新生・長野県立美術館で「宮崎浩展」開幕、渾身の「つなぎ方」を展示とリアルで実感

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 施工段階でリポート(こちらの記事)を書いた信濃美術館建て替え工事が「長野県立美術館」となって4月に開館。6月19日(土)から、設計者である宮崎浩氏(プランツアソシエイツ代表)の設計手法を紹介する展覧会「長野県立美術館メイキング・ドキュメント つながる美術館 宮崎浩とランドスケープ・ミュージアム」が始まった。会期は8月15日(日)まで。

会場の長野県立美術館。正面奥は既存の東山魁夷館(写真:宮沢洋、以下も)

 私事になるが、5月に『隈研吾建築図鑑』を出してから「宮沢(私)はミニマルな美が分からない」と思われている節がある(苦笑)。なので、「そもそもはこっち系なんです」とアピールするために、開幕初日にいち早く見に行ってきた。たぶん、どこよりも早い展覧会報告である。初日ということで、運良く宮崎氏ご本人と、現場所長を務めた清水建設の杉山和弥氏(建設時は清水建設・新津建設共同企業体・現場代理人)が会場を案内してくださった。

左が宮崎氏、右が杉山氏

この充実ぶりで無料とは!

 会場は2階の「展示室2」。これだけのスペースにこれだけのエネルギーを投じた展覧会。しかも、かつて見たことのない宮崎浩氏の個展。それなのに入場無料だ。長野県、太っ腹! 宮崎氏も「この美術館は入場料を払わなくても見られる部分が多くて、1日楽しめる」と話す。

 展示の7割ほどは、長野県立美術館の設計プロセス。「設計の過程で実際につくった模型や資料などを市民の皆さんにありのまま見てもらうおうと考えた」と宮崎氏。

 まず、驚くのは、1つのプロジェクトに対してつくる模型の数。200分の1、100分の1、50分の1と、スケールを変えて繰り返しつくられた模型は、「すべて事務所のスタッフがつくったもので、模型の外注はしない」とのこと。「なぜ、スケールを変えて何度もつくるのか」とおそるおそる聞くと、「スケールに応じて、その模型で確認できる関係性の範囲が変わるからだ」という。

 ディテール好き垂涎(すいぜん)の展示物もごろごろ↓。

 地味ながらびっくりしたのは、県に提出した図面や資料がほぼそのまま閲覧できること。めったに見ることのない実物の仕様書や、既製品の検討資料集は、“学校では教わらない”リアルな教科書だ。

館内散策へと誘導


 もちろん、専門家だけが分かる展示ではない。解説文の敷居の下げ方にびっくり。「建築の構造って何?」「構造設計ってどんな仕事?」って、そこから説明するのか!

 終盤はこれまでのプロジェクトの解説。

 この展覧会の会期中は、施設の内外のあちこちに、設計のポイントを説明する解説ボードが置かれている。「ここに注目!建築ガイド」という企画だ。無料配布される館内マップと連動しており、これを見て回るだけでも1日楽しめそうだ。

 展覧会の公式サイトはこちら

さて「建築」はどうなのか…


 この日はあいにくの天気で、外観は写真の3割増しで想像してほしい。

 展覧会のタイトルが「つながる美術館」であるように、この建築は善光寺との関係や、隣接する城山公園との関係など、さまざまな要素を「つなぐ」ことを重要なテーマとしている。

 その中でも私が強調したいのは、既存の東山魁夷館(1990年)とのつなぎ方の見事さ。新旧をつなぐ空間がこれほど魅力的である例を私はほかに知らない。

 この部分だけでも、いくらでも写真が撮れる。

 ブリッジの下の水盤から1時間に1度、霧が吹き出す。これは中谷芙二子氏の「霧の彫刻」という作品。

谷口吉生氏はどう応えたか?

 東山魁夷館(1990年、下の写真の左側)も、新美術館とつなぐために一部増改築している。もちろんこちらは谷口吉生氏の改修設計だ。

 東山魁夷館からつなぐ部分はこんな見え方↓。あえて新設した部屋の中心からずらしてブリッジへと導く。

 「さすが」と思ったのは、新美術館側に開いた窓の高さ。普通なら全面ガラスにしそうなものだが、目線よりやや低い高さまでに窓を抑えている。それにより、ブリッジや新美術館の上部がトリミングされ、なんとも大人な印象に見えるのだ。宮崎氏と谷口氏のつなぎ方の違いはぜひ体験してほしい。

 そして、帰る前にはショップでこの本を。冒頭のインタビュー記事は、聞き手が私です。

 2020年夏段階の現場リポート↓もご興味があればぜひ。(宮沢洋)

現場ルポ:新生「信濃美術館」は独自の高断熱サッシで善光寺を存分に見せる