タワークレーンが20基以上、着工から1年の「北海道ボールパークFビレッジ」の現場を見た!

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 話題のプロジェクトは建設段階から見たい(ツバをつけた気持ちになりたい)性分で、北海道北広島市の「北海道ボールパークFビレッジ」(HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE、以下Fビレッジ)の現場を見に行ってきた。「世界がまだ見ぬボールパーク」のキャッチコピーを掲げて建設が進む注目プロジェクト。最寄り駅は、新千歳空港と札幌の中間あたりにある北広島駅だ。駅に降りると、改札のすぐ前にこんなパネルが設置されていた。

(写真:宮沢洋、以下も)

 カウントダウンの数字を見ると、オープン(プレイボール)まで2年を切ったところだ。

設計は大林組と米HKS

 Fビレッジの計画が正式発表されたのは、2018年11月5日。このときの市の発表を拾うと……。(矢印以降は「その後」の追記)

1 名称:北海道ボールパーク(仮称)→2020年1月、ボールパークエリア全体は「北海道ボールパークFビレッジ」に、新球場は「エスコンフィールド HOKKAIDO」に正式決定
2 建設予定地:北海道北広島市共栄(きたひろしま総合運動公園)
3 新球場の概要:

【建設費用】約600億円 ※球場周辺外構部及び球場内設備・機器等を含む
【仕様】開閉式屋根 天然芝フィールド
【建築面積】約50,000平方メートル 
【延べ面積】約100,000平方メートル→約120,000平方メートル
【収容人数】約35,000人
【構造】RC造、S造、SRC造
【階数】地下1階、地上4階地下2階、地上6階
4 施主と発注先:
【施主】日本ハムグループを主体とした新球場保有・運営会社(2019年秋設立予定
→2019年10月(株)ファイターズ スポーツ&エンターテイメント設立
【PM・CM】山下PMC
【発注先】大林組グループ(大林組社、HKS社) ※設計施工一体型発注
5 建設スケジュール(予定):
【2018年11月】基本設計及び実施設計期間
【2020年春頃】建設着工
【2023年1月】竣工 →現在の竣工は2022年12月
【2023年3月】開業

 「設計施工一体型発注」とあるが、細かくいうと、設計は大林組とHKS(米国)の共同設計。HKSは米国の大手設計事務所の1つで、AT&Tスタジアムなど大規模競技施設の設計で知られる。施工は大林・岩田地崎特定建設工事共同企業体だ。

「天然芝」が工期をさらに厳しくする

 「写真は現場の外から撮ったもののみ可」という条件で、現場を取りまとめる嶋田樹副所長が広い敷地の外をぐるっと車で回ってくれた。これ(↓)は南西側。おお、こんなに密集してタワークレーンが立っている現場は初めて見た。その数、20基以上。なぜそんなに必要なのかは後ほど説明する。

 新球場「エスコンフィールド HOKKAIDO」の着工から約1年。工事の進捗率は2割程度というが、かなり全景が分かる。逆算すると、時間がないのだ。まずは目指す最終形を知っていただきたい。以下は現場事務所に掲示してあった完成予想図などの資料だ。

 このスタジアムの特徴的な点はいろいろあるのだが、特に大きいのは、「開閉式」でかつ「天然芝」であることだ。可動するのは上の図の大きい方の屋根。最大スパンは約160m。そんな大スパンの屋根をスライド開閉させるだけでも難しい工事なのに、さらに「天然芝」であることが工期を厳しくする。

 オープンは2年後の春だが、天然芝を定着させるために、来年10月には芝生を張らなければならないのだという。それゆえ、フィールド内に大掛かりな足場は立てられない。

 足場を最小限にして屋根をつくるために、屋根は北側で組み立ててから南側にスライドさせ、徐々に継ぎ足していく方法を取っている。可動屋根、固定屋根のいずれもだ。制作途中の屋根をスライドさせるために、可動屋根のレールを使う。固定屋根はそれよりも幅が狭いので、仮設部材を介してレールに掛け渡し、スライド移動させた後、下に降ろして固定する。そのために躯体も大急ぎでつくる必要があるのだ。

現在の状況

 4月に入って、現場の北側で固定屋根の組み立てが始まった(上の写真)。パースで見ると、薄い屋根に見えるが、現場の作業員の大きさと比べると、鉄骨部材の巨大さが分かる。 

 冒頭に触れたタワークレーンの数の多さは、使用するプレキャスト部材の多さによるところが大きい。客席のスタンドや、可動屋根のレールを支える柱などにプレキャストコンクリートのパーツを多用している。レール下の柱は、外殻プレキャストコンクリートを使う。これは、リング状のプレキャストコンクリートの内側に、鉄筋を組んでコンクリートを流し込むもの。これまでは土木で使われてきた手法だ。そのくらい、柱が太いということである。

 屋根は線対称の切り妻形に見えるが、実は西側の客席(1塁側)が広い。ファイターズのホーム側だ。切り妻の棟(むね)は屋根の中心からずれており、左右にかかる力が異なる。そのため、同じ太さの柱でも内部の配筋量を変えるなどして対応している。もう一度、この図を。

図の下にこう書かれている。「新球場は、地上6階、地下2階の開閉式の可動屋根を有したスタジアムで、建物形状は、X方向211m、Y方向242mであり、ホームエリア側(ライト側)のスタンドを広くとっていることから、Y方向に対して左右非対称となっています。大空間を包む屋根とガラス壁受は軽量かつ靭性の高い鉄骨造とし、全体を支える下部構造は、強度と剛性の高い鉄筋コンクリート造で構成した『ハイブリッド構造システム』を提案します」

 
 施設のもう1つの肝となる天然芝は、現場近くに実物の30分の1サイズのミニスタジアム6棟を建て、天然芝を敷き詰めて、実際と同じ条件で生育状況を調査しているという。

未知の現場に自ら志願した嶋田樹副所長

 実はスタジアム内も見せてもらった(ホームベース付近にも立たせてもらった!)のだが、今回は「現場の外からの写真のみ」が条件なので、リポートはこの辺で。案内してくれた嶋田副所長をパチリ。

 嶋田副所長はもともと札幌支店の所属。こんな巨大で挑戦的なプロジェクトは何としてもやってみたいと、自ら志願して選ばれたという。頼もしい。

 なお、このプロジェクトでは、PM(プロジェクト・マネジメント)業務を山下PMCが担当している。同社は、着工の約3年前、17年夏の候補地検討段階から参画した。現在も2023年のオープンに向けて新球場におけるさまざま工事に関してファイターズの施設参謀としてマネジメントを行っている(山下PMCのウェブサイトはこちら)。(宮沢洋)