東京ステーションギャラリー「バウハウス」展で同校の基礎教育を追体験

Pocket

 「開校100年 きたれ、バウハウス ―造形教育の基礎―」展が東京ステーションギャラリーで9月6日(日)まで開催中だ。

ヴァルター・グロピウスが設計したバウハウス・デッサウの校舎(写真:長井美暁、以下も)

 バウハウスは1919年、建築家のヴァルター・グロピウスがドイツのヴァイマールに設立した造形学校だ。本展は、開校100周年を迎えた昨年から今年にかけて日本各地を巡回したもので、この東京会場が締めくくりとなる。

カンディンスキー、クレー、モホイ=ナジ、どの先生に教わりたい?

 本展の展示品は約300点。すべて国内の美術館やミサワホームなどが所蔵するものというから驚く。それだけ日本ではバウハウスへの興味や関心が高いことを示すだろう。本展監修者の1人である「ミサワバウハウスコレクション」学芸員の杣田佳穂氏によると、国内の美術館は現在もバウハウス関連の作品や資料の収集に熱心だそうで、「バウハウスの思想は今なお古びないということ」と話す。

 バウハウスというと、専門課程の各工房でつくられた家具や金属製の生活用具、テキスタイル、広告ポスターなどがよく知られるが、本展では専門課程に進む前の造形基礎教育にも着目。3階の展示室では、予備課程といわれるこの基礎教育を紹介している。

 展示の始まりは「学校としてのバウハウス」の概要から。当時の写真で有名なこれはデッサウでの学生たちの様子を写したもの。この建物は今も残り、宿泊できるようになっている。

 上2点は2018年に現地を訪れて泊まったときの写真だ。危ないからバルコニーには出ないで、という注意書きがあったので、精一杯、身を乗り出して撮った。

 展覧会に戻ろう。当時は基礎教育自体が新しかった。同校ではさらに、その教師としてヴァシリー・カンディンスキーやパウル・クレー、ヨハネス・イッテン、ラースロー・モホイ=ナジなどの芸術家を招聘。また、学長のグロピウスは教師たちがゼロから新しい教育を模索することを求め、教師によって教える内容が違っても容認した。

 教師たちはそれゆえ自分なりの授業を試行錯誤したわけだが、共通するのは「学生に発見させる」授業を目指したことで、「それぞれが大変ユニーク」と杣田氏。本展ではその思考プロセスを教師別に解説していて、「自分ならどの先生に教わりたいか、ぜひ想像してほしい」という。

 上はクレーの授業のノート。下はヨゼフ・アルバースの授業「紙による素材演習」の再制作。

 上はカンディンスキーの「分析的デッサン」の授業を、留学生としてそれを受けた山脇巌が再現した様子。物を積み重ねた大きな塊から、いくつかの単純な基本的形態と“形態のスパヌング(spannung=緊張)”を発見させるというもの。左側に当時の写真、右側にそのスケッチを展示。山脇はのちに「とくに面白かったのは形の基本的要素の研究だった」と思い出を綴っている。

 モホイ=ナジが授業でつくった「触覚板」を再現したもの。柔・堅・滑・粗・乾・湿など、様々な触覚を持つ素材を集めて構成し、学生たちが手を滑らせてそれらの触感を体験できるようにした。

水谷武彦、山脇夫妻、もうひとり日本人学生がいた

 2階の展示室は、専門課程の工房教育の展示が中心となる。最初の展示室に並ぶのは、おなじみ「ヴァシリー・チェア」をはじめとするマルセル・ブロイヤーの椅子だ。

 次の大きな展示室では、ブロイヤーの丸テーブルとスツールの脚もとをよく見てほしい。丸テーブルはスチールパイプをクロスさせているように見えるが、そうではない。くの字の頂点部分をビス留めしている。量産化しやすいようにと考えたものだ。

 一方、スツールのほうは、人が座っても大丈夫なように強度を高めるため、テーブルとは違う構成にしている。両者は何気なく並べてあるが、鑑賞者が違いを見つければ、「デザインを読み解く楽しさがあるように展示した」と杣田氏。一部の展示品はキャプションの見出しが疑問形になっていて、それも展示を見るうえでのヒントとなる。

 グロピウスによるバウハウスの設立宣言は「すべての造形活動の最終目標は建築である」という言葉で始まる。その建築部門では、グロピウスが発表したユニット住宅の構想「大きな積み木箱」などを紹介。

 上の写真の奥に見える模型は「マイスターハウス」だ。マイスターハウスはデッサウに実際に立っている(下の写真、裏側ですが)。

 さて、日本は東アジアで唯一、バウハウスへの留学生がいた国だ。水谷武彦、山脇巌、山脇道子はご存知のとおり。本展ではこの3人に加え、近年の研究により新たに判明した4人目の日本人学生・大野玉枝が日本で初めて紹介されている。

 展覧会の構成上は最終章となるこの日本人学生のコーナーでは、山脇巌が設計し、2018年に解体された鎌倉の「峰邸」(診療所をもつ住宅、1934年)から救い出されたスチールパイプ椅子やドアハンドル、玄関に使われていたレンガタイルが展示してある。椅子はミース・ファン・デル・ローエの初期の名作椅子「MRチェア」にデザインが酷似しているが、日本人向けに座面が低い。そのぶん脚が短いわけだが、バランスを取っている。

 実験精神に満ちた教育だったからこそ革新的な造形が数々生まれた、ということがよくわかる展覧会だ。(長井美暁)

開校100年 きたれ、バウハウス ―造形教育の基礎―
会場:東京ステーションギャラリー
会期:2020年7月17日(金)~9月6日(日)
開館時間:10:00~18:00(金曜は20:00まで。入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(
8月10日、31日は開館)
入館料:一般1,200円、大学・高校生1,000円、中学生以下は無料 ※チケットは日時指定の事前購入制。ローソンチケットでのみ販売