今回は夢洲駅に近い北東側の若手施設7件を紹介する。

前回までに13組の若手建築家が設計した施設を紹介してきた。実は、この記事は当初、前後編2回で書こうと思っていた。だが、改めて並べてみると、写真1枚で済ませられる凡庸な建築が1つもない。1回の記事で10件を並べると、長くなり過ぎる。そして、地図上に対象施設をプロットしてみたら、なんと3回に分けやすいことか。この事実を発見してうれしくなり、3回に決めた。公式のマップにはこんなふうにわかりやすく書かれていないので、この画像だけでもダウンロードしてご活用いただきたい。

では、残る北東側の7件を巡ろう。(以下、太字部は開幕1年前の2024年5月に発表された概要データと設計コンセプト。細字部は筆者のひと言。連番は上の地図に対応)
⑭:ポップアップステージ(東外)(設計:萬代基介)
設計者:萬代基介|萬代基介建築設計事務所/主用途:イベント広場/階数:平屋建/延床面積:121.44㎡/構造:鉄骨造

【設計コンセプト】
シンプルかつ最小限のリングフレームによって、最大限の空間をつくるドーム建築です。最小限の部品によるドームは移転再建築が可能となり、会期終了後も使い続けられるサスティナブルな建築を目指しています。外皮は投影可能となっており、建物全体が映像に満たされると、生命体のように変わります。緑地帯に配置されたドームには穴が穿たれ、木々がドームの中にも生き、人間中心の社会から動植物と共存する社会への象徴となるような建築です。


多くの人が利用するであろう東ゲートのすぐ近くにある球形屋根のイベントステージだ。設計したのは石上純也建築設計事務所出身の萬代基介氏。このスッキリと美しいフレームを見れば萬代氏のセンスがわかる。昼間はイベントをやっていて中がよく見えなかったので、帰りにもう一度見たら、夜は障子張りみたいでいい感じ。丸穴から月が見えた!

⑮:ポップアップステージ(東内)(設計:桐圭佑)
設計者:桐圭佑| KIRI ARCHITECTS /主用途:イベント広場/階数:平屋建/延床面積:118.69㎡/構造:鉄骨造、木造

【設計コンセプト】
雲は形を変えながら日差しを柔らかく遮り、その下に涼しく心地よい居場所をつくります。ステージと観客席を一体的に覆い、この場所に集う人々の一体感を生み出します。 ひとつとして同じ形の雲はありませんが、どんな形であろうとひと目でそれが雲であるとわかる、海を越え大陸を越えて拡っていくひとつながりの存在です。世界とつながる雲によって、多様でありながらひとつである屋根を実現します。


このステージは人工の霧を発生させて、雲の屋根を建築に融合させるという触れ込みなのだが、何度か見に行ってもその光景は見られなかった。残念。リングの内側から霧が出るようになっており、それが雲のようになってステージと観客席を一体的に覆う仕組みらしい。設計者の桐圭介氏は1985年生まれで、藤本壮介建築設計事務所出身。モチーフが霧なのは、設計者が桐氏で KIRI ARCHITECTSだから?
⑯:休憩所3(設計:山田紗子)
設計者:山田紗子| 一級建築士事務所合同会社山田紗子建築設計事務所/主用途:休憩所、トイレ/階数:2階建/延床面積:568.23㎡/構造 :木造、鉄骨造

【設計コンセプト】
静けさの森につづく樹木群と小さくもユニークな人工物とが寄り集まる休憩所。頭上に広がる樹冠や立ち並ぶ幹に、建築物の柱や壁、屋根が寄り添い、心地よい半屋外空間が連続します。それぞれの植物や建物がもつ色彩と形の連なりがこの場全体に編み込まれていくことで、独自のテキスタイルを伴った生態系が立ち上がっていき、この場が新しい世界の捉え方へ繋がっていくことを目指しています。


これは、筆者が開幕前に「ベスト3」に上げた建築の1つ。「見たことのない不思議なリズム感」「誰にも似ていないのがすごい」などど書いた。設計者の山田紗子(すずこ)氏は1984年生まれで、藤本壮介建築設計事務所出身の注目株。この建築の魅力については「空間体験ベスト3」の記事を。
⑰:休憩所4(設計:服部大祐 + 新森雄大)
設計者:服部大祐 + 新森雄大/一級建築士事務所Schenk Hattori+Niimori Jamison/主用途:休憩所、トイレ /階数:地上1階 + 地階1/延床面積:248.84㎡/構造:鉄骨造

【設計コンセプト】
私たち人間が築き上げてきた世界は、目覚ましい進歩と引き換えに時に不自然な断絶を生み出し、「向こう側のいのち」への想像力を弱めてきたかもしれません。 「多様さからうまれる、かけがえのないひとつの世界」を守り、さらなる未来へと発展していくために、こちらとあちらの断絶を弱めていき、共に生きる感覚をいま一度思い起こすことは重要だと考えます。本計画は、敷地要件による土の掘削、それを型枠にした鉄筋のパーゴラ屋根でつくられる、半年のあいだ現れる「多様な他者と共にある広場」です。


これも、筆者が開幕前に「ベスト3」に上げた建築の1つ。“やられた度”では1位。設計したのは、筆者が全く知らなかった服部大祐氏と新森雄大氏。服部氏は1985年生まれ、新森氏は1986年生まれで、ともにスイス留学の経験を持つ。詳しくは「空間体験ベスト3」の記事を。
⑱トイレ6(設計:KUMA & ELSA)
設計者:隈翔平+エルサ・エスコベド| KUMA & ELSA /主用途:トイレ/階数:平屋建/延床面積:288.98㎡/構造:木造

