御嶽山ビジターセンターの「やまテラス」と「さとテラス」が開館、シンプルに見えて複雑な木造架構

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 YouTubeで審査の様子をライブ配信して話題になった「御嶽山ビジターセンタープロポ一ザル」(最終審査は2020年7月26日)。当選したyHa architectsの設計による2つの施設が、ほぼプロポーザル時のイメージのまま完成した。プロポーザル時から気になっていたので、早速見に行ってきた。2つの施設は車で1時間ほど離れた場所にあり、1つは長野県が整備した「やまテラス王滝」、もう1つは木曽町が整備した「さとテラス三岳」だ。ともに8月27日に開館した。

こちらは「やまテラス王滝」 。日本じゃないみたい!(写真:宮沢洋、以下も)

両施設の設計は注目の yHa architects

 yHa architectsは平瀬有人氏と平瀬祐子氏の設計事務所。私(宮沢)はまだ会ったことがないのだが、注目の事務所だ。最近だと、左半分が輪郭線だけになった住宅併用オフィス「TETUSIN DESIGN RE-USE OFFICE」(2021年、福岡市)の写真をどこかで目にしたことがあるのではないか(画像を見たい方はこちら)。この建物、ビジュアル一発に見えて、説明を読むとかなり奥が深い。

 御嶽山の話に戻る。8年前の2014年9月27日、長野県木曽町と王滝村などにまたがる御嶽山が噴火し、死者58人、行方不明者5人という火山災害が発生した。この災害から得た教訓を踏まえ、長野県と木曽町は連携してビジターセンターを建てることにした。

 2施設は2020年にセットで設計者が公募された。審査委員長は宮崎浩氏。2次審査に残ったのは、yHa architects、ikmo、マル・アーキテクチャ、遠藤克彦建築研究所、千葉学建築計画事務所、キノアーキテクツで、次点は千葉学建築計画事務所だった。ちなみに、当選したyHa architectsの提案はこんなものだった。(長野県のサイトより)

「思い」を伝える見本になりそうなyHa architectの提案書(以下2点も)

まずは県が整備した「やまテラス」から

 まず、山の上の方にある「やまテラス王滝」から見てみよう。こちらは、開館はしているが、外構が一部工事中の状態だった。

 施設の内容については、一般社団法人木曽おんたけ観光局が9月2日にリリースを出していたのでそれを引用する(太字部)。

■やまテラス王滝 | 標高2,190mにある「火山と自然の情報館」

 現在の王滝登山口にあるのが長野県立御嶽山ビジターセンター「やまテラス王滝」。御嶽山王滝口の七合目にあたる現地は、全国的にも数少ない標高2,000mを超える山道で、現地までは自動車でアクセスが可能。麓の「さとテラス三岳」と同じく休憩所としての役割を担うのはもちろん、『火山と自然の情報館』として機能します。

 施設内には、「御嶽山の成り立ち」から、「御嶽山の自然」「火山を知る」「山と人の関わり」と合計4つの展示を常設。今なお火山活動を続ける御嶽山での自然との触れ合いを安全に楽しむための知識を得ることができます。(中略)

 荷物置き場や充電コーナーなど登山準備と登山後に一休みできる環境も充実。古くから信仰の山として大切にされてきた御嶽山と地元地域との交わりを、今後は更に全国まで広げていくことを目標に、「御嶽ビジターセンター」を通じて歴史と文化を発信していきます。

……と、ニュースリリースには建築的特徴はまるで書かれていない(ちょっと哀しい)ので、以下、箇条書きで建築的特徴の補足。

・細長い平屋建てで、構造は鉄筋コンクリート造+鉄骨造+木造。

・屋根は赤いガルバリウム鋼板による変形切妻。赤は天候の変わりやすい山で視認性を高めるため。

・高い面にある駐車場から、建物を貫通する大階段を下りて、北側の御嶽山へと向かう。

・外壁は蛇籠(じゃかご、鉄線などで編んだ長い籠に石を詰め込んだもの)仕上げ。蛇籠の上にガラスを介して屋根架構が見える。蛇籠は噴石からガラスを守る役割。噴石の軌道を計算して設計した。

・屋根架構は木曽地域産のカラマツとヒノキ(斜材)。

・屋根架構は一見、切妻で同じ形の繰り返しに見えるが、棟が斜めに通っており、かつ奥(東)に向かって上昇していくので、斜材の取り合いが全部違う!

