夏休み間近、中高生に読ませたい「隈研吾」と、小学生と読みたい「水族館」

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 午前中に区営プールに泳ぎに行ったら、もう夏休みなのかと思うくらいたくさんの小学生が泳ぎに来ていた。確かにこれだけ猛暑日が続くと大人も子どもも気分は夏休みだ。そんな気分のなか、友人から先ほどこの写真を送ってもらい、書き忘れていた夏のネタを思い出した。

 書店に平積みされた夏休みの課題図書コーナーである(目黒の有隣堂にて撮影とのこと)。「サイがいなくなってしまう」ではなく、もっと左の方を見てほしい。

 「建築家になりたい君へ」(隈研吾著)である。表紙のイラストは、著者の隈さんのご指名で私が描いた。この本は河出書房新社から昨年の2月に発刊されたもの。私は表紙のイラストを描いただけなのであまり宣伝していなかったのだが、この本が第68回青少年読書感想文全国コンクール「高等学校の部」の課題図書に選定されたのである。

 私は高校時代に読書感想文全国コンクールなるものに応募したことがなかったので、「課題図書に選ばれた」という知らせを今年の春ごろに出版社からもらったときに、「ああ、良かったですね」くらいにしか思っていなかった。

 しかし、上の書店平置きの写真を見ると、これって建築界にとってもかなり意味のあることではないかと思い、ちゃんとお知らせすることにした。

 今回は「高等学校の部」の課題図書に選ばれたわけだが、隈さん自身は中学生を想定して書いたものである。なぜなら、河出書房新社の「14歳の世渡り術」というシリーズの第二弾だからだ(第一弾は「科学者になりたい君へ」佐藤勝彦著)。

私が出版社からいただいた初版

「M2」で知った「建築家は長距離走者」

 課題図書に選ばれるくらいだから、読みやすくて面白い。私が感心するのは、成功している建築家の人生訓なのに、「自慢臭さが極めて薄い」ということである。それは、そうだ。自分が高校時代に隈さんのプロフィルを見たら、「栄光学園→東京大学→建築家? オレは既に無理」と思う。そういうふうに他人事と思わせないように、要所に挫折体験がちりばめられている。

 中でも、「M2」(1991年)について回想する「建築家は長距離走者」というパートの書きっぷりは潔い。一部を引用するとこんな感じだ。

 僕もそうでしたが、若い頃は誰でも、早く有名になりたくて、人をびっくりさせるような建築を作ってみたいという気持ちになります。いわば短距離走のスタートに立ったような感じで、まわりを何も見ずに、猛ダッシュしてしまうのです。すると、すぐに息があがってしまいます。

 ほら、読みたくなるでしょう。なかなかこんなふうに、自分のことを引いては書けないものである。さすが。

 誰が読んでも面白いかは分からないが、建築関係を意識している中高生には薦めたい本である。別に増刷になっても私に印税が入るわけではない。これはピュアなお薦めである。

10歳から80歳まで面白がれる水族館ガイド

 ピュアではないお薦めも少々。まさに夏休み向けの1冊が7月下旬に発売となる。「イラストで読む建築 日本の水族館 五十三次」(青幻舎)。

 これは、私がOffice Bungaの仲間たちと書いたイラストガイドブックだ。青幻舎のサイトにある予告を引用すると…。

 これまで水族館は、建築家の晴れ舞台といえる美術館・博物館・図書館などに比べて、建築的視点で語られることは多くありませんでした。本書は、水族館が、大人から子どもまで幅広い世代が建築を体感し楽しむことができる、貴重な存在として注目し、最先端技術やさまざまな工夫までイラストとテキストでわかりやすく解説し、建築的魅力を伝えるものです。

 隈さんは14歳に向けて建築の面白さを書いたが、私は10歳から80歳まで面白がれるように「水族館建築」の奥深さを書いた。その詳細は、もう少し発行が近づいたら、改めてこのサイトで。(宮沢洋)

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