磯達雄キュレーション「北海道の建築展2022」が札幌芸術の森美術館で開催中、近現代の北海道建築を「地域性」からとらえ直す

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 札幌芸術の森美術館のほぼ全館を使った、本格的な建築展「北海道の建築展2022」が9月23日から始まっている。公益社団法人日本建築家協会(JIA)北海道支部の設立35周年記念事業として開催されたものである。会期は10月10日(月・祝)まで。

(写真:磯達雄、以下も)

 展示は2部構成になっており、第1部/企画展示のキュレーションをOffice Bungaの磯達雄が担当した。

 北海道は、地理的にも歴史的も日本において特殊であり、この地域ならでは建築のあり方が独自に探られてきた。それは建築のグローバリズムに抵抗する態度と言える。そうした建築には、地域の伝統的スタイルを遡ろうとするものばかりでなく、新たな地域性を発見しようとする試みも見られる。地域性とは何かを問い、現在の視点からつくり替えてきたのである。

 こうした視点から地域性と結びついた北海道の近現代建築の代表作を30件選び、パネルや模型を使って展示している。

 展示されている模型をいくつか紹介しておこう。

 北海道大学農学部第二農場(設計者:ウィリアム・ホイーラー、竣工:1877-1911年)は、北海道大学の前身にあたる札幌農学校のモデル農場として建てられたもの。今回、取り上げられた建物では最も古い作品となる。この模型は、今回の展覧会のために新しくつくられた。

 上遠野徹自邸(設計者:上遠野徹、竣工:1968年)は、鉄骨造のシャープな造形と冬でも快適な温熱環境を両立させた記念碑的住宅で、模型ではゆったりとした敷地の条件がよくわかる。

 登別温泉ふれあいセンター(設計者:太田実、竣工:1957年)は、『モダン建築巡礼』でも取り上げた構造表現主義的な建築作品。模型は壊れた状態だったが、今回の展覧会のために修復した。

展示室の外にも展示

 展示室の外にも展示が行われている。圓山彬雄《遺跡への道程「SASA」》は、「円を内包する家」の構成を、美術館の池に原寸で再現したもの。水に浸されていることで廃墟のようにも見え、それがまた魅力的に映る。ちなみにこのコンクリートブロックは、実際の住宅でも工事を担当した職人が積んだとのこと。池の脇にはコンクリートブロック二重積の工法を解説したモックアップも置かれている。

 中庭には、山田良《Cube Installation/竹山実の世界へ近づこうとする試み》が展示されている。これは札幌にあった竹山実の建築作品「アトリエ・インディゴ」からインスパイアされた作品。屋上にあったキューブの形態変化のバリエーションをすべてつくって見せている。山田さんは札幌市立大学教授だが、以前は建設会社に勤務していたこともあって、美術と建築の境界に立ち作家として活動している。

 第2部は、JIA北海道支部の会員が自作を展示している。展示コーディネーターを務めた植田曉さん(NPO法人景観ネットワーク代表)からは、建築と風景との対話がテーマとして示された。展示空間の中央には北海道の地図が置かれ、それぞれの所在地と展示パネルがリボンで結び付けられることによって、建築と風景のつながりが示唆されている。

 関連展示として、美術館前の池には、山田良さんの作品「Infinite Landscape/水・光」も展示されている。作家が来訪する9/25、10/9、10/10の12~15時には、水面スレスレの橋を渡って、中に入ることもできる。

 週末にはイベントも開催されるので、ウエブサイトで確認して出掛けてほしい。(磯達雄)

■北海道の建築展 2022 受け継がれて進む地域性を見つめて
会期:2022年9月23日(金・祝)~10月10日(月・祝)
時間:午前9時45分~午後5時00分 *入館は閉館の30分前まで
会場:札幌芸術の森美術館
観覧料:一般500(400)円、高校・大学生300円(240円)、中学生以下無料休館日
会期中:無休
主催:公益社団法人日本建築家協会北海道支部、札幌芸術の森美術館(札幌市芸術文化財団)
後援:国土交通省 北海道開発局、北海道、札幌市、札幌市教育委員会、一般財団法人北海道建築指導センター、一般社団法人日本建築学会北海道支部、一般社団法人北海道建築士会、一般社団法人北海道建築士事務所協会、一般社団法人北海道設備設計事務所協会、一般社団法人日本建築構造技術者協会北海道支部、一般社団法人北海道建築技術協会、一般社団法人北海道デザイン協議会、株式会社北海道建設新聞社、株式会社北海道新聞社、HTB 北海道テレビ、HBC 北海道放送
協力:札幌市立大学山田良研究室(インスタレーション協力)、北海道大学(模型協力)、北海道科学大学(模型協力)、国京建築模型工房(一部模型作成協力)
札幌芸術の森美術館のサイト https://artpark.or.jp/tenrankai-event/hokkaido-jia2022/