【設計コンセプト】
空から雨水が落ちて、蒸発し、雲となり、また雨になる。あるいは、溜まった雨水を人が利用して排水管へと吸い込まれていく。水が循環するそのプロセスの中に、水と人の多様な出会いをつくり、人々は水にまつわる現象を体感します。また、丘のような屋根上をすこし登ると、「静けさの森」を見渡すことができます。視線は自然と水の流れる方向を向き、その先には水によって生かされている森の風景が広がっています。



このトイレ、開幕前に何度か前を通っていて、ずっと何かのパビリオンだと思っていた。これがトイレだったとは…。直角三角形の断面で、トイレの上の階段斜面が屋上広場になっている。日本的な庭が外国人にも好まれそう。屋上広場は夜の見え方もムード満点で、カップルの人気スポットになるのでは。
設計者の隈翔平氏はマウントフジアーキテクツスタジオを経てミラノ工科大学大学院を修了、2018年にエルサ・エスコベドとともにKUMA & ELSAを設立し、フランスと日本の2拠点で活動する。単なる和風ではなく、どこかエキゾチックな和を感じさせるのはそういうユニットだからだろうか。

⑲ポップアップステージ(北)(設計:axonometric)
設計者:佐々木慧| axonometric株式会社一級建築士事務所/主用途:イベント広場/階数:平屋建/延床面積:108.90㎡ /構造:アルミニウム合金造

【設計コンセプト】
森の中のような、木々に囲まれたイベント広場です。 森から切り出した未加工の丸太材を利用して大きな空間をつくることで、新しいかたちの森をつくろうと考えました。 ここで利用された木材は万博の会期中に乾燥し、その後加工されて建材として流通して、またどこかで別の建築となりえます。 こうして、大きな環境・循環の中に万博を位置付けようと試みています。


半年間という「時間」も含めてデザインした攻めのプロジェクト。デザインの理由の納得感は、脚本の良い映画のよう。設計者の佐々木慧氏(axonometric)は藤本壮介建築設計事務所出身。詳細は下記の記事を。
⑳トイレ5(設計:米澤隆)
設計者:米澤隆| 米澤隆建築設計事務所/主用途:トイレ/階数:平屋建/延床面積:246.04㎡/構造:鉄骨造

【設計コンセプト】
本計画では、1970年の大阪万博にて終焉を迎えたと言われている、建築の「生命性」について思考した建築思想「メタボリズム」を、55年の時を経てアップデートし、再びこの大阪の地にリバイバルさせます。積み木のようにユニットを積み重ねることで建築を構築する仕組みにより、閉会後はユニット単位に解体し、公園や広場などに移設し、その場に必要な数や形に組み換えることができる計画です。また、カラフルなユニットを緩く連帯させながら共存させることで、会場デザインコンセプトである「多様でありながら、ひとつ」をデザインします。



設計主旨に「メタボリズム」と書かれると、おじさん世代は弱い。そう書かれなくても、このデザインは構成主義的でけっこう好きだ。たぶん、子どもも楽しいと思う。
あえて今「メタボリズム」を掲げるということは、「閉会後はユニット単位に解体し、公園や広場などに移設し、その場に必要な数や形に組み換える」という目標も絵空事ではないのであろう。それが実現したら、ぜひ取材に行きたい。開幕前には工事額だけが独り歩きして「2億円トイレ」と騒がれた。実物にはどう見ても高い材料や技術は使われていない。閉幕後に再利用されればそのコスパの高さが証明されるだろう。
手を洗った後の水がそのまま床に落ちて排水される。これも筆者はワイルドで面白いと思ったのだが、案の定、使いにくいという声が上がっているようだ。子どもは間違いなく、この手洗い場が好きだと思うのだが…。設計者の米澤隆氏は1982年生まれの注目株。このトイレと併せて覚えておきたい。

若手たちを起用した藤本壮介氏の慧眼
…と、これで全20施設をリポートした。いかがだっただろうか。パビリオンではないトイレやら休憩所やらで1日楽しめる。SNSで騒がれていたものについては、「それって実際どうなの?」という楽しみ方もできる(当事者には申し訳ないが)。
パビリオン以外の“付属施設”を横切りで見て回る楽しさというのは、少なくとも日本の博覧会(万博以外も含む)ではかつてなかった楽しみ方だと思う。そして、初期の「くまもとアートポリス」がそうであったように、ここで起用された若手たちはきっと今後、国内外で活躍するに違いない。「ああ、あのときのトイレ(あるいは休憩所)を設計した人か」と思うときがきっと来る。それは、それぞれの建築のクオリティを見れば断言できる。

前回の記事で「若手建築家たちをトイレや休憩所に起用した会場デザインプロデューサーの藤本壮介氏を筆者は高く評価している(あくまでこの件についてではあるが)」と、もったいぶって書いた。カッコ内で何を言いたかったかというと、公募で選ばれた若手たちがこんなにチャレンジするならば、大屋根リングこそ公募で設計者を選ぶべきだったと筆者は思うのである。
大屋根リングは決して、がっかり建築ではない。しかし、これについて書こうとしても、筆者には「大きい木造」「景色がいい」くらいしか書くことができない。チャレンジの選択はいくらでもあったはずで、“その先”が見たかったと思うのである。
それもあくまで筆者の感想なので、あなたがどう感じるか、ぜひご自身で体験していただきたい。(宮沢洋)


「若手20組の万博“新風”総まくり(上)」から読む。↓