大阪ガスビル「再開発」の報に青ざめるも、実は「ブラボー!!」な整備計画の詳細

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 「大阪ガスビル、周辺一帯を再開発」という報道を見て、「まさかガスビルまでが…」と青ざめた人は多かったかもしれない。大阪ガスが2月7日、「ガスビル西側での複合ビル開発とガスビルのリノベーションについて(「平野町四丁目地区」計画案の概要お知らせ)」というプレスリリースを出したのを受けて、在阪メディアが一斉にそれを報じた。

大阪ガスのプレスリリース(2023年2月7日付け)の「別紙」より

 御堂筋のランドマーク、大阪ガスビルディング。通称、ガスビル。安井武雄の設計で1933年に竣工。戦後の1966年に、安井の後継者で安井建築設計事務所社長(当時)の佐野正一の設計により北館の増築が竣工した。1期(南館)の安井による優美なカーブはもちろん美しいが、2期の佐野増築が安易にそれを真似ず、違いを見せながらも全体のプロポーションの美しさを高めた。オフィスビルの拡張の見本であると筆者(宮沢)は思う。2003年に登録文化財となった。

(イラスト:宮沢洋)

 ガスビルは一体どうなってしまうのか。元情報のプレスリリース(太字部)を引用しよう(リリース自体が見たい方はこちら)。

 本計画案は、都市再生特別地区制度により、ガスビル敷地と西用地との間にある市道(御霊筋)の道路上空を活用し、両敷地の一体的利用を図るものです。また、歴史的建築物であるガスビルの保存を中心とした都市再生への貢献による容積率の緩和を受け、敷地全体の高度利用を図ります。
 1~2階には商業施設を誘致し、周辺地域にさらなるにぎわいをもたらすとともに、上層階にはオフィスを整備し、高度な業務機能の集積とにぎわいの調和するビジネスゾーンの形成を進めてまいります。
 また、カーボンニュートラルビルの実現と、ガスビル・ガスビル西館および周辺地域のレジリエンス向上に向けた取組みを行ってまいります。

大阪ガスのプレスリリース(2023年2月7日付け) より

うーん、ここまでだと、なんだか心配になってくるぞ…。でも、リリースはこう続く。

 ガスビルは南館(1933年竣工・登録有形文化財)と北館(1966年竣工)で構成され、両館一体となった特徴的な外観を形成し、御堂筋のランドマークとして親しまれています。この外観について、3面(東側・北側・南側)すべてと西側の一部(外観全体面積の約85%)を保存します。また、竣工当時の趣を残す玄関やエレベーターホールをはじめ、建物全体の床面積の約85%を保存し、活用します。

 なんと、外観の3面以上、約85%を保存する、と。しかも床面積の約85%を保存するとのことなので、いわゆる「腰巻き保存」ではなく、西隣にくっつける形でタワーを建てるということか。これが今回発表された全体の完成イメージ図だ。

大阪ガスのプレスリリース(2023年2月7日付け) より
大阪ガスのプレスリリース(2023年2月7日付け) の「別紙」より

 タワーは道路をまたいで、西隣に建つ。既存部分の内部改修も面白そうだ。

 耐震性向上のため一部を減築し、開放的なアトリウム空間として再生します。また、ガスビルの御堂筋側に新たなメインエントランスを設け、アトリウムからガスビル西館までつながる人の流れとにぎわいを創出します。
 ガスビルは、現在の自社オフィス用途から用途拡大し、にぎわい施設や歴史的建築物の趣を残したオフィスとして整備します。

 その説明の後にこんなパース↓が載っていて、どこのことなのか私には理解できなかった。

大阪ガスのプレスリリース(2023年2月7日付け) より

 これは1年前の2022年6月15日に発表された「保存検討委員会」の報告を見ると理解できる(報告書はこちら)。

・御堂筋のにぎわいの創出、賃貸オフィスビルとしての使い勝手向上のため、南館と北館の接続部分を一部減築し、1階から8階まで吹き抜けのアトリウム空間を整備する。

・減築により、建物の軽量化による耐震性向上も図ることで、将来にわたって長期保存。活用を可能にする。

2022年6月15日に公表された保存検討委員会の報告書より

 わお、1期と2期の間に8層の吹き抜け! 減築で耐震補強って、今っぽい。

 この報告書には外壁の撤去、改修範囲も図示されていた。

2022年6月15日に公表された保存検討委員会の報告書より

 保存検討委員会のメンバーは下記。

委員長 加藤 晃規 (関西学院大学名誉教授). 委員 石田 潤一郎 (武庫川女子大学教授). 主催 大阪ガス株式会社、大阪ガス都市開発株式会社.

 つまり、このメンバーによる2022年6月の報告書に基づいて整備の詳細が検討され、今回、発表されたわけである。保存検討委員会は大阪ガスが自主的につくったのものだ。すごいな大阪ガス。東京のどこぞの事業者に見習わせたい。大手のメディアは「褒める」ということをあまりしないので、当サイトは素直に褒めたい。「ブラボー!!、大阪ガス!!」

 新築のタワーの方が先にできて、2027年ごろ完成。既存の南館・北館の改修完了は2031年ごろの予定だ。

大阪ガスのプレスリリース(2023年2月7日付け) より

 実は、以前、「建築巡礼」でガスビルをリポートしたときに、こんな絵↓を描いたことがある。

妄想の図(イラスト:宮沢洋)

 元のビルがかっこいいので、いわゆる「腰巻き」でもかっこいいはず、と描いたものだが、大阪ガスの経営陣は、私が考えるよりも大人だった。反省の意味も込めて再掲する(といっても、これもちょっと見たかったなあ)。(宮沢洋)