速報:内藤廣氏設計「紀尾井清堂」を見た! 都心の一等地に「機能のない」光の箱

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 「使い方は出来上がってから考えるので思ったように造ってください」──。クライアントである一般社団法人倫理研究所の理事長から内藤廣氏へのリクエストだ。うーむ、自分だったらそれは困る。どうするのか。内藤氏が出したちょっと意外な答えを、今日の見学会でたっぷりと体感した。

(写真:宮沢洋、以下も)

 内藤廣氏が設計した「紀尾井清堂」の見学会が、7月28日の午後に関係者を招いて行われた。倫理研究所は企業研修などを行う一般社団法人で、内藤氏は2001年に「倫理研究所 富士高原研修所」(静岡県御殿場市)を手掛けている(写真はこちら

案内してくれた内藤氏。私の写真の撮り方が悪いのではなく、柱の表面がHPシェル面でねじれている

 それが相当気に入られたということなのであろう。東京・紀尾井町の一等地で「使い方は出来上がってから考える」というお題である。内藤氏自身も「こんなことは初めて」と言う。

 筆者もかつての「日経アーキテクチュア」記者だったら、これはかなり困る。何しろ「日経」の記者という仕事は、建築に限らず、「目的を達するための解決法」をいかに具体的に面白く伝えるかを日々、鍛えられる。そもそも目的がないものを書く訓練をしていないのである。ああ、フリーになって良かった……。

 とはいえ、フリーになったからと言って、こういう建物を説得力を持って書くすべはまだ体得していない。「とにかく写真を早く載せる」という方向に“逃げる”ことにした。意味付けは日経アーキテクチュアを含む大メディアの皆さんにお任せしたい。

■紀尾井清堂
建築主:一般社団法人倫理研究所
設計・監理:内藤廣建築設計事務所、KAP(構造)、森村設計(設備)
施工:前田建設工業
竣工:2020年12月
敷地面積:537.56㎡
建築面積:369.23㎡
延床面積:1287.83㎡
規模:地下1階・地上5階
構造:RC造(一部プレストレストRC造、鉄骨造)

透明感のある外装にびっくり

 内藤氏らしいディテールもあり、こんなこともやるのかという意外なディテールもあり。一番意外だったのは、外装のガラススクリーンだ。「コンクリート打ち放しをガラスで覆う」という安藤忠雄氏がやりそうな方法だが、内藤氏は方立てを立てずに上から支持材を突き出して、DPGでガラスをスカスカに留める。ガラスとガラスの間に透き間があるのだ。なので、すごい透明感。内藤氏にこんな一面があったのか……。

 「意外? 僕の中では、この建築の在り方を論理的に考えていった結果ですよ」と内藤氏は笑う。そうですか、意外に思えてしまうのは、まだまだ修練が足りませんね。大メディアの正しい解説を待ちます。

模型

 ところで、見学会の案内をもらったときに、「使い方は出来上がってから考えるので思ったように造ってください。→それは超難題! ぜひ見たいです!」と返信を返したら、数日後、事務所に内藤氏の新刊が送られてきた。書名がずばり「建築の難問」。私の感想もお見通しですか……。今日、素晴らしい建築を見させていただいたお礼に、宣伝させていただきます!(宮沢洋)

「建築の難問 新しい凡庸さのために」
著者:内藤廣 (企画・構成:真壁智治)
発行:みすず書房
定価:本体3,600円+税
ISBN 978-4-622-08979-7 C1052
2021年7月16日発行
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