武雄温泉楼門の前に新たなシンボル、芦沢啓治氏設計の豆腐店がオープン

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 Office Bungaの研修旅行では、筆者(長井)が未見ということで佐賀県武雄市の武雄温泉楼門も訪れた。旅行の直前に、建築家の芦沢啓治氏が設計した豆腐専門店が楼門の目の前にオープンしたことを知り、両方見られるのはタイミングがいいと喜び勇んで現地に向かった。

武雄温泉新館の2階から、楼門と、その斜向かいに立つ芦沢啓治氏設計の「佐嘉平川屋 武雄温泉本店」を見る(写真:長井美暁、以下も)

言わずと知れた武雄温泉のシンボル「楼門」

 武雄温泉の楼門と新館が、辰野金吾と葛西萬司による辰野・葛西建築事務所の設計であることはご存知の通り。清水組(現・清水建設)の施工で、1915(大正4)年に竣工した。唐津出身の辰野の設計による佐賀県内唯一の建物で、東京駅と同時期に設計された。現存する辰野建築では数少ない木造建築であり、釘を1本も使わずに建てられている。また、正面に竜宮門をおく配置計画や、複数の浴室と休憩室を一体化した施設計画など、保養施設の歴史を知るうえでも重要なことから、2005年に国の重要文化財に指定された。

 楼門では2013年の修復工事の際、2階天井の四隅から卯(うさぎ)、酉(とり)、午(うま)、子(ねずみ)の彫り絵が見つかった。これは干支の十二支のうちの4つで、東西南北を表している。東京駅の八角形ドームの天井にも巳(へび)や辰(たつ)など、それぞれ方角を示す8つの干支のレリーフがあり、楼門の干支と合わせると十二支が揃う。辰野の遊び心ではないか、と話題になったことは記憶に新しい。

 楼門の干支の見学会は火曜日を除く毎朝9時〜10時に行われている(2022年11月1日現在)。残念ながら今回は旅程の都合で見られなかった。

新館は資料館になっている
浴室。浴槽がかなり深くてびっくり
 
手前の道路のマンホールにも楼門が!

新たなシンボルとして、楼門と対話するように

 芦沢啓治氏の設計による豆腐専門店「佐嘉平川屋 武雄温泉本店」は、道路を挟んで楼門の斜向かいに立つ。西九州新幹線の武雄温泉駅〜長崎駅間の開業に合わせて2022年9月23日にオープンした。木造2階建てで、つばの広い帽子のような屋根が架けられていて目を引く。

 芦沢氏は「楼門と対話するような関係を意識して設計した」と話す。敷地は弧を描く道路のコーナーに面して不整形。その条件下で目を引き、この地の新たなシンボルになり得る建物をいかにつくるかを考えたという。

 「豆腐屋のイメージとはかけ離れた空間」。佐嘉平川屋3代目店主の平川大計氏がホームページにこう記すように、外観だけではなく店内空間も豆腐屋のイメージを覆すものだ。

 店内は物販スペースとレストランスペースから成る。物販スペースは曲線を描く高天井により、やわらかい雰囲気が生まれている。置き家具も芦沢氏のデザインで、佐賀県諸富町のレグナテックと平田椅子製作所が共同で立ち上げた家具ブランド「Ariake」の製作という。

奥に見えるレストランスペースでは温泉湯豆腐(温泉水を用いた湯豆腐)を味わえる
店内からの楼門ビュー
駐車場側の庭には足湯コーナーも!

 たくさんの建築を駆け足で巡る研修旅行のためレストランを利用する時間の余裕はなかったが、せめてと足湯を楽しみながら、豆乳ソフトクリームのパフェをいただいた。

豆乳ソフトクリームにかかっている黄色い液体はオリーブオイル。ソフトクリームの下に入っていた豆乳もちが美味しくて別途購入

 武雄温泉街の活性化の起爆剤になることが期待されている。楼門見学の際にはぜひ寄ってほしいスポットだ。(長井美暁)