横浜BankARTで「ポストバブルの建築家展」始まる、1行で本質を語らせる五十嵐太郎氏の技

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 横浜の「BankART Station」で1月12日から「ポストバブルの建築家展-かたちが語るとき-アジール・フロッタン復活プロジェクト」が始まった。昨年12月に兵庫県立美術館ギャラリー棟で行われた同名展の巡回展だ。初日に早速、のぞきに行ってみた。

会場風景(写真:宮沢洋)

 この展覧会、私はかなり誤解していた。「ポストバブル」「アジール・フロッタン復活」というタイトル内のキーワードを見て、平成生まれの若手建築家たちが「アジール・フロッタン」(コルビュジエが設計した難民船)にからめた提案を展示しているのかと思っていた。

会場入り口。「BankART Station」は昨年春にオープンしたBankARTの新拠点の1つで、みなとみらい線の新高島駅に直結していて便利(改札の1つ上の階)

 もう一度タイトルを書くと、「 ポストバブルの建築家展-かたちが語るとき-アジール・フロッタン復活プロジェクト 」

 私と同じように思っている人もいるかもしれないので、訂正しておく。本展は、タイトルの真ん中部分が最も重要な展覧会だ。メインテーマは「かたち」である。

 なぜアジール・フロッタン押しなのかというと、もともとは、改修したアジール・フロッタンの船内で展示するつもりでスタートした計画なのだという。予期せぬ水没・引き上げ作業により、フランスでの展覧会はFRACサントル=ヴァル・ド・ロワールとパリ日本文化会館で行われた。日本展は、その内容を更新して紹介するものだ。(アジール・フロッタンって何?、水没って何?という人はこちらの記事を)

 具体的に言うと、1960年以降生まれの建築家35組の「かたち」のとらえ方を伝える展覧会である。プロデュースは建築家の遠藤秀平氏(神戸大学名誉教授)、キュレーションは建築史家の五十嵐太郎氏(建築史家・東北大学教授)。

 35組には名前も知らなかった若手もいるが、1960年生まれ以降だから還暦の人もいる。年齢とはあまり関係なく、五十嵐氏が海外に向けて“日本建築界の旬”を伝える人選といった感じだ。

 五十嵐氏らしいな、と思ったのが、出展者が書く説明文に「かたちとは…」という書き出しの縛りを設けていること。その差を見るのが面白い。この縛りがあるとないとでテーマの浮かび上がり方が全く違う。五十嵐氏のこういう編集者的センスにいつも感心する。

 何組か見てみよう。

 田根剛氏。「かたちとは記憶である」。

 シーラカンスK&Hの工藤和美氏・堀場弘氏。「かたちとは『自然の感触』である」。

 西沢立衛氏。「形は環境だ」。

 あとは会場でじっくりご覧いただきたい。

 そもそもなぜ「かたち」がテーマなのかというと、バブル崩壊以降、「かたち」を重視する、あるいは語ることが建築界で避けられている、という五十嵐氏の問題意識からだ。「ポストバブル」というタイトルから、「アンチ・ポストモダン」→「アンチ・かたち」を想像してしまったが、全く逆の展覧会だった。

 会場の空間デザインは、出展者でもある竹口健太郎・山本麻子両氏(アルファヴィル)によるもので、白い列柱はアジール・フロッタンを原寸再現したものだという。なるほど、会場構成も「かたち」に意味を持たせたのか……。会期は2月19日まで。コロナが再び急拡大中なのでお早めに。(宮沢洋)

■展覧会概要
ポストバブルの建築家展-かたちが語るとき-アジール・フロッタン復活プロジェクト
会期:1月12日(水)〜2月19日(土)11:00〜19:00
会場:横浜市西区みなとみらい5-1新高島駅B1F  BankART Station
入場料:700円
プロデュース:遠藤秀平(建築家・神戸大学名誉教授)
キュレーション:五十嵐太郎(建築史家・東北大学教授)
空間デザイン:竹口健太郎・山本麻子(アルファヴィル)
グラフィックデザイン:藤脇慎吾(フジワキデザイン)
コーディネーション:石坂美樹 
協力:神奈川大学曽我部昌史研究室
主催:一般社団法人日本建築設計学会
共催:BankART 1929
詳細はこちら→http://www.adan.or.jp/news/event/3483

□トークイベント
1月16日(日)・2月19日(土)予定/先着30名/上記併設カフェ

□関連展覧会
京都市京セラ美術館/アジールフロッタン復活展/2022年3月23日~4月2日(予定)