・コンクリート部分は噴火災害時の避難場所となる。

・サインデザインは宮崎桂さん(「さとテラス三岳」も同じ)。

・冬は完全に雪に埋もれる(冬季は閉鎖)。

・私が行ったときには霧に包まれていたこともあり、ヨーロッパの山岳地域の建築のようだった(ズントーとか)。

・設計者の平瀬有人氏はかつて山岳建築を研究テーマにしており、自身も山に登る。

木曽町が整備した「さとテラス」は道の駅に併設

 車で1時間ほど山道を下り、「さとテラス三岳」へ。本気で山に登る人向けの「やまテラス王滝」に対し、こちらは既存の道の駅に併設されており、ふらっと立ち寄り安い。

■さとテラス三岳 | 道の駅三岳併設「地域交流・火山研究の拠点」

 木曽町御嶽山ビジターセンター「さとテラス三岳」は、国道19号から車で5分・道の駅三岳の隣に開設され、通年を通して訪れやすい場所に造設。施設内には、御嶽山の最新情報や地域情報が確認できるデジタルサイネージを設置しています。多目的スペースや飲食スペースも解放するため、山の状況を確認しながら登山に備えるほか、下山後に山の様子を振り返る際も役立ちます。

 木曽の成り立ちがプロジェクションマッピングで紹介される「木曽の大地に生きる」、御嶽山の自然の魅力を紹介するパネル「御嶽山の歴史とめぐみ」、2014年に起きた噴火の概要と救出活動の様子を伝える「災害の伝承」の3つの展示を常設。子どもから大人まで、山に登らなくても活火山・御嶽山の知識を得られる機会を提供いたします。

 隣接する「みたけグルメ工房」では、地元のお母さんが作る地元の食材を使用したお弁当を販売。木曽駒ヶ岳を望む「さとテラス三岳」の休憩スペースで食事をすることができます。また、ここでは農家直送の食材を購入することもできるため、来山後に木曽の恵みを自宅にそのまま持って帰ることも可能です。

手前は、既存の道の駅施設

 私はお稲荷さん4個入りを買って、帰りの車の中で食べた。確かにおいしかった。

 こちらも建築的補足を箇条書きで。

・王滝川沿いに立つ木造、平屋建て。

・川側に出る吹きさらし空間の南側(下の写真の右手)が休憩スペース、北が展示ゾーン。

・屋根架構はこちらも基礎地域産のカラマツとヒノキ(斜材)だが、やまテラスと形は違う。屋根面は傾斜する3つの面が組み合わさった形(棟のラインが2本)。中央の面を受ける斜材(方杖)は、やはりそれぞれ取り合いが異なる。

 いずれの施設も、屋根の形状は、案内してくれた長野県職員の塩入一臣さんが説明してくれたのだが、書いている私も上から見るとどうなっているのか自信がない。内部から見て屋根の形が想像できる人は相当空間認識力の高い人だ(現地に模型を置いてほしい!!)。

 両施設とも、シンプルにして複雑。一瞬で分かったような気になるけれど、実はかなり考えないと分からない(きっと施工も大変)。そんな難しいことを考えずとも、整然とつくられたシンプルな空間は清々しい。奥深き山の奥の深い建築であった。(宮沢洋)

追記:記事を見た設計者の平瀬有人さんが、模型写真を送ってくださったので、屋根の形の答え合わせを。

休日にもかかわらず2施設を案内してくれた長野県建築技監の塩入一臣(しおいりかずとみ)さん。 塩入さんは建設部施設課長として、長野県立美術館をはじめ数々の設計プロポーザルを仕掛けた立役者だ

<施設概要>
■長野県立御嶽山ビジターセンター やまテラス王滝
開館時間:7:00~16:00
住所:長野県木曽郡王滝村田の原3162
アクセス:https://goo.gl/maps/paxGgnKyK2SBPXf68

■木曽町御嶽山ビジターセンター さとテラス三岳
開館時間:9:00~16:00
住所:長野県木曽郡木曽町三岳10491-12
アクセス:https://goo.gl/maps/TKjwS6ULmxJZW6ti6