インスタグラムで「中産連ビル」が発信している、と気づいたのは半年ほど前だっただろうか。
なぜ気づいたかというと、私(宮沢)がインスタグラムに上げたイラストを中産連ビルが「いいね」してくれたからだ。え?と思って中産連ビルのページをのぞいて見ると、こんな建築愛に満ちた写真が並んでいた。
中産連ビルの誰かではなく、発信元は「中産連ビル」。今年の8月からはインスタグラムに加えて、ツイッターも始まった。ツイッターは、写真に添えられた緩い気遣いがほっこりする。
中産連ビルは名古屋市東区にある貸し会議室ビルだ。坂倉準三の設計で1963年に完成した。2021年にはDOCOMOMO JAPANの250選にも選ばれている。だが、竣工時には「新建築」にも作品集にも載っておらず(私の知る限り)、知る人ぞ知る建築だといえよう。
しかし、これは建築好きが見たら間違いなく狂喜する建築だ。本題の「建築の愛し方」に入る前に、まずは見どころの写真を見ていただこう。
■中産連ビル本館
所在地:名古屋市東区白壁3-12-13
構造:鉄筋コンクリート造
階数:地下1階:地上4階
設計:坂倉準三建築研究所
施工:清水建設
竣工:1963年3月
雑誌掲載:「近代建築」1963年7月号「中部圏特集」
創立60周年を機に柔らかい発信も
うっとり、である。SNSの発信は、この建築のことを好きで好きでたまらない人が、中産連ビルに転職して始まったのだろうか。それとも中産連ビルの許可を得て、外部のクリエイターが発信しているのか。ツイッターの心温まるコメントから考えて、おそらく発信主は女性だろう。そんな読みで、「中産連ビル」の発信主に会いに行ってみた。
出迎えてくれたのは、中産連ビルディング株式会社施設運営部の朝原克人部長と、同社総務企画部の小寺栞主任。朝原部長は言い出しっぺで、実際の発信担当者が小寺主任だ。
──SNS発信のきっかけは?
朝原:「まず3年ほど前にWEBサイトを立ち上げました。これまでは固定のお客さんで会議施設が埋まっていたのですが、これからは初めての人にもどんどん使ってもらおうということになったのです。その後、会社の創立60周年の企画でいろいろ盛り上がったときに、もっと柔らかい発信もしてはどうかということになり、小寺さんにSNSの発信をお願いしました」
──小寺さんはもともと建築がお好きだったのですか?
小寺:「いえ、全く。でも、このビルはなんとなく味があるな、と思っていました。だんだん人から褒められる機会が増えてきて、そうかそんなにすごい建築なのか、と」
──建築に詳しいわけではないのに、よくこんなツウ好みの写真が撮れますね。
小寺:「名古屋渋ビル研究会さんがつくってくださった「名古屋渋ビル手帖」の中産連ビル特集号(2019年発刊)を見て、そうかこうやって撮るとかっこよく撮れるのか、と学んでいます」
──ツイッターのコメントにほっこりします。建築専門の人にはこのコメントは書けません(笑)。
小寺:「ありがとうございます。だんだん業務というより、発信することが楽しくなってきたので、気負わずにやっています」
──朝原さんも口を挟むのですか。
朝原:「いえ、SNSは完全に彼女に任せています」
──SNSによって、会議室を借りたいという人は増えましたか。
朝原:「うーん、直接は関係ないですね(笑)。それよりも、この建物が好きだという人が増えてくれるのがうれしいです」
見学に来た方は管理事務所に声かけを
──グッズもつくっていますね。
朝原:「60周年に合わせてトートバックや缶バッジ、ポストカードなどをつくりました」
小寺:「見学に来られた方には差し上げていますよ」
──え、売り物ではなく、タダでくれるのですか?
小寺:「はい。トートバックはまだ80くらいありますね。見学するときはこっそり見ないで、管理事務所にお声がけください」→https://chusanrenbldg.co.jp/
──そうだったのですか。私は以前、こっそり見にきました。すみません。
小寺:「では、今回はフルセットでお土産にどうぞ」
──あ、これが先ほど話に出た「名古屋渋ビル手帖」ですか。すごいクオリティー。
小寺:「本当に詳しくて、そしておしゃれで。私たちの教科書です」
──これをつくっている名古屋渋ビル研究会というのは?
小寺:「え、宮沢さん、知らないんですか。こういう古くて渋いビルが好きなお2人(謡口志保さんと寺嶋梨里さん)で、WEBサイトでも発信していますよ。ぜひ取材してみてください」
なんと、こんなに「建築の愛し方」向きの人たちが、名古屋に他にいたとは。不覚……。謡口さん、寺嶋さん、次の名古屋出張のときにはぜひ話を聞かせてください! そして、中産連ビルのSNS発信も緩く長く続けてください!(宮沢洋)