速報:ギャラリー・間の「西澤徹夫」展は、歴代最も美術展的な“喚起する”会場構成

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 西澤徹夫氏はここ数年、日本建築界で最も気になる建築家の1人なのではないか。「京都市京セラ美術館」と「八戸市美術館」でJIA日本建築大賞を受賞(前者は日本建築学会賞も受賞)。いずれも、単独ではなくチームでの設計なので(前者は青木淳建築計画事務所、後者は浅子佳英・森純平両氏との共同設計)、「西澤さん個人はどんな人なんだろう」と興味が深まる。筆者(宮沢)も面識はあるが、深くは知らない。その西澤徹夫氏の展覧会「西澤徹夫 偶然は用意のあるところに」が9月14日(木)からTOTOギャラリー・間(東京都港区)で始まる。

(写真:宮沢洋、以下も)

 開幕前日の9月13日午後に行われた内覧会に行ってきた。以下は、その速報である。

 速報なので細かいことははしょるが、筆者がこれまでギャラリー・間で見た展示の中で、いや国内で見たすべての建築展を思い出してみても、“最も美術展的”な展示であるように感じた。

 建築展の難しさは、「実物(空間そのもの)を見てもらうことができない」ことだとよくいわれる。だから部分のモックアップをつくったり、大スクリーンで映像を見せたりして疑似体験をしてもらうことを考える。ところが、本展はそういう疑似体験的な手法が全くない。展示物自体が“作品”なのだ。

 脇にある小さな説明文を読めばそれぞれの意図は分からなくもない。が、別に読まなくてもいいのだろう(読ませたいならもっと大きな字にすると思う)。美術展を見るように、ここから何かを感じてください、という展示なのだ。展示物は模型が中心。模型は本展のためにつくったもので、プロジェクトの“部分”だけが簡略化してつくられている。その模型が構成的で美しく、ざくっとした素材感も心地よくて見入ってしまう。筆者世代はかつての日比野克彦の作品を思い出す。

 普通ならば、こういうコンセプチュアルな模型を置くにしても、実物の写真を隣に置くのではないか。それもない。それでも、冒頭に書いた「西澤さん個人はどんな人なんだろう」と興味にはかなり答えてくれる。ああ、きっとこういう人なんだと。筆者は「説明する仕事」なので、こういう「喚起する系」のセンスはすごくうらやましい。

ちなみに本展では、通常ここで使われているLEDを使わず、蛍光灯をレンタルして壁や展示物を照らしている。なので展示物の白が際立つ。美術展の会場構成をすることが多い西澤氏のこだわり

 「喚起する」ということでいえば、言葉選びのセンスもそう。JIA日本建築大賞の審査で「八戸市美術館」に行ったとき、施設の核になっている「ジャイアントルーム」のネーミングは西澤氏によるものだと聞いた(人づてに聞いた話なので、間違っていたらごめんなさい)。活動のイマジネーションが広がる素晴らしいネーミングだ。単なる「エントランスホール」とか「八戸屋内広場」だったら、あんな建築にはなっていなかっただろう。

八戸市美術館の「ジャイアントルーム」の模型(手前)

 筆者は本展の「偶然は用意のあるところに」というタイトルが、見に行く前から素晴らしいと思っていた。それってどんな展示なんだろうと思うではないか。それでいて、「行っても具体的な説明はなさそう」という雰囲気も伝わる。それも美術展ぽい。

 内覧会での説明によると、西澤氏はこのタイトルを過去のギャラリー間の全タイトルを調べたうえで付けたという。ひと口にセンスといっても、なんとなくの人ではないのだ。そして、この言葉は、細菌学者のパスツールの言葉なのだという。そうだったのか! てっきり、『猟奇的な彼女』のラストシーンから取ったのかと思っていた…。

“Chance favors the prepared mind.” byルイ・パスツール(1822年~1895年)

“運命は努力をした人だけに偶然という橋を架けてくれる。” by『猟奇的な彼女』(2001年公開の韓国映画)

 ということで、西澤氏のあの展示を事細かに説明するのは無粋な気がして、喚起する系でリポートしてみた。おそらく西澤氏は1人の作り手側の考えを1つの答えとして押し付けない、という考えなのだと思う。共同設計が多いのも、たまたまではなく、答えを限定しないために「あえて」なのだろう。

特別装丁版の図録。西澤さんてきっとこんな人なんだ、と想像が広がる

 会期は11月26日(日)まで。何を感じるかはご自身で。ギャラリーの下にあるブックショップでは、ここでしか買えない特別装丁版の図録が置かれているので、それも手にとって感じてほしい。

展覧会詳細
展覧会名(日):西澤徹夫 偶然は用意のあるところに
展覧会名(英): Tezzo Nishizawa: CHANCE FAVORS THE PREPARED MIND
会期: 2023年9月14日(木)~11月26日(日)
開館時間:11:00~18:00
休館日: 月曜・祝日、ただし、9月23日(土・祝)は開館
入場料:無料
会場:TOTOギャラリー・間(東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F)/東京メトロ千代田線乃木坂駅3番出口徒歩1分
主催:TOTOギャラリー・間

企画:TOTOギャラリー・間運営委員会(特別顧問=安藤忠雄、委員=貝島桃代/平田晃久/セン・クアン/田根 剛)
後援:(一社)東京建築士会/(一社)東京都建築士事務所協会(公社)日本建築家協会関東甲信越支部/(一社)日本建築学会関東支部
公式サイト https://jp.toto.com/gallerma