【取材協力:朝日新聞社】
京都国立近代美術館で2021年3月7日まで開催中の「分離派建築会100年 建築は芸術か?」展に合わせて、本展をどう見るか、分離派建築会をどう捉えるか、などを3人の方に話してもらった。最後に登場いただくのは、モデル・女優であり、建築学生でもある、知花くららさんだ。
分離派建築会のことを展覧会で知って
──知花さんは2019年の春から大学で建築を学んでおられます。なぜ大学で建築を学ぼうと思われたのですか?
以前から民藝が好きで、そこからインテリアや建築にも興味が広がっていったときに、沖縄に住む祖父の家を譲り受けました。この家を残したい、どう残せるだろうと考えているうちに、建築をきちんと学んでみたいという気持ちが高まったからです。
大学に入学した2019年に出産したので、育児と課題提出に追われた学生生活を過ごしております。今朝も課題に追われていました(笑)。美術館に来たのも久しぶりです。
──分離派建築会のことはご存じでしたか?
存じ上げませんでした。大学では前川(國男)さんなどモダニズム建築以降を学んできましたが、それ以前のものは私の勉強が追いついていなくて。だから今回の展覧会は良い機会になりました。日本ではモダニズム建築が台頭する前に、「過去建築圏」からの「分離」を目指した分離派建築会の模索があったということですよね。今は自由な時代が続いているけれど、「過去建築圏」に反発を感じて、新しい建築のあり方を考えようと奮起した若者たちがいた、時代の趨勢のなかでそのような若者たちが出現したというのは、言われてみれば、なるほどと思うところがあります。
ただ、彼らが「過去建築圏」としたもの、例えば西洋の建築様式に倣った辰野金吾などの建築や、帝冠様式など和洋折衷の建築も、私は嫌いではありません。現存するそれらの建築のディテールを見ると、日本の大工さんや職人さんが自分の持っている技を駆使しながら、西洋の建築を真似てがんばってつくった姿が浮かんできます。私は以前から民藝の世界が大好きで、職人さんの手仕事を目にすると興奮するタイプ。なぜこんな不思議な形が生まれたのだろうって、当時のことを想像するのも楽しいです。
1枚1枚の図面、1本1本の線
──展示作品で特に惹かれたものは何ですか?
展示の初めのほうに、分離派の人たちの卒業設計の図面がありますよね。100年前の図面がすごくきれいな状態で残っていて驚きましたし、それらを鑑賞できることは貴重な機会だと思います。手描きの味があって見ていて飽きず、モノクロの濃淡の着色も美しくて引き込まれました。大学ではCADの授業もあるのですが、設計課題は手描きを選ぶことが多いアナログ人間の私にとっては、大変興味深かったです。
図面って、描くうえではルールがあるのに、出来上がったものは人によって違う。それぞれのカラーがある。それはやっぱり表現だからですよね。私も図面を描いたり模型をつくったりするようになって実感できたのですが、建築は図面をもとにつくられるので、1本1本の線が本当に大事だなあと。
今は3Dモデルなどを使ってプレゼンするということもあるけれど、分離派の彼らの時代は図面しか表現手段がなかった。自分の頭の中に描く建築、しかも、それまでに誰も見たことがない建築をいかに図面で他者に伝えるか、どうすれば伝わるか。彼らはきっと悩み、ありったけの工夫を凝らし、図面の1枚1枚に相当な思いを込めたのでしょう。力が入るのもよくわかります。
そのような図面を見るのは、建築に関わる方ばかりでなく美術ファンの方たちにとっても喜びになるのではないでしょうか。
また、瀧澤眞弓の「山の家」の模型は彫刻作品のように美しいと思いました。展示してあるのは再制作ということですが、当時もあのような曲線や曲面の模型をつくったのでしょう? ひとりの建築学生としては、どのように制作したのだろうと、そんなところも知りたくなりました。
(後編「時代のうねりのなかで声を上げた人たちがいた」に続く)
(聞き手・構成:長井美暁)
〈展覧会情報〉
分離派建築会100年 建築は芸術か?
会場:京都国立近代美術館
会期:2021年1月6日(水)~3月7日(日)
開館時間:9:30〜17:00(3月6日と7日は18時まで。入館は閉館の30分前まで)
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、開館時間は変更となる場合があります。来館前に最新情報をご確認ください。
休館日:月曜日
観覧料:一般1,500円、大学生1,100円、高校生600円、中学生以下は無料
Webサイト:京都国立近代美術館