豪雨復興の青井阿蘇神社・国宝記念館、隈研吾流の本気の木造建築で“木の建築展”

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 11月10日に開館した熊本県人吉市の「青井阿蘇神社 青井の杜(もり)国宝記念館」を見てきた。設計は隈研吾氏だ。自称「隈研吾ウオッチャー」とはいえ、さすがにこのために熊本には行かない。佐賀県に出張があり、行こうかどうしようか迷ったのだが(レンタカーで往復約4時間)、「1日潰して行った甲斐があった」と思える建築だった。

(写真:宮沢洋、以下も)

 青井阿蘇神社は創建1200年以上の歴史を持つ。2008年に現在の社殿群などが国宝に指定された。国宝指定を受けたのは、本殿、廊、幣殿、拝殿、楼門の建造物5棟と棟札1枚、銘札5枚。社殿群は慶長15年(1610年)から同18年にかけて造営されたもので、400年を迎える。

茅葺きの拝殿越しに国宝記念館を見る

 「青井の杜国宝記念館」は国宝指定10周年を記念して、隈研吾氏の設計で計画された。福川義文宮司が「ぜひ隈先生に」と東京まで頼みに行ったという。2015年に「人吉球磨」が日本遺産に選ばれた際、「保守と進取」という両面性がこの地域の特色だと再認識し、隈氏に白羽の矢を立てた。

福川義文宮司

 隈氏は快諾。設計がほとんど固まった2019年7月、九州豪雨で社殿や宝物が大きな被害を受けた。収蔵機能を2階に上げるなど、設計を大幅に見直し。被害を受けた参集殿を解体し、寄付や木材の提供を受ける形で、跡地に新築した。建設費の不足分や被災した刀剣の修復費のために、クラウドファンディングも実施した。

 こういうメッセージ↓が、実に隈氏らしい。

鉄骨造ではなく、本気の木造

 木造2階建てで、延べ床面積は約920平方メートル。国宝記念館は、として長年親しまれてきた参集殿を社務所・ギャラリー・記念館と一体化させた建物。1階と2階のギャラリーには、400年以上前から伝わるみこしや、被災の傷みを修復した御神刀、奉納刀剣などの収蔵品を展示する予定。

 見る人が見れば一目で隈建築と分かる外観。屋根の上に並ぶスギ材は、社殿の茅葺きをイメージしたもの。

 現地に行く前には鉄骨造か鉄筋コンクリート造の建物だと思っていたのだが、本気の木造建築だった。本気の木造なのに、伝統建築とは全く異なる印象を与えるのが隈氏らしい。確かに「保守と進取」。

 特に、屋外に立つこの丸太↑。これも中に鉄骨が入っているわけではなく、純粋な木造柱であるという。丸太を柱に使う例がないわけではないが、こんなに太い柱が並ぶさまにはびっくりする。

 内部にも地元「市房山の杉」など、地域の木材がふんだんに使用されている。細かく書くとキリがないのではしょるが、ディテールがあちこち気になる。

開館展は隈研吾“木の建築展”

 全面開館を記念して、「木と九州 人吉球磨の復興への祈り」と題する隈研吾氏の“木の建築展”が開催されている。福川宮司に、なぜオープニングが隈展なのかを尋ねると、展示するべき宝物が多すぎて意見がまとまらず、それなら隈氏の建築と木の魅力について知ってもらおうということになったという。

この施設に関する展示コーナー
「新福岡県立美術館」の案。木造ではないが、地域の木材を多用する見込み

 隈展の会期は2024年2月29日まで。2023年1月に隈氏が当選して話題になった「新福岡県立美術館」も展示されている。なかなかに充実した展示内容で、建築好きは実物と展示で2倍楽しめる。(宮沢洋)

■展覧会概要
青井の杜国宝記念館開館記念【木と九州 人吉球磨復興への祈り】
会場:青井阿蘇神社 青井の杜 国宝記念館
所在地: 熊本県人吉市上青井町118
会期:2023年11月10日(金)~2024年2月29日(木)
会場:青井の杜国宝記念館
開館時間:9:00~16:30
入館料:大人1,000円(高校生以上)・小中学生800円・未就学児無料