上遠野徹(かとのてつ、1924〜2009年)という建築家をご存じだろうか。竹中工務店勤務の後、1971年に上遠野建築事務所を設立し、札幌を拠点に活動した建築家だ。竹中工務店在籍時の1968年に完成した「札幌の家 自邸」は、もはや伝説と言っていいくらい専門家の間ではよく知られている。この外観は、まさに“北海道のミース”。
その上遠野徹の住宅分野での活動を紹介する展覧会が札幌市の本郷新記念札幌彫刻美術館で9月10日(土)から12月11日(日)まで開かれている。タイトルは「建築家上遠野徹と本郷新の宮の森のアトリエ」。札幌方面に出張があったので、見てきた。
以下、美術館のサイトより(太字部)。
現在、本郷新記念札幌彫刻美術館の記念館となっている建物は、本郷新(1905-1980)がアトリエとギャラリーを兼ねた邸宅として、北海道を代表する建築家上遠野徹(かとの・てつ、1924-2009)に設計を依頼し、1977年に建てられたものです。
本展では、この建物を軸に、上遠野徹と本郷新それぞれの仕事を見ていきます。上遠野は、北海道内の数多くの住宅建築を手掛けています。その写真や図面、模型等から、そこに息づく北の風土に根ざした清廉なモダニズムを紹介します。また、本郷新のアトリエがつくられる過程で描かれた図面やイメージスケッチなどを通して、この建物に込められた両者の思いを明らかにしていきます。
彫刻家・本郷新(上の写真)の 「宮の森のアトリエ」(設計:上遠野徹)は現在、記念館となっている。道を挟んだ隣に美術館(こちらの設計は田上義也)があり、本展はその両方を使う形で行われている。アトリエの設計プロセスと実物を一度に見られるのが面白い。
アトリエは、通常は公開していない寝室なども公開されている。
展覧会の詳細は公式サイトを。
これが代表作の「札幌の家」
そして、単なる自慢になってしまうが、メディア人の役得で、代表作である「札幌の家 自邸」を見学させてもらった。この記事の冒頭の写真は、美術館から借りたものではなく、今日、私が撮ったものである。
自邸は、現在、息子の上遠野克氏が代表を務める上遠野建築事務所に隣接して立っている。許可なく行っても公道からは見えないので、フラッと行ってみようと思わない方がいい。
この住宅がDOCOMOMOに選ばれた際の説明文を引用する(太字部)。ちなみに選定番号は90番。
「鉄と煉瓦と緑が、鉄と煉瓦と雪に変わる季節感と表情が好き」と語る北海道を代表する建築家・上遠野徹(Tetsu Katono)の自邸。広大な敷地に平屋建ての主屋とそれにつながる2階建ての増築棟がある。コールテン鋼の鉄骨フレームと素焼き煉瓦による外観は厳しい自然に対峙してエイジングを重ね、やさしい表情で北海道の風景にとけこんでいる。
「札幌の家 自邸」の設計意図について詳しく知りたい人は下記の記事を。建築家の中村好文氏が生前の上遠野徹氏にインタビューしている。
Architect at Home 上遠野徹 札幌の家/中村好文
この住宅はデザインもさることながら、環境性能がすごい。一見、開口部が大きくて「北海道なのに寒くないの?」と思ってしまうが、いやいやそんな住宅では伝説にはならない。それを書き始めると、連載になってしまうので、いずれ別の機会に。展覧会の説明パネルからなんとなく想像してほしい。(宮沢洋)