アンビルトだけでも50点超え、9月開催「建築家・内藤廣」展@グラントワに内藤氏が全力投球する理由

Pocket

 「本展はここでしか見られません。いまのところ巡回の予定はありません」──。この日の会見は主催者によるこんな説明でスタートした。「見に来て絶対に損はありません」という強い自信の表れだろう。島根県芸術文化センター「グラントワ」内の島根県立石見(いわみ)美術館にて2023年9月16日(土)~12月4日(月)に開催される「建築家・内藤廣/Built とUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしなき戦い」の記者発表とグラントワの見学会が、5月15日午後、内藤氏出席のもとに行われた。

グラントワの中庭にてキーマン3人。左から島根県芸術文化センターの的野克之センター長、内藤廣氏、本展の中心となっている島根県立石見美術館の川西由里専門学芸員。的野氏、川西氏とも、施設が準備室だった頃からの内藤氏との付き合い(写真:特記以外は宮沢洋)

 おそらくこれは、現役の1人の建築家をフィーチャーした建築展としては、過去10指に入る規模のものとなるだろう。会場は内藤氏が設計した「グラントワ」(2005年完成)内の島根県立石見美術館。想定されている展示スペースを見て、その広さにびっくり。さらに、内藤氏本人による会場構成の説明を聞いて、それに投じる手間暇の多さ、エネルギーの総量にびっくりした。

会見にて。内藤氏は今春から多摩美術大学第11代学長も務めている。とんでもなく忙しいはずなのに…

初公開多数、アンビルトだけで50以上

 展覧会の内容をプレスリリース(太字部)に補足する形で説明する。

展覧会概要
日本を代表する建築家であり、島根県芸術文化センター「グラントワ」の設計者である内藤廣の、過去最大規模の個展を開催します。「Built(ビルト=建設された建物)とUnbuilt(アンビルト=実現しなかった建物)」をテーマとする本展では、初公開資料も多数まじえ、建築としては世に現れていない部分もふくめた内藤の設計と思考の軌跡をたどります。

グラントワの遠景。萩・石見空港から車で15分ほどなので、東京からでも日帰り可能。とはいえ、せっかく行くなら山陰の建築を見て回りたい
中庭
グラントワの間取り図。「いわみ芸術劇場」との合築で、上が「石見美術館」

基本情報
[会期]2023年9月16日(土)~12月4日(月)
[開館時間]9:30~18:00(展示室への入場は17:30まで)
[休館日]火曜日
[会場]展示室A・C・D
[観覧料]一般1200円(企画展)/1350円(企画展・コレクション展セット)
[主催]島根県立石見美術館、しまね文化振興財団、日本海テレビ、中国新聞社
[後援]芸術文化とふれあう協議会
[特別協力]内藤廣建築設計事務所

 ここで会場となる「展示室A・C・D」について補足する。この美術館には展示室が4つあり、そのうちのBを除いた3つを使って行われる。

内藤廣展が開催されるのは赤い四角で囲んだエリア
現在、展示室Dで行われている「イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき」の会場風景

 一番大きいのは展示室Dで、天井高4.5m、1100m²の細長い長方形。ここだけでも相当に大きいのに、400m²の展示室Aと、300m²の展示室Cも使う。展示室AはDと同じく井高4.5mだが、Cは天井高7.0m。天井から自然光が入る。さらには各展示室を結ぶ「展示前室」も展示に使う。

現在の展示前室。前室だけでも、普通のギャラリーくらいの大きさがある

 展示室Aは「Built」がテーマ。

Built 内藤廣の建築
内藤の代表作を模型や図面、写真等によって紹介。2005年竣工の「グラントワ」を中心として、それ以前の作品から海の博物館(1992年)や牧野富太郎記念館(1999年)など約10件を、以降の作品として静岡県草薙総合運動場体育館(2015年)、高田松原津波復興祈念公園 国営 追悼・祈念施設(2019年)などから近作の紀尾井清堂(2021年)まで約15件を展示します。

海の博物館(模型) 1992 年(写真:内藤廣建築設計事務所)
島根県芸術文化センター「グラントワ」(模型) 2005 年 (写真:内藤廣建築設計事務所)
紀尾井清堂(模型) 2021 年 (写真:内藤廣建築設計事務所)

 一番大きい展示室Dは「Unbuilt」。ここが本展の肝だ。

Unbuilt 内藤廣の思考
様々な事情により実現しなかった建物や架空のプロジェクトを、図面や模型によって紹介。卒業設計から近年のコンペシートまでをひもとき、時代を追って内藤の思考と社会の動きの変遷をたどります。その時々の内藤の手帖もあわせて展示し、アイデアの源や設計のプロセスも公開します。また、進行中の最新プロジェクトの進捗も「未だ実現していないもの」として示し、未来への展望を示します。

Unbuiltの展示物の1つ、名護市庁舎コンペ案(1979年)について説明する内藤氏
Unbuilt/こまつドーム(模型) 1994年 (写真:内藤廣建築設事務所)
Unbuilt/アルゲリッチハウス(模型) 2012 年 (写真:内藤廣建築設事務所)
Unbuilt/日立市庁舎(模型) 2012年 (写真:内藤廣建築設事務所)

 上の写真はほんの一部で、この部屋では進行中の最新プロジェクトも含め、「50件以上」(リリースにはないが内藤氏がそう語った)の世に現れていない建築を紹介する。

 Unbuiltにはコンペで負けたものが多い。そういうプロジェクトは、一般の人にもわかりやすいように模型や説明資料をつくり直している。「負けたプロジェクトの模型をつくり直そうという人は僕くらいかもしれない」と内藤氏は笑う。

 天井の高い展示室Cにはインスタレーションを置く。

BuiltとUnbuilt をつなぐもの
「海の博物館」の特徴的な架構をモチーフにした、本展のためのインスタレーション。

 展示前室は「言葉」で構成する。

内藤廣の言葉
内藤の著作から集めた言葉の数々と、石州瓦に覆われたグラントワの外壁の美しさをとらえた映像によるインスタレーション。

「赤鬼と青鬼」の対話で解説

 そもそも副題の「赤鬼と青鬼の果てしなき戦い」って何? という声が聞こえてきそうだ。それはこの図↓で想像してほしい。

 赤鬼と青鬼は、建築家・内藤廣の中に存在する2人の鬼(対立する自我)を示している。内藤氏は、各展示の解説文を「赤鬼と青鬼の対話という形式で、自分で書いている。だから知っているプロジェクトであっても面白く読めると思う」と語る。えーっ、100近い解説文を自分で全部!? アンビリーバブル。

 なぜそこまで?と問うと、「多くの人に興味を持ってもらいたいということもあるし、そうやってこれまでのプロジェクトを見直すことで、自分自身にとっても次につながる発見がある」

「グラントワ」はこんな建築

 この日は、内藤氏の案内で、グラントワ全体のミニツアーがあった。内藤氏の言葉を借りると、「いつ来ても幸せになる建築」だ。分かる…。

 筆者も何度かここに来たことはあるが、次は内藤氏による「赤鬼と青鬼の対話」を参照しながら、この建築を見直してみるのが楽しみだ。(宮沢洋)

公式サイト→https://www.grandtoit.jp/museum/hiroshi_naito_built_unbuilt