分離派に注目07:モデル・女優・知花くららさん──時代のうねりのなかで声を上げた人たちがいた

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【取材協力:朝日新聞社】

京都国立近代美術館で2021年3月7日まで開催中の「分離派建築会100年展 建築は芸術か?」に合わせて、BUNGA NETでは3人の方にインタビューを行った。今回はモデル・女優の知花くららさんの後編をお届けする(前編は「建築展は手描き図面や模型を見るのが喜び」)。

知花くらら(ちばな・くらら):1982年生まれ。沖縄県那覇市出身。上智大学文学部教育学科卒業。2006年のミス・ユニバース世界大会で準グランプリに輝き、以降、各メディアで活躍。2013年から国連WFP(国連世界食糧計画)日本大使を務め、アフリカやアジアなど食糧難の地域の声を伝える活動を行う。2019年に初の歌集『はじまりは、恋』を出版。また同年から、大学の通信教育課程で建築を学ぶ(人物写真:栗原論 ヘアメイク:山口朋子 スタイリング:清水けい子)

芸術としての新しい短歌を生み出した与謝野晶子

──分離派建築会の活動期間は、1920(大正9)年から1928(昭和3)年にかけての8年間でした。一方、知花さんが好きな民藝は、1926(大正15)年に柳宗悦、河井寛次郎、濱田庄司らが「用の美」を提唱してその運動が始まります。時代が少し重なりますね。

 「日本農民美術研究所」の展示を見ながら、民藝とどこかしらで接点があったのかな? と思いました。

瀧澤眞弓「日本農民美術研究所」模型 
制作:2019年、菊地潤

 明治から大正、昭和にかけては、社会にいろいろな転換点があり、そのうねりのなかで、誰もがどう生きていくかを模索し、ときに葛藤し、そして声を上げた人が、どの分野にもいたのだと思うんです。私は歌詠みとして与謝野晶子(1878-1942年)が好きなのですけど、彼女も明治時代の終わりから大正時代に活躍しています。

 与謝野晶子は『みだれ髪』に代表されるように、女性の生き方が制限される時代に女性の自我や官能を歌に詠みました。それはすごく斬新だったから話題になって支持を集め、短歌が芸術として広く知られる機会にもなりました。分離派の人たちが活動するより前のことですけれど、この時代のうねりというものを意識すると、彼らのことも理解しやすいように思います。

インタビューは「分離派建築会100年展」の東京会場だったパナソニック汐留美術館で行った

マサイ族の家では感覚が研ぎ澄まされた

──「日本農民美術研究所」をはじめ、第4章「田園へ向かう『足』」は特に熱心にご覧になっていましたね。

 郊外の田園地帯に建てられたという住宅が、摩訶不思議な屋根の形をしていて面白いなと思って。堀口捨己の「紫烟荘(しえんそう)」はしびれますねえ。2年で焼失してしまったなんて本当に残念。実物を見たかったです。屋根って土地柄が表れますよね。私は近代的で切れ味の鋭い建築よりもヴァナキュラーな建物が好きなんです。

堀口捨己「紫烟荘」の模型を覗き込む知花さん

 国連WFP(国連世界食糧計画)の仕事で、これまでに何度も開発途上国を旅しました。アフリカではマサイ族の村で、お家の中にお邪魔したことがあります。牛糞と泥をこねて固めてつくった家で、とても狭い。床といっても赤土の地面で、もちろん電気は通っていません。そのうち暗さに目が慣れ、家の中でも土の匂いがして、感覚が研ぎ澄まされていく。あの経験は私にとって、とても新鮮でした。

 そうそう、その家の奥さんが淹れてくれたチャイ(紅茶)をいただいていたら、天井から何か落ちてきたんです。次にミシミシという音としゃべり声が上から聞こえてきて。何だろうと思っていたら、「第1夫人と第3夫人が今、屋根を直してくれている」って。マサイ族は一夫多妻制で、家は奥さんの持ち物なんです。そのときも旦那さんが奥の寝室にいたのですが、何もせず、じっとこちらを見ていました。

 土地の色や民族性というのはすごく特別なことだと思います。大学でも、ヴァナキュラーというか、自然の中にある「揺らぎ」のようなものが現れる建築をつくりたいと、設計課題のスタディを先生に見ていただいたんです。でも、どうやって図面にするの、図面にして形にできなければ建築ではないよ、アートだよ、と言われてしまって。

 大学で2年勉強したところで、建築は奥が深くて、ネズミの小さな歯で端っこを齧った、という感覚しかないんですよね。続けていれば、そのうち噛み砕けるようになるのでしょうか。今のところはすごく硬くて、まったく歯が立たないんですけど(笑)。100年前に建築学生だった分離派の人たちも、卒業設計は「葛藤の痕跡」だったということに励まされます。
(聞き手・構成:長井美暁)

〈展覧会情報〉
分離派建築会100年 建築は芸術か?
会場:京都国立近代美術館
会期:2021年1月6日(水)~3月7日(日)
開館時間:9:30〜17:00(3月6日と7日は18:00まで。入館は閉館の30分前まで)
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、開館時間は変更となる場合があります。来館前に最新情報をご確認ください。
休館日:月曜日
観覧料:一般1,500円、大学生1,100円、高校生600円、中学生以下は無料
Webサイト:京都国立近代美術館