今年10月に書いた藤森照信氏設計「おおオフィス」(山口県防府市)の記事で、「“建築好き経営者の夢”を実現した人をもう1人知っている」と思わせぶりに書いたその人が、下の写真の大林武彦氏だ。滋賀県近江八幡市の大林環境技術研究所(愛称:大林緑化)の代表取締役。関係者の間では「近江のサグラダファミリア」と呼ばれ、小規模ながら施工に2年半かかった本社ビルがついに完成したというので、見学させてもらった。
建築専門雑誌での発表名は「安土みどり城」。場所が織田信長を育てた安土であることから、「城」になったようだ。いろいろ説明を書かずとも、写真を見てもらえれば伝わるだろう。
実施設計は、関西方面で「草屋根住宅の草分け」として知られる前田由利氏が担当した。
設計:藤森照信+前田由利
施工:片山工務店
延床面積:269.92㎡
構造:鉄骨造
階数:地上3階
施工期間:2022年1月~2024年7月
第一線の建築家に引っ張りだこの大林緑化
建築の魅力は写真で十分に伝わったと思うが、説明しておきたいのは建て主である大林武彦氏。実は日本の建築の最前線で今、引っ張りだこの人なのだ。
藤森氏でいえば、防府市の「おおオフィス」はもちろん、多治見市の「モザイクタイルミュージアム」、東京の自邸「タンポポハウス」の土壌改善など。ベテランでは隈研吾氏、中堅世代では芦沢竜一氏や藤本壮介氏の屋上緑化に携わっている。このサイトで取り上げた建築でいうと、「白井屋ホテル」や「太宰府天満宮仮殿」だ。
会社を興したのは父親の大林久氏。武田薬品工業研究所を退職後に、ヒノキやスギの樹皮を原料とする「Eソイル」という土壌を開発。1995年に大林環境技術研究所を立ち上げた。武彦氏は研究者肌の父親から会社を引き継ぎ、それを屋上緑化の領域で大きく飛躍させた。といっても土壌をバンバン売って事業拡大という方向ではなく、どのプロジェクトにも設計者と直接やりとりするコンサル型で裾野を広げている。
大林氏は「商品広告は出さない」と言う。地上の緑化では土壌だけも販売しているが、屋上緑化は土だけ売ってもうまくいくとは限らない。そうなると自分が責任を持てる仕事の量に限界がある。
急斜面で緑化がうまくいくのか、ということは実例を見ればわかる。今回の本社建設は当初の予算の倍かかったそうだが、お金のかけ方としては正しいだろう。ちなみに、「広告なんか出さなくても、あなたことを信用する人の仕事を受ければいい」と言ったのは藤森氏なのだそう。そんなふうに言いたくなる気持ちも、大林氏と話しているとわかる。「利益優先のビッグビジネスに巻き込まれないでほしい」と思いたくなる人なのだ。
そう思いながらも、大林氏の宣伝をしてしまった。いずれにしても、こんな本社が出来てさらに忙しくなることは間違いないので、お体に気をつけてますますご活躍を!(宮沢洋)
(大林環境技術研究所のサイトはこちら)