建築」展だ。

(写真:宮沢洋)
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夏の建築展01:ギャラ間のSUEP.(スープ)展は「エシカルな建築」を社会に発信するのに最適

 6月に入ってから都内で始まった3つの建築展をリポートする。いずれも内覧会や初日が出張と重なってしまい、既に他メディアで報道されているものもある。悔しい……。なので、得意の弾丸ツアー形式で、3件を効率的かつオーバーレイ的に見て回る。

(写真:宮沢洋)

 1件目は東京・乃木坂のTOTOギャラリー・間(以下、ギャラ間)で6月8日から始まったSUEP.(スープ)の展覧会「Harvest in Architecture 自然を受け入れるかたち」だ。SUEP.は末光弘和氏と末光陽子氏が共同主宰する設計事務所。私は、この人たちが登場してから、食べ物のスープのつづりがいつも分からなくなり、その度に調べている(答えは「Soup」)。

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越境連載「建築シネドラ探訪」22:松坂桃李が演じる車いす建築家がリアル。恋愛より気づきのドラマ「パーフェクトワールド」

 以前、このコラムで田村正和、木村拓哉、宮沢りえが三角関係を演じるドラマ「協奏曲」を取り上げた。そのとき、「このドラマはもし『恋の駆け引き』がなかったとしたら、『建築家の師弟のドラマ』として、かなりのリアリティー感を持って記憶されただろう」と書いた。今回取り上げる「パーフェクトワールド」もそれと同様、「もう少し恋の駆け引きが薄目だったら…」と思わずにいられないドラマである。

(イラスト:宮沢洋)

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【追加写真あり】“名古屋シン木造御三家”弾丸ツアー、「ささしま高架下オフィス」は木造の選択に大納得

この記事をご覧になったタマディック(3番目に紹介)の広報の方から「建物内の写真を載せてもOK」と連絡があったので、1階エントランスホールの写真を追加した。(本文の青字部は2022年6月16日に加筆、黒字部は 2022年6月10日公開)

坂茂建築設計が設計した「タマディック名古屋ビル」 の1階エントランスホール(写真:宮沢洋)

 私(宮沢)が前職の日経アーキテクチュア編集部にいた頃には、「名古屋」×「木造」で思い浮かぶのは、河村たかし名古屋市長がぶち上げた「名古屋城天守木造再建計画」くらいだった。名古屋は木造とは縁遠い印象の都市だった。それがここ1年ほどの間に急変。立て続けに話題の木の建築3件が完成した。実際に見て回ると、どれも面白く、「これまでの木造のイメージを打ち破る」という意味で、私はこれらを“名古屋シン木造御三家”と名付けたい。なお、最初に言っておくが、すべてが構造上の木造というわけではない。

まずは新幹線高架下の木造オフィスへ

(写真:宮沢洋、以下も)
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風前の灯の坂倉準三「羽島市庁舎」、民間提案募集が「あるかも」と聞き、勝手に提案

 坂倉準三が設計した三重県の伊賀市旧庁舎(旧上野市庁舎)が「MARU。architecture」の設計で再生されるかもしれない、という記事を書いた(こちら)。それを書いていたら、坂倉の生まれ故郷、岐阜県羽島市にある「羽島市庁舎」(1959年竣工)の“最後の姿”を見たくなり、名古屋出張のついでに行ってきた。

(特記以外の写真:宮沢洋、2022年6月8日撮影)
左が新庁舎。2021年11月から供用を開始した
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越境連載「建築シネドラ探訪」21:映画「私の頭の中の消しゴム」、大ヒットの要因は“最強にモテる”建築家像

 この映画、私は勝手に“韓流3大建築家ラブストーリー”の1つと位置付けている。3大というのは、誰もが知る韓流ドラマ「冬のソナタ」、本連載でも取り上げた映画「建築学概論」、そして今回取り上げる映画「私の頭の中の消しゴム」だ。

(イラスト:宮沢洋)

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これぞ2色刷りの醍醐味、名作モダニズム建築のインスタ作品群をご覧あれ!〈作画解説付き〉

 書籍『画文でわかる モダニズム建築とは何か』(文:藤森照信、画:宮沢洋)発刊記念のスピンオフインタビュー(第1回第2回第3回)、お楽しみいただけただろうか。実は5月中、これとは別に、宮沢単独のスピンオフ企画を地味に展開していた。それが本日6月1日にフィニッシュを迎えたので、その一部を紹介したい。これ↓だ。

(イラスト:宮沢洋、以下同)
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東京海上ビルの建て替えと保存論議から「建築の終活」を考える

