『日本の水族館 五十三次』いよいよ発売、目指したのは“子どもも大人(プロ)も楽しめる建築書”

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 Office Bunga総動員で制作した『イラストで読む建築 日本の水族館 五十三次』が青幻舎から発刊となる。

編著:宮沢洋+Office Bunga、A5判、オールカラー、208ページ、2300円+税、青幻舎

 奥付上の発行日は2022年7月28日だが、アマゾンではすでに7月24日から発送が始まっている。本の雰囲気については、「JBpress」と「LIFULL HOME’S PRESS」に紹介文を書いたので、そちらをご覧いただきたい。それぞれ違う内容を書いており、両方読めばかなりバカンス気分に浸れると思う。

JBpress(2022年7月24日公開)
「こんな見せ方が!」見事な展示アイデアの水族館ベスト3

LIFULL HOME’S PRESS(2022年7月25日公開)
建築を知ると2倍楽しい水族館、最新施設だけでなく「老舗」も面白い

 企画者(宮沢)の思いを知りたいという奇特な方のために、以下に本書の「はじめに」と「おわりに」を全文掲載する。両者は“表向きの理由”と“裏の理由”という、2つでセットになっている。建築関係者は「おわりに」だけを読んでいただいてもよいかと思う。

はじめに:水族館は、大人も子どもも楽しめる「建築」

 大人も子どもも読める「建築」の本がつくれないか──。生物の専門家ではない筆者が、この本をつくりたいと思った理由はそれに尽きる。

 「水族館」は「大人も子どもも楽しめる数少ない建築」である。試しに、近くに小学生がいたら聞いてみてほしい。「明日、一緒に出かけるとしたら、図書館、美術館、水族館のどれがいい?」 答えは9 割がた「水族館」だろう。

「すみだ水族館」のページ

 水族館では、魚だけを見ているわけではない。生物の展示は常に建築空間や屋外空間と絡み合う。そして、多少声を出しても怒られない。子どもたちはそこで生物の不思議さに感動するとともに、それまで見たことのない空間の連なりを感じ、心に刻む。

 幸運なことに、日本は世界でも最高レベルの水族館先進国である。名建築も多い。しかし、既存の水族館ガイドをめくってみると、建築やデザインについてはほとんど触れられていない。ないなら自分でつくろう。全国主要な水族館を見て回った。

沖縄、北海道も行きました。上は「旭山動物園」

 掲載数は53件。実際にはもっと見た。回ってみると、日本の水族館は全国各地に偏りなく分布しており、「東海道五十三次」になぞらえて、ひと筆書きになるように掲載した。

 本書を手に取られた方は、お子さんに「こんな本があるよ」と教えてあげてほしい。

 イラストページは、極力平易な言葉を使って描いた。活字ページは大人向きだが、欄外の「お魚POINT」はお子さんでも読める。ぜひ、この本を片手に水族館に出かけてほしい。巻末のスタンプ集印帳は、親子の大切な思い出になるはずだ。

おわりに:水族館は「お子様建築」にあらず

 「建築の面白さを専門家だけでなく一般の人にも伝えたい」。それが筆者のライフワークだ。だから、人が「建築」の面白さと出会うのはどういう場面なのかを常に考えている。

 「はじめに」にも書いたが、今回、水族館を取り上げた理由は、水族館が「大人も子どもも楽しめる数少ない建築」だからだ。実はもう1つ理由があって、水族館という建築タイプが“建築の専門家” の間で正当に評価されていないように感じるからである。

建築の専門家にガチで読んでいただきたい水族館建築史は、磯達雄による力作

 「はじめに」で「日本の水族館には名建築が多い」と書いた。これは筆者の主観だ。客観的にはそうは見られていない気がする。例えば、建築界で最も権威ある賞といってよい「日本建築学会賞作品賞」は、その70年以上の歴史の中で、一度も水族館に賞を与えていない。美術館、博物館、図書館はゴロゴロあるのに、だ。筆者にはどうしても、水族館が専門家の間で「お子様向けの建築」と軽視されているように思えてならない。

 子どもも読める「建築」の本がつくりたい、というのが本書の第一目標だ。そして、秘めた第二の目標は、建築の専門家たちに「水族館という建築タイプの重要性や可能性に気づいてもらうこと」だった。自分でも思うが、おそろしく広いレンジでこの本を読んでもらおうと考えてつくった。

 特にイラストについては、専門的な視点の情報を、子どもでもわかる表現で描くことに努めた。伝える情報のレベルを下げてはいない。「お子様向けの本でしょ」とは言われたくないのである。子どもたちにも最先端を知ってほしい。

大成建設全面協力による水族館の基本Q&Aは、宮沢による漫画解説

 本書は、そんな筆者の思いに共感してくれた大成建設の多大なる協力によって実現した。少なくとも冒頭の「プロに聞きました! 水族館の仕組みと工夫20」は、大成建設の皆さんのサポートによって、「専門的な視点の情報を子どもでもわかる表現で描く」という目標が達成できたのではないかと思う。本当に感謝、感謝である。

 実は、こんなにたくさん水族館を巡って自分でも驚いたことがある。設計には縁がないと思っていた自分でも、水族館が設計できそうな気がしてくるのだ。もちろん図面は引けないのだが、「生物をダイナミックに見せる他の方法が思い浮かぶ」ようになる。筆者ですらそうなのだから、プロの方々は水族館以外にも使えるアイデアが湯水のように沸くことだろう。

 ぜひ本書を手に、水族館巡りへと出かけてみてほしい。改めて言う。「水族館は面白い」。(宮沢洋)