守山市の新庁舎は隈研吾氏の前作「守山市立図書館」と同じに見えて「プランク」が進化していた!

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 8月14日に共用を開始した滋賀県の守山市新庁舎を見てきた。外観を見ればわかるだろう。そう、隈研吾氏の新作だ。

守山市新庁舎(写真:宮沢洋、以下も)

 開庁時の朝日新聞の記事によれば、

「旧庁舎は1965年、旧守山町の守山総合ビルとして建てられた。老朽化したほか、耐震基準を満たしておらず、市は2019年3月に旧庁舎の隣に新庁舎を建設することを決めた。新国立競技場などを手がけた隈研吾氏らが設計を担当し、22年1月から工事をしてきた。敷地面積は約1万7400平方メートル。鉄骨造4階建てで、延べ床面積は約1万3千平方メートル。事業費は約79億円」(2023年8月15日付)とのこと。

 一般の報道では、往々にして隈氏が単独で設計したことにされてしまうのだが、正確に言うと、基本設計は隈研吾建築都市設計事務所・安井建築設計事務所JVだ。実施設計と施工(既存解体含む)は竹中工務店である。

 隈・安井JVは2029年に公募型プロポーザルで選ばれた。古巣の日経クロステックの記事はこれ。

隈・安井JVがSANAAなどを抑える、滋賀県守山市新庁舎プロポ(日経クロステック2019年9月10日)

市立図書館とは似ているようで違う、名付けて“繭型”

 隈建築ツウは、「守山市」「隈研吾」といえば、2018年に完成した「守山市立図書館」を思い浮かべるだろう。これ↓だ。これはなかなかいい建築である。

守山市立図書館
ここまで守山市立図書館

 先の「隈・安井JVが新庁舎プロポ当選」の記事を見たとき、正直、「また似たようなものを選んだなあ…。それなら特命で発注すればいいのに…」と思った。

ここから守谷市新庁舎

 実際に出来上がった庁舎を見ると、「似ている」のはその通りなのだが、杉板の張り方がプロポーザル提案よりも進化していた。

 杉板を隙間を空けて並べる方法は隈氏の常とう手段で、隈氏はこれを「プランク(羽目板)」と呼んでいる。プランクは「アオーレ長岡」(2012年)のころから大々的に使われるようになり、少しずつ変化が加えらえて多様化している(拙著『隈研吾建築図鑑』を参照)。それでもこれまでは、「板同士が平行」が基本だったが、ここでは「斜めに交差」している。

 このタイプは初めて見た。勝手に“繭(まゆ)型”と名付けたい。

これは守山市立図書館の天井。小端立てをまぜて変化をつけている。板の方向は平行

これってヘルツォーク&ド・ムーロンでは!?

こちらは守山市新庁舎の天井

 この手法は、コストの割にダイナミックな動きが生まれてうまいと思う。「プランク」が仕上げとして優れているのは、予算の最終調整で隙間を広くしてコストを下げられるからだ。それでもあまりに広いと間抜けな感じに見えるが、交差させることで躍動感が生まれ、隙間があまり気にならない。

 この“繭(まゆ)型プランク”を見て、ヘルツォーク&ド・ムーロンが設計した「北京国家体育場」(2008年、通称:鳥の巣)を思い出すのは私だけだろうか。あの建築も、構造体でなく、仕上げで鳥の巣にすればよかったのでは…。(北京国家体育場は実物を見たことがないので、たとえばこちらの記事を)

 この庁舎が建築専門雑誌に載るようなものなのかは分からないが、わずかずつでも手法を進化させる姿勢はたたえたい。

1階にオシャレなカフェがある
ガラスの落下防止策に“繭型”のプリントが施されているのがグッジョブ!
雨ざらしの板が多くて大丈夫なのかな、というのはやや気になる。図書館の方は基本的に庇の下だった

 着工時の資料によると、木材は県産木材である「びわ湖材」とのこと。また「CLT+鉄骨ハイブリット構造により、建築基準法に定める耐震強度の1.5倍のさらに15%増の耐震性能(1.725倍)」を持ち、「自然エネルギーの積極的活用と省CO2技術の導入により、一次エネルギー消費量を50%以上削減する『ZEBready』を達成」するそうだ。(宮沢洋)

隈研吾氏に関する記事はこちら↓。