工学的思考(左脳)がしびれる!「ガウディとサグラダ・ファミリア展」@東京国立近代美術館、図録もすごい

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 「ガウディとサグラダ・ファミリア展」が東京・竹橋の東京国立近代美術館で6月13日から始まる。12日に行われた記者内覧会に行ってきた。実は筆者(宮沢)は7月上旬、バルセロナにサグラダ・ファミリア聖堂を見に行く。格好の予習である。ガウディは工学的思考が重視された20世紀の建築界において、感性と工学的思考のどちらもがギンギンに尖った人だった。右脳と左脳が拮抗していた。感性(右脳)の方は現地で見て感じた方がよいと思うので(もちろん後日リポートしますよ!)、今回はガウディの工学的思考(左脳)のすごさをリポートする。

「ガウディとサグラダ・ファミリア展」@東京国立近代美術館2023年6月13日(火)~9月10日(日)の会場風景。≪サグラダ・ファミリア聖堂、身廊部模型≫2001-02年 制作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室 西武文理大学(写真:宮沢洋:以下も)
左から東京国立近代美術館の鈴木勝雄企画課長、学術監修者の鳥居徳敏神奈川大学名誉教授、サグラダ・ファミリア聖堂主任建築家のジョルディ・ファウリ氏、同聖堂彫刻家の外尾悦郎氏

 まずは展覧会公式サイトの企画主旨(太字部)を読みながら、会場全体の雰囲気を。

 スペイン、カタルーニャ地方のレウスに生まれ、バルセロナを中心に活動した建築家アントニ・ガウディ(1852-1926)。バルセロナ市内に点在するカサ・ビセンス、グエル公園、カサ・バッリョ、カサ・ミラ、サグラダ・ファミリア聖堂など世界遺産に登録された建築群は、一度見たら忘れることのできないそのユニークな造形によって世界中の人々を魅了し続けています。ガウディの独創性は、西欧のゴシック建築やスペインならではのイスラム建築、さらにカタルーニャ地方の歴史や風土など自らの足元を深く掘り下げることで、時代や様式を飛び越える革新的な表現に到達したことにあります。

展示風景

 今回開催されるガウディ展は、長らく「未完の聖堂」と言われながら、いよいよ完成の時期が視野に収まってきたサグラダ・ファミリア聖堂に焦点を絞り、この聖堂に即してガウディの建築思想と造形原理を読み解いていくものです。

 図面のみならず膨大な数の模型を作ることで構想を練り上げていったガウディ独自の制作方法に注目するとともに、「降誕の正面」を飾る彫像も自ら手掛けるなど建築・彫刻・工芸を融合する総合芸術志向にも光を当て、100 点を超える図面、模型、写真、資料に最新の映像をまじえながらガウディ建築の豊かな世界に迫ります。

展示風景

■会場構成
第1章 ガウディとその時代
第2章 ガウディの創造の源泉
第3章 サグラダ・ファミリアの軌跡
第4章 ガウディの遺伝子

展示風景
建築:磯崎新、構造:佐々木睦朗 「カタール国立コンベンションセンター」 写真パネル

 4章の「ガウディの遺伝子」では、磯崎新の「カタール国立コンベンションセンター」(構造設計:佐々木睦朗)が取り上げられていた。ああ、確かにガウディ…。

 全体の学術監修は、建築家でガウディ研究の第一人者である鳥居徳敏・神奈川大学名誉教授が担当。会場の空間デザインはYSLA Architectsが担当した。

知らなかった!高さ300m級の超高層

 では、ここから宮沢推しの展示物を紹介する。

≪コローニア・グエル教会、逆さ吊り実験≫1984-85年 西武文理大学

 これ、分かるだろうか。ガウディ好きなら即答できるだろう。「コローニア・グエル教会堂計画」の「逆さ吊り実験」である。コンピューターのない時代に、構造体に伝わる力が平均化する形を実験で求めたわけである。本展では、吊り模型の下に鏡があり、目指す姿を正像で上から眺めることができる。

展示風景
展示風景

 筆者もその実験は知っていたが、本展での説明を読んで初めて知ったのは、ガウディがこの実験に10年を要したということ(その挙句、未完で終わった)。筆者はてっきり、構造合理性を説明するデモンストレーションとしての模型なのだと思っていた。ガウディは、この吊り模型を10年もああでもないこうでもないといじって形を決めていたのである。おそるべき持続力。

