ヴェネチア・ビエンナーレ2021、日本館のモックアップを高田馬場「BaBaBa」で公開!

Pocket

 「第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」が5月22日に開幕したことは既報のとおり(「1年遅れのヴェネチア国際建築展、「異例」の日本館はこうなった!」)。その日本館展示と連動する企画展「Dear Takamizawa House」が、東京・高田馬場のケーススタディスタジオ「BaBaBa(バババ)」で6月13日まで開催中だ。入場無料。

「Dear Takamizawa House」展の会場風景(写真:以下も長井美暁)

東京とヴェネチアをオンラインで結んだ「作業過程」を展示

 今回の日本館の展示テーマは「ふるまいの連鎖:エレメントの軌跡」で、建築家・建築学者の門脇耕三氏(明治大学准教授・アソシエイツパートナー)がキュレーターを務め、長坂常(スキーマ建築計画代表)、岩瀬諒子(京都大学助教・岩瀬諒子設計事務所代表)、木内俊克(木内建築計画事務所代表)、砂山太一(京都市立芸術大学准教授・sunayama studio代表)、元木大輔(DDAA代表)の5氏が設計担当建築家として参加している。

 「Takamizawa House」とは、日本館展示のモチーフとなった「高見澤邸」のこと。1954年に都内に建てられた、ごく普通の木造住宅で、住宅としての役割を終え、解体された。門脇氏率いる日本館展示チームは、その部材をヴェネチアに移送して再構築し、価値の再生など、建築の新たな可能性を探ることを試みている。

解体前の高見澤邸。チェコ出身の写真家であり建築家のヤン・ヴラノブセキ氏が日本館展示チームに同行し、解体の様子を撮影した。会場では撮りおろしのオリジナルプリント11点を展示

 BaBaBaの「Dear Takamizawa House」展では、その「高見澤邸」の在りし日の姿や解体の様子を伝える写真と、5名の建築家が設計し、施工担当のTANKが東京でつくったモックアップを見ることができる。

 BaBaBaは今年4月にオープンした。ITインフラ構築などを事業とする大阪のアンダーデザイン株式会社が運営する。印刷工場だった建物を改修した同社東京オフィスの1階にあり、オフィスとともに長坂氏が内装設計を手がけた。

既成の貯水タンクを改良してつくった移動式ブースが「BaBaBa」の目印

 アンダーデザインは日本館展示チームに技術協力している企業でもある。チームの当初の計画は、建築家と日本の職人が現地に行ってつくるというものだった。コロナ禍によりそれを断念せざるを得なくなったとき、同社は自分たちのITシステムを用いて東京とヴェネチアをつなぎ、オンラインで現地の職人に施工方法を指示しながら作業を進めることを提案。現地ヴェネチアでは東京からの指示のもと、BaBaBaに展示されているモックアップと同じものが、高見澤邸の部材を使ってつくられている。

TANKの工房とヴェネチア会場をオンラインでつないだライブ映像(時間帯によって録画)も公開

高見澤邸の過去と現在のイメージが膨らむ

 会場には4つのモックアップが展示されている。入り口近くにあるのは元木氏の設計によるベンチで、最近展示に加わった。現地では、高見澤邸の屋根の部材を再利用してつくられ、日本館の庭園に置かれている。

元木氏の設計によるベンチのモックアップ。以下すべて、モックアップに使われている古材は高見澤邸のものではない

 その奥は、木内氏と砂山氏によるもの。高見澤邸の再構築にあたっては、欠損箇所を1つずつ見いだしながら、部分ごとに適宜補完していった。このモックアップは木軸部分を補完した様子を示している。日本の接ぎ木の作法を参照しながら、傷んだり失われたりした部分を、同じ建物から取り出した部材に置き換えた。

木内氏と砂山氏のモックアップ

 トイレが描写された赤いタペストリーは、現地に移動できないものをどう再現するかに取り組んだ結果の表現だ。砂山氏は高見澤邸の解体前に精細な3Dスキャンを行い、使われていたときのままの状態を点群データとして保存。そのデータを活用し、出力したものに置き換えて展示している。ちなみに全部で3000強あった解体部材のうち、現地に運んだ部材は1000強。そのすべてに対して3Dスキャンを行い、ID管理しているという。

旋盤加工された2本が長坂氏のモックアップ

 さらに奥にあるのは長坂氏によるモックアップだ。日本館の会場内に置くベンチやデスクの素材として、古材と足場用の単管パイプをハイブリッドさせたものをつくった。かつては柱や梁などに使われ、サイズがまちまちの古材を、丸鋸を使った旋盤機で単管と同じ直径に加工している。

 会場の一番奥は、岩瀬氏によるもの。高見澤邸の印象的なエメラルドグリーンの外壁の看板部分を、メッシュスクリーンを用いて再構築したモックアップだ。現地では、かつての高見澤邸と同じ7mの高さに立ち上がる。

岩瀬氏のモックアップ

 解体の際は、主たる木軸部材はそのままの形できれいに取り出すことができた。しかし、湿式工法でつくられていたエメラルドグリーンのモルタル壁は保存できなかったので、新しい材料で復元。飛行機の手荷物で日本から運べるように軽量なメッシュ素材を選び、高見澤邸の壁と同じ色に染め上げ、プリーツ加工を施して外壁の厚みを表現した。

 高見澤邸は1954年に平屋として建てられた後、1982年までに断続的に増改築が行われ、複雑に姿を変えてきたという。門脇氏は「高見澤邸には、それが生きてきたぶんだけの歴史が重層している。今回の展示で、その歴史に新たな1ページが加わった。この会場で、高見澤邸の過去と現在の姿を思い浮かべながら、我々の展示のエッセンスを感じてほしい」と話す。

長坂氏や門脇氏が語るオンラインイベントを5月24日、25日に

 BaBaBaでは5月24日(月)と25日(火)の夜にトークイベントをオンライン配信する。いずれも視聴無料だ。

■BaBaBa TALK #1
“オフィス”とは何か。- 働く現場の空間の限界と可能性について考える
スピーカー:長坂常、川口竜広(アンダーデザイン代表取締役社長)
ファシリテーター:猪飼尚司(編集者)
日時:2021年5月24日(月)20:00~21:00
申込先:こちらから→http://ptix.at/r0kQA6

■BaBaBa TALK #2
記録、解体、伝達、再構築、生成……建築以後。
これからの建築が示す先にあるものとは。
スピーカー:門脇耕三、 川口竜広(アンダーデザイン代表取締役社長)
ファシリテーター:猪飼尚司(編集者)
日時:2021年5月25日(火)20:00~21:00
申込先:こちらから→http://ptix.at/r0kQA6

 ビエンナーレ閉幕後、高見澤邸の部材はオスロで再生されるという。日本館展示チームのウェブサイトには、高見澤邸の歴史がこの先の予定を含めて時系列で並ぶ。そこには各年代の資料(写真、設計図、3Dデータ、施工指示書など)が埋め込まれ、膨大なアーカイブとなっている。BaBaBaの展示と合わせて見ることをお勧めしたい。(長井美暁)

BaBaBa Exhibition vol.1「Dear Takamizawa House」
会期:2021年4月22日(木)~6月13日(日)
会場:BaBaBa 東京都新宿区下落合2-5-15-1F
開場時間:12:00~19:00(土日祝11:00~18:00) 月曜休
主催:アンダーデザイン
協力:第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館展示チーム
BaBaBaの公式サイト https://bababa.jp/
ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館のサイト https://www.vba2020.jp/