解体寸前だった坂倉準三の旧上野市庁舎(正確には伊賀市庁舎となっていた時代に一部が解体)をマル・アーキテクチャ(MARU。architecture)が改修して「図書館+ホテル」に再生するプロジェクトで、ホテル部分の開業が2025年夏と発表された。昨年取材したときには「大阪・関西万博に間に合わせたい」という関係者の声を聞いていたが、その後、建設費が高騰していたので、プロジェクト自体がちゃんと進むのだろうかと気を揉んでいた。
開業時期が正式に発表されてほっとした。なぜそんなに気を揉んでいたかというと、この庁舎については、BUNGA NETの最初期から何度も記事にしてきたからだ。BUNGA NETは2020年4月1日に一般公開をスタートしたが、旧上野市庁舎(旧伊賀市庁舎)の記事はその前に書いてアップしていた(一般公開時点での本数を確保するため)。自分への備忘録を兼ねて、これまで書いた記事を時系列順に並べてみる。
坂倉準三の旧上野市庁舎、民間企業との「対話型」調査で保存なるか(2020年3月23日)
風前の灯の坂倉準三「羽島市庁舎」、民間提案募集が「あるかも」と聞き、勝手に提案(2022年6月14日)
日曜コラム洋々亭39:旧香川県立体育館の保存問題とともに注目してほしい坂倉準三・伊賀市旧庁舎の行方(2022年2月20日)
【続報あり】坂倉準三・伊賀市旧庁舎再生事業の交渉権者決定、「MARU。architecture」の参画でさらに期待(2022年9月30日)
日曜コラム洋々亭42:民間提案不採用で坂倉準三・羽島市旧庁舎の解体が決定、活用に進む伊賀市との差は何か?(前編)(2022年12月11日)
日曜コラム洋々亭43:活用へと進み出した坂倉準三・伊賀市旧庁舎の写真を見ながら、解体決定した羽島市庁舎との差を考える(後編)(2022年12月18日)
古巣の『日経アーキテクチュア』(WEB掲載は日経クロステック)にも気合の入った記事を2回書いた。
坂倉のパルテノン、覚醒──異例の複数一体PFI、交渉権者が決まり再生へ始動(2022年7月28日)
解体免れた「旧上野市庁舎」、ホテル+図書館で25年以降に順次開業へ(2023年12月21日)
自分でもよくこんなに書いたなとびっくりだ。なんと深い上野市庁舎愛。筆者の思い入れがピンと来ていない方、工事着手前の貴重な写真をどうぞ。
三重の船谷ホールディングスがホテルを運営
本当のところを言うと、この上野市庁舎に限らず坂倉準三の建築全般が好きなのだが、他はマイナスのニュースが多いので、良い方向に向かっているこの建築を比較として取り上げる回数が増えたのだ。活用提案をスルーして解体へと進むもの、まさかの逆転で再生計画が凍結してしまうもの──。
そんななか、希望の星である旧上野市庁舎は、ついに2025年夏のホテル開業が正式発表された。もう逆転はないだろう。
船谷ホールディングが発表したプレスリリースを引用する(太字部、元のリリースはこちら)。
坂倉準三建築・旧上野市庁舎をホテル「泊船」として再生、2025年夏開業
モダニズム建築を代表する建築家・坂倉準三氏が設計した市の指定文化財が、人々に開かれた図書館一体型スモールブティックホテルへ
船谷ホールディングスグループ(本社:三重県伊勢市村松町1364番地8/代表:船谷 哲司)は、旧上野市庁舎をホテル「泊船(はくせん)」として再生し、2025年夏開業に向け準備を進めています。モダニズム建築と伊賀市の豊かな歴史を融合させた唯一無二の空間で、心安らぐ滞在を提供します。
坂倉準三の建築群が集積していた三重県伊賀市旧庁舎の敷地内で、唯一解体を免れた旧南庁舎(1964年竣工)。広く市民が利用する場所として開かれてきた歴史を持つ旧市庁舎が、全19室のスモールブティックホテルとして生まれ変わります。
オフィシャルWEBサイト:https://hakusen-iga.com/
■ 「旧上野市庁舎」再生計画について
伊賀市は京都〜奈良〜伊勢を結ぶ交通の要所であり、山々に囲まれた地形的特性がさまざまな食文化や独自の文化を育んできました。 旧上野市庁舎は、このような豊かな地形が生み出した街の中心地、上野丸之内に建ち、永い時を刻んできました。モダニズム建築を代表する建築家・坂倉準三によって設計された旧市庁舎は、上野公園へと連続する起伏に呼応するように、高低差を活かして繋がり、周辺環境に開いたおおらかな空間を備えています。
坂倉準三は、「建築は生きた人間のためのもの」という信念を掲げていました。旧市庁舎は、伊賀上野城の丘陵、山裾の緑と城下町をつなぐよう低層で計画され、市民を見下げるのでなく市民を迎え入れ、市民と伊賀のまちなみと共に歩む建築として建てられています。
日本の代表する名建築を新たな時代に繋いでいくにあたり、まちの情報拠点で観光客にとっても深くまちの情報に触れる場所となる「図書館」、 伊賀の文化財である空間をより長く、ゆっくりと過ごすための場所となる「ホテル」、 伊賀をよりたくさんの人たちに知ってもらうきっかけとなる「観光交流」といった、 市民・観光客にとって必要な機能を3つ計画することになりました。
■ ホテル「泊船」について
泊船を運営するのは、創業明治10年、地元三重県において設計・建設・建物管理を中心に、さまざまな事業展開を行ってきた船谷ホールディングスグループ。伊賀の文化を育んだ豊かな地形に寄り添う旧庁舎の魅力を活かし、新たに市民、そして旅人が錨を下ろすホテルとして、みなさまをお迎えします。泊船は、空間だけではなく、家具も含めて坂倉準三の思想・デザインを感じられる場所となり、客室玄関含めた共用部は伊賀の文化にも触れられる展示やイベント等の開催も検討します。
事業者チームの中で建設工事を担当している船谷ホールディングスグループがホテルを直営するようだ。腹のくくり方がすごい。「船谷」だから坂倉建築を「船」に見立てているのだろう。ナイスネーミング。大成功させて次の名建築ホテルにつなげてほしい。もちろん、開業したら取材に行くつもりである。船谷社長、マル・アーキテクチャの高野さん、森田さん、楽しみにしてますよ!(宮沢洋)
図書館のイメージ図はマル・アーキテクチャのサイトで。