大阪の新生・藤田美術館が開館、隣接する公園との見事な一体感は今後のヒント

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 2017年から大規模な改修工事を実施していた藤田美術館(大阪市都島区網島町)が、4月1日にリニューアルオープンした。

(写真:宮沢洋)

 同館は、実業家の藤田傳三郎(1841~1912年)とその息子たち(平太郎、徳次郎)によって築かれたコレクションを中心として、1954年に開館した。国宝9件、重要文化財53件を含む約2000件のコレクションを所蔵しており、特に、瑠璃色に輝く「曜変天目(ようへんてんもく)茶碗」は、国宝指定された3碗の1つとして知られる。

国宝「曜変天目茶碗」は一番奥の部屋で見られる。さほど焼き物に詳しくない私(宮沢)でも、これはとんでもない茶碗だと分かる


 リニューアル前は「蔵の美術館」として知られていた。明治~大正期に建てられた藤田家の邸宅の蔵を改装し、展示室として再利用してきた。藤田家の邸宅は1945年の大阪大空襲で焼失したが、蔵と中の美術品は延焼を免れた。そんな逸話が残る蔵だった。(かつての蔵の展示室を見たい人は、他紙ですがこちらを)

 しかし、老朽化が激しく、大掛かりな耐震改修なども検討されたものの、今後を見据えて全面的に建て替えた。設計・施工は大成建設が担当した。設計の中心になったのは、大成建設関西支店の平井浩之設計部長だが、設計過程では館長の藤田清氏が、“統括建築家”と言ってもいいほどに、さまざまなアイデアを出した。もちろん、全部その通りになった訳ではなく、それに対する大成側の提案もあって、例えば建物の外観は当初提案とは全く異なる白い大庇とガラス開口の箱になった。古い蔵の記憶を引き継ぐため、象徴的な部材を残して随所に使っているが、単に古いものを踏襲するという守りの建築ではない。

 …と、なぜプロセスをそんなに詳しく私が知っているかというと、1年ほど前に、縁あって藤田館長と対談させてもらったからだ。(そのときの記事は、館のサイトのこちら

 ちょうど開館日の4月1日に大阪で仕事があったので、初日に行ってみた。展示物が置かれてから館内を見るのは私も初めて。エントランスホールの大らかさや、展示室内の「異物の少なさ」など、藤田館長のこだわりが改めて伝わってきた。

 展示は常に3テーマで構成。1カ月ごとに1テーマずつを変更し、3カ月後に訪れれば常に全てが新しい展示になるようにするという。開館記念の4月は、国宝「曜変天目茶碗」と、同館が12巻全てを所有する国宝「玄奘三蔵絵」第1巻(鎌倉時代)が展示されている。

清々しい「イグジットホール」?

 そして、これは藤田館長には言いづらいことなのだが、実際に開館した美術館を見て最も心を動かされたのは、“展示を見終わった後”の動線だった。

 展示室を出ると、エントランスとは逆側(北側)のホワイエのような空間に出る。展示室を見た後に、こういうふわっとした空間があるのは珍しい。「エントランスホール」という言葉と対比するならば「イグジットホール」か。展示室内が暗いので、明るい光に包まれたこの空間に出ると、深呼吸したくなる清々しさ。西側のガラス開口からは多宝塔(高野山から移築したもの)が見えて、庭に吸い込まれるよう。今回、実際の展示を見て、この空間の価値がわかった。

 帰路に着くには、そこから半屋外の縁側のような空間を南に戻る。そこから見える庭があまりに気持ちよくて、庭も歩いてみたいなと思っていたら、その考えを察するように庭の方に向かう小道が分かれていた。そちらに歩くと、館の出口を出ることなく、広い庭園内を散策できるのだ。

いつの間にか隣の公園!

 「美術館の庭なら当たり前じゃないか」と思われるかもしれない。だがこれは、いつの間にか隣の公共公園に入っているのである。大阪市指定名勝「藤田邸跡公園」だ。名前から想像がつくように、もともとは藤田傳三郎の本邸に作庭された庭園だが、真下を通るJR東西線・大阪城北詰駅の整備をきっかけに、2004年から大阪市の公園となった。

 今回のリニューアル以前には、公園と美術館の敷地境界には、塀が立っており、お互いチラリとは見えても行き来はできなかった。今回、大阪市と協議して、塀を取り払った。今では敷地境界がどこなのか全く分からない。見事な連続感だ。

 対談でこの美術館を訪れたときには、建築の話に終始してしまい、公園側に行ってみなかった。不覚…。この公園、さすが藤田傳三郎の庭園だけに素晴らしい。藤田傳三郎は藤田観光のルーツをつくった人でもある。公園の正門があまりにも重厚な門であるがゆえに、新参者はかえって敷居が高く感じてしまう。

公園入り口の門

 今後は私のように、美術館に来て公園の存在を知り、中に初めて入る人は多いに違いない。逆に、公園に来て、ふらっと美術館に立ち寄る人もいるはずだ。エントランスホールの喫茶は、入館料を払わなくても利用できる。一休みにうってつけだ。

エントランスホールには“あみじま茶屋”と名付けた喫茶カウンターを設置。抹茶と地元和菓子店指導によるだんごのセットを500円で提供。美術館の入場料は1000円、19歳以下無料と、なんか安すぎません?

 まさに「Win-Win」。たかが塀、されど塀、である。

公園は桜が満開!

 近年、Park PFIなど、公園を官民で共同開発する例が増えている。それもいいとは思うのだが、公園の隣地で民間が公園を活用する事例も、もっとあっていいのではないか。この美術館を見て、そう思った。古美術ファン、建築ファンはもちろん、公園に関わる人にも見てほしい美術館である。(宮沢洋)

藤田美術館
所在地:大阪市都島区網島町10番32号
入館料:大人1000円、19歳以下無料