o+hの新作に驚嘆、山形「さくらんぼ畑のオフィス」の“突き抜け感”

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 50代も後半になると大半の建築家に“若手”という形容をつけてしまい、校正するときに消すことが多い。でも、この2人はまだ“注目の若手ユニット”と書いて差し支えないだろう。1983年生まれの大西麻貴氏と1982年生まれの百田有希氏のユニット「o+h」の新作、「さくらんぼ畑のオフィス」のリポートである。

「さくらんぼ畑のオフィス」(Otias新本社)のフリースペース。これが民間企業のオフィスとは! 突然の訪問にご対応いただいたので、写真はそういう前提でご覧ください(写真:特記以外は宮沢洋、2023年12月撮影)

 昨年夏に見た「熊本地震震災ミュージアム KIOKU」(o+h、産紘設計)は筆者(宮沢)の2024年一押しの建築で、当サイトでは下記の記事を熱く書いた。

『ディテール』240号掲載「イラストでわかるディテール名手のメソッド」第4回の扉ページ

 o+h熱が高まり、連載をやっている季刊『ディテール』240号でも2人を取り上げ、7月上旬に発売予定の『Casa BRUTUS』8月号特集内の「エモ建築家図鑑」でも2人を取り上げている。

 「さくらんぼ畑のオフィス」は、今年の話題作の1つであることは間違いないと思うが、筆者の知る限りまだ建築専門誌には載っていない。o+hの2人に取材したわけではないので技術的な情報はまだ書けない。それでも、写真を見ればその“突き抜け感”は一目瞭然だと思うので、詳報は専門誌に任せて、まずは写真で感じてほしい。

 山形県東根市を拠点とする建築施工会社Otias(オティアス、旧齋藤管工業)の新オフィスだ。プロジェクトの中心になったOtiasコミュニティーデザイン事業部の板垣将一統括部長に案内してもらった。

南側から見た外観。柔らかな外観の印象は「熊本地震震災ミュージアム KIOKU」に通じるものがある。建物には5方向から入れる

 筆者が訪れたのはオフィスを使い始めて1カ月ほどたった昨年の12月。そのときは外構がまだ工事中だった。

筆者が見学した2023年12月の西側庭園。敷地は耕作放棄地となったさくらんぼ畑

 春になり外構工事が終わったとのことで、外回りの写真を送ってもらった。

上の写真とほぼ同じアングルの2024年5月の状態。これから夏に向けて緑が濃くなり、さらに気持ちよくなるだろう(写真提供:Otias)

 建物はさくらんぼ畑を横切るように細長く枝分かれしている。

南側の庭園ごしに見る(写真提供:Otias)
駐車場のある東側から見る(写真提供:Otias)
オフィス内の案内図。北が上。南側のフリースペースにはオフィス関係者以外でも入ることができる
南側のフリースペース
細くくびれた通路の奥がワークスペース
ワークスペースも公共施設のよう
ワークスペースから西側を見る。西側の庭園はこの段階では工事中
ワークスペースから東側を見る
敷地が傾斜しており、北側は2階
天井の連なりが生物的
構造の詳細は聞いていないが、柱と桁は鉄骨のよう
屋根

 o+hのサイトでは、「働くことと学ぶこと、楽しむことと考えることが一体となった、地域に開かれた新しいオフィスのかたち」を目指したと説明されていた。学生が書いた文章だったら、「何を夢みたいなことを…」と思いそうだが、確かにこれはそういう夢みたいなことを目指さないと生まれない空間だ。目標が突き抜けているから、リアルに見ても突き抜けたものになるのだ。

東側の入り口。近隣の人はオフィスと思っていないのでは?

建築主:Otias
設計:大西麻貴十百田有希/o+h(建築)、佐々木睦郎構造計画研究所(構造)、Otias(設備)
施工:Otias(建築、設備、空調)
延床面積:937.65m2
階数:地下1階
地上1階
主体構造:鉄骨造
施工期間:2021年7月~2023年9月

 建築専門誌に発表されるとどんな反響を呼ぶのかが楽しみだ。(宮沢洋)