発売前に重版決定、話題の写真集『津山 美しい建築の街』は書き下ろしの歴史編も圧巻

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 発売前に重版(増刷)決定──。私(宮沢)もたくさんの本をつくってきたが、そんな経験はない。うらやましい。本日4月1日に山陽新聞社から発売となる、稲葉なおと氏の新刊『津山 美しい建築の街』の話である。

4月1日に発売となる『津山 美しい建築の街』の津山文化センターのページ。著者の稲葉なおと氏の了解を得て宮沢が撮影 (以下の写真も)
発売前の重版決定を知らせる稲葉なおと氏の公式サイトより。重版、おめでとうございます!

 稲葉氏は、一般の人に建築の面白さを伝える、という意味では私の大先輩といえる存在だ。文章を書く以外の“もう1つの武器”を持っている、という点も私と似ている。私はイラスト、稲葉氏は写真だ。

 以下は稲葉氏の公式サイトから引用したプロフィル。

稲葉なおと:紀行作家・一級建築士。東京工業大学工学部建築学科卒業。建築家としてマンション、商業ビル、住宅などの企画、設計を手掛けたのちに、1998年、世界の名建築ホテル旅行記『まだ見ぬホテルへ』で紀行作家としてデビュー。同時に「週刊朝日」グラビアで「世界の名建築ホテル」を連載開始。2000年刊行の長編インドホテル旅行記『遠い宮殿』で、JTB紀行文学大賞奨励賞受賞。「週刊新潮」グラビアで「名建築に泊まる」を連載。銀座資生堂ギャラリー、ハウス・オブ・シセイドウ、グランドプリンスホテル新高輪「うずしお」などの名建築会場にて写真展を開催。「週刊現代」グラビアで「あの日、このホテルで」を連載。「文藝春秋」「週刊文春」「週刊ポスト」の各グラビアにも写真を発表。国内外の名建築ホテルに500軒以上泊まり歩いた経験をもとに、旅行記、写真集に加えて、長編ノンフィクション、小説、児童小説を刊行、活動領域を広げる。

 私に似ている、と書いたが、稲葉氏は東工大で建築を学んだ一級建築士。そこは、たまたま建築をやっている私とは全然違う。でも、「一度は建築の専門領域でどっぷり仕事をしてから、一般に向けて建築を発信する方向に舵を切った」という意味で、やっぱり私と似ていると思う。

 そんな稲葉氏とじっくり話をしたことはない。それなのに、なんともありがたいことに、刷り上がったばかりの新刊『津山 美しい建築の街』を送っていただいた。一読して、「やっぱり自分と似ているなあ」と思った。

川島甲士や象設計集団の現代建築も

 テーマとしている津山は、稲葉氏の故郷だ。本書『津山 美しい建築の街』は、分類するとすれば写真集である。以下、版元のサイトからの引用。

岡山県津山市の建築物を中心に、38カ所で撮影した写真を掲載しています。表紙を飾るのは旧制津山中学校(現岡山県立津山高校)の本館。桜の咲き誇る国史跡・津山城跡をはじめ、屋根や天井に意匠を凝らした中山神社、寺院建築の構造をコンクリートで表した津山文化センターなど約200枚で、奈義町現代美術館(岡山県奈義町)、JR亀甲駅(同県美咲町)といった周辺の建築物も紹介しています。

「津山建築史」と題し、一級建築士でもある稲葉さんによる、室町時代以降の建築物の歴史、設計者に関する解説文を盛り込みました。

A4変型判、308ページ、ソフトカバー。定価2500円。申し込みは岡山県内の主要書店、大手通販サイト「アマゾン」、または山陽新聞社(電話086-803-8164、平日午前10時~午後5時)へ。

 建築好きが「津山」と聞いて思い浮かべるのは、やはり津山文化センターだろう。建築家・川島甲士(1925~2009年)の設計で、1965年に完成した日本的モダニズム建築の名作だ。私も「建築巡礼」の取材で行ったことがあるが、稲葉氏の写真の切り撮り方は「半日見たくらいでは見つけられないアングル」が多く、これまで知られていない魅力を伝えている。

 「津山文化センター」と「奈義町現代美術館」(磯崎新氏)、日本建築学会賞をとった「グラスハウス」(横河健氏)以外は知らない建築ばかりだった。例えば、象設計集団・富田玲子氏による「津山洋学資料館」(2010年開館)。こんな建築ができていたのか…。確かに、伝統建築と現代建築が共存している稀有な街だ。

渾身の「津山建築史」

 津山に詳しいわけでもなく写真も撮れない私が、この本を見てなぜ「稲葉氏と似ている」と思ったかというと、それは巻末のモノクロページ、「津山建築史」だ。

 稲葉氏が、室町時代以降の津山の建築物の歴史、設計者に関する解説文を書き下ろしている。ページ数にして68ページ!

 たぶん、「普通の一般向け写真集」では終われない人なのだ。予約の段階で増刷になるほどの人気、ということは、おそらく予約している人は、津山市や岡山県の一般の人たちだろう。WEBや新聞広告の告知文だけでは、こんなに壮大なクロニクルが載っているとは思わないだろうから、現段階までの人気にこのコンテンツは影響していないと思われる。出版社側がこんなに書いてほしいと要望したとは思えない。

 しかし、稲葉氏は、やるからには「専門情報と一般の人をつなぎたい」人なのだ。そこは、いったん専門分野で生きてきた後に方向性を変えた私にはすごく分かる。一般の人にも専門家にも読んでもらいたい。きっとそうなのだと思う。

 津山では4月2日から、出版記念の写真展も始まる。

■ポート アート&デザイン津山特別企画
稲葉なおと 写真展『津山 美しい建築の街』

会場:ポート アート&デザイン津山(ポート アート&デザイン津山」は、大正9年(1920年)に竣工した津山市指定重要文化財「旧妹尾銀行林田支店」を活用し、平成30年(2018)に芸術文化の創造・発信拠点として整備された。)
会期:2022年 4月2日[土]~5月8日[日]​10:00-18:00(入館は17:30まで)​
休館日:毎週火曜日、5月2日(月)・6日(金)*5月3日(火)は開館
公式サイト:https://www.port-tsuyama.com/

 ちなみに私はこの本を読んですごく津山に行きたくなり、今年、津山を15年ぶりに再訪することを決めた。(宮沢洋)