ヒノキを圧縮した木製L型アングルによるトラス架構、坂茂氏が「潮騒レストラン」で新表現

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 独自の木造表現を切り開いている印象の強い建築家の坂茂氏。現在開催中の「奥能登国際芸術祭2023」に合わせて建設された同氏の新作、「潮騒レストラン」を見てきた。

(写真:宮沢洋)

 同芸術祭は石川県珠洲市全域で9月23日から11月12日まで開催されている(木曜定休)。潮騒レストランはスズ・シアター・ミュージアム(珠洲市大谷町)の北隣、海を見下ろす場所に立つ。仮設ではなく本設だが、芸術祭の「作品」の一つでもある。公式サイトではこう説明されている(太字部)。

No.3
坂 茂〈日本〉
潮騒レストラン

世界中で大規模な建築を設計する一方、災害やパンデミックに対する支援として紙管を構造体に使った仮設住居などを各地で提案している建築家。今回は、ヒノキの木を圧縮し、鉄骨のような 形状をした世界発となる構造体を主軸にしたスズ・シアター・ミュージアムのレストラン・ショッ プを建築設計した。

金沢で活躍するぶどうの木 総料理長米田岳人シェフが監修し、珠洲の食材を存分に使用したメニューが提供される。4月の試食会では、珠洲で獲れた海の幸や大浜大豆を使った料理3品とデザートが提供された。今後も検討を繰り返し、里山里海をイメージしたメニューが考案される。

 筆者(宮沢)がこれを見に行ったのは、別件の取材で坂氏に会ったときに、「SIMOSE(広島県大竹市、2023年)で使った木製L型アングルの進化形」と聞いたからだ。

 ショップに置いてあった説明パネルがこれ↓。

 詳しく見てみると…。

 「構造体は無垢のヒノキの板材を特殊な技術でL型形状に圧縮してトラスを構成している。これにより、鉄骨造のような繊細な架構を木造で実現した」

 「厚み13㎜のヒノキ板を交互に重ね、圧縮することで、L型に成型している

 L型アングルといえば通常は鉄骨で、工場などにしばしば使われる。「SIMOSE」のレセプション棟では木製L型アングルをトラス構造に使ったが、このときは2つのパーツを接合してL型を成型したという。

 「SIMOSE」のレセプション棟
「SIMOSE」のレセプション棟

 今回の潮騒レストランでは、見た目も性能的にも、より鉄骨L型アングルに使づいている。

 とはいえ木であることはひと目で分かり、全体が柔らかい印象。この技術によって今後、坂氏の木造建築のバリエーションがさらに広がりそうだ。

 ちなみに「潮騒レストラン」とともに、芸術祭のインフォメーションセンターとなっている「ラポルトすず」(珠洲市多目的ホール、2006年竣工)は長谷川逸子氏の設計だ(長谷川逸子建築工房のWEBサイト参照)。時間があれば併せて見たい(筆者は時間がなく断念…)。「奥能登国際芸術祭2023」の公式サイトはこちら。(宮沢洋)