東京海上日動ビルの建て替えについては本サイトでも何度か記事にしてきた。
・日曜コラム洋々亭36:NOIZによる東京海上リノベ提案に刺激を受け、勝手にリノベ対決(追記:建て替えはレンゾ・ピアノ)/2021年10月3日公開
・「東京海上ビル」見学会で知った“王冠”の意味、「勝手にリノベ対決」はNOIZ案に軍配/2022年4月24日公開
なんとか解体を止められないのかという思いの一方で、個人的なノスタルジーを押し付けているだけではと感じる冷めた自分もいる。未来を担う若い世代はこうした話題をどう見るのか。東京大学生産技術研究所の大学院生、大塚光太郎君に4月24日に行われた講演会と見学会に参加してもらい、リポートしてもらった。(ここまで宮沢洋)

 建築の寿命は誰が決めるのか?

 天災などにより壊される場合を除けば、それは基本的には持ち主であろう。持ち主が壊すと言えばその寿命は尽きるし、売ってお金にするなり改修して使うなりすれば延命になるのかもしれない。いずれにせよ、その選択は持ち主が下すケースがほとんどである。

 1974年に完成した48歳の高層建築「東京海上ビルディング」(以下、海上ビル)はまさに今年、その命が尽きようとしている。

東京海上日動ビル(写真:大塚光太郎、以下も)
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藤森式解説03:日本建築→ライト→バウハウス→日本と情報はぐるぐる回る──「モダニズム建築とは何か」スピンオフインタビュー

藤森照信先生と私(宮沢洋)の共著『画文でわかる モダニズム建築とは何か』が彰国社から5月10日に発刊になった。この本は、藤森先生の著作『人類と建築の歴史』の一部を宮沢がイラスト化したもので、巻末に藤森先生へのインタビューを収録している。実はそのインタビュー、盛り上がり過ぎて全体の半分しか載せることができなかった。あまりにもったいないので、残り半分を本サイトで3回に分けて掲載することにした。今回がラスト。(書籍の詳細は彰国社サイトを)

宮沢:日本で戦後になってミースの影響を受けている人は、清家清さんぐらいしかいないんですか?

藤森:林昌二(日建設計)も大きくはミースでしょう。

宮沢:おお、そうですか。

藤森:林さんはガラス張りをやるでしょ。例えば、日建設計が毎日新聞社を設計したやつ…。ええっと。

宮沢:パレスサイドビル。

藤森:そう、パレスサイド。あの細い鉄とガラス。

宮沢:それは初めて聞いた見方ですね。パレスサイドビルの工業製品ぽい感じは、確かに。

藤森:そうそう。そういうガラスのやつは、林昌二のミース。

宮沢:なるほど。

藤森:だからミースの影響は東工大に流れている、と思っています。

宮沢:じゃあ、ミースの影響を受けた人は「ミースの影響を受けてます」ってあまり口に出さないってことですね。

藤森:現在だと「ミースの影響を受けた」ってバカバカしくて言えないじゃん。

宮沢:そうですか?

藤森:だってガラスの超高層ビルでミースの影響を受けてないのはないんだから。

宮沢:なるほど。

藤森:超高層ビルってミースの美学でできてるので、普通のビルは全部ミースの崩れなんです。

宮沢:確かに割合としてはミースなんですね。

藤森:いやいや、もうそれは圧倒的にミース。

宮沢:なるほど。

藤森:だから、世界の現代、20世紀建築を語るとしたら、原理はまずバウハウスで決まる。それがミースの超高層を生み出し、そのまま世界に広がるっていうことですよ。コルビュジエが出てくる隙はない。

世界で一番コルビュジエにハマる日本人

宮沢:コルビュジエはニッチだからなんか気になる、みたいな感じなんですかね?

藤森:そんな感じだね。ミースのことはわざわざ言わない。だってさ、妹島和世さんの建築は明らかにミース的ですよ。

(イラスト:宮沢洋)

宮沢:ああ、なるほど。

藤森:日本の場合はバウハウスからモダニズムが始まり、一時、中心がコルビュジエに移る。だけどまたミース的なものが静かにすーっと広がっている。日本人に向いてんだよね。

宮沢:確かに妹島さんの建築は言われてみればミースっぽいですね。曲線が多いので、あまりそういうふうに考えませんでした。

藤森:ミースが見たら案外、孫だと思うんじゃないでしょうか。

宮沢:妹島さんご本人は言及されたりしてるんでしょうか。

藤森:してないと思う。自分の事はそんな客観的に考えないよ。ミースの方が日本人に合ってるんですよ、ほんとに。コルビュジエってやっぱりこう、肉感的にぐわぁって感じでしょ。あれは日本人にはあまり向いてない。

