愛媛発・矢野青山の挑戦04:「段々」が運営にも革新を生んだ「だんだんPARK」/矢野青山建築設計事務所

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愛媛県松山市を拠点に活動する矢野寿洋氏と青山えり子氏(矢野青山建築設計事務所共同主宰)のプロジェクトを巡る4回シリーズ。最終回は、異色の自動車ショールーム、「だんだんPARK」だ。(宮沢洋)

【取材協力:矢野青山建築設計事務所】

「だんだんPARK」内のイベントホール、「だんだんホール」(写真:特記以外は西川公朗)

 筆者は都内に住み40年近く車に乗っているので、車を買い替える度に都内あちこちの自動車のショールームを見て回る。なので、「愛媛の方がショールームが進んでいる!」とびっくりしてしまった。2023年1月に松山市空港通りにオープンした「だんだんPARK」だ。

 一体、どういう施設なのか。まずは公式サイトの説明を引用する(太字部)。

 だんだんPARKは「段々」に重なる建物に、地域への「だんだん(ありがとう)」の気持ちを込めた、皆様がいつでも気軽に立ち寄れるお店としてつくりました。

 1階にはネッツトヨタ愛媛のショールームに、話題のスイーツや美味しいコーヒーが飲めるカフェや300インチスクリーンも利用できるイベントホール。

誰でも利用できるカフェ(有料)
左手がだんだんホール、正面は2階の「GR Garage松山」

 2階にはGR Garage松山が装い新たに移転オープン。3階には天気に左右されず十分に楽しめるあのボーネルンド監修のキッズスペース「あそび場ナナイロ」(有料)や、空港からのアクセスが良い立地をいかしてコワーキングスペースも開設。段々の建物をいかしたおしゃれな屋外テラスではカフェでのテイクアウトを楽しめたり、ドッグスペースも完備しているので、いろんな用途で利用でき、家族みんなが楽しめる、そんなお店がだんだんPARKです。

 そう、本当に「家族みんなが楽しめる」、さらにいえば“車を買うつもりがなくても後ろめたさを感じずに楽しめる”施設なのである。

 矢野青山の2人と訪れた日には、だんだんホールで無料の管楽器コンサートをやっていた。市民に無料で貸し出しているという。

 1階のカフェや共用部と区切りのない空間だが、意外に音がいいことにもびっくり。これは偶然ではなく、天井や側面をギザギザ形状にして、音が1箇所に集中しないようにしたからだ。

 この連載を読んできた人はすぐにわかるであろう。ガラスの壁に浮かぶような板は、穴あきCLTの耐力壁。「愛媛県歯科医師会館」でトライしたものを「上下固定」→「左右固定」に進化させた。

 最上階のキッズスペース(ボーネルンド監修)も、目からうろこだ。このエリアは、有料なのである。

キッズスペース「あそび場ナナイロ」(有料)

 「ついでに遊ばせておくキッズスペース」ではなく、「キッズスペースに行くためにだんだんPARKに行く」というものを目指したという。自分の子育て経験でもわかるが、こういう施設はむしろ有料の方が、親は後ろめたさがない。

 もちろん、そこで大きな収益を上げることが事業の目的ではなく、そうやって何となく足を運んでもらい、じわじわと車に興味を持ってもらう、という戦略だ。再び公式サイトの説明(太字部)。

 だんだんPARKでは、多様な屋外、半屋外スペースに展示車を展示しています。ただ並べるだけでなく、様々なアウトドアシーンや季節ごとのアクティビティに合わせたクルマの使い方をポップアップで展示するなど、クルマのある生活そのものを提案していきます。

 3Fの外部には大きな屋上展示場があり、豊富な中古車を取り揃えています。大きな屋根で雨の日も濡れずに大切な1台を探すことができます。大きな整備工場ではお預かりした大切なクルマをしっかり整備するのはもちろん、GRの車両も整備しています。

 建築が「段々状」であることが運営と密接につながっている。建築家がソフトにも関わったからこそ実現できたプロジェクトだ。

 この施設、松山空港からも近く、車であれば駐車場付きカフェに立ち寄る感覚で入りやすい。矢野青山の実作を見たいという方にはお薦めだ。

矢野寿洋(やの・としひろ、右)。1981年愛媛県生まれ。2004年東京大学工学部建築学科卒業。2006年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。2006~2013年新居千秋都市建築設計、東京大学生産技術研究所。2013年矢野青山建築設計事務所設立。青山えり子(あおやま・えりこ、左)。1988年神奈川県生まれ。2011年日本大学芸術学部デザイン学科建築コース卒業。2012年~2015年中村高淑建築設計事務所。2013年矢野青山建築設計事務所設立(写真提供:矢野青山建築設計事務所)

 なお、今回のリポートはこれで終わるが、2人は現在、今治造船の「丸亀工作新社屋プロジェクト」の設計を進めており、2024年12月末完成の予定だ。同社がこれと並行して進める「丸亀設計・事務新社屋プロジェクト」(2025年9月末完成予定)の設計はSANAAで、ともに注目を集めている(詳しくはこちら)。自分たち(矢野青山建築設計事務所)の新オフィス(自社ビル)も検討中とのことで、今後も目が離せない。

■建築概要
だんだんPARK
住所:愛媛県松山市空港通
用途:ショールーム・店舗・ホール・事務所・キッズスペース・自動車整備工場 
敷地面積:5327.06㎡ 建築面積:3188.72㎡ 延床面積:5386.52㎡

設計期間:2021年4月~12月
工事期間:2022年2月~12月
階数:地上3階
地域地区:準工業地域 22条地域 
主体構造:鉄骨造一部木造 準耐火建築物

建築主:ネッツトヨタ愛媛
設計監理:矢野青山建築設計事務所 矢野寿洋、青山えり子
構造:平岩構造計画 平岩良之、藤本貴之
設備:Comodo設備計画 山下直久、上野詩織
ランドスケープ:SfG Landscape Architects
施工:トライアル

■取材協力
株式会社 矢野青山建築設計事務所
〒790-0806愛媛県松山市緑町1-2-1和光会館1-B(愛媛事務所)
〒169-0074東京都新宿区北新宿1-4-9 柏木VL301(東京事務所)
TEL:089-948-8190 FAX:03-6745-2374
MAIL:info@yanoao.com URL:http://yanoao.com

 


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