坂倉準三・伊賀市旧庁舎再生事業の交渉権者決定、「MARU。architecture」の参画でさらに期待

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 市の発表から約1週間遅れになってしまったが、これはBUNGA NETとして書くべきニュースだと思い、遅ればせながら取り上げる。三重県伊賀市は5月17日、公募型プロポーザルを実施していた「伊賀市にぎわい忍者回廊整備(忍者体験施設等整備)」の優先交渉権者を伊賀マネジメントグループに決めたことを発表した。

改修後の旧上野市庁舎(伊賀市旧庁舎)外観イメージ(伊賀市の発表資料より。「画像は、事業者から提出された企画提案書に掲載された画像の一部であり、今後整備される各施設の実際の姿を示すものではありません」とのこと。以下のイメージ図も同)
忍者体験施設内観イメージ

 「忍者回廊? 何それ」と思うだろう。だから、建築界ではあまり話題になっていない。でも、これは建築界にとって、とても重要な、この話題↓の続きなのだ。

日曜コラム洋々亭39:旧香川県立体育館の保存問題とともに注目してほしい坂倉準三・伊賀市旧庁舎の行方

 伊賀市旧庁舎をご存じだろうか。詳しく知りたい方は上の記事を読んでいただくとして、ざっくり書くと、坂倉準三の設計で1964年に完成した庁舎建築で、新庁舎がすでに建ち、存廃議論に揺れている。旧「上野市庁舎」と言った方がピンと来る人が多いかもしれない。

庁舎として使われていた頃の伊賀市庁舎
屋上庭園

 伊賀市は2020年にサウンディング型市場調査を実施し、その結果を受けて、PFI事業に動き出した。2021年10月からPFI事業の提案募集が行われていた。それは坂倉の庁舎とは結びつきにくい「伊賀市にぎわい忍者回廊整備(忍者体験施設等整備)に関するPFI事業」という事業の名称だった。

 事業の名称はさておき、私はこのPFI事業に注目していた。それは、この事業が「旧庁舎の転用」と「新施設の整備」をセットでやり繰りするスキームを採っているからである。旧庁舎を単体で事業化するよりも、新施設と併せて考えた方が事業者の選択肢は増える。

 これは今後ますます増えるであろう“名公共建築の再生”のヒントになる。既に進行している葛西臨海水族園整備事業(新館建設)も、PFIで民間に提案を募るなら、新館建設と現施設の再生活用をセットにするべきだったと私は思っている。そちらの落札者は今年8月25日に決定する予定だ。

「松原図書館」などで話題の MARU。architecture が設計

 話を伊賀市に戻すと、前述の伊賀市庁舎の記事の最後に私はこう書いた。

 提案書の締め切りは今年3月22日。5月ごろに契約候補者を決める予定。事業期間は20年間。「サウンディング型市場調査をやって良かった」という先例になることを願う。

 その事業提案募集の結果(優先交渉権者)が5月17日に発表になったのだ。当選したのは「伊賀マネジメントグループ」だ。

 応募したのは1グループのみで、そこが当選した。なんだ、競争にもならなかったのか、とそれだけ聞くと気持ちがダウンする。しかし、構成メンバーをよく見ると、テンションがV字回復する。

代表企業:株式会社ヒト・コミュニケーションズ
構成企業:
・株式会社図書館流通センター
・株式会社JNCエンタープライズ
・船谷建設株式会社
・有限会社マルアーキテクチャ
・株式会社伊藤工務店
・株式会社丹青社

 代表企業のヒト・コミュニケーションズ(ヒトコム)は人材派遣から出発した会社だ。そこは私の関心ポイントではない。続く「構成企業」の中に、若手建築ユニットの「マルアーキテクチャ」が含まれているのだ。グループの中での役割は書かれていないが、メンバーの並びを見る限り、彼らが設計の中心になると考えてよいだろう。

 「マルアーキテクチャ? それ何?」という人もいるだろう。カタカナだと分かりにくいが、メディアで目にする彼らの表記は「MARU。architecture」。高野洋平と森田祥子が共同主宰する一級建築士事務所だ。東京と名古屋を拠点に活動する。

 高野洋平氏は1979年名古屋市生まれ。2001年名城大学卒業、2003年千葉大学大学院修了。2003~2013佐藤総合計画。2013年、MARU。architecture共同主宰。

 森田祥子氏は1982年、茨城県つくば市生まれ。2008年早稲田大学大学院修了。2010~2013年NASCA。2010年MARU。architecture設立。

 2019年に竣工した「松原市民松原図書館」は、池に浮かぶような外観の写真が多くの建築メディアに載ったので覚えている人もいるだろう。最近では、名古屋駅近くの新幹線高架橋下に完成した木造オフィス「笹島高架下オフィス」が話題になっている。私はまだ2人に会ったことがないが、以前から注目していた。

旧上野市庁舎内観イメージ
忍者体験施設外構イメージ
忍者体験施設内観イメージ

 大きなPFI事業の構成メンバーに、そんな期待の若手が入っているのはかなり珍しい。再生スキームの面白さに加えて、もう1つ注目要素が増えた感じだ。伊賀市が公表したイメージ図では、どこをどうするのかほとんど分からない。だが、旧庁舎自体は過度な忍者演出はせずに、すっきり使うようで安心する。そして、元の建物を「大事に」かつ「大胆に」使おうという意思も伝わってくる(私は再生計画ではむしろ後者が重要だと思っている)。完成が待ち遠しい。(宮沢洋)

参考までに、審査の総評は下記。
・全体計画については、市の地域性を踏まえた提案、バックアップ体制を含めた安定的な事業実施体制、事業者の強みを生かした資金調達手法、市内事業者等の活用と育成、地域への貢献に関する提案が評価された。
・プロジェクトマネジメント業務については、事業を統括するマネジメント力を有したプロジェクトマネージャーのほか、建設に特化したプロジェクトマネージャーも配置することによる十分な業務実施体制、事業を適切に実施するためのセルフモニタリング体制等に関する提案が評価された。
・企画・設計業務については、伊賀市の地域特性を考慮した各施設及び設備の計画に関する提案が評価された。
・建設業務については、各施設の特性を生かした建設に係る考え方や業務期間中の監視体制に関する提案が評価された。
・維持管理業務については、各施設の特性を生かした維持管理に係る考え方に関する提案が評価された。
・運営業務については、きめ細やかな人材育成の考え方に基づく市との連携も含めた持続可能な運営体制の提案、市民及び既存の事業者のニーズを考慮した提案が評価された。
・自主事業については、市の特性を生かした複数のアイデア提案、リスク低減を図る姿勢が評価された。