「名護市庁舎」が更新検討の基礎調査を開始、「画文家」の自分にできること

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 SNSでこの情報を見て「ウソだろう」と思った。だが、ネットで調べてみると、市のサイトに本当に載っていた。「名護市庁舎等更新検討に関する基礎調査業務委託に係る公募型プロポーザルの実施について※参加表明書類の提出は締め切りました」と書かれている。自分に何ができるかを考え、この記事とこのマークをつくってみた。

 これまでにも何度か書いたが、私(宮沢)は保存運動というものに積極的には関わらないようにしてきた。もともと雑誌記者で“中立の立場”が求められたことが大きいが、それに加えて、多くの場合、壊されることがほぼ決まった段階になって所有者を悪者に仕立てるのがどうも好きではない。もちろん保存運動に力を注いでいる人には敬意を感じているが、私にはそういうモチベーションがない。自分の役割は、事態が悪化する前に、多くの人が「あれっていいよね」と声を上げるように、“建築好き”を一人でも多く増やすことだと思っている。だからこんなサイトをやっている。

 単にニュースを書くだけでは広がりがないと思い、「画文家」を名乗る者として、この話題のマークをつくってみた。ここに載せたイラストについては著作権フリーとするので、どうぞ自由に使っていただきたい(宮沢のクレジットも不要)。

名護市が6月に「更新検討」の調査業務を募集、市民会館も対象

 何の話かというと、ほぼお分かりかと思うが、名護市庁舎の今後があやしくなってきたという話である。

(写真:宮沢洋)

 名護市庁舎。1981年竣工。設計は、1978年に実施された公開コンペで当選した「Team ZOO」。象設計集団とアトリエ・モビルの共同体で、いずれも吉阪隆正の事務所から独立した当時若手のグループだった。

 竣工から41年。去る2022年6月6日に、名護市はこんな業務募集をウェブサイトに掲載した。

1 業務名称 
名護市庁舎等更新検討に関する基礎調査業務
2 業務の概要
3 スケジュール
案件公表(公告) 令和4年6月6日(月)
参加表明書の提出期限 令和4年6月15日(水)午後5時必着
(中略)
企画提案書類の提出期限 令和4年6月28日(火)午後5時必着
プレゼンテーション及びヒヤリングの実施
令和4年7月7日(木)予定
(※予備日)令和4年7月12日(火)
結果通知 審査後1週間以内
契約予定時期 令和4年7月下旬

 SNSで知った時点ですでに参加表明書の提出期限が過ぎていた。結果が出るのは7月半ばだ。

 業務名称の中の「更新」という言葉が気になる。資料の中の「仕様書」に具体的内容が書かれていた。

 本業務は、令和2年度に策定した名護湾沿岸基本計画においてゾーニングされた、活用検討ゾーンに含まれる老朽化が進む名護市庁舎等について、更新検討に必要な基礎調査を実施することを目的に行うものである。

第5条 本業務において、基礎調査の対象となる施設は、次の各号に掲げる施設とし、本業務では対象施設を「市庁舎等」と定義する。
(1) 名護市庁舎(選挙管理委員会事務所含む。)
(2) 名護市民会館
ア 文化棟
イ 公民館棟
ウ 福祉棟

 名護市庁舎と、道路を挟んで立つ「名護市民会館」も対象のようだ。名護市民会館は指名コンペで当選した二基設計(沖縄市)による設計。名護市庁舎の翌年の1982年に完成した。

名護市庁舎から名護市民会館を見る

「建て替え」も視野に検討

 仕様書の「業務内容」にはこう書かれている。

 (業務内容)
第 12 条 業務内容は、概ね次のとおりとするが、受託者の提案内容に基づき、名護市と受託者との協議により業務内容を決定する。
(1) 現市庁舎等の現状と課題
建設に至る経緯及び背景、施設・設備の現状を把握し、課題を整理すること。
(2) 関連計画・動向等の調査
次の事項について確認及び整理を行うこと。また、必要に応じて関連する機関等へヒヤリングを実施するものとする。
ア 名護市総合計画及び総合戦略
イ 名護湾沿岸関連計画
ウ その他名護市関連計画
エ 社会動向(カーボンニュートラル、DX、SDGs等)
オ その他 国、県の計画、プロジェクト等
(3) 事例調査(中略)
(4) 更新の方向性検討
(1)~(3)を踏まえて、次の事項について比較検討し、更新の方向性についてまとめること。
ア 施設の機能・構成に関すること
イ 建て替えに関すること
ウ 立地に関すること
エ その他更新の方向性に関すること

 最後の「更新の方向性検討」の中に、見たくはなかった「建て替え」という言葉が登場する。

まずは「あの建築が好きだ」という発信から

 この建築、私は仕事とプライベートを含め、これまで5回くらい見ただろうか。何度見ても、心の中に爽やかな風が吹き抜けるような気持ちのいい建築である。日経アーキテクチュアの連載「建築巡礼」でも2009年に取り上げており、そのとき私は、イラストの中に「沖縄に計9つある世界遺産の10番目の候補に推薦してほしい」と書いている。去年も見に行ったが、その思いに変わりはない。

 40年以上経過しているのだから、老朽化の状況を調査することに異議はない。可能性として「建て替え」を考えるのもおかしくはない。この記事は名護市を責めるものではない。そういう議論がこれから始まるのだということを広く共有し、あの建築が好きだという人が声を上げやすくしようという意図の記事である。

 声を上げるということでいえば、私は昨年の暮れに名護市庁舎を見たとき、この光景が残念でならなかった。

 ほぼ同じアングルで、2009年に撮った写真はこうだった。

2009年撮影

 56頭のシーサーがすべて撤去されていたのである。2009年にも部分的に壊れていたものがあったので、それから10年たって、破損・落下の危険性がかなり高まったのだろう。

これは2021年

 シーサーのない名護市庁舎は、なんともさびしい。私は名護市庁舎が夏にエアコンを使っていると聞いても全く悲しくはなかったが(こんな時代に冷房なしはむしろ危険だと思う)、このシーサー全撤去には悲しくなった。

室内。壁の穴は「風の道」。当初はエアコンなしというコンセプトだったが、2009年の時点で夏にはエアコンを使っていた(2009年撮影)

 安全な方法で新しいシーサーを付けられないのか。新しくするなら、シーサーデザインの公開コンペをやったらどうか。作家によっては、木製だったり、軽い樹脂製だったり、いろいろあっていいのではないか。

 56体のシーサーを付けるくらいの費用なら、クラウドファンディングですぐに集まると思う。そんな投げ掛けとして、こんなマークもつくってみた。これもどうぞ自由にお使いいただきたい。

 そんなこんなを、いろいろつぶやくことから始めていくのが無理のないスタートなのではなかろうか。

#名護市庁舎が好き

 関心のある人は、ツイッターやインスタグラムで、上記のハッシュタグで投稿してほしい。それが何になるのかは、保存運動に関わったことのない私には分からないけれど、もし何かにつながったとしたら、それはあなた自身の力だ。(宮沢洋)