坂倉準三の旧上野市庁舎、民間企業との「対話型」調査で保存なるか

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 庁舎の保存というと、「建築界は残したいが自治体は興味なし」という図式が頭に浮かぶ。だが、新庁舎建設後の旧庁舎保存のアイデアを積極的に外部に求めている自治体がある。三重県伊賀市だ。

(写真は新庁舎への移転前の2015年11月に撮影、以下同)

 三重県伊賀市は2019年1月、日建設計が設計した新庁舎に移転した。坂倉準三の設計で1964年に竣工した旧庁舎(竣工時の名称は上野市庁舎)は、新庁舎の計画段階では取り壊しの話が出ていたが、保存を掲げる岡本栄市長が2012年に当選。以後、保存か解体かをめぐる議論が続いてきた。

坂倉ワールド、北庁舎は解体済み

 この建物は2014年に、ドコモモジャパンから「日本におけるモダンムーブメントの建築」に選定されており、2020年3月には伊賀市指定有形文化財にも指定された。

 かつてはこの庁舎の周辺に、同じ坂倉準三の設計で同時期に建てられた伊賀市北庁舎(旧三重県上野庁舎)や公民館があったが、ともに2012年度に解体されている。下の模型写真の右上が北庁舎、右下が公民館だ。

 伊賀市教育委員会は今年に入り、サウンディング型市場調査の実施を表明した。サウンディングとは「対話」の意味。「民間事業者等のみなさまとの『対話』を通じて、利活用に対するアイデアや市場性の有無について把握」するとし、2020年1月24日に申し込みを開始した。


保存して文化ゾーンの核施設に

 少し長くなるが、岡本栄市長名による「調査の目的」を引用する。

 「伊賀市では、市役所機能が移転することに伴い、2014年に将来の伊賀市のまちづくりの方針を打ち出しており、新庁舎周辺を行政機能の集積ゾーン(伊賀市役所、三重県伊賀庁舎、伊賀警察署、ハローワーク伊賀等)とするとともに、旧上野市庁舎周辺を文化・歴史・集客交流機能が集積するゾーン(上野城、伊賀流忍者博物館、芭蕉翁記念館、だんじり会館、伊賀鉄道上野市駅、三重交通バスターミナル等)とし、旧上野市庁舎は賑わいの拠点となる核施設とすることを位置付けています。

 今回の調査では、旧上野市庁舎が文化・歴史・集客交流ゾーンの核施設として、当該施設自体が多くの来館者による賑わいを生み出すとともに、市街地をはじめ市全体に賑わいが波及するためのゲートウェイとして、民間事業者による利活用の可能性を把握することを第1の目的とします。

 また、市は指定文化財として旧上野市庁舎の文化財的価値を保存・継承する義務を有していることから、現行法規等に則り、民間事業者による利活用の視点を踏まえた施設の大規模改修に関する可能性を把握することを第2の目的とします。

 なお、伊賀市としては、調査対象となる土地と建物を一括して利活用することを想定しており、民間の資金、創意工夫、技術的能力及び経営能力を活用することにより、施設整備を含む事業期間を通してサービスの向上が図られ、安定的かつ継続的な運営・維持管理が行われることを期待するものです」(ここまで伊賀市の資料から引用)

 2020年3月19日がサウンディング(対話)の申し込み期限とされていたので、市に問い合わせてみると、「件数は言えないが、複数件の申し込みがあった」とのこと。対話調査の結果は5月に発表される予定だ。どのように推移するのか注目したい。

江津市庁舎にも注目

 ところで、旧庁舎を残したい意向の自治体がもう1つある。島根県江津市だ。吉阪隆正の設計で1962年に竣工した江津市庁舎について、「移転後に残る市庁舎をどうするべきか皆さんの考えを聞かせてください」と、市民から意見を募集中。送付期限は2020年3月31日だ。こちらについてはまた改めてリポートしたい。(宮沢洋)