まさにジオ-グラフィック・デザイン! 開業間もない「箕面船場阪大前駅エントランス」を見た

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 大阪府箕面市で2024年3月23日に開業を迎えた「北大阪急行線延伸」の新駅の1つ、「箕面船場阪大前駅」。駅の改札は地下3階にあるが、そこから地上2階レベルの歩行者デッキへと向かうダイナミックなエントランス空間が同時にオープンした。事業主は箕面市だ。

8枚の白い屋根は地下駅とは思えない華やかさ(写真:宮沢洋)

 エントランス空間は、トイレなどの一部を除いて土木工事。だが、箕面市は土木コンサルではなく、ジオ-グラフィック・デザイン・ラボと東畑建築事務所のJVに設計を発注した。設計の中心になったジオ-グラフィック・デザイン・ラボの前田茂樹代表に案内してもらった。

前田茂樹氏。1974年生まれ。98年大阪大学卒業、2000~10年にドミニク・ペロー・アーキテクチュールにチーフアーキテクトとして勤務後、2010年にジオ-グラフィック・デザイン・ラボ設立

 北大阪急行線延伸工事は、江坂駅から千里中央駅まで運行している北大阪急行電鉄南北線を、千里中央駅から北へ約2.5km延伸するもの。延伸に伴ってこの「箕面船場阪大前駅」と、1つ北の「箕面萱野駅」を新設した。

 鉄道の工事は17年1月に着工。前田氏は2018年に東畑建築事務所と組んで、箕面船場阪大前駅エントランスコンペに応募し、当選した。前田氏から東畑事務所に「組もう」と提案したという。駅前には先行して2021年、箕面市立文化芸能劇場(設計:久米設計・大林組)と大阪大学箕面キャンパス(設計:日建設計)が開業していた。当初は駅も同時オープンの計画だったが、地下鉄工事が難航し、開通が遅れた。

駅に近い箕面市立文化芸能劇場(設計:久米設計・大林組、右手前)と徒歩数分の大阪大学箕面キャンパス(設計:日建設計、左奥)。いずれもペデストリアンデッキでつながる

 空間のデザインはすぐに伝わりそうだが、事業としては複雑で珍しいプロジェクト。しっかり書くとかなりの時間がかかってしまいそうなので、前田氏自身の説明文でお伝えする(太字部)。

通過ではなく滞留できるコモンズとしての駅

 このプロジェクトは、大阪の地下鉄御堂筋線の北への延伸に伴う新駅を出たエントランス空間です。

 機能的に求められている用途は、地下3階の駅の出入り口と、地上レベルとペデストリアンデッキレベルをつなぐための通過空間であり、災害の際に避難が迅速に行える空間でした。しかし私たちはコンペを通じて、単なる通過空間ではなく、自然環境溢れる箕面市に来たこと、住んでいることを日々実感できる豊かな余白を持ったコモンズ(共有財)としての駅エントランスの空間が出来ないかと考えました。

 NYのセントラルステーションをはじめ、駅というビルディングタイプの黎明期には、豊かな共有空間がありましたが、駅周辺は必然的に地価が高くなることもあり、近年は商業的な目的でしか設置されなくなっています。

 私たちは、駅というビルディングタイプをとらえ直し、滝や紅葉が有名な箕面市ならではの自然地形と人工物の中間のような豊かさを持つ半外部空間として、皆と空間を共有しながらも、利用者が思い思いに滞留してもいいと思える空間を設計する必要があると考えました。

階段は法規上、幅員4mの「道路」

思い思いに滞留するため、人の認知の知見を反映

 人の認知として、天井高さが6m以上ある空間にいると、天井面を認識せず外部空間にいるのと同じようなふるまいをすると言われています。

 私たちは複数の膜屋根を、ペデストリアンデッキレベルをカバーする高さで重なり合う構成を提案しました。その結果、膜を通した拡散光と、重なりの間から漏れる自然光や風により、地下でありながらも、自然を感じる空間が出来ました。屋根の重なり具合は、全方位から30度の角度で雨が降る状況になっても、エスカレーターには雨がかからないことをシミュレーションして確認しました。

 敷地形状が約45度の角度を持った不整形でしたので、地下3階から地上へ上がる階段は、中心のヴォイドを囲むように回転させています。向きの違う大きな踊り場が、立体的な地形のように重なっており、中心のヴォイドを見ながらも、それぞれの階から別の風景が見え、視線が交わらないように設計しました。また地上へ上る階段の裏側にはギャラリーと事務室が配置され、エントランスを出た地下3階のカフェとともに、このエントランスの滞留するきっかけをつくりだします。

■建築概要
設計・監理:ジオ-グラフィック・デザイン・ラボ+東畑建築事務所設計共同体
構造・設備:東畑建築事務所
サイン計画:UMA / design farm  
施工:村本建設
用途:事務所、ギャラリー、公衆便所、カフェ、その他(道路施設、歩行者デッキ、機械式駐輪場)

構造・規模:鉄骨造、地下3階 / 地上2階建
敷地面積:1364㎡
建築面積 : 102㎡ (確認申請に関わる部分※トイレ棟・事務室)
施工床面積:2240㎡
 (ここまでジオ-グラフィック・デザイン・ラボの資料から引用)

 実は、筆者はこのプロジェクトについて他のメディアでも書かなければならないので、当サイトではこの辺で。『新建築』の2024年1月号にも掲載されていたので(早っ!)、急ぐ方はそちらを。

 1つだけ前田氏の生の言葉を書き添えると、前田氏いわく「もともとこういうプロジェクトがやりたくて、事務所の名前を付けたんです」とのこと。なるほど、まさしく「ジオ-グラフィック・デザイン」! 今年の話題プロジェクトの1つであることは間違いない。(宮沢洋)