 次はこれ。吊り模型でデザインした未完の教会計画?と思ったのだが、説明を見てびっくり。

≪ニューヨーク大ホテル計画案模型(ジュアン・マタマラのドローイングに基づく)≫1985年 制作:群馬県左官組合 伊豆の長八美術館

 「ニューヨーク大ホテル計画案」。なんと高さ360m。1908年にバルセロナを訪れたアメリカ人がサグラダ・ファミリア聖堂を訪れ、ニューヨークに建設する高層ホテルを依頼したという。 360mって、あべのハルカス(300m)よりも高いぞ。ちなみにこの石膏模型は1980年代に日本でガウディ展が開催された際、建築家の石山修武氏を中心につくられたものという。さすが歴史系出身の石山氏の着眼点。

HPシェルやコノイドもサラッと使いこなす

 ガウディ展でなくても見られるが、筆者はこういう仕組みの展示コーナーが大好き。

展示風景。模型制作:東京工芸大学山村健研究室
≪平曲面( 双曲放物線面 )模型≫ 2023年 模型制作:東京工芸大学山村健研究室

 上の写真はHP(双曲放物線面)シェルの原理模型。糸でつくってあるので、2方向にねじれた面がすべて直線で構成されていることが分かる。自分でも今まで何度この絵を描いたことか(笑)。

≪サグラダ・ファミリア幼稚園屋根・コノイド曲線模型≫ 2023年 模型制作:東京工芸大学山村健研究室

 これは知らなかった。サグラダ・ファミリア聖堂の付属仮設学校(1908-09)の屋根と壁は、いわゆる「コノイド曲面」の一種。これも直線だけで構成される。建物は現存するようなので、7月に見に行こう。

ガウディ流「二重ラセン柱」の意味

 現地で確認しなくちゃ、と思ったもう1つがこれ。

二重ラセン柱 説明パネル
左:正方形角柱ラセン柱、中央:二重ラセン柱(6星形)、右: 二重ラセン柱(4星形) 説明パネル

 「二重ラセン柱」という表現が少し頭を混乱させるが、これはDNAの二重らせんとは異なるようだ。 DNAの二重らせんは同じ方向のねじれだが、ここでいう二重らせんの柱は、左右異なる方向にらせんがクロスする、という意味のようだ。例えば、下の写真の中央のような装飾だ。

展示風景。これらはサグラダ・ファミリア聖堂ではなく、カサ・ミラの煙突や換気塔

 説明によると、二重ラセン柱は下から見上げたときに、上昇感を強調するためらしい。実際に下から認識できるのか、現地で確かめてこよう。

やっぱり樹状柱がすごい…

展示風景

 改めてすごいなと思ったのは、この樹状柱だ。ル・コルビュジエら当時のモダニストたちが、単純さを極めた「ドミノシステム」を追っている頃に、いやその前から、この複雑な構造を解こうとしていたのだから。

≪サグラダ・ファミリア聖堂、身廊部模型≫2001-02年 制作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室 西武文理大学

 本展は、東京で9月10日まで開催された後、滋賀会場:佐川美術館(2023年9月30日~12月3日)、愛知会場:名古屋市美術館(2023年12月19日~2024年3月10日)に巡回する。どちらも行けない人は、図録だけでも入手したい。全体の学術監修を担当した鳥居徳敏・神奈川大学名誉教授が中心となった力作。展示にはないうんちくもいろいろ書かれていて面白い。これが3300円(税込み)はお安い。

記者内覧会で図録がもらえた。うれしい! 皆さんはぜひ買ってください

 では、現在のサグラダ・ファミリア聖堂およびバルセロナリポートは7月中をお楽しみに!(宮沢洋)

■開催概要
展覧会名:
ガウディとサグラダ・ファミリア展
会場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
会期:2023年6月13日(火)~ 9月10日(日)※会期中一部展示替えあり
休館日:月曜日(ただし7月17日は開館)、7月18日(火)
開館時間:10:00~17:00(金曜・土曜は10:00~20:00) ※入館は閉館の30分前まで
観覧料:一般 2,200円(2,000円) 大学生 1,200円(1,000円) 高校生 700円(500円) 中学生以下無料 ※( )内は20名以上の団体料金、ならびに前売券料金(販売期間:5月15日~6月12日)。いずれも消費税込。
主催:東京国立近代美術館、NHK、NHKプロモーション、東京新聞
共同企画:サグラダ・ファミリア贖罪聖堂建設委員会財団
後援:スペイン大使館
協賛:SOMPOホールディングス、DNP大日本印刷、YKK AP
協力:イベルドローラ・リニューアブルズ・ジャパン
学術監修:鳥居徳敏(神奈川大学名誉教授)
巡回:滋賀会場:佐川美術館 2023年9月30日(土)~12月3日(日)
愛知会場:名古屋市美術館 2023年12月19日(火)~2024年3月10日(日)

展覧会公式サイト:
https://gaudi2023-24.jp/