小学生でも「SDGs」を語るこの時代に、「成長」や「可変性」に重きを置いたプロジェクトが注目されにくくなっているのは仕方がないことかもしれない。けれども、どうしてもこういう建築を見るとワクワクしてしまう。ル・コルビュジエが「無限成長美術館」を夢見たように、「将来の拡張しやすさを形にすること」は、建築のロマンの1つである。というわけで、この建築を見ていただきたい。
北海道科学大学のD・E・F棟である。2017年にE棟(中央棟)、2019年にF棟(工学部東棟)(上の写真の右側)、そして今春、D棟(工学部西棟)が利用を開始し、全体の形が整った。鉄筋コンクリート造・一部鉄骨造、地下1階・地上4階、延べ面積1万6490.41㎡(DEF棟合計)。いずれも設計・施工は大成建設だ。
北海道科学大学は1967年に開学した私立大学で、工学部、薬学部、保健医療学部、未来デザイン学部の4学部13学科と、短期大学部から成る。2014年3月までは「北海道工業大学」という名称だったので、そちらの方が耳なじみがあるかもしれない。
札幌市手稲区にある同大学のキャンパスは、開学から50年以上がたち、再生のただ中にある。その中核となるのが、D・E・F棟だ。
3mピッチで繰り返す架構
外観を見てもらえばすぐに分かると思うが、東西約150mに及ぶ建物が、同じ断面の柱を等間隔に並べて構築されている。その中心には共用部や設備スペースから成る東西軸が貫通している。プランは実にシンプル。筆者の世代はすぐに「メタボリズム」を思い浮かべてしまう。あるいは「東京計画1960」(丹下健三)か。
設計の中心になった大成建設設計本部建築設計第五部の西尾吉貴シニア・アーキテクトは、こう説明する。「外周の構造柱は3m間隔で立ち、内側の柱は鉛直力だけを負担している。壁は構造壁ではないので、プランの変更がしやすい。中央から両側に設備ルートを確保しているので、設備面でも変更に対応しやすい」。
繰り返しによる合理性と美しさ
プレキャストの柱を繰り返しているのでコストダウン効果が大きい。「反復デザインの柱を施工部門との連携でプレキャスト化し、ざっくり言うと半分程度のコストで1本の柱をつくることができた」(西尾氏)。設計・施工一貫ならではのデザインだ。
柱は外側を尖らせたくさび形の断面としている。これはコストダウンのためではなく、見た目のシャープさを追求したもの。先端が尖った打ち放し柱が反復するさまは、オスカー・ニーマイヤー(ブラジルの建築家)の建築を想起させる。
西尾氏自身が意識したのは、ニーマイヤーではなく、コルビュジエだという。「秩序を生み出すプランを探し、その秩序が全体を統合するデザインを目指した。『プランは原動力である』というコルビュジエの言葉(『建築をめざして』)を改めて実感した」
最初に完成したE棟(中央棟)は、2018年「日本コンクリート工学会賞(作品賞)」などを受賞している。
設備配管が丸見え!
中央の共用部はこんな感じだ。
光庭のまわりに設備配管が丸見えなのが面白い。今春完成したD棟は建築学科も使用するため、これは「スケルトン・インフィル」を学ぶリアルな教材となるだろう。
実は、設計チームの一員である大成建設設計本部建築設計第五部の民野志織氏(下の写真の右)は、この大学の建築学科の卒業生だ。「E棟は私が在学中に完成した。自分がその続きの設計に関われるのはとても誇らしく、責任も感じる」と話す。
ひとまず、この校舎はD・E・F棟の3棟で完成だが、D棟の西側にもまだ空き地がある。今後、ここに増築することを仮定して、学生たちに「同じ架構形式を使うこと」を条件に増築案を考えてもらうと面白いのではないか。メインフレーム以外はすべて自然素材でつくるとか、解体をしやすくデザインするとか、今の若者がこのシステムでどんなバリエーションを考えるのかが興味深い。単に「使う」ということを超えて、新校舎が“リアルな教材”となることを期待したい。(宮沢洋)
北海道科学大学
所在地:北海道札幌市手稲区前田7条15丁目4−1
公式サイト:https://www.hus.ac.jp/