片山東熊×伊東豊雄!「表慶館」で久しぶりの特別展「工藝2020」が9月21日開幕

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 伊東豊雄建築設計事務所が会場構成を手掛けた「工藝2020-自然と美のかたち-」が9月21日(月、祝日)から東京国立博物館の表慶館で始まる。前日の午前中に報道内覧会が行われた。

表慶館の玄関ホール(写真:宮沢洋、以下も)

 会場リポートの前に、「表慶館」について書きたい。古今の名建築が並ぶ東京国立博物館にあっても、ここは滅多に中が見られない貴重な建築だ。特別展やイベント開催時のみにしかその扉は開かれず、調べた限りではここ2年ほど使われていない。

 設計者は片山東熊。明治33年(1900年)、皇太子(後の大正天皇)のご成婚を記念して計画され、明治42年(1909年)に開館した。日本で初めての本格的な美術館とされる。国指定重要文化財。文化遺産オンラインではこう紹介している。「石及びレンガ造、二階建で、ネオ・バロックの様式をもつ。円形と長方形を組合わせた平面の構成や大小ドームの取扱いなど巧みにまとめている。中央ホールのモザイクタイルを張った床は見応えがある」

 そして、ここで久しぶりに開催される特別展が「工藝2020-自然と美のかたち-」。自然と工芸の関係性をテーマに掲げ、染色・陶磁・漆工など日本の伝統工芸に携わる82名の作家の作品を一堂に会した展覧会だ。

 展示室に入ると、ひと目見て「伊東さん!」と分かる展示台のデザイン。

 足元が床から連続する曲面になっている。展示台自体が弓形の平面なので、つくるのはかなり大変そうだが、そんな裏方の苦労は微塵も感じさせずに展示物をすっきり見せる。やり過ぎずに、爪跡は残す。さすがだ。

 伊東事務所から届いた案内のメールにはこうある。

 私達は、展示室の床を抽象化された大地(自然)と設定し、そこから湧き上がるエネルギーを展示台の造形に表しました。

 なるほど、大地から湧き上がるエネルギーなのか。

日本の伝統は「床に置く」

 会場で運よく、内覧に訪れた伊東氏に挨拶することができた。

 長話はできなかったので、図録にある伊東氏の言葉を引用する。

 展示会場の東京国立博物館表慶館は明治42(1909)年にオープンした建築です。西欧から輸入されたネオバロック様式に基づいて作られた建築の内部で、日本の自然観を象徴する展示が行われる時、会場構成をどのような空間として表現するかは難しい課題でした。

 何故なら日本の木造建築では、工芸品は通常、床の間(とこのま)、即ち、床の上に置かれていました。それに対し西欧の建築では床から切り離され自立した台の上や家具の中に置かれてきたからです。

 私たちは今回、床と展示台は連続したものと考え、床と垂直面は曲線によって連続させて展示台を盛り上がった床と規定しました。言い換えれば大地に渦巻いている自然のエネルギーが上昇して、作家の手を介して作品となり、展示台の上に並べられていることを象徴的に表現しようとしたと言えます。(ここまで図録から引用)

 なんて分かりやすい説明。伊東事務所がコンペに強い理由が分かる気がする。

 天板はアクリル板で、裏面に濃紺の特殊印刷を施している。床からつながる白い素材は、長尺塩ビシート。特殊な素材に見えたがそんな当たり前のものなのか…。展示台の製作は、伊東事務所とのプロジェクトも多いイノウエインダストリィズ。建物が文化財なので、天井や壁に展示照明を設置することができない。床を上げて展示台に配線し、それを隠す意味もある。やるなあ。

 展示されている工芸作品もいちいちすごいのだが、書き出すときりがないので、ぜひ現地でご覧いただきたい。会期は11月15日(日)まで。えっ、2カ月ない! 今すぐスケジュール帳に書き込みを。

「工藝2020-自然と美のかたち-」
会期:2020年9月21日(月・祝)~11月15日(日)
会場:東京国立博物館 表慶館(上野公園)
開館時間:9:30~17:00(会期中の金曜・土曜は21:00まで開催)
休館日:月曜日(※ただし、9月21日(月・祝)は開館、9月23日(水)は休館)
日時指定券:一般1500円
混雑緩和のため、本展では事前予約制(日時指定券)を導入。オンラインでの日時指定券の予約が必要。詳細は展覧会公式サイトをご確認ください。

通り道に芸大ミュージアムトイレも

 そして、東京国立博物館から上野駅に向かう途中、このトイレものぞいてみてほしい。

 9月7日、上野公園内にオープンした「上野トイレミュージアム」だ。「ミュージアム」という名だが実際に使えるトイレで、「ミュージアムのようなトイレ」という意味だ。近くにある東京芸術大学が東京都に提案したもので、設計・監理は大学院美術研究科建築専攻の中山英之研究室、作品制作は大学院美術研究科建築専攻、陶芸専攻、鋳金専攻、デザイン専攻、絵画専攻、大学院音楽研究科および音楽学部の学生有志によって行われた。

 個々のブースの中もすごいのだが、それは写真ではなく、自分で目で見て驚いてほしい。ちなみに、設計の中心になった建築家の中山英之准教授は、伊東事務所のOBだ。プロジェクトの詳細は芸大のサイトで。(宮沢洋)