宮沢:でも、主流にはならないけれど、ハマる人はすごくハマると。

藤森:そう、ハマる。世界で日本人が一番 コルビュジエ にハマっちゃう。

宮沢:ヨーロッパの歴史とか建築の本には、 コルビュジエ はそんなに載ってないという話を聞いたことがあります。

藤森:載っていない。だって実物がないからね、身の回りに。日本の場合は実物があるうえに、レーモンド、前川、坂倉、丹下、吉阪、磯崎、と、コルビジュエの影響ががーっと来ちゃうから。

バウハウスに影響を与えたライト、ライトに影響を与えた日本

宮沢:先生が設計するときにコルビュジエを部下にしたいという話がありましたが(書籍のインタビューに掲載)、ミースやグロピウスは呼びたくないんですか?

藤森:いいよ別に。来てくれなくてもできるもん。

宮沢:そうなんですか。実は私は、今回イラストを描くためにいろいろ調べて、グロピウスすごいなって、思ったんですけど。「ファグス靴工場」なんて、ほんとかっこいいなと思って。ここでモダニズム建築、完成してるじゃないか、と。

藤森:あれはライトの影響で作っていますからね

宮沢:へぇー。

藤森:プランがスーッと横に伸びてくっていうのは、ライトの影響を直接的に受けてるんですよ。

宮沢:そうなんですか。

藤森:そう。空間が横に伸びるっていうのを世界で最初にやったのはライトなの。ライトが日本の建築に学んでそれをやるわけ。それを絵にしてヴァスムート社が本にして出すわけ。それを見てミースやグロピウスとかバウハウスの連中が驚嘆するのよ。「箱が破られた!」と思うわけ。ヨーロッパは箱の連続だったけど、ライトは箱を破った。

 本から影響を受けるんですよね。それはすごく面白いことで、情報って建築の実物である必要はない、写真でも本でもいい。新しいあり方を心から探してる人には、ほんと1枚の写真、1枚の絵でいい。それを与えたのがヴァスムート社のライトの作品集だった。

宮沢:バウハウスの建築がライトの影響を受けているというのは、この本にも書かれていましたね。

藤森:それはドイツの人たちにもよく知られていることですよ。グロピウスやミースたちはライトのおかげで伝統的な箱から脱出できた。だから、ミースは本当にライトを尊敬していた。

宮沢:ミースがライトを。

藤森:ミースの評伝見ると面白いんだけど、アメリカに行くでしょ。まあ、ナチスに追われたというか。その時、ライトに会うのよ。感動するわけ。自分たちを導いてくれた先生に会えたって。ところがね、ミースは傷つく。なぜかっていうと、ライトが「おめーら」みたいな態度で、握手もしなかった。おめーら、俺のやり方を中途半端に盗んで、みたいな。ライトは面白くなかったんだと思う。ものすごく意固地な人だから、自分のやり方で自分が超えられたわけよ、ミースに。

宮沢:なるほど。

藤森:でも、ライトも偉いけどね。最後は逆にグロピウス達の真似をし始めますからね。グッゲンハイムなんてそうですよ。ガラスの連続窓を回転させる。だけど、ミースはライトと会ったとき、けっこう傷ついたって。ミースの評伝に書いてあった。

宮沢:ミースはライトをそんなに尊敬してたんですか。

藤森:日本の伝統的建築の流動的なプランがありますよね、ふすま一個でどうにでもなる。あれもライトが学んで、いっぱいやるわけですよ。それを本にしたものに影響を受けて、今度はグロピウスたちがやる。それで今度はバウハウスを通して日本に戻ってくる。ぐるぐるぐるぐる情報は回るんです。

宮沢:なるほど…。まだまだ聞きたいところですが、今日のお話はこの辺で。本日は長時間ありがとうございました!

初回から読む。

■書籍『画文でわかる モダニズム建築とは何か』 文 藤森照信、画 宮沢 洋。彰国社、A5判、128ページ、本体1900円+税。書籍の詳細は彰国社サイト

藤森式解説02:バウハウスにこだわり続けた清家清、バウハウスに揺れる丹下健三──「 モダニズム建築とは何か」スピンオフインタビュー

藤森照信先生と私(宮沢洋)の共著『画文でわかる モダニズム建築とは何か』が彰国社から5月10日に発刊になった。この本は、藤森先生の著作『人類と建築の歴史』の一部を宮沢がイラスト化したもので、巻末に藤森先生へのインタビューを収録している。実はそのインタビュー、盛り上がり過ぎて全体の半分しか載せることができなかった。あまりにもったいないので、残り半分を本サイトで3回に分けて掲載することにした。今回は2回目。(書籍の詳細は彰国社サイトを)

(さらに…)