世界のウィズ・コロナ@ブラジル02:ブラジル人流コロナとの付き合い方―身近な6つの変化

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ブラジルに移住して11年になる藤井勇人氏(隈研吾建築都市設計事務所ブラジル担当室長)に、同国のウィズ・コロナの実情を寄稿してもらった。3回にわたり掲載する。第2回は、藤井氏の身の回りで起こっている(日本では報道されない)6つの変化について。(ここまでBUNGA NET)

 前回はスケールの大きいこの国で起こっている新型コロナウィルスの状況をマクロ的な視点で紹介したが、今回はスケールダウンし、一生活者の目線で、この国の現在進行形の姿をお伝えしたい。

(写真:藤井勇人)

 私が在住しているサンパウロ市は3月17日に外出自粛命令が発令され、既に4カ月が経過した。私の職場がある現地家電量販店の本社も、発令後翌日から全社員5000人に対してできる限りのテレワークが命じられた。最初の1カ月は生活必需品をスーパーや薬局へ商品を搬入する運送業者、市民のライフラインと化したUber Eatsなどのデリバリーサービスを行う人々を除き、街中から市民が消え、まさに街が死んだようだった。
 
 ブラジルでは普段から人気の少ない街中を歩く際はひったくりや強盗に遭わないように気を付けて歩くのが習慣としてあるが、この時は通行人がほとんどおらず、感染リスクに加えて襲われないか恐くて外出できない、というのが本当のところだった。

 そんな厳戒態勢から人々が徐々に街へ戻り始めたのは1カ月が過ぎたあたりだった。5月に入って感染者数が急激に増え始めた一方で、経済活動を再開しなければ継続できない商店や飲食店がデリバリーやテイクアウト、ドライブスルー(カーブサイド・ピックアップ)などの方法で新しいビジネスモデルを模索し始めた。ストップしていた工事現場も屋外工事や集合住宅の住戸リフォームなどを中心に再開し始めたのもこの時期だった。
 
 4カ月が経過した今では、人が多く集まるショッピングモールも1日6時間の条件付きで再開し、飲食店や美容・理容店も解禁、家に籠もらざるを得なかった高齢者の方々もマスクをして外出するようになるなど、市民がニューノーマルの生活に順応しつつあると言っていいだろう。今回は、この4カ月の間に起こった興味深い動きを6つ、紹介させていただく。

(1) オンライン診察、自宅でも気軽にできるPCR・抗体検査

 ブラジルの医療サービスは、無料で利用できる公共の統一保健医療システム(SUS)と有料の民間医療保険から成り立っているが、ブラジル保健省は4月半ばから公共医療でもオンライン診察を受けられるように暫定法を施行したうえでシステムを構築し、全国で2万人の診察可能な医者を配置した。
 
 一方、民間ではほぼ全ての民間病院や診療所ではオンライン診察、訪問診察が可能なばかりか、大都市のほとんどの主要病院・ラボでは、来院か自宅訪問、もしくはドライブスルーでのPCR検査および抗体検査が有料(最も簡易なものが約2000円、一般的な検査で約5000円~)で可能となっている。
 
 なお、私もドライブスルーでのPCR・抗体検査を受けたが、ネットで事前に時間を予約して、一度も車から出ることなくスムーズに検査をしてもらえた。(下の写真左)

(写真左:藤井勇人、写真右:平野司)

 また、ブラジル国内の複数のスタートアップが開発したブラジル国家衛生監督庁(ANVISA)認定の検査キット(約6000円、上の写真右)を使えば、自宅にいながらにして自ら検査が可能で、その結果は2?4日後にアプリで確認できる。

(2)カートをまるごと除菌ボックスに入れるスーパー現る!

 入り口にアルコールジェルが設置してある店舗は既に世界中で普通の景色となったが、サンパウロ市内の仏系大手スーパーCarrefourは市内4カ所の大型店舗に、ショッピングカートに入れた商品を紫外線でまるごと除菌してくれるボックスを設置した。

(写真:藤井勇人)

 結果が見えないので1分間の紫外線でどれくらい除菌されているのかは謎だが、少なくとも80%の消費者から自分でアルコール消毒するよりも効果的だと感じているという結果が出ているとのこと。

(3)用意周到、コロナ対策満載のショッピングモール

 国内で600カ所、110万人の雇用を生み出しているショッピングモールも、今回のコロナ禍でいまだかつてない影響を受けている。サンパウロ州では、外出自粛が発令された3月より全てのショッピングモールの閉鎖が義務付けられていたが、6月中旬から時間限定で営業が許可された。

 各モールによってコロナ感染対策は異なるものの、ブラジル人にとって安全にショッピングを楽しめる貴重な娯楽施設の一つであるため、全般的に対策が徹底されている。

(写真:藤井勇人)

 例えば、私の家から一番近所にあるモールでは、入り口は高齢者、身障者、妊婦、一般などのレーンに分かれており、自動体温測定カメラにより全ての来館者の体温が即座に表示される(上の写真)。37度2分以上の来館者については、モール職員が買い物を代行してくれるサービスもある。

 また、エレベーターのボタンは非接触式のボタンが設置してあり、できるだけ物に触らない配慮がされている(下の写真)。各店舗は人数制限がかけられているが、来館者はストレスを感じることなく、パンデミック前のように気持ちよくショッピングをしているようだ。

(写真:藤井勇人)

(4)アーティストたちによるオンラインLIVE配信

 ブラジル音楽といえばサンバやボサノヴァを思い浮かべる日本の方が多いと思うが、他にもMPB(ブラジルポップミュージック)やセルタネージョをはじめ、枚挙にいとまがないほどブラジル音楽は奥が深く、ブラジルという国は音楽にあふれている。今回の新型コロナウィルスにより有名無名問わず、ブラジルのアーティストたちは大打撃を受けているが、それに負けじと、いや、むしろかつて以上に積極的にYouTubeやInstagramなどを通してLIVE配信を行い始めた。LIVE配信を通して、自らを表現すると共に、ウィルスと戦っている人々やステイホームを続ける国民、視聴者に対して励ましのエールを送っている。
 
 ムーブメントとも言えるこのLIVE配信は主に4月から始まり、自粛制限が緩和しつつある今でも週末ともなれば必ずどこかでLIVE配信が行われている。

 YouTubeの調査では、「世界で最も見られたアーティストのLIVE視聴者数ランキング(2020年4、5月分)」10位のうち実に8組がブラジル人アーティストという結果が出ている(上の表)。いかにブラジルのアーティストたちが積極的に配信し、国民が音楽を求めているかがよく分かるだろう。(世界一有名なテノール歌手アンドレア・ボチェッリがドゥオーモ大聖堂で行った世界的なLIVE配信を凌ぐブラジル人アーティストが2組もいるなんて!)

 この動きを受けてか、政府はようやく7月、文化芸術関係者一人につきR$600(約12000円)の緊急支援金を支給することを決定した。

(5)路上から送られた母の日のセレナーデ

 5月10日の母の日、外出自粛で静まり返ったサンパウロの街中に響いたピアノの音色。その正体は市内のイベント会社DFilipaが外出自粛下の母の日に企画した粋な演出。グランドピアノを弾くピアニストのホドリゴ・クーニャ氏を乗せたトラックを市内の高架道路、通称Minhocão(ミニョカン)を走らせ、近所のお母さんたちへ窓越しにセレナーデを送るという演出だ。

(写真左:quarentinewindow、写真右:Vicente Piserni)

 道路脇の住民はそれにつられ手を振りながら歌い、母の日を一緒にお祝いするというなんとも素敵な行動だった。コロナ禍で存続自体が危ぶまれているイベント会社にもかかわらず、住民や街のことを優先に考えて企画・実行させてしまう行動力は、人を楽しませようとすることが上手なブラジル人ならではの発想だろう。なお、彼が弾いたのはブラジルの著名作曲家トム・ジョビンやヴィニシウス・デ・モラエスの曲。

 なお、以下リンクから当日の動画もご覧いただける。https://www.instagram.com/tv/CAA2xe1l92x/?igshid=dgk60h7mwo6(動画撮影:Vicente Piserni、総合プロデュース:DFilipa)

(6)気軽な助け合いの張り紙

 外出自粛命令が発令されてから早々の時期に、スーパーやマンションなどの掲示板に「買い物など代行するのでご連絡ください。」と近所や同じ建物の住民のお年寄りを助けようとする貼り紙が貼られるようになった。

(写真:藤井勇人)

 貼り紙の中にWhatsApp(メッセージアプリ)の番号を書き込んでいるものもあり、老若男女かかわらずスマホでアプリを使い慣れているブラジル人だからこそ気軽にできる助け合いだろう。普段からお年寄りや身障者、妊婦や子供に対して特別扱いをするのが当たり前のこの社会では当然の行動なのであろうが、改めて気持ちのいい社会だと思わされた。

最大のストレスは「ハグできない!」

 「何よりも握手やハグ、(頬と頬を合わせる)キスなどのスキンシップが取れないのが最大のストレスだよ。」この自粛期間中に、一体何人のブラジル人の友人たちからそう言われたことだろうか。ラテン系の国民は基本的にスキンシップが多いというのはよく言われることだが、ブラジル人はまさに然りで、スキンシップの大切さを熟知している国民だ。

 ラテンアメリカ最大の調査会社であるIBOPEが実施したアンケートによると、ソーシャルディスタンス前後で最も虚しさを感じるのがスキンシップがなくなったことであるという。ウィズコロナの生活では、コロナ疲れ、コロナストレスということも指摘されているが、それも国や国民性によって様々。コロナ対策と経済回復への道のりと合わせて、ブラジル人がどのようにスキンシップゼロの状態を回復していくのか、今後も見守っていきたい。(藤井勇人)
 

藤井勇人(ふじいはやと)
隈研吾建築都市設計事務所ブラジル担当室長、現地家電量販店の建築部門部長兼務。多感な時期をリオで過ごす。リオのスラム(ファヴェーラ)改造計画で早稲田大学理工学部建築学科を卒業。日本のWEB業界と建築業界で経験を積み、2009年ブラジルへ移住。建設会社勤務時代に「ジャパン・ハウス サンパウロ」の立ち上げを行う。建築のみならずブラジルと日本のデザイン・アート界の交流を促進することを人生の最大の命題にする。現行のブラジル国認定建築士(CAU)唯一の日本人。

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