再開決定(よかった!)、 建築展の可能性を開くアアルト展@世田谷美術館は6月20日まで

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 ここ1週間ほど、小池百合子都知事が都内の美術館再開にGOを出すのかどうか、ドキドキしながら待っていた。それによってこの記事のトーンが「いよいよ再開!」なのか「せめて写真だけでも」になるのか、ガラッと変わってしまうからだ。

会場の世田谷美術館 (写真:宮沢洋、以下も)

 答えは、前者だった。祝再開!!

再開を伝える世田谷美術館の公式サイトより

 お伝えしたいのは、世田谷美術館で開催中のアアルト展「アイノとアルヴァ 二人のアアルト フィンランド──建築・デザインの神話」である。会期は3月20日~6月20日(事前予約制)。開幕のタイミングで見に行けず、ようやくリポートを上げようと思ったら、緊急事態宣言で4月25日から臨時休館となってしまった。これが6月1日から再開される。

会場入り口

 この展覧会は、2つの点で画期的だ。

ポイント1:普通のアアルト展では飛ばされてしまいそうな前期アアルトの活動だけにフォーカスしている。
ポイント2:内井昭蔵が設計した世田谷美術館の展示室の“知られざる魅力”を展示構成で引き出している。

 東京の「ギャラリーエークワッド」と神戸の「竹中大工道具館」の同名企画で先行展示(前者は2019年12月20日~2020年2月27日、後者は2020年3月28日~8月30日)された作品資料を網羅するほか、本展のためのオリジナル作品や初公開資料などを多数展示している。まずは開催主旨を公式サイトから。
 
 アイノ・マルシオ(1894-1949)が、まだ無名の建築家・アルヴァ・アアルト(1898-1976)の事務所を訪ねたのは1924年のことでした。アイノはそこで働きはじめ、ふたりは半年後に結婚します。アイノがパートナーになったことで、アルヴァに「暮らしを大切にする」という視点が生まれ、使いやすさや心地よさを重視した空間には、優しさと柔らかさが生まれます。(中略)

 アイノは54歳という若さで他界しますが、ふたりが協働した25年間は、かけがえのない創造の時間となりました。互いの才能を認めあい、影響しあい、補完しあいながら作品をつくり続けたアアルト夫妻。本展は、これまで注目される機会の少なかったアイノの仕事にも着目することで、アアルト建築とデザインの本質と魅力を見つめ直し、新たな価値と創造性を見出そうとするものです。

 まずポイント1。「普通のアアルト展では飛ばされてしまいそうな前期アアルトの活動だけにフォーカスしている」について。

 アルヴァ・アアルトの設計活動を約50年とすると、この展覧会が対象としているのは、アルヴァとアイノの2人が協働していた前半の25年。住宅や家具が中心だ。「フィンランディアホール」(1962~71年)や「ヘルシンキ工科大学」(1949~74年)などの大作は出てこない。

アルヴァの青年期のスケッチ。うまっ!
初期に手掛けた家具
初期の自宅兼事務所の子ども部屋の再現
こんな規格化住宅も考えていたのか!

 それでも物足りなさはない。いや、後半がないことで、今までぼんやりしか考えてこなかった「アアルト建築がなぜ評価されるのか」の理由を丁寧に読み解くことができる。

こんなところに開口部があったのか!

 続いて、ポイント2。「内井昭蔵が設計した世田谷美術館の展示室の“知られざる魅力”を展示構成で引き出している」について。
 
 この展覧会は通常の世田谷美術館(以下セタビ)の企画展とは逆順に回る。その展示構成に「おおっ」と思うのは中盤以降だ。

事務所の私物です

 まず、これ↑。アメーバみたいな曲面の展示ブースだ。なんとなくアアルトっぽいなとは誰もが気付くが、案内してくれた主任学芸員の三木敬介氏に理由を聞いて、「そうか!」とうなる。この形はアアルトがデザインしたガラス花瓶がモチーフだった。もらいものだけど、Office Bungaにもある!

 だが、これは竹中大工道具館でも展示されていたもので、「セタビならでは」というわけではない。面白いのは「パイミオのサナトリウム」(1929~33年)の展示スペース↓。

右は写真、正面の窓は本物

 「実際もこんな感じなんだろうな」と思わせる自然光の入り方。このスペースで自然光を入れた展示を初めて見た。 

目玉はニューヨーク万博フィンランド館の再現

 続く、扇形の展示室も自然光を大胆に取り入れている。この部屋も滅多に外光を入れることはない。今回は、この展示を最後の目玉にするために、通常とは逆回りの動線にしている。

 展示されているのは、「ニューヨーク万国博覧会フィンランド館」(1938~39年)の一部を原寸再現したもの。

 私もこの写真は見たことがあったが、当時の写真はモノクロなので、鉄かアルミの装飾だと思っていた(あまりアアルトっぽくないと思っていた)。“木のオーロラ”だったのか……。

見に行けなかった人は兵庫県立美術館へ

 学芸員の三木氏によると、臨時休館になる前には、予約制ながらもかなりの人気だったという。来場者はほとんどが一般の人だったとのこと。日本の建築展のすそ野は広がったんだなあと改めて思う。ここに掲載した写真を見てもらえれば分かると思うが、展示のレベルをことさら下げているということは全くなく、建築系の人が見ても、あるいはアアルト好きの人が見ても、いろいろな発見があるだろう。

 実は筆者は、このコロナ騒ぎがなければ、今年は北欧にアアルト巡りに行くつもりでいた。2020年はギリギリセーフでニーマイヤーを見て回り、次の狙いは「まだ見ぬアアルト」だったのだ。写真や資料を見ても本当の良さはよく分からないアアルト建築。この展覧会を見て、ますます実物を見たい気持ちが強まった。ああ、一体、いつ行けるかなあ。

 実物を見るのはかなり先になりそうだが、この展覧会を見るチャンスは関西方面の人にもある。セタビの後、兵庫県立美術館(設計:安藤忠雄)に巡回し、7月10日から8月29日まで開催される予定だ。会期が2カ月弱と短いので、今度こそフルに開催されることを祈りたい。(宮沢洋)

「アイノとアルヴァ 二人のアアルト フィンランド──建築・デザインの神話」
会期:20213月20日~6月20日(事前予約制)
会場:世田谷美術館 1階展示室
主催:世田谷美術館(公益財団法人せたがや文化財団)
共催:公益財団法人ギャラリー エー クワッド
特別協力:アアルト・ファミリーコレクション、アルヴァ・アアルト財団、公益財団法人竹中育英会
後援:フィンランド大使館、フィンランドセンター、世田谷区、世田谷区教育委員会
協賛:フィンエアー、フィンエアーカーゴ、アルテック、イッタラ
企画協力:S2株式会社
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