写真集『日本のブルータリズム建築』を出版、磯達雄

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 書籍『日本のブルータリズム建築』を出版しました。1960年代から70年代にかけて隆盛したブルータリズムの建築について、日本における優れた実例を選び出し、撮り下ろした写真集です。写真は山田新治郎さんが担当し、テキストを磯が担当しました。大手書店や通販サイト等で購入できますので、ご関心をお持ちでしたらお求め下さい。ここでは、なぜ、このような本を出版したかを説明させていただきます。

ブルータリズムとは

 ブルータリズムとは、建築におけるモダニズムの流れにあるひとつの傾向で、材料、機能、構造などを、そのまま表した即物的なデザインを特徴としています。主に仕上げはコンクリート打ち放しで、ピロティ、キャンチレバー、人工地盤といった手法がしばしば用いられます。

 時にそれは大げさにも映りますが、建築家の自己表現ではなく、社会の要求をストレートに受け止めた結果として出てきたものと解釈するべきでしょう。実際、著名な建築家ばかりでなく、大手や地域の組織設計事務所にもこうした作品は多いです。

 1950年代末から、庁舎、文化施設、学校、集合住宅など様々な建物が、ブルータリズムで建てられました。1970年代には下火になり、忘れ去られていましたが、近年、再び評価の動きがあります。

高まるブルータリズム再評価

 ブルータリズム再評価のうねりは、世界中で高まっています。数多くの写真集や研究書が、海外の出版社から、この10年間に発行されました。これらの書籍では、ル・コルビュジエやポール・ルドルフといった欧米の巨匠による作品だけでなく、ラテンアメリカ、アジア、アフリカなどの各国に存在する、知られざる名作が大量に紹介されています。

 建てられた時代にも幅がありました。西欧や北米の建築を見ていると、ブルータリズムは1950-60年代に流行し、その後は廃れたように映ってしまいますが、世界を広く見渡せば、1970年代においても隆盛を誇っていたのです。それらのなんと面白いこと。それぞれの国にそれぞれのブルータリズムの歴史があったことがわかります。

日本におけるブルータリズム

 ブルータリズムという言葉は、英国の建築批評家、レイナー・バンハムによって広まったため、英国が本場とさとらえられてきました。しかし上記の通り、これにあてはまりそうな建築は世界中で建てられています。もちろん日本でもです。

 日本のブルータリズムの代表作とされるのは、例えば丹下健三の香川県庁舎や磯崎新の旧大分県立図書館などです。しかし、そうした誰もが知る名建築ばかりでなく、膨大な数のブルータリズム建築が日本国内に散らばっているのです。身近なところにあったそれらを発見することは、世界各国のブルータル建築を知るのと同様に、とてもワクワクする体験です。そうした作品に、できるだけ多くの人たちの目を向けてもらいたいと思いました。

今、なぜブルータリズムか

 ブルータリズム建築は、類例の少ない大胆な形状やコンクリート打ち放しの荒々しい仕上げから、建築家が見栄え本位で設計した非人間的な建築との印象をもたれがちです。けれども元来はそうではなく、〈普通〉のひとびとのために、〈普通〉の建築家が設計した、〈普通〉の建築でありました。

 ブルータリズム建築には世界で共有できる普遍的な原理があります。それは「より少なく/より安価な材料で、より人々のため/より社会のためになる建築をつくろう」というものです。これを目指して、ブルータリズム建築は、「建築・意匠と構造・技術の融合」を図りました。その原理は、現在においても有効であると考えます。そこに今、ブルータリズム建築をあらためて取り上げる意義があるのではないでしょうか。

 1970年代以前に建てられたブルータリズム建築が、次々と建て替えられ、失われようとしている状況からも、取材・撮影は急務でした。この本が、ブルータリズム建築を、日本で再評価するきっかけとなればうれしいです。(磯達雄)

日本のブルータリズム建築
文:磯達雄/写真:山田新治郎
発行所:トゥーヴァージンズ
発売日:2023/3/28
定価:本体6,000円(+税)
仕様:B5/上製/144ページ
ISBN:978-4-908